2024 年 110 巻 11 号 p. 810-822
Large structures, such as bridges or unloader cranes in a steel plant, require health inspection methods to monitor their operation. Optical inspection methods offer numerous advantages for these large structures compared to traditional contact-based inspection methods. The sampling moire method is one such phase analysis method. Its features include high precision and non-contact field inspection. When measuring large structures, the measuring instruments are often positioned far away, sometimes several hundred meters, from the target. Calibration of such larger structures while in motion is nearly impossible. In this paper, the authors propose a calibration-free sampling moire method for measuring 3-axis displacements. This method initially measures the angles between cameras and the target. Subsequently, these angles are used to calculate a coefficient array, which translates phase differences into displacement values. Thus, the proposed method enables measurement of larger structures situated at a distance. Indoor experiments were conducted to verify the principles of the proposed method, and outdoor experiments were performed in a real steel plant to measure the displacements of an actual unloader crane. The results demonstrate that the proposed method can accurately measure the displacements of a working unloader crane.
近年,製鉄所などの大型の工場プラントや橋梁などのインフラ構造物における経年劣化が進行しており,これに対する対策が重要な課題となっている1)。従来からの検査手法としては,ひずみゲージを検査対象に直接貼り付けたり,ワイヤー式の変位計を取り付けたりするなどの方法が用いられてきたが,これには時間と手間が多くかかる。そのため構造物の健全性の評価を効率よく行うために,光学的手法を用いる技術の開発が進められている2)。そのうち,非接触で振動や変位が計測できる手法としては,レーザードップラー振動計3)がよく用いられている。また,画像を用いる方法も様々な手法が研究開発されてきている4,5,6)。デジタル画像相関法は画像を使用する代表的な変位分布やひずみ分布の計測手法であり,多くの研究が行われている7,8,9,10,11,12)。
画像を用いる方法のひとつとして,著者らはサンプリングモアレ法13,14)を提案してきた。これは,計測対象物に貼り付けた2次元格子パターンをカメラで撮影することで,遠隔から構造物の変位を精度よく計測できる。サンプリングモアレ法は格子パターンの輝度変化を波として捉え,その位相を解析する手法である。
サンプリングモアレ法は2次元の格子画像を使用するために,格子画像の横と縦の2方向の変位が同時に計測できる手法である。サンプリングモアレ法で面外変位を計測する方法は,いくつか提案されている。例えば,面外方向に変位する際の画像上に生じるピッチの変化を利用する方法が提案されている15)。また,面外方向の変位によって生じる見かけのひずみを用いる手法も提案されている16)。しかし,これらの方法は,距離が長ければ長いほど,精度が低下するため,あまり遠距離には向いていない。さらに,面外変位の計測方法として,レーザースリット光を投射し,サンプリングモアレ法によって位相解析を行う光切断手法も開発されている17)。この方法は,面外変位の分布計測や振動計測に使用できるが,3次元変位を計測することはできない。サンプリングモアレ法で3次元変位を計測できる手法として,2台のカメラを使用(2台以上でも適用可能)するステレオ式サンプリングモアレ法18)が開発された。この方法は複数のカメラが撮影した位相差を換算係数の行列に掛けることで,3次元変位を算出する手法である。しかし,この方法では換算係数の行列の各要素の値を決めるために,格子パターンを面外方向に平行移動させるキャリブレーション作業が必要である。そのキャリブレーション作業は,実際の大型インフラ構造物の計測際においては現実的でないために,遠距離の大型インフラ構造物の変位計測に適用することは困難である。そのため,キャリブレーションをしなくても,遠距離で大型インフラ構造物の3次元変位を計測するサンプリングモアレ法の開発が必要である。
この問題を解決するために,2次元格子の位相からまず格子とカメラの角度を算出して,その後,この角度を使用してステレオ式サンプリングモアレ法で用いられる換算係数の行列の各要素の値を求める方法を提案する。これにより,キャリブレーションが不要な遠距離での大型インフラ構造物の3次元変位を計測するサンプリングモアレ法を開発する。
サンプリングモアレ法は,2次元格子をワンショットで撮影した1枚の格子の画像から横と縦の2方向の位相分布を求める位相算出手法である。一枚の画像で位相が算出できるために,時系列の動的計測や振動解析にも適用可能である。
Fig.1にサンプリングモアレ法を用いてx方向の格子の位相分布を算出する画像解析手順に示す。図中,(i, j)は画像における見かけの座標,(x, y)は変形前の物体表面に貼り付けた格子の座標を意味している。サンプリングモアレ法は左上の図に示すように,2次元格子が画像内で傾いて撮影されていても,位相分布を求めることができる。
Phase analysis for 2-D grating with sampling moire method.
撮影された2次元格子模様に対して,水平方向および垂直方向に平滑化すると平滑化画像をそれぞれ得ることができる。上段中央の画像は垂直方向に平滑化することで得られた画像である。これに対して間引き位置を変えながら間引きを行い,間引いた隙間を補間処理することによって,上段右に示すように,位相がシフトされた複数枚のモアレ縞画像をそれぞれの方向に対して得ることができる。
次に,これらの複数枚のモアレ縞画像に対して,位相シフト法を適用することによって,x方向とy方向のモアレ縞の位相分布がそれぞれ得られる。下段中央にこのようにして得られたx方向のモアレ縞の位相分布を示す。さらに,下段左に示す参照格子の位相分布の各画素の値にモアレ縞の位相分布における対応する各画素の値を足すことで,x方向とy方向の格子の位相分布がそれぞれ得られる。下段右にこのようにして得られたx方向の格子の位相分布を示す。これを見ると,上段左に示す撮影された画像のx方向の格子の位置と一致していることがわかる。
2・2 カメラ方向の自動検出アルゴリズム 2・2・1 カメラの光軸と2次元格子の法線ベクトルのなす角度の定義Fig.2では,カメラが2次元格子の正面(カメラの光軸と格子パネルの法線が同じ向き)に配置された状況が示されている。カメラ座標系におけるxc, yc, zc軸に対し,右手回りの回転角をそれぞれα, β, γとする。回転の順番はα, β, γの順に行う。ここでは,例えば,「αとβの回転」は,まずαのみを回転させた後に,βのみを回転させることを意味している。Fig.3(a)は回転する前の格子画像である。Fig.3(b),(c),(d)はそれぞれ,αの回転後,αとβの回転後,α, β, γの回転後に撮影される格子の画像を示す。αのみ回転した場合,撮影した画像中に格子の横縞のピッチは元の長さよりも縮んで撮影される。また,Fig.3(c)に示すようにαとβの回転後に撮影した画像は,元画像のピッチよりi方向とj方向のピッチが縮められて,さらに,画像全体としてはi方向にスキューした画像になる。α, β, γの回転は,αとβの回転後に撮影された画像が,単純に面内にγだけ回転した画像となる。そのために,Fig.3(d)の横縞だけを見ると,横縞と水平方向(i方向)の成す角度はγである。
Definition of camera coordinate system.
Grating changed after α, β and γ rotation in the order.
カメラと格子の角度α, β, γは先にγを算出してから,α, βを算出する順で計算する。Fig.4はγの算出原理を示す。γの計算には横縞の位相のみを使用したために,Fig.4には,横縞のみが描かれている。ここではφy位相θyを位相接続した後の位相である。なお,位相接続とは,位相は2π周期の繰り返しであるが,2πから0に変化する際に2πを加えることで急変部をなくして連続する操作のことである。Fig.4に位相φyを見ると,γが正の時に,+i方向に従って,φyは小さくなる。γが負の時に,+i方向に従って,φyは大きくなる。また,γが正負のどっちらであっても,j方向の位相φyは減少する。その増加や減少の量は回転によって生じるi方向のピッチの変化に関連する。つまり,位相から回転角度γを算出することができる。式(1)には,位相φyを空間内の平面として近似し,その平面の方程式を示す。
(1) |
Method of how to calculate the γ using φy.
ここで,a0とb0は位相φyの画像のi方向およびj方向の勾配を表す。それぞれ式(2)および式(3)に示す数式として表すことができる。
(2) |
(3) |
ここで,
また,定義からtanγは位相φyのj方向の平均ピッチ
(4) |
Fig.3(d)で示される格子画像は,面内回転のγを算出した後,画像を−γに回転することで,Fig.3(c)に示した画像になる。次に,Fig.3(c)に示された画像からαとβを算出する方法について説明する。
Fig.5は格子パネルが回転した際にカメラによって撮影される画像について説明する図である。この図では,カメラはzc軸上にあり,(xc, yc)平面をカメラの撮影面と考える。格子パネルは回転前には(xc, yc)平面内にあり,単位ベクトルex0, ey0で作られる正方形OB0C0D0が2次元格子の一部と考え,それが回転後にどのように撮影されるかを考える。また,OB0C0D0の法線ベクトルn0もex0, ey0とともに回転すると考える。
Grating change after rotation in a camera coordinate system.
まず,⓪で示すOB0C0D0がxc軸まわりにαだけ回転すると,①で示されるOB1C1D1となり,さらにyc軸まわりにβだけ回転すると,②で示されるOB2C2D2となる。このときex0, ey0はex2, ey2に移動し,n0はn2に移動する。OB2C2D2の(xc, yc)平面への写像OBCDが回転後に撮影される2次元格子となる。ここで,2次元格子画像から得られる位相分布を用いれば,図中のδとx方向の長さOBに対するy方向の長さOD1'の比率rをそれぞれ求めることができる。また,それらの値はFig.5を見ればわかるように,回転角α,βと式(5)と式(6)に示す関係となる。
(5) |
(6) |
式(5)と式(6)を連立することで,回転角α,βを算出できるが,式変形で回転角α,βを求めることは困難である。パソコンを使う数値解析を利用して,回転角α,βを求める。その方法として,式(7)に示すように評価値Q(α, β)を定義し,このQが最小になるようなαとβを数値解析で求める。
(7) |
また,この移動後のex2, ey2, n2の方向をそれぞれx, y, z軸とすると,格子パネルから見たカメラの方向がわかることになる。
このように,2・2・1節に定義した角度α, β, γは撮影した1枚の2次元格子の画像から,格子の位相分布を算出することによって求めることができる。また,角度の計算式(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)には,カメラと構造物の距離が含まれていないため,撮影距離に関係なく角度を算出することができる。ただし,屋外で遠距離の場合には,撮影レンズと対象物間の空気の揺らぎなどの影響によって撮影画像が変形し,算出角度の精度が低下する場合もある。
また,面内回転角度γと面外回転角度α, βの算出精度は,同じではないと考えられる。面内回転角度γは直接位相解析から算出する。面外回転角度α, βは式(5)と式(6)を使う数値解析式(7)により,算出する。そのために,角度α, βの算出精度は位相解析の精度だけではなく,数値解析に使用するパラメータにも影響する。
2・3 3次元変位計測の原理2台のカメラで2次元格子模様を撮影し,サンプリングモアレ法で得られたx方向の格子の位相差とy方向の格子の位相差を利用することで3次元変位分布を算出できる。ここではその原理を説明する。
Fig.6に示すように,対象物の法線方向とは異なる方向に設置されたカメラで撮影した画像においては,3次元変位が発生した場合であっても,画像内に格子は面内に変位すると同様の画像を撮影されることになる。3次元変位によってx方向とy方向の位相差ΔθxとΔθyがそれぞれ得られることになる。
Relationship between phase differences in x and y directions during 3-axis displacements.
この時,計測対象が微小に変位する場合を考えると,位相差ΔθxとΔθyは,それぞれx,y,z方向の変位u,v,wに対して比例すると考えることができる。これは,別の位置に配置したカメラにとっても同様であるため,Fig.7に示すようにカメラを2個設置する場合は,カメラ1とカメラ2により得られる位相差は,x, y, z方向の変位u, v, wを用いて式(8)のように書き表すことができる。
(8) |
Images by stereo cameras.
ここで,カメラkで得られる位相差をΔθkx,Δθkyとする。2台カメラの場合では行列Sは4行3列の行列となる。式(9)は4行3列の行列Sの各メンバーを示す。
(9) |
この行列Sの各要素は次のようにして求めることができる。x方向の格子のピッチをpx,y方向の格子のピッチをpyとすると,試料がx方向のみにpxだけ変位する場合を考えると,x方向の位相差はどのカメラでも1ピッチ分の位相として2πとなる。また,その場合にy方向の位相差はどのカメラでも0 radである。すなわち,行列Sの1列目の奇数行はすべて−2π/pxとなり,偶数行はすべて0になる。同様に,試料がy方向のみに変位する場合を考えると,行列Sの2列目の奇数行はすべて0となり,偶数行はすべて−2π/pyになる。
まだ,行列の第3列目の各メンバーについて,以前の方法は格子とターゲットを面外変位に既知の変位を移動して,格子画像を撮影するようなキャリブレーション方法により求められる。例えば,格子ターゲットをwc移動する時に,画像から得られた縦と横方向の各位相差をΔθkx,cとΔθky,c(k=1, 2;カメラの番号)とする。この場合は行列Sは以下式(10)のように表すことができる18)。
(10) |
しかし,大型インフラ構造物にその方法を適用する際には,構造物自体を移動させるキャリブレーションが実行困難であるために,従来のステレオ式のサンプリングモアレ法は適用できない。そのために,キャリブレーションが不要な計測手法の開発が求められる。
Fig.5では,カメラ座標系において単位格子および法線ベクトルがα, βの順に回転番した位置が示されている。図に示すように,法線ベクトルn0, n1, n2は,それぞれ回転前,α回転後,およびαとβの回転後のベクトルである。Tは法線ベクトルn2の(xc, yc)平面(カメラの撮影面)への投影点である。つまり,OTは格子がz方向に移動する際の(xc, yc)平面内での移動方向を表す。そのためTT1'とOT1'は,それぞれ格子がz方向に変位する時の画撮影像内でのi, j方向の格子の変位成分である。三角関数の関係から,TT1'とOT1'のそれぞれの距離は式(11)と式(12)に示すようになる。
(11) |
(12) |
また,三角形OB2Bが直角三角形であることから,i方向の位相2πあたりの移動量はpx cos βとなる。z方向に単位長さだけ変位したときに発生するxc方向の位相の変化量は,px cos βに対してTT1'となるため,カメラ1の場合では,S02は式(13)のように表すことができる。
(13) |
また,z方向に単位長さだけ変位したときに発生するyc方向の位相の変化量は,py cos αに対して−OT'となるため,カメラ1の場合では,S12は式(14)のように表すことができる。
(14) |
カメラ2の係数S22とS32は,上述のものと同様にそれぞれ式(15)と式(16)のように表すことができる。
(15) |
(16) |
以上で,行列Sの構成は式(17)に示すようになる。
(17) |
行列Sの各要素が得られれば,式(18)のように擬似逆行列として行列S+を求めることができる。
(18) |
行列S+を用いて式(8)を式(19)のように書き直せば,各カメラで得られたx方向とy方向の位相差からx, y, z方向の変位u, v, wをそれぞれ求める式が得られる。
(19) |
Fig.8は実験の様子を示す。格子をα,βの順に回転できるように,yc軸まわりの回転ステージの上にxc軸まわりの回転ステージをそれぞれの回転軸が直交するようにとりつけた。格子には,ピッチが 5 mm×5 mmの2次元格子を用いた。格子パネルはxc軸まわりの回転ステージに取り付けられており,それによってカメラ座標系において格子がα,βの順番で回転できるようになっている。
Experimental setup. (Online version in color.)
カメラはこの格子パネルの正面に配置する。カメラと格子の距離は1800 mmである。使用したカメラは1920ピクセル×1200ピクセルのCMOS型東芝テリー制BU238Mであり,使用したレンズの焦点距離は50 mmである。回転ステージ位置をα=0°,10°,20°,30°の位置に,βを0°,2.5°,5°,7.5°,10°,15°,20°,30°の位置まで回転させ,カメラで撮影した。ここでは,計算を簡単にするために,γが0°に近くなるようにカメラの光軸を調整した。
Fig.9は撮影したα=0°,β=0°の画像と,αが10°の時に,βを回転させた時の画像を示す。Fig.9から,αだけ回転した格子がβの回転をする時に,βが大きくなるにつれて,少しずつスキューすることが確認できる。
Captured raw images in experiment for angles measurement.
撮影した画像から算出したγは−0.3°程度の小さい値になっている。Fig.10は角度α, βの算出結果を示す。Fig.11にはその誤差を示す。α, β両方とも0°付近に,算出した角度βのエラーが6°ぐらい大きいが,βが増大するつれて,角度βの誤差は迅速に小さくなる。実験で行われたα, βの位置において算出したαとβの誤差は1°付近である。提案手法で算出した角度α,βは,格子がカメラの真正面で回転がない状態を基準にしている。しかし,初期状態でこの位置合わせを厳密に行うことは困難であり,1°程度のずれはある。
Results of measured α, β.
Errors of measured α, β.
また,Fig.11に示すように,角度(α, βの両方を含む)が小さい場合に算出した角度の誤差が大きい。その理由は,式(5)と式(6)に示すtanδとrは角度が小さい時のαとβの変化に対する感度が低いからである。
3・2 変位計測実験室内で変位計測の実験を行った。Fig.12はその変位計測の実験様子を示す。角度計測の実験と同様なターゲットをx, y, zの3方向に変位できるステージに乗せて置くことにした。ステージと左右二つのカメラの基線位置の距離は1800 mmである。左カメラはカメラ1,右カメラはカメラ2と呼ぶ。カメラは,カメラとターゲットの角度から算出した概算の位置に合わせ配置した。2台のカメラのαを0°にして,βをそれぞれ15°と−15°にした。変位計測の実験としては,今回の実験には,面外変位だけの実験を行う。ステージを移動することで,z方向に0, 2, 4, 6, 8 mm変位させ,各位置でて撮影を行う。解析の手順としては,撮影した画像から,まず,2つのカメラと格子ターゲットの角度をそれぞれを算出する。その後,算出された角度および格子のピッチを元にして式(17)を用いて行列Sを作成し,行列Sの逆疑似行列S+を算出する。次に,格子画像を位相解析して,4つの位相差Δθ1x, Δθ1y, Δθ2x, Δθ2yをぞれぞれ算出する。式(19)に示すように位相差と行列S+の掛け算をすることで,3次元変位u, v, wを計算する。
Experimental setup of displacement measurement. (Online version in color.)
数値解析を行う際に,カメラとターゲットの角度α, βの解析を0.1°間隔で検索することにした。カメラ1の算出したα, β, γの結果はそれぞれ,0.0°,16.0°,1.9°である。カメラ2の算出したα, β, γの結果はそれぞれ,−0.2°,−13.9°,−0.1°である。ステージの移動量は変位値として既知値であり,また,画像から位相差を算出することができる。それにより,行列Sの算出が可能となる。また,式(17)を使って,実際の角度α,βを算出することができる。このキャリブレーションによって算出された角度は真値に近い。画像から算出した角度をこのキャリブレーションによる算出した角度の差は角度の誤差である。0, 2, 4, 6, 8 mm変位値を使って,算出した角度の平均値で真値にする。キャリブレーションによる算出した角度は,カメラ1の場合は,α1=−0.6°,β1=14.1°である。カメラ2の場合は,α2=−0.4°,β2=−13.0°である。そのため,算出した角度α,βの誤差は,カメラ1の場合は,それぞれ0.6°,1.9°である。カメラ2の場合は,それぞれ0.2°,−0.9°であった。
3次元変位の計測結果をFig.13に示す。算出した変位とステージの移動量との差はFig.14に示す。変位wのみ発生した場合,u, vの算出結果はほぼ0 mmで,wが8 mmの時に算出した変位は7.11 mmになる。Fig.13からわかるように,誤差は11%になっているが,線形性は高いものとなっている。
Measured 3-axis displacements.
Errors of measured displacements.
提案した手法を用いて,国内の製鉄所にあるアンローダークレーンの3次元変位を計測した。計測ターゲットはアンローダークレーンのカンチレバーの先端の部分とした。Fig.15に計測システムの配置と計測対象のアンローダクレーンのイラストを示す。
Illustration of a measuring site.
カンチレバーの先端に,2次元格子パターンを取り付けた。使用した格子のピッチは横方向が100 mmで,縦方向が50 mmとした。格子パネルはマグネットシートに印刷することで作成した。1枚のサイズは600 mm×600 mmであり,3枚のシートを横に並べて取り付けた。Fig.15に示すように,この格子の横方向をx軸,縦方向をy軸,格子パネルの法線方向をz軸とし,それぞれの変位をu, v, wとする。
また,アンローダークレーンのカンチレバーの長手方向に沿って,クレーン先端からカメラが設置された路面までの直線距離は約110 mである。カメラ1とカメラ2の距離は約8.5 mである。計算を容易にするため,γの角度に関しては,画像が横方向に水平に近くなるように計測用カメラの姿勢を調整しておいた。2台の計測用のモノクロカメラに加えて,作動状況を記録するためのカラーカメラ1台も設置しており,計測用のカメラとカラーカメラは同一のトリガ信号線を用いて,同期させている。これによって,クレーンの動作と時系列の計測データの対応をつけることができる。
計測用カメラには東芝テリーBU238Mを使用し,100 mmの焦点距離のレンズとそれを2倍に拡大するエクステンダーレンズを用いた。計測用カメラが撮影した画像のサイズが800ピクセル×400ピクセルになるように設定し,カメラの撮影速度は300 fpsと設定した。撮影用のトリガ信号は,ひとつのマイコンで生成して,それを使用するそれぞれのカメラに与えることで,同期して撮影できるようにした。カメラによる一連の撮影は連続して行いながらパソコン内に構築したリングバッファに記録しておき,現象が終了した時までの60秒分を最終的に保存するようにした。カメラの揺れによる誤差を低減するために,今回使用したカメラ三脚は太くて,頑丈なものを使用した。また,風の影響を減らすために,カメラごとに防風カバーを付けて実験した。
アンローダークレーンが静止している状態(静的な計測)と動作中(船から荷物を取り,コンベアまでに運ぶ過程)の両方で画像の撮影を行った。Fig.16に,本撮影システムで撮影した左右の画像の例をそれぞれ示す。
Captured raw images in angles measuring experiment.
撮影された画像から,2・2節に述べた角度算出アルゴリズムを用いて,カメラと格子ターゲットの角度の計算した。この計算では,数値解析を0.1°の間隔で行った。静的な状況下で,カメラ1の算出結果はα1=11.5°,β1=40.9°,γ1=4.0°である。カメラ2の算出結果はα2=15°,β2=42.7°,γ2=2.8°である。動的的な状況下では,カメラ1の算出結果はα1=16.7°,β1=40.7°,γ1=3.9°である。カメラ2の算出結果はα2=18.5°,β2=43.4°,γ2=3.0°である。
静的な場合に算出した角度を式(17)に代入して,変形計算用の行列をS+を算出した。S+は式(20)に示す。
(20) |
この要素は,位相差に対する変位量を表わすものであり,行ごとの要素の絶対値の大きさ最大値の比率が,おおよそ得られる変位に含まれるばらつきの大きさになる。
4・2・2 3次元変位計測の結果Fig.17は静的な3次元変位の結果を示す。Fig.17(a)から,装置が動いていない状態でも,u, v, wの3つの変位量が全て0 mmではないことが明らかになった。アンローダークレーンの機械が稼働していないが,1分間以内の時間に,変位u, v, wが徐々に変化していることが観察された。また,1秒間の拡大データから,アンローダークレーンが振動していることが確認された。
Displacements results of static measuring.
静的な計測の結果は0ではない理由は,アンローダークレーン自身が動いていたと考える。まず,Fig.15に示すように,アンローダークレーンの全長は約100 m,そして,クレーンの横長いビームと地面の高度は約40 mである。この構造とこのサイズから,アンローダークレーンが作動していない時でもx方向とz方向に100 mm程度の変位があるのは合理的な動きである。また,30秒から31秒の拡大のデータを見ると,純粋なランダムなばらつきではなく,ゆらぎや振動しているように見える。また,Fig.17のu, v, wのばらつきの大きさについて考察する。Fig.17のu, v, wのばらつきは,uとwがvの3倍程度になっている。ここで,4・2・1節に算出した静的な場合の逆疑似行列を見ると,vの計算の行列の要素(第2行)の値は,u, wの計算の行列の要素の3倍程度である。このことから,静的の場合の計算結果のばらつきはランダムなばらつきではないことを示している。
Fig.18はアンローダークレーンが稼働する時の変位の結果に示す。その作業のプロセスは,t=0 sの時に,アンローダークレーンのグラブはクレーンの根元の位置にし,その後カンチレバーの先端まで移動し,グラブを下ろして船から荷物を取り上げ,再び根元に戻るというものである。グラブの上部に制御室があり,稼働中にこれがグラブと一緒に移動する。グラブ,制御室,グラブの中の荷物の重量の変化に応じて,アンローダークレーンのカンチレバーが変位する。
Displacements results of measuring a working crane.
Fig.19はアンローダークレーンの動作とその変位vとの関係を示す。アンローダークレーンの作動の様子は,カラーカメラによって撮影された。その作動は大きく3つの部分に分けることができる。
Results shown that displacement v is synchronize with unloader crane.
第1部分は(0秒から約10秒までの間),グラブが先端までに移動する時間である。この間,クレーンの変位vはグラブの移動とともに大きくなる。第2部分は(約10秒から40秒までの間)クレーンの操作者が荷物を詰めるための操作を行っている。この段階では,変位vは大きく変化していない。第3部分は(40秒から60秒の間),グラブに荷物を持ち,クレーンの根元に戻り,そして,そこで荷物を下にあるコンベアベルトまで降ろす。この段階の変位vは,徐々に減少し,原点に戻った後,さらに正の方向へ変位する。これは,グラブと荷物の重さにより先端が上方向に変位していることを示している。最後に荷物を下ろすことで,変位は再び0付近に戻っていく様子が確認できる。
アンローダークレーンで荷物をコンベアへの移送作業において,アンローダークレーンの最大の変位vは約80 mmであった。
2次元格子画像を用いてカメラと格子の角度を算出するアルゴリズムを提案した。このアルゴリズムをステレオ式サンプリングモアレ法に適用し,キャリブレーションが不要な3次元変位を計算できる手法を開発した。この手法は,屋外において遠距離から大型インフラ構造物の計測をするような場合にとくに効果的である。
まず,室内実験により原理を検証した。算出された角度αとβの誤差は約1°であった。また,角度が0°付近の場合,エラーが大きくなる傾向があった。これは,角度が0°付近でのピッチの変化の回転に対する感度が低いことを示している。また,室内における変位計測実験も行った。この方法で算出した面外変位の直線性は良く,計測精度は高いと言える。
さらに,実際の製鉄所におけるアンローダークレーンの変位計測にこの方法を適用した。カメラをアンローダークレーンから100 m以上離れた位置に設置し,撮影した画像から角度を算出し,それを用いて3次元変位を計測した。アンローダークレーンの作動状態と格子の縦方向変位を時系列で解析した結果,撮影された画像と変位の傾向が一致していることを確認できた。
屋外のアンローダークレーンの変位計測実験に関しては,静的な場合の実験に静的な変位結果を得られず,また,動的な実験では,xとz方向に大きい変位を観察できた。こちらに関しては,カメラ側の振動かもしれない,または,アンローダークレーン自体が動いている可能性もある。どちらも真値を調べることはできない。しかし,室内の実験では,線形性がよい変位結果が計測されたので,この方法は信用できる方法である証明になり,この意味から見ると,アンローダークレーンの実験結果は全く信憑性がないデータではなく,有意義な計測データであると考える。
本研究の遂行に関する利益相反の問題が無いことを宣言する。