鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
巻頭言
特集「鉄鋼業における攻めの操業を支えるシステムレジリエンス」によせて
藤井 信忠 榊原 一紀
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 110 巻 14 号 p. 1033

詳細

本特集は,2020年3月から2023年2月までの3年間,日本鉄鋼協会に設置された「攻めの操業を支えるシステムレジリエンス研究会」の研究成果をまとめたものである。本研究会は,計測・制御・システム工学部会のシステムフォーラムを母体として設立された。

研究会設置の経緯として,鉄鋼業をはじめとする設備産業の事業環境が厳しくなる中,多品種混流生産,短納期対応,コスト最小化要求,世代交代など,安定操業を妨げるリスクは増大している。トラブルや生産遅延などの変動要因が発生しても,その影響を最小化し安定操業を維持できるような生産管理や操業技術が求められている。リスク回避のために生産計画や設備能力に余裕を確保することは有効な対策であるが,競争力の観点からは余裕最小化も重要な課題となる。 そこで,リスクを許容しながら厳しい条件下での生産,すなわち「攻めの操業」の実現,さらには,リスク対応過程での知見を操業技術向上に活用することも,中長期的な安定操業の観点から重要となる。

鉄鋼製造プロセスは工場内外を含めた複雑なサプライチェーンを構成している。そのような複雑系では,各々の構成要素(生産工程や調達,輸送機能など)は相互に関連し,ある要素の局所的な変動であっても,サプライチェーンの中で,その影響が伝播,増幅され全体システムの破綻にいたるといった「安定逸脱リスク」が存在する(例:輸送負荷増大や置場溢れ,搬送遅れなどによる工場内物流の破綻や生産停止,製鋼-圧延における工程間連携乱れによる生産停止など)。生産の複雑度や余裕最小化の要求が増大する中,このような破綻リスクも増大する傾向にある。

他方,近年安全工学の分野では,変動影響の伝播および増幅を極力限定化し,システム全体の動作を維持するための「レジリエンス」が注目されている。本研究会では,そのようなレジリエンスの考え方をシステム工学的立場から整理し,生産・物流管理に導入することで,変動への耐性最大化と余裕最小化を両立する「攻めの操業」を支えるとともに,リスク対応経験を将来の操業に活用するための方法論・技術を研究した。

本研究会にはシステム技術を専門とする大学の研究者11名と鉄鋼会社の研究者・技術者5名の計16名が参画し,4つのグループ,「システムレジリエンス理論検討グループ」,「システム中心グループ」,「人間中心グループ」および「シミュレータ/実用化検討グループ」に分かれ研究が進められた。研究会活動を通じて,エージェント・シミュレーション技法に基づく「製鋼所内物流まるごとシミュレータ」が開発されるなど,さらなる研究に向けた基盤技術が創出された。

本特集では,当研究会の成果が4つの学術論文としてまとめられている。それぞれ対象プロセスや環境条件の異なる安定逸脱リスクが議論され,その数理モデル化や分析が示されている。

今後は後継となる研究会として,システムフォーラムを母体に「エネルギーチェーンのシステミック最適化研究会(主査:諏訪 晴彦(摂南大学))」が2024年4月に設置・始動した。本研究会の成果を踏まえ,有効エネルギー(エクセルギー)の観点を加えながら,研究を発展していく予定である。

 
© 2024 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top