Tetsu-to-Hagane
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Coating Weight Reduction Technology in Gas Wiping of Hot-Dip Galvanizing on Steel Strip
Hirokazu Kobayashi Gentaro TakedaKenji KatohTatsuro Wakimoto
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 109 Issue 9 Pages 753-760

Details
Abstract

In the gas wiping process for hot-dip galvanizing, the coating thickness has two thinning limits. The first is the limit due to splashing of the molten zinc liquid film, and the second is the thinning limit of the wiping capacity of the equipment.

In this study, we investigated the possibility that wiping efficiency is reduced by the effect of zinc solidification due to gas jet cooling by conducting a gas wiping experiment under various temperature conditions.

A galvanized steel strip with a width of 100 mm was immersed in a molten zinc bath in the air atmosphere. The steel strip was heated by induction heating or a gas burner, and the wiping gas was also heated.

The results clarified the fact that high temperature conditions improved gas wiping efficiency. It is suggested that high wiping efficiency is prevented by an increase in viscosity due to an increasing solid volume fraction in the liquid zinc film surface caused by microscopic solidification. In addition, it was also found that the development of the initial alloy layer reduced the liquid phase and prevented wiping.

1. 緒言

亜鉛は,酸化被膜形成による優れた耐食性と鉄に対する犠牲防食作用1)を示し,更に加工性に富むことから,代替の難しい金属材料であり,亜鉛鍍金鋼板などに広く利用されている。一方で,資源量は有限であり,薄膜化や他金属と組み合わせることで耐食性を保持し使用比率を削減するなど省亜鉛が求められている。

薄鋼帯製造における亜鉛鍍金プロセスには,溶融した亜鉛の浴に鋼帯を連続的に浸漬する溶融亜鉛鍍金,溶液中の金属イオンを電気化学的に還元し金属被膜とする電気亜鉛鍍金がある。溶融鍍金は,装置の構成が簡易で製造効率に優れ,金属種類の制約を受けにくいといった利点があるが,電気鍍金と比較して厚膜となる傾向にある。溶融亜鉛鍍金における付着量の制御は,鋼帯に随伴する余剰な液体亜鉛をノズルからのガス噴流により掻き落とすガスワイピング2)が効率と均一性に優れることから広く利用されている。膜厚の低減には,鋼帯速度を低下し,ガス圧力を増加し,亜鉛を払拭する能力を高める必要がある。

ガスワイピング機構と能力は,噴流による圧力と衝突壁面噴流によるせん断力が作用するとして,理論的にほぼ確立されている35)。一方で,溶融亜鉛鍍金の薄膜化には2つの限界があると考える。一つは,ガス圧力の増加に伴う液膜の飛散(スプラッシュ)による限界である。Takeishiら6)は,鋼帯エッジから発生するスプラッシュは,ガス圧力が増加するほど増えること,その発生限界はウェーバー数とワイピング前後の液膜比と流下する液膜のレイノルズ数の積との関係により整理できることを示している。またMyrillasら7)は,ワイピングガス噴流の近傍にサイドジェットを使用することで,スプラッシュ発生を抑制し,より薄膜が得られることを示している。二つ目の限界は,ワイピング能力自体の限界である。ワイピング理論3)によれば,鋼帯速度を低下し,ガス圧力を増大するほど薄膜が得られるが,実際には付着量30 g/m2を下回る溶融亜鉛鍍金鋼板を規格品として製造することは困難8,9)である。これはワイピング部の鋼帯温度が大きく低下する条件,つまりは亜鉛融点近傍まで低下するような条件においては,亜鉛凝固に伴うワイピング効率悪化の影響を考慮する必要があることを示唆している。

そこで本研究では,冷却による凝固,固液共存層発生によるワイピング効率悪化の可能性を疑い,その影響および加熱による溶融亜鉛の流動性向上の効果について検証するため,鋼板温度やガス温度を変更しガスワイピング実験を行った。

2. 誘導加熱による温度影響の検証

2・1 実験装置の概要および実験方法

ワイピング実験装置の概略をFig.1に示す。電熱ヒーターを配置したステンレス製ポットに亜鉛を融解し,鋼帯との濡れ性を得るため予め鍍金を施した溶融亜鉛鍍金鋼帯(付着量40 g/m2,Al:0.14%,合金化処理無し)を浸漬することで連続鍍金を行った。付着量調整を行うガスワイピングノズルを片面に設置し,その下方に鋼帯を加熱するソレノイド型の誘導加熱コイルを設置した。浴面から加熱コイル,ガスノズル中心までの高さは,それぞれ130, 170 mmである。誘導加熱コイルは,10×10 mmの正方形銅管で肉厚1 mmの中空水冷式とした。電源は出力100 kW,周波数18.5 kHzである。鋼帯サイズは,幅100 mm,厚み0.41 mmとした。鍍金鋼板に対して鍍金を行うため二重鍍金が懸念されたが,実験後の断面観察で初期の層構造が確認されないこと,また40 g/m2以下の薄鍍金が作成可能なことから,初期鍍金層は融解し入れ替わっていることが確認できた。

Fig. 1.

Schematic illustration of experimental set-up. (Online version in color.)

実験手順として,入側で予加熱したコイル状の亜鉛鍍金鋼帯を払い出し,溶融鍍金とワイピングを行い,出側の巻取り装置により鋼帯速度の調整を行い巻き取った。浴温度は,470°Cに調整した。

鍍金付着量は,鍍金剥離による重量差から算出した。100×100 mmの鍍金鋼板サンプルを5枚切り出し,その平均値を付着量とした。

2・2 実験結果および考察

実験条件をTable 1に,付着量の結果をFig.2に示す。比較のため解析付着量を併記している。

Table 1. Experimental conditions.
Wiping gas pressure17 [kPa]
Gas nozzle - strip distance5 [mm]
Nozzle slit gap1 [mm]
Induction heater power50 [kW]
Heating coil - strip distance5 [mm]
Fig. 2.

Comparison of coating weight. (Online version in color.)

ここで,比較に用いたTakeishiら3)のワイピング理論による解析付着量の導出について説明する。Fig.3にワイピング機構の概念図を示す。浴面から鋼帯に随伴して持ち上げられた液膜は,ガス噴流による衝突圧力と衝突後の壁面噴流によるせん断力が作用し,薄く絞られる。その際,以下の条件を仮定している。

  • ・非圧縮粘性流体の定常流れ
  • ・薄膜のため慣性項は無視
  • ・膜内圧力は膜表面圧力に等しい
  • ・表面張力は無視

Fig. 3.

Analytical model of gas wiping. (Online version in color.)

液膜内のナビエストークス方程式と質量保存式を次に示す。

  
μL2v(x,y)x2=dp(y)dy+ρLg(1)
  
0δ(y)v(x,y)dx=Vh=Q(2)

鋼板と液膜の界面はすべらないこと,液膜表面にガス噴流によるせん断応力が働くことから,次の境界条件が適用できる。

  
v(x,y)=Vatx=0μLv(x,y)x=τ(y)atx=δ(y)

ここでxは鋼板厚み方向座標,yは鋼板進行方向座標,vは液のy方向流速,Vは鋼帯速度,gは重力加速度,pは液に作用する圧力,ρLは液の密度,µLは液の粘性係数,hは最終メッキ膜厚,Qは最終液膜量(単位時間,単位幅当たり),τ(y)はyにおけるせん断応力,δ(y)はyにおけるメッキ膜厚である。

式(1)と境界条件からvは,

  
v(x,y)=12μL(dp(y)dy+ρg)x2+1μL(τ(y)dp(y)dyδ(y)ρgδ(y))+V(3)

式(2)(3)からQは次式となる。

  
Q=13μL(dp(y)dy+ρLg)δ(y)3+τ(y)δ(y)22μL+Vδ(y)(4)

式(4)において,dp(y)/dyτ(y)が分かれば,最終膜厚hが算出できる。

ノズル出口の流速unは,ノズル内での流れを等エントロピであると仮定すれば次式で表せる。

  
un=an2κ1[1(ppn)κ1κ]atppn>(2κ+1)κκ1(5)
  
an=κpnρgn(6)

ここで,anは静止状態(ノズルヘッダー内部)における音速,kはガスの比熱比,pは外部の圧力(大気圧),pnはノズル内圧力,ρgnはノズル内部でのガス密度である。

噴流の流速分布を求めれば,鋼板(厳密にはめっき液表面)に作用する衝突圧力分布を算出することができる。

噴流10)は,中心部にポテンシャルコアを有する展開領域,徐々に速度分布が変化する遷移領域,速度分布の形が相似に保たれる完全発達領域に分けられる。ノズルスリットのギャップをGとすれば,x/G≦6は展開領域となる。本報告の検討条件は,全て展開領域である。この領域において,ポテンシャルコア外側の流速uは,二次元乱流せん断層に対する近似解10)を用いて,次式で表せる。

  
uumax=0.5[1+erf(ξ)](7)

ここで,umaxは最大流速,erf(ξ)は誤差関数でξ=C1y’/xy’は流速が噴流軸上の流速の半分になる位置bからの距離,C1は定数である。展開領域でのumaxunと等しいので,式(7)からxの位置における噴流の流速分布を計算することができる。

また鋼板表面に作用するせん断力分布は,Beltaos11,12)による次式を用いた。

  
τ(η)τmax=erf(0.833η)0.2ηexp(0.695η2)atη2.5(8)
  
τmax=0.06ρgun22Gx(9)
  
τ(η)=0.0474Ren15ρguwmax22atη2.5(10)
  
Ren=ρgun2Gμg(11)

ここで,η=y/b,Renはノズル出口速度とノズルギャップで定義されたレイノルズ数,uwmaxは衝突後の鋼板に沿って流れるガスの最大流速,µgはガスの粘性係数である。

本理論予測の信頼性に関しては,Takeishiらの報告3)の通り,ノズル圧力,ライン速度,ノズル-鋼板距離およびノズルスリットギャップの影響に関して実測データとよく一致すことが示されている。また鋼帯の形状変化や傾き,通板位置表裏のずれや振動など解析の前提条件に誤差が入ると推定される実製造ラインとの比較においても,±20%の精度で良く一致することが確認されている。

Fig.2における解析値は,温度影響を考慮せず,溶融亜鉛の粘性係数を一律3 mPasとして計算した。

実験結果の加熱有無を比較すると,鋼帯を加熱した条件で付着量が低下することがわかった。これは加熱無しの条件では,ガス冷却による凝固の発生など,ワイピング効率を悪化させる現象が起こっていることを示している。また鋼帯速度の低下に伴い付着量は減少する。

一方で,解析は実験結果と比較して付着量を少なく予測した。この差は,解析は液層100%の前提であるのに対し,実験では鋼板と亜鉛の界面で形成される硬い初期合金層や冷却での凝固,粘度上昇でワイピング効率が悪化した影響と考える。

また解析結果は,低速ほど大きく付着量が低下する傾向を示しているが,実験の30→10 m/min減速時の付着量減少は解析より緩やかである。低速ほど冷却時間が長くなり温度低下が促進されることから,冷却によるガスワイピング効率の悪化を示していると言える。

実験において表面の亜鉛が流動し,払拭される様子が確認できていることから,表面が完全に凝固したとは考えられないが,微視的な凝固現象により固液共存層が発生している可能性は考えられる。固液共存層における粘性係数の増加については,造形粒子による固体体積率と粘性係数の関係を調べたThomasの実験13)があり,固体体積率が増加すれば粘性係数は数倍から数十倍にも増加することが知られている。

一方で,液体金属の粘度に関しては,次の指数関数型の式14)で表される。

  
μ=Aexp(BμRT)(12)

ここで,A, Bµは定数,Rは気体定数,Tは絶対温度である。亜鉛の場合は,A=0.5266, Bµ=10.91と定義される。仮に亜鉛浴温度470°Cから融点420°Cまで低下した場合でも,粘性係数の変化は1.2倍未満である。

鋼帯速度30 m/minにおける加熱有り,無しの付着量の差をワイピング理論3)で説明するには,約1.6倍の粘性係数の変化が必要となる。液体金属の粘度変化のみでは説明の付かないワイピング能力の乖離があり,固体体積率の増加が発生している可能性が高いと言える。

次に実験時の鋼帯温度について予測した結果をFig.4に示す。亜鉛浴出側の鋼帯温度は,熱電対による温度測定実績と浸漬時間から算出した。低速ほど浸漬時間が長くなるため,浴面出側0 m位置における鋼帯温度は高い。ガスワイピングによる冷却効果については,実験結果と良く一致することが知られている単一スリットノズルにおける噴流の熱伝達係数を予測するMartinの式15)を用いて計算した。誘導加熱における温度上昇は,低速通板(5 m/min)による熱電対での温度測定実績から加熱効率を算出し,各速度における通過時間を考慮して算出した。また420°C以下における熱量は凝固と融解潜熱が等しい仮定の下,過冷却分の熱量を加熱時の熱量で相殺して計算を行った。加熱無しワイピング条件においては,ワイピング位置における鋼帯温度が全て亜鉛融点以下となるため図示は省略した。

Fig. 4.

Analysis of strip temperature. (Online version in color.)

温度解析結果から,加熱有りワイピング位置における鋼帯温度は440,520°C付近であり,亜鉛の融点420°Cより高いことがわかる。また加熱有り実験の亜鉛皮膜のFe質量%を測定した結果をTable 2に示す。温度が最も上昇した10 m/minの条件において,Fe%が高く,Fe-Zn合金層が発達していたことがわかる。Fig.2において,加熱有り30→10 m/minにおいて付着量の低下が緩やかになった理由として,ワイピング困難な硬い合金層成長が影響した可能性がある。ワイピング部鋼帯温度は,過加熱では合金層,過冷却では微視的凝固,亜鉛粘度上昇に影響する可能性があり,ワイピング効率に影響することが明らかとなった。

Table 2. Fe weight percentage of zinc coat in case of heating.
Strip velocity [m/min]103060
Fe [%]*4.21.20.7

*converted value in case of coating weight 40 g/m2

3. バーナー加熱によるワイピング実験

3・1 実験装置の概要および実験方法

ワイピング部の鋼帯温度影響を詳細に検証するため,誘導加熱からプロパンガスバーナーによる加熱に変更し,条件数を増やして実験を行った。実験状況をFig.5に示す。

Fig. 5.

Experimental set-up. (Online version in color.)

バーナー仕様は,径約20 mmの先端に0.9 mmの穴が21箇所ある千代田精機LPG-2000L火口を幅方向間隔5 mmで4個取り付け4連火口とした。またガス圧力は酸素0.7 MPa,プロパン0.07 MPaで使用した。バーナー高さ,ノズル高さは,浴面からそれぞれ210 mm,280 mmである。バーナー火口と鋼帯間距離を変化させ鋼帯温度の調整を行った。バーナーで加熱する反対面をワイピング評価することでバーナー酸化影響を除外し,鋼帯温度影響のみを検証した。鋼帯には,厚み0.45 mm,幅100 mmの溶融亜鉛鍍金鋼帯(付着量40 g/m2,Al:0.14%,合金化処理無し)を使用した。鋼帯停止時の溶断を防止するため,鋼帯走行前と停止時には火炎を遮蔽する遮蔽板を使用した。

3・2 実験結果および考察

付着量と鋼帯温度の関係を示した実験結果をFig.6に,実験条件をTable 3に示す。鋼帯速度は10, 20, 30 m/minの3条件である。付着量は,ワイピング理論による解析付着量との比率で規格化している。

Fig. 6.

The relationship between coating weight and strip temperature. (Online version in color.)

Table 3. Experimental conditions.
Wiping gas pressure16-50 [kPa]
Gas nozzle - strip distance5 [mm]
Nozzle slit gap1 [mm]
Burner – strip distance50-350 [mm]

各速度共に,解析付着量に対する実績付着量が低減する温度範囲は一致しており,ワイピング部の鋼帯温度がおよそ460~480°Cでワイピング効率が良化する結果となった。また低温側では実績付着量は増大し,ワイピング能力が低下する結果となった。高温側では,実績付着量が緩やかに増加する傾向が見られた。

低温側での付着量増大は,冷却による微視的凝固,固液共存層における固体体積比率の増加による粘度上昇が原因と考えられる。また高温側での付着量増加は,高温化に伴う合金層の発達がワイピングを阻害したものと考える。

一方で,付着量が低減する温度域においても,実績/理論の比率は1より大きい。これは鋼帯-亜鉛界面で形成される硬い初期合金層がワイピングを阻害したと考える。

鍍金被膜の合金化度Fe質量%を測定し,付着量40 g/m2換算で表示した結果をFig.7に示す。また鍍金被膜の断面写真の一例をFig.8に示す。亜鉛と鋼板の界面に広がる少し色の濃い部分が合金層である。亜鉛鍍金被膜中のFe%は,ばらつきはあるものの鋼板温度によらず1.5%程度であった。また断面写真より,合金層の厚みは1.4 µm程度であることがわかった。500°C以下で形成される初期合金層の主な組織はζ16,17)と推定される。ζ相のFe%は約6.9%,密度は7.15 g/cm3であることから,合金層付着量はFe%,厚みから,それぞれ8.7,9.3 g/m2と計算できる。鍍金付着量中のおよそ9 g/m2がワイピング困難となる硬い初期合金層であると言える。

Fig. 7.

Fe weight percentage of Fe-Zn alloying. (Online version in color.)

Fig. 8.

Example of cross section image of Zn coat.

ワイピング部温度440°C以上の付着量結果に対し,初期合金層9 g/m2を差し引いた実験付着量と理論付着量を比較した結果をFig.9に示す。

Fig. 9.

Comparison of analysis and experiment coating weight. (Online version in color.)

ばらつきはあるが理論付着量と傾向が一致していることがわかる。ワイピング実験結果は,液相100%を前提とした理論値に対し乖離があり,初期合金層分を考慮することで予測精度が改善することがわかった。

同様にTable 2の速度10 m/min,合金化度4.2%の結果についても考察を加える。鉄重量は1.68 g/m2であり,540°C以上に加熱されていることから,合金層はδ1相16,17)であったと推定できる。δ1相のFe%はおよそ11%であり,1.68 / 0.11≒15.3[g/m2]がワイピング困難な硬い合金層であったと言える。付着量約24 g/m2に対し,液相分は8.7 g/m2程度であったと考えられ,こちらもFig.2における理論付着量結果と整合性があることがわかる。このように合金層の組成が変わっても合金層分を考慮することで,ワイピング理論の予測精度が改善することがわかった。

4. 高温ガスによるワイピング実験

4・1 実験装置の概要および実験方法

ワイピング部の鋼帯温度は,ワイピング効率に影響する。そこで,鋼板温度のみではなくガス冷却による温度低下,つまりワイピング部の冷却がワイピング効率に影響するか検証を行うため,ガス温度を変更したワイピング実験を実施した。実験概要をFig.10に示す。断熱容器内に電気発熱線を蜂の巣状に配置し,ガス温度を600°C,最大流量6 Nm3/minまで加熱できる装置を設計製作し,エアーの加熱を行った。ただし,ノズルや配管部での温度低下があったため,実験で安定して噴射できるノズル出口でのガス最高温度は400°Cであった。

Fig. 10.

Schematic illustration of experimental set-up with high temperature gas jet wiping. (Online version in color.)

4・2 実験結果および考察

まずは鋼帯温度が亜鉛融点近傍まで低下する条件にて,高温ガスでのワイピング能力を評価した。バーナーを使用しない条件での付着量の実験結果をFig.11に示す。ガス温度は100, 300, 400°Cの3条件,ガス圧力は20, 40 kPaの2条件である。

Fig. 11.

Experimental results of high temperature gas wiping without burner. (Online version in color.)

ガス温度の上昇とともに付着量が減少し,ワイピング能力が向上していることがわかる。ガス温度400°Cの条件では,ガス圧力20 kPaで100°Cにおける40 kPa相当のワイピング力を得ることができた。ワイピング部の鋼帯温度が亜鉛の融点近傍まで低下する条件において,ガス高温化はワイピング効率向上に非常に効果があると言える。また100°Cから300°Cへの温度上昇に対し,300°Cから400°Cへの温度上昇では,付着量低減効果が限界値へと漸近しているように見える。これは亜鉛の融点が420°Cであり,効率の良いワイピングガス温度が融点近傍にあることを示唆していると捉えることができる。

Fig.12に付着量と標準状態換算でのエアー流量の関係を示す。エアー流量は理論値である。同じガス圧力において高温条件ほど標準状態におけるガス流量は減少する。つまり衝突のガス運動エネルギーは減少するにも関わらず,ワイピング能力は向上していることを示している。これはスプラッシュの発生に対し有利と考える。

Fig. 12.

Relationship of air temperature and flow for coating weight. (Online version in color.)

エッジスプラッシュの発生限界指標6)は,流れの慣性力と表面張力の関係を示す無次元数,ウェーバー数Weで表せる。

  
We=ρgUgmax2δ0σ(13)

ここで,ρgはガス密度,Ugmaxは最大ガス速度,δ0はワイピング前の持ち上げ液膜厚さ,σは液の表面張力である。

実験結果は,同等の付着量である40 kPa, 100°Cに対し,20 kPa, 400°Cでは,標準状態換算で風量を半減できるため,We数においても低減効果があり,スプラッシュ抑制に貢献できる可能性を示している。

次に鋼帯温度が十分に高い場合,亜鉛の融点以上となる条件でのガス温度の影響を評価するため,バーナーを用いてワイピング部鋼帯温度を450°Cとして実験を行った。付着量の結果をFig.13に示す。

Fig. 13.

Experimental results of high temperature gas wiping with burner. (Online version in color.)

ガス高温化によりワイピング能力が向上することがわかった。鋼帯温度が亜鉛融点以上であっても,ガス温度が低い場合,微視的な凝固による粘度上昇などワイピングを阻害する現象が起こっていることを示している。これはワイピングガスの高温化が鋼板の温度低下防止の効果のみではなく,液相そのものに影響している証拠である。また最も効率の良いワイピングガス温度は,過加熱による合金化を抑制し,液相の凝固を防止できる亜鉛融点付近と考える。またガス温度400°Cにて,10 g/m2以下の薄膜鍍金の作成に成功した。溶融亜鉛鍍金において,電気亜鉛鍍金並みの薄膜の作成が可能であることを示した。

5. 結言

溶融亜鉛鍍金ガスワイピングにおける冷却に伴う微視的凝固および初期合金層の発達によるワイピング効率阻害の影響について着目し,実験と理論解析による検証を行った。誘導加熱,バーナー加熱による鋼帯温度の変更,およびワイピングガス温度を変更する実験,ワイピング理論による解析付着量との比較を行い,以下の結論が得られた。

(1)鋼帯温度が低下する低速通板条件において,ワイピング効率は悪化する。ワイピングガスによる亜鉛表層の微視的な凝固,固液共存層の発生に伴う粘度上昇が起こっている可能性が高い。

(2)亜鉛-鋼板界面で生成する硬い初期合金層は,払拭可能な液層厚みを減少させ,ワイピング効率を悪化させる。

(3)ワイピング付着量解析の精度向上には,微視的な凝固による固体体積率の増加に伴う粘度上昇や初期合金層の生成など固相の体積比率を考慮する必要がある。

(4)ワイピングガス温度を高温化することで,ワイピング効率を向上することができた。また標準状態換算での風量を削減でき,スプラッシュ欠陥抑制の効果が期待できる。

文献
 
© 2023 The Iron and Steel Institute of Japan

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