Tetsu-to-Hagane
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Influence of Nitrogen Content and Deformation Temperatures on Dislocation Structures in Austenitic Stainless Steels
Soh YabukiYasuhito Kawahara Shunya KobatakeChikako TakushimaJun-ichi HamadaKenji Kaneko
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2024 Volume 110 Issue 10 Pages 779-787

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Abstract

Nitrogen-added austenitic stainless steels exhibit excellent work-hardenability due to planar slips of dislocations. Two mechanisms of the planar slip have been proposed so far: glide plane softening mechanism and stacking-fault energy (SFE) reduction mechanism, which are thought to be dependent on nitrogen content and deformation temperature. In this study, conventional TEM, STEM-EDS and HR-STEM characterizations were carried out to clarify the influences of deformation temperature and nitrogen content on the dislocation characteristics of austenitic stainless steels. In the case of the nitrogen-added steel, the dislocation configurations became planar at a high temperature, 973 K. HR-STEM analysis revealed that SFE decreased with N addition and increased with temperature increase. Weak-beam TEM and HR-STEM analyses revealed that the planar dislocations were composed of 60° mixed-dislocations and SFs at room temperature, and edge-dislocation and SFs at 973 K. These results suggested that the edge components of defects interacted elastically with N and N-Cr pairs and contributed to the origin of the planar slips.

1. 緒言

オーステナイト系ステンレス鋼は,他のステンレス鋼に比べ強度-延性バランスや靭性に優れている1,2,3)。また,様々な元素を添加することにより各種特性の向上が成されるが,特に窒素(N)を添加することにより,室温および高温での0.2%耐力並びに加工硬化率が上昇するなどといった機械的特性の改善が報告されている4,5)。このような0.2%耐力の上昇は,N添加による固溶強化6)で説明がなされており,加工硬化率の上昇については,交差すべりが何らかの形で抑制されることで,転位が同一すべり面上に局在化するプラナー転位列の発達によって説明がなされている7,8)

これまで,主に二つの機構がプラナー転位列の発達の起源として提案されている9,10,11)。一つは,短範囲規則構造(Short Range Order:SRO)の発達に伴う容易すべり領域の形成9,10)である。SROは転位運動の障害として働くが,転位の通過によって壊されると,そのすべり面では転位運動が容易になる。そのため,特定のすべり面上に転位運動が集中するようになり,プラナー転位列が発現する。もう一つは,積層欠陥エネルギー(Stacking-fault energy:SFE)の影響11)である。オーステナイト系ステンレス鋼は,SFEが低いため部分転位の分解幅が大きく,収縮が困難であることが報告されている。このような部分転位では交差すべりが不可能であるため,特定のすべり面上にのみ転位が局在化し,プラナー転位列が発現することになる。

このように,N添加によるプラナー転位列の発現機構の起源に関する提案がなされてきているが,その詳細は未解明のままである。その主な理由として,透過型電子顕微鏡(TEM)やアトムプローブによるNの検出が困難であること,また,その場観察でのNと転位間の相互作用の解析が不可能であることが挙げられる。更には,N添加量とSFEの間の相関が一義的では無いことも要因として挙げられる12,13,14)。これまでに既に,部分転位の分解幅をウィーク・ビームTEM法を用いて測定することにより,SFEを測定した報告が幾つかなされている。例えば,Ojimaらは,N添加によりSFEが増加することを報告している12)。しかしながら,Yonezawaら13)やKawaharaら14)は,N添加の結果,SFEが低下すると報告しており,N添加がSFEに及ぼす影響は未だ明らかでない。

Nと転位の相互作用機構を論じる上では,転位の分布や性状,形状を明らかにすることは非常に重要である。例えば,Nが固溶原子として,転位と相互作用を起こす場合には,刃状転位が頻繁に変形を媒介するようになることが予想される15)。また,このような相互作用機構は,SFEや変形温度にも依存すると考えられる16)。つまり,N添加量と変形温度,SFE,転位性状の4つの要素の相関を整理することで,Nと転位の相互作用に関する理解の進展が期待される。

本研究では,室温(RT),573 K,773 Kおよび973 Kの4つの異なる温度範囲で,3つの異なるN添加量(0.01 wt%,0.09 wt%および0.19 wt%)で作製したオーステナイト系ステンレス鋼を変形させ,TEMを用いることで微細構造解析を行った。そして,各N添加量および変形温度における転位の分布や性状,形態およびSFEの解析を行うことで,Nと転位の相互作用に関して考察した。

2. 方法

2・1 試料

本研究ではN添加量が異なる3種のSUSXM15J1を用いた。この鋼の化学組成をTable 1に示す。以降,これらの試料をそれぞれ0.01N材,0.09N材および0.19N材と称する。それぞれの試料を20 kg真空溶解で溶製し,1523 Kで55 mm厚に鍛造した後に,切削加工により40 mm厚にして熱延に供した。熱延では各試料を1423 Kで3.6 ksの間加熱した後に,6 mm厚まで圧延して熱延板とした。次に,熱延板を1423 Kまで加熱し60 s間保持した後に,空冷した。これらの試料を0.4 mm厚まで冷延して冷延板を作製した。この冷延板に対して1423 Kで60 s間の焼鈍処理を施し,その後空冷して冷延焼鈍板とした。

Table 1. Chemical composition of specimens used in this study (wt%).

Fe C Si Mn P S Ni Cr N
0.01N Bal. 0.05 3.2 0.8 0.03 0.0007 13.5 19.5 0.01
0.09N Bal. 0.05 3.1 0.8 0.03 0.0007 13.5 19.5 0.09
0.19N Bal. 0.05 3.1 0.8 0.03 0.0007 13.6 19.8 0.19

2・2 室温・高温引張試験

2・1で作製した冷延焼鈍板から引張方向が圧延方向と平行となるように常温引張試験片および高温引張試験片を採取し,引張試験に供した。室温引張試験片はJIS13B号試験片を用い,室温引張試験はひずみ速度を8.0×10−4 s−1として,5%途中止め試験片を作製した。高温引張試験片は幅10 mm,標点間距離35 mmとし,高温引張試験は試験温度573 K,773 Kおよび973 Kまで,昇温速度1.67 K・s−1にて加熱処理を行い,試験温度に達してから600 s間保持後,ひずみ速度を5.0×10−5 s−1として,5%途中止め試験片を作製した。高温引張試験後の試験片は,応力除荷後に室温まで3.0 K・s−1で風冷により冷却した。以降,0.01N材,0.09N材,0.19N材を室温,573 K,773 K,973 Kで変形させた試料をそれぞれ,0.01N-RT,0.01N-573,0.01N-773,0.01N-973,0.09N-RT,0.09N-573,0.09N-773,0.09N-973,0.19N-RT,0.19N-573,0.19N-773,0.19N-973と称する。

2・3 透過型電子顕微鏡(TEM)による微構造解析

TEM用試料は,引張試験で5%のひずみを導入した試料から,ツインジェット電解研磨法(Fischione社製モデル120)により作製した。電解液には酢酸と過塩素酸の混合液(酢酸:過塩素酸=95 vol%:5 vol%)を用い,電流値を25 mA に,電圧値を30 Vに設定して電解研磨を行った。

電解研磨試料に対し,JEM-2100HC(日本電子)を加速電圧200 kVにて使用し,転位組織の観察を行った。また,ウィーク・ビーム法17)を用いることで,gb解析を行い,各像の転位のコントラストの変化を解析することでbの候補を算出し,転位性状を決定した。更に,JEM-ARM200F(日本電子)を加速電圧200 kVで使用し,プラナー転位列を構成する転位のコア構造の原子分解能STEM解析を行った。

3. 結果および考察

3・1 TEMによる転位組織の解析

5%ひずみを付与した各試料に対して,二波励起条件で取得した明視野(BF-)TEM像および制限視野電子線回折図形(SAEDP)をFig.1に示す。特にプラナー化が顕著に認められる領域を白点線で囲っている。電子線の入射方位は,母相(γ-Fe)の[011]付近に調整し,二波励起条件を満たすように試料を傾斜させた。0.01N-RTおよび0.01N-573では,プラナー転位列が確認されたが,0.01N-773および0.01N-973では確認されなかった。特に0.01N-773では,湾曲した転位と直線状の転位が混在していたのに対し,0.01N-973では,湾曲した転位のみが確認された。0.09N材に関しては,0.09N-RTおよび0.09N-573,0.09N-773では,プラナー転位列が確認された一方で,0.09N-973では0.01N-773と同様に,湾曲した転位と直線状の転位が混在していた。0.19N材において,全ての変形温度においてプラナー転位列が確認された。プラナー転位列の有無とN添加量,変形温度の相関をまとめたものをTable 2に示す。N添加により高温変形においても,プラナー転位列が発現することが明らかとなった。また,いずれの試料においても,加工誘起マルテンサイトの形成は確認されなかった。

Fig. 1.

BF-TEM images and SAEDPs of 0.01N, 0.09N and 0.19N deformed at RT, 573 K, 773 K and 973 K, viewed along [011] direction of the matrix.

Table 2. Summary of dislocation configurations in the steels.

0.01N 0.09N 0.19N
RT planar planar planar
573 K planar planar planar
773 K straight & tangle planar planar
973 K tangle straight & tangle planar

これまでに,本鋼(Fe-19 wt%Cr-13 wt%Ni-0.05 wt%C-3 wt%Si-x wt%N)と試料組成の近いオーステナイト系ステンレス鋼(Fe-19 wt%Cr-12 wt%Ni)において,変形温度の上昇に伴い,SFEが増加することが報告されている18)。0.01N材では773 K以上の高温変形域において,転位のプラナー化が確認されなかったことは,SFEの上昇によるものであると考えられる。一方で,0.19N材においては,全ての変形温度域においてプラナー転位列の発現が確認された。これには,N添加によるSFEの低下が一因として寄与していると予想されるが14),その詳細は明らかでない。本研究では3・3節にて,HR-STEMを用いることで,部分転位の拡張幅を直接測定し,N添加量と変形温度,SFEの相関に関する評価を行った。

3・2 STEMによる窒素の固溶状態の解析

窒素と転位の相互作用を論じる上では,溶質元素の固溶状態を評価することが重要である。本節ではそれぞれの試料における析出状態の調査を(S)TEMを用いて行った。3・1節のBF-TEM像の結果(Fig.1)から分かるように,いずれの試料においても5%変形後に粒内析出物の存在は確認されなかった。Fig.2Fig.3およびFig.4にそれぞれ0.01N-973,0.09N-973および0.19N-973における粒界の析出物を観察した結果を示す。粒界析出物は773 K以下の変形温度域においては確認されなかったものの,973 Kの場合はいずれのN添加鋼においても粒界析出物の存在が確認された。Fig.2のSTEM-EDS解析から,0.01N-973において,粒界析出物にCrとCが濃化する様子が確認され,Cr23C6が析出していることが判明した。0.09N-973においては,Fig.3に示すように,0.01N-973と同様にCr23C6が析出していただけでなく,Cr窒化物の存在も確認された。0.19N-973では,Fig.4に示すように,先行研究において報告されているCr23SiNi2(N)およびCr2Nの析出が確認された19)

Fig. 2.

BF-STEM image and EDS elemental maps of C-K, N-K, Cr-K, Fe-K, Mn-K, Ni-K and Si-K in 0.01N-973. (Online version in color.)

Fig. 3.

BF-STEM image and EDS elemental maps of C-K, N-K, Cr-K, Fe-K, Mn-K, Ni-K and Si-K in 0.09N-973. (Online version in color.)

Fig. 4.

BF-STEM image and EDS elemental maps of C-K, N-K, Cr-K, Fe-K, Mn-K, Ni-K and Si-K in 0.19N-973. (Online version in color.)

773 K以下の引張試験材では,粒内および粒界析出物の発現が確認されなかった一方で,973 K引張試験材において,STEM観察結果に示すように,粒界析出物の発現が確認された。ここから,粒界析出物は焼鈍処理後の空冷処理時ではなく,973 Kでの高温引張試験時に析出したことが判明した。したがって,空冷材において,添加したNはほぼ全て固溶していると考えられる。実際に3・1節のBF-TEM解析において,転位組織がNの添加量に応じて大きく変化していたことからも,転位とNの相互作用が生じていたことが窺える。

3・3 高分解能(HR-)STEMによる積層欠陥の解析

SFEと変形温度,N添加量の相関を理解するべく,HR-STEMによる解析を行った。0.01N-RT,0.09N-RTおよび0.19N-RTにおいて取得したHR-STEM像(入射方位=[110])をFig.5(a),(d),(g)に示す。両端の白実線で示す箇所では原子配列のシフトは生じていないが,中央部の白点線で示す箇所においてはシフトが生じていることが確認でき,積層欠陥の存在が明らかになった。さらに始点(Starting Point:S)および終点(Finish Point:F)として時計回りに作成したバーガースサーキットから,矢印方向にずれが生じており,余剰半面を含んでいることが確認された。このことから拡張前の完全転位は刃状成分を含むことが分かる。また,Fig.5(b),(e),(h)およびFig.5(c),(f),(i)で示すように,原子配列のシフトが生じている領域の両端をバーガースサーキットで囲うことで,部分転位による原子シフトが確認された。Fig.5(b),(e),(h)に示すような左側の部分転位と,Fig.5(c),(f),(i)に示すような右側の部分転位とでは,原子シフト量が異なっている様子が見られ,右側の部分転位の方が,左側の部分転位に比べて原子シフト量が大きい様子が窺える。Fig.6にトンプソンの四面体と,[110]でTEM観察を行った場合に投影されるバーガースベクトルの相関を示す。ここから,b1=a6 [211](δA)または a6 [121](δB)は,投影面上ではb1=a12 [1 1 2]として観察され,一方でb2=a6 [1 1 2](Cδ)は,投影面上ではb2=a6 [1 1 2]として観察される。つまり,Fig.5(b),(e),(h)に示すような左側の部分転位は,投影面上でのb1=a12 [1 1 2]に対応し,Fig.5(c),(f),(i)に示すような右側の部分転位は,投影面上でのb2=a6 [1 1 2]に対応していると考えられる。したがって,観察方向と転位線方向が平行であると仮定すると,完全転位は60°転位であると判断できる20)

Fig. 5.

(a,d,g) HR-STEM images of stacking-faults in 0.01N-RT, 0.09N-RT and 0.19N-RT, respectively, where electron beam is parallel to [110]. Magnified HR-STEM images of (b,e,h) left-sides and (c,f,i) right-sides of the partial-dislocations observed in (a,d,g), respectively.

Fig. 6.

Thompson’s tetrahedra showing the orientation among TEM observation direction, Burgers vector and projection plane. (Online version in color.)

以上の部分転位の分解幅測定と,転位の性質の解析を基に,Readによって提案された以下の式を用いてSFEの算出を行った21)

  
SFE = G b p 2 ( 2 v ) 8 π Δ ( 1 v ) ( 1 2 v c o s 2 β 2 v )

ここで,Δを分解幅,bpを部分転位のバーガースベクトルの大きさ,βを完全転位のバーガースベクトルと転位線のなす角度,Gを剛性率(=75 GPa),νをポアソン比(=0.33)とする。なお,剛性率およびポアソン比は本鋼と比較的組成の近いオーステナイト系ステンレス鋼(Fe-17.5Cr-13.8Ni-0.6Mn)のものを用いている22)。SFEの値は,0.01N-RTでは27.59±4.63 mJ/m2,0.09N-RTでは24.39±7.90 mJ/m2,0.19N-RTでは18.41±4.20 mJ/m2となり,Fig.7に示すように,N添加に伴いSFEが減少する傾向が確認された。また,Fig.7にKawaharaらによって,ウィーク・ビームTEMをもちいることで測定されたSFEも併せて示す14)。本研究でHR-STEMにより得られたSFEと,ウィーク・ビームTEMにより得られたSFE14)の間には5 mJ/m2程度の差が生じていたものの,N添加に伴いSFEが減少する傾向は一致していた。測定手法によりSFEに差が生じた要因として,HR-STEMによるSFE測定の際に,観察方向と転位線方向が平行であるという仮定を導入したことが挙げられる。

Fig. 7.

SFEs of the steels deformed at room temperature, mea-sured by HR-STEM characterizations.

変形温度とSFEの関係をFig.8に示す。なお,573 Kおよび773 K,973 K変形材のSFEについては,高温で変形させた後に,室温まで風冷した試料において,測定を行っている。いずれのN添加鋼においても温度上昇に伴いSFEが上昇する傾向が確認された。また先行研究にて,その場加熱TEM観察によって導かれたFe-19 wt%Cr-12 wt%Ni鋼におけるSFEと加熱温度の相関も併せて示す18)。本結果は,先行研究18)に比べてSFE増加の温度依存性が小さい傾向にある。本研究でSFEが低く計測された要因として,高温引張試験片を室温まで風冷する過程で,部分転位の拡張幅が広がったことが考えられる。また,0.19N-RTに比べて,0.19N-973が高いSFEを示した理由として,部分転位がCrなどの溶質元素によって固着されることで,冷却過程での拡張が抑制されたことが考えられる。実際にKawaharaらは,HR-STEMとSTEM-EDSを併用することで,積層欠陥ではなく部分転位周りに,Crが偏析する様子を観察しており23),Crが部分転位のひずみ緩和に寄与していることを示した。したがって,0.19Nの973 Kでの変形は,48.9 mJ/m2以上のSFE値にて進行したと考えられる。一般的に,SFEが30 mJ/m2を超えた場合では,転位セル組織が形成されることが報告されている12,24)Fig.1において,0.19N-973では転位セルではなく,プラナー転位列を形成している様子が確認されたことから,高温域で確認されたプラナー転位列の形成機構をSFEで説明することは困難であると考えられる。

Fig. 8.

Relationship between deformation temperatures and SFEs in the steels.

3・4 TEMによる転位性状の解析

3・3節の結果から,本鋼においてSFEはN添加に伴い減少し,温度上昇に伴い増加する傾向が確認された。そして,SFEでは窒素添加に伴う転位のプラナー化を説明することが困難であった。本節では,プラナー転位を形成する転位の性状を解析することで,N添加によるプラナー転位列の起源に関する考察を行った。

Fig.9に,0.19N-RTおよび0.19N-973においてgb解析を行ったウィーク・ビームDF-TEM像を示す。特に白枠で囲った領域において示すように,励起条件に応じて,転位由来のコントラストが消失する様子が確認された。gb解析によりbの決定を行うことで,室温変形材においては60°転位,973 K変形材においては刃状転位がプラナー転位列を形成している傾向が確認された。

Fig. 9.

A series of weak-beam DF-TEM observations of 0.19N deformed at (a,b) room temperature and (c,d) 973 K, where gb analysis showed the presences of 60°-mixed and edge-dislocations at room temperature and 973 K, respectively.

つまり,積層欠陥に加えて完全転位もプラナー転位列を構成していることが判明した。973 K変形材において刃状転位が高頻度で観察されたこと,並びに先行研究において,0.19N-973にて刃状転位周辺の引張ひずみ領域にCrが偏析する様子が観察されていること23)から,NおよびCrによる刃状転位の引きずり抵抗が生じていると考えられる。Masumuraらは,N添加オーステナイト系ステンレス鋼(Fe-18 wt%Cr-12 wt%Ni-0.2 wt%N)において,833bKでCr2Nが析出することを示差走査熱量計およびTEMから明らかにしており,973 Kでの変形において,NおよびCrは十分拡散可能であると考えられる25)

NとCrは強い引力型の化学的相互作用を引き起こす26)ことから,刃状転位周辺に偏析したNとCrが相互作用を起こすことによって形成されるN-Cr対が,刃状転位の運動を強く阻害していると考えられる。60°転位も刃状成分を含む転位であることを考慮すると,N-Cr対が転位と弾性的相互作用を起こしている可能性が考えられる。Xieらは,低温窒化処理を行ったオーステナイト系ステンレス鋼(Fe-35 at%Ni-10 at%X(X=Cr, V, Mo, Al))において室温でビッカース硬さ測定を行い,Nと合金元素(X)間の引力型化学的相互作用の大きさに応じて,硬度が上昇する傾向を見出している27)。つまり本結果は,高温変形だけでなく室温変形においてもN-Cr間の化学的相互作用が,転位運動の障害として寄与する可能性を示唆している。N-Cr対の存在並びにN-Cr対と転位の弾性的相互作用がプラナー転位列の形成の直接的要因であるかの決定には今後更なる検討が必要である。

4. 結言

本研究ではNを添加したオーステナイト系ステンレス鋼(SUSXM15J1)の転位組織の形成機構の解明を目的とし,(S)TEMを用いた微細構造解析を行った。それぞれの解析結果から,N添加量(0.01, 0.09, 0.19 wt%),および変形温度(RT, 573, 773, 973 K)が転位組織に及ぼす影響が明らかとなった。以下に得られた知見を示す。

(1)N添加量の増加に伴い,高温域での変形においてもプラナー転位列が形成されることが明らかとなった。

(2)Nの添加および変形温度の低下に伴い,SFEが減少することが確認された。SFEにより,特に高温変形において,プラナー転位列の形成の起源を説明することは困難であった。

(3)室温変形材においては60°転位と積層欠陥が,973 K変形材においては刃状転位と積層欠陥がプラナー転位列を形成していることが明らかになった。

(4)転位とNやCrの弾性的相互作用に加えて,NとCr間の引力型の化学的相互作用が,転位運動の抵抗として寄与する可能性が示唆された。

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