2024 年 110 巻 11 号 p. 831-840
This study proposes a novel approach to structural health monitoring through active structure sensing using a high-resolution camera for deflection distribution measurement under operational conditions. With the increasing the number of aging social and plant infrastructures, structure health monitoring becomes crucial for early detection of structural anomalies due to deterioration. Conventional contact sensors like strain gauges and accelerometers face challenges in installation and structural limitations, and confine frequent inspections to infrastructures under operation regulations and elevating inspection costs. This study introduces an active sensing method that captures the effects of load passage on deflection displacement around structural anomalies of infrastructures in operating with moving loads, and dimensionless deflection influence lines are defined as speed- and weight-invariant features in active structure sensing. Their effectiveness for structural anomaly detection is validated by showing dimensionless deflection influence lines when loads are moving on 3-m-length H section metal beams.
日本では1960~1970年代の高度成長期に建設後50年以上経過した社会・生産インフラ施設が多数あり,老朽化による腐食や局部変形等の構造異常が人々の安全を脅かす大きな問題である。老朽インフラ施設の安全評価や維持管理において,構造異常の早期発見を可能とするストラクチャヘルスモニタリング技術は重要であり,構造異常を顕在化する方法として,移動荷重に伴う局所的なたわみ変位計測が有効なことが報告されている1,2)。
橋梁等の構造物の振動やたわみ変位を計測するセンサは,1)ひずみゲージや加速度センサといった接触型センサ3,4,5,6),2)レーザ振動計等の非接触光学センサ7,8,9,10)に大別される。前者はセンサ設置に構造的な制限があり,設置に手間がかかる問題がある。後者の多くはレーザ照射を前提としたピンポイント計測であり,構造物全体のたわみ変位分布を捉えることが難しい。簡便に計測するシステムとして,ビデオカメラを用いたたわみ変位計測システムも開発されている11,12)。デジタル画像相関法(DIC)13)やサンプリングモアレ法14)などの画像解析を用いた定量的な評価15,16,17,18)が行われ,鉄道橋モニタリング19)や大規模橋梁モニタリング20)などが報告されている。構造物全体の振動分布を単一カメラで計測する方法として,秒間数百視点の切替えを行う超高速アクティブカメラが仮想的に十数台のカメラとして動作するマルチスレッドアクティブビジョン21)や,長尺構造物に縦列配置した複数マーカをズーム撮影するモーションキャプチャ法22)等も提案されている。近年のイメージセンサ技術の向上に伴い,高速度4K / 8Kカメラといった,空間解像度やフレームレートが向上した高速高解像度カメラも市販化され,移動荷重の位置とともに構造物全体のたわみ変位分布が簡単に計測可能となり,製鉄所で稼働中のアンローダクレーンについて,荷重となるトローリー位置と数cmオーダーのたわみ変位分布の同時計測により,荷重位置に依存しないたわみ影響線が計測可能となる。
そこで本論文では,このような高解像度カメラでの撮影を前提とした,構造物上で移動する荷重の位置とたわみ変位の同時計測により得られるたわみ影響線計測の考えを発展し,稼働中の橋梁やクレーンといった,荷重の重量が未知な場合でも,重量の違いに影響されない構造物の特徴量となる無次元たわみ影響線を定義した形でのアクティブストラクチャセンシング法を提案するとともに,両端で固定された梁としたH鋼上で荷重が移動する場合の撮影実験を通じて,無次元たわみ影響線の差異に基づき構造異常が可視化できることを検証する。
本論文では,Fig.1で示すように梁形状を持つ構造物上で荷重が移動している様子をカメラで撮影し,荷重位置と梁構造のたわみ変位の関係を示すたわみ影響線に基づくアクティブストラクチャセンシングを考える。
Concept of Active Structure Sensing Using Deflection Influence Lines. (Online version in color.)
梁の長手方向をx軸,短手方向をy軸とし,荷重はx方向で左右動作する。撮影画像からは,時刻tにおいて荷重位置のx座標wx(t),画像内に設定された計測点i(=1,…,N)での y方向のたわみ変位y(t;xi)を計測する。xiは計測点iのx座標を指す。荷重がx=Xの位置をK(X)回通過し,その通過時刻がtik(X) (k=1,…,K(X))のとき,x=Xに荷重がある場合の計測点iの平均たわみ変位は次のようになる。
(1) |
荷重の移動速度が十分小さく,共振等に伴う振動が無視できる準静的な移動の場合,荷重移動に対する計測点iにおけるたわみ影響線は式(1)で表すことができる。
式(1)で表されるたわみ影響線は,荷重位置と計測点でのたわみ変位が同時計測できれば,荷重の移動速度によらず同一の値となる,速度不変な構造特徴量といえる。一方で荷重の重量が異なる場合,一般にたわみ変位は重量に比例して大きくなり,特に重量が未知な荷重移動では,式(1)のたわみ影響線のみで構造物の構造変化を捉えることが難しい。本論文では,荷重の速度・重量にも依存しない構造特徴量として,最大たわみ変位量で正規化したたわみ影響線を計算した上で,荷重の速度や重量が未知な場合でもたわみ影響線を定量的に比較可能とする差動たわみ影響線により,構造物の構造特徴の変化を定量的に捉えるアクティブストラクチャセンシングの考えを導入する。
本論文では,最大たわみ変位
(2) |
(3) |
なお
荷重の速度や重量に対し不変な無次元たわみ影響線が計測できれば,稼働状況に大きな影響を受けずに,様々な車両が異なる速度で通行する橋梁や異なる重量の荷物を運搬するクレーン等の構造物に対して,点検の障害要因となる経済的ロスを伴う稼働停止を行わずに,構造特徴であるたわみ影響線の微小な差異を捉え,構造異常を顕在化させることが可能となる。構造物全体を1台のカメラで撮影できれば,多数の計測点でのたわみ変位と移動荷重位置の同時計測により,全ての計測点で式(1)のたわみ影響線を計測できる一方で,4Kといった高解像度カメラでも数m~数十m長の梁構造におけるサブmmオーダーのたわみ変位分布計測には不十分な可能性がある。そこで本論文の以降では,移動する荷重も含めて構造物全体を捉えるカメラとある特定の計測点付近を拡大するズームカメラを同時撮影し,特定の計測点でのたわみ影響線を精度高く計測することを考える。
両端を固定した梁構造とした3 m長のH鋼を検証に用いる構造物モデルとし,H鋼上で荷重が移動する様子を複数カメラで撮影した。撮影画像から荷重位置と指定された計測点でのたわみ変位を同時に検出し,荷重の重量・速度に対し不変な構造特徴となる無次元たわみ影響線を計測するとともに,差動たわみ影響線による構造異常の可視化を通して,提案するアクティブストラクチャセンシングの有効性を検証する。実験環境の概要をFig.2,外観をFig.3に示す。
Outline of Experimental Setting. (Online version in color.)
Overview of Experimental Setting. (Online version in color.)
計測した3 m長のH鋼をFig.4に示す。アルミニウム合金板(A6063)から構成され,ウェブ厚さ3 mm,フランジ厚さ4 mmであり,幅・高さがいずれも5 cm,断面積526 mm2の断面形状を持つ。なおH鋼表面にはランダムパタンを塗布し,H鋼はゴムシートを挟んだ形で両端をクランプにより固定した。荷重には,裏面にテフロンシートを貼った100×36×10 mmのステンレス土台を用い,H鋼上に設置した金属レーン間を,H鋼左端側に設置した速度調整可能なモータ(US560-001C,オリエンタルモータ)により,釣り糸で引っ張り右端から左端へ移動させた。荷重の重量はステンレス土台上に分銅を乗せることで変更可能とし,カメラから荷重位置が特定できるようにチェスパタンが印刷された箱と一緒に動かすものとした。移動荷重も含めてH鋼全体を撮影するカメラ(カメラ1),特定の計測点付近を拡大撮影するカメラ(カメラ2)には,いずれも最大4096×2160画素の8ビット白黒濃淡画像を非圧縮で撮影・記録可能とするImaging Source社のDMK38UX255(画素ピッチ3.45×3.45 µm)を用いた。6.5 m離れた場所に設置したカメラ1では,3 m長のH鋼全体が視野に収まる形で4096×444画像を100 fpsで撮影し,H鋼付近で0.91 mm/画素であった。H鋼右端から1 mの計測点を拡大撮影するカメラ2は,H鋼から82 cmの位置に設置され,計測点付近の幅12 cmの範囲を1024×448画像を100 fpsで撮影し,計測点付近で0.11画素であった。いずれの実験も,太陽光や室内照明の影響を避けるために夜間に撮影を行った。
3-m-Length H-Section Metal Beam. (Online version in color.)
荷重位置は,H鋼全体を100 fps撮影した4096×444画像を用いて,チェスパタンが印刷された荷重について,フレーム毎にテンプレートマッチング追跡を適用することで計算した。右端から1 mの計測点におけるたわみ変位は,計測点周辺を100 fpsで拡大撮影した1024×448画像に対し,サブピクセル精度で変位を計測可能とするデジタル画像相関ソフトウェアZEISS INSPECT Correlateを用いて計測した。本論文ではDIC計測において1/10画素での計測精度があるとして,たわみ変位が0.01 mm単位の精度で計測されるものとした。
荷重重量を550 gに設定して,右端から左端方向に荷重を3.7 cm/sで等速に動かした場合,右端付近を通過した時刻をt=0 sとして,t=0, 40, 60, 85 sにおけるカメラ1の画像をFig.5, カメラ2の画像をFig.6に示す。Fig.5では検出された荷重位置,Fig.6ではデジタル画像相関によるサブピクセル変位計算の結果を合わせて表示した。荷重が右端から左端までの移動を含む100 s間について,荷重位置および右端から1 m位置の計測点でのたわみ変位を実スケールで表示したグラフをFig.7に示す。なお荷重位置は右端を原点としてx軸方向を右端→左端の向き,たわみ変位は荷重が右端通過前のたわみ変位を基準にy軸方向を鉛直下向きとしている。
Input Images of Camera 1 with a Moving Load. (Online version in color.)
Input Images of Camera 2 with DIC Displacements. (Online version in color.)
Load Position and Displacement when a 550-g-Weight Load Moves at 3.7 cm/s. (Online version in color.)
荷重がt=7 s前後で左端,t=86 s前後で右端を通過することに対応して,右端から1 mにある計測点でのたわみ変位は,荷重がH鋼中心に近づくと大きくなり,荷重がx=1400 mm地点を通過するt=47 s付近で最大値0.14 mmをとった後,荷重が左端に近づくと小さくなることがわかり,数十µmオーダー精度でのたわみ変位計測が実現されている。なおたわみ変位計測では,荷重移動に伴う23 Hz前後を中心としたµmオーダー振幅の振動や,荷重の右端通過後の変位が左端通過前に比べ10 µm程度大きいことを確認した。前者はH鋼が持つ構造共振や荷重を牽引する釣り糸での振動の発生,後者は荷重移動に伴うH鋼の支持台座のずれや防振用ゴムシート変形等の影響が考えられる。以降では,これらの振動成分やオフセット変位の影響を低減するために,荷重の移動速度は十分小さいとして,(1)たわみ変位から周波数fc以下の低周波数成分を抽出し,(2)右端通過前と左端通過後のたわみ変位がいずれも0となるように線形補正を行った上で,無次元たわみ影響線を計算するものとした。
3・2 異なる重量/速度の移動荷重に対する無次元たわみ影響線移動する荷重の重量や速度が異なる場合について,右端から1 mにある計測点でのたわみ変位計測を行い,無次元たわみ影響線を比較する。最初に,重量550 g,700 g,4.3 kgの荷重をほぼ同一の速度(3.7 cm/s付近)でH鋼上を移動させる実験を行った。荷重が右端から左端までの移動を含む100 s間について,右端から1 mの計測点でのたわみ変位を実スケールで表示したグラフをFig.8に示す。なお550 gの計測結果はFig.7で示したものと同じ値である。右端から1 mにある計測点でのたわみ変位は,いずれの重量の場合でも,荷重がH鋼中心に近づくと大きくなり,荷重がx=1400 mm地点付近を通過する時刻付近で最大値をとり,荷重が左端に近づくと小さくなった。たわみ変位の大きさは重量に比例して大きくなり,たわみ変位の最大値は重量550 gで0.14 mm,重量700 gで0.18 mm,重量4.3 kgでは1.10 mmとなった。
Displacements when Loads of Different Weights Move. (Online version in color.)
重量550 gの場合と同様に,重量700 g,4.3 kgの荷重が移動する場合でも,荷重移動に伴う構造振動やオフセット変位の影響が確認されたため,前述したようにfc=0.5 Hz以下の低周波数成分を抽出し,両端位置のオフセット補正を行ったたわみ変位情報に基づき,無次元たわみ影響線を計算した。重量550 g,700 g,4.3 kgの荷重移動に対する無次元たわみ影響線のグラフをFig.9に示す。対象とする構造物が線形と仮定できる場合,マクスウェル・ベティの相反作用の定理から,荷重位置に相当する入力点と計測点に相当する出力点を入れ替えた,x=xiに荷重がある場合のたわみ変位分布Y*(xi; X)とx=xiに計測点がある場合のたわみ影響線Y(X; xi)が一致することが知られている。Fig.9の無次元たわみ影響線の形状は,H鋼中心からみて右端側のx=1000 mmに荷重がある場合のたわみ変位に対応した形で,3 m長のH鋼上でx=1400 mm付近に荷重がある場合にたわみ変位が最大となる,やや非対称な形状の無次元たわみ影響線となり,無次元化により,いずれの重量でも類似したたわみ影響線の形状を持つことが確認できた。
Non-Dimension Deflection Influence Lines when Loads of Different Weights Move. (Online version in color.)
次に重量550 gの荷重を異なる速度でH鋼上を移動させる実験を行った。荷重速度を3.7 cm/s,8.6 cm/sの場合,荷重が右端周辺を通過後の100 s間について,右端から1 mの計測点でのたわみ変位を実スケールで表示したグラフをFig.10に示す。速度3.7 cm/sの計測結果は荷重がt=7 s前後で左端,t=86 s前後で右端を通過する,Fig.7で示したものと同じである。速度8.6 cm/sでは,t=5 s前後で左端,t=38 s前後で右端を通過した。右端から1 mにある計測点でのたわみ変位は,速度の違いにより時間スケールの違いはあるものの,いずれの速度の場合も,荷重がH鋼中心に近づくと大きくなり,荷重がx=1400 mm地点付近を通過する際に最大値をとり,荷重が左端に近づくと小さくなり,たわみ変位の最大値は速度3.7 cm/sで0.14 mm,速度8.6 cm/sで0.14 mmとほぼ同じ値となった。fc=0.5 Hz以下の低周波数成分を抽出し,両端位置のオフセット補正を行ったたわみ変位情報に基づき計算した無次元たわみ影響線のグラフをFig.11に示す。Fig.11の無次元たわみ影響線の形状は,3 m長のH鋼のやや右端側となるx=1400 mm付近にピークがある,Fig.9の無次元たわみ影響線の形状とほぼ同一のものとなり,無次元化により,異なる速度でも類似したたわみ影響線の形状を持つことが確認できた。
Displacements when Loads Move at Different Speeds. (Online version in color.)
Non-Dimension Deflection Influence Lines when Loads Move at Different Speeds. (Online version in color.)
3 m長のH鋼に意図的に加工して構造異常を付加した上で,構造異常の有無による無次元たわみ影響線の違いを可視化する実験を行った。構造異常として,右端から2 mの位置にFig.12左のようにフランジ部分に両側からウェブ根元まで幅2 mmの切り込みで切断したものを考え,Fig.12右のように切断後に,アルミニウム合金(A5052)製の60×50×4 mmの金属補強板も装着可能なものとした。前述した実験と同じ素材・形状を持つ3 m長のH鋼について,異常なし(カット無),異常あり(カット有),異常あり+補強(カット有+補強板)の3パターンを用意し,それぞれについて重量4.3 kgの荷重を速度3.7 cm/s前後で右端から左端方向に移動させた場合,荷重が右端周辺を通過後の100 s間について,右端から1 mの計測点でのたわみ変位を実スケールで表示したグラフをFig.13に示す。異常なしの計測結果は,Fig.7の重量4.3 kgの荷重に対する結果と同じものである。荷重重量が4.3 kgと大きく移動速度がやや不安定となったことに起因し,右端から左端までの到達時間がややばらつきがあったものの,いずれのパターンでも,右端から1 mにある計測点でのたわみ変位は,荷重がH鋼中心に近づくと大きくなり,荷重がx=1400 mm地点付近を通過する際に最大値をとり,荷重が左端に近づくと小さくなった。たわみ変位の最大値は,異常なしで1.10 mm,異常ありで1.13 mm,異常あり+補強で1.12 mmとなり,異常なしの場合に比べ,異常ありの場合にたわみ変位がやや大きくなることを確認した。
Cut and Reinforcement Plate on H-Section Metal Beam. (Online version in color.)
Displacements of H-Section Meatal Beam with Cut/Reinforcement Metal Plate. (Online version in color.)
Fig.14に,fc=0.5 Hz以下の低周波数成分を抽出し,両端位置のオフセット補正を行ったたわみ変位情報に基づき計算した無次元たわみ影響線のグラフを示す。いずれの場合も,3 m長のH鋼のやや右端側となるx=1400 mm付近にピークがある,Fig.9の無次元たわみ影響線の形状と類似した形状となり,移動速度のずれに依存することなく,構造異常の有無に伴う形状の差異が比較可能である。右端から2 mにあるカット位置付近で,異常の有無による無次元たわみ影響線に差があり,荷重位置がx=2000 mmでの無次元化したたわみ変位は,異常なし0.7832,異常あり0.7939,異常あり+補強板0. 7860となった。異常なしの場合と比べ,異常ありは0.0107(1.4%),異常あり+補強板は0.0028(0.4%)とわずかに大きくなり,補強板の装着によりたわみ変位が低減されたことを確認した。
Non-Dimension Deflection Influence Lines of H-Section Meatal Beam with Cut/Reinforcement Metal Plate. (Online version in color.)
無次元たわみ影響線の微小な違いを顕在化するために,Fig.15に差動たわみ影響線を計算したグラフを示す。異常なし(カット無)の3 m長のH鋼に対し,Fig.13とは別のタイミングで重量4.3 kgの荷重が3.6 cm/sで移動する様子の撮影画像から計測した無次元たわみ影響線をリファレンスとして,異常なし,異常あり,異常あり+補強での無次元たわみ影響線との差分となる差動たわみ影響線を計算した。異常なしに対する差動たわみ影響線は,無次元化した変位差が−0.0043~0.0034の範囲となり,差動たわみ影響線での変位差の平均値は0.0002となった。異常ありに対する差動たわみ影響線では,無次元変位差が−0.0072~0.0128の範囲となり,平均値が0.0014であった。異常あり+補強板に対する差動たわみ影響線では,無次元変位差が−0.0065~0.0073の範囲となり,平均値が−0.0005であった。Fig.15では,異常ありの差動たわみ影響線が,x=1400~2600 mm付近に山状の形状を持ち,カット位置となる x=2000 mm付近を中心に無次元変位差が大きくなり,補強板を装着した場合はこの傾向が抑えられたことがわかる。なお,いずれの場合も,荷重移動に伴う振動の影響が確認され,x=0~1000 mmではその影響が大きく見られた。これは,無次元たわみ影響線の計算において,fc=0.5 Hz以下の低周波数成分に単純なフィルタリングのみでは,荷重を移動させる釣り糸自体の振動やH鋼の共振等の影響を完全除去できていないことに起因する。これらの振動成分の影響はあるものの,Fig.15で示す差動たわみ影響線のグラフでは,異常構造の位置や補強の有無に対応した形で,たわみ影響線の差異が空間的に顕在化され,カメラによる荷重位置とたわみ変位の同時計測により,荷重移動を積極的に利用した構造特徴である無次元たわみ影響線の変化が定量的に確認された。
Differential Deflection Influence Lines of H-Section Meatal Beam. (Online version in color.)
本論文では,カメラを用いて移動する荷重とたわみ変位の同時計測に基づき,荷重の重量や速度の違いに影響されない無次元たわみ影響線に着目したアクティブストラクチャセンシング法を提案した。両端固定された3 m長のH鋼上での荷重移動実験を通して,無次元たわみ影響線が荷重の重量や速度の違いに影響されない構造特徴である,無次元たわみ影響線を比較することにより,構造異常により発生した無次元たわみ影響線での微小な変化を,異常構造の位置に対応した形で定量的に可視化できることを確認した。
今後は,荷重移動に伴う動的振動と準静的たわみ変位を高精度に波形分離する信号処理を導入し,荷重移動に伴う構造振動の影響を抑えた形で,構造物上の任意の計測点で無次元たわみ影響線を計算可能とするアルゴリズム改良を行うとともに,数十m長の梁構造を持ち,未知の重量・速度の荷重が移動する実稼働中のクレーンや橋梁に対してアクティブストラクチャセンシングを適用していく。最終的には,長時間モニタリングにより取得した統計的な無次元たわみ影響線データと荷重移動を含む構造シミュレーションをサイバー・フィジカル連携させた,梁形状を持つインフラ構造物の構造異常や劣化位置・度合を検知・予測可能とする構造物デジタルツイン環境の構築を目指していく。