鉄と鋼
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論文
圧延における板材のロールバイトへの入射角が反り挙動に及ぼす影響
河西 大輔 石井 篤宇都宮 裕
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2024 年 110 巻 14 号 p. 1100-1110

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Abstract

Rolling experiments were conducted to investigate strip warpage behavior after rolling where the strip was inclined before a roll-bite with the roller guide. Direction of the strip warpage was explained by the shape factor Γ (contact arc length / mean thickness). The relationship between inlet inclination and outlet warpage of the strip was divided into four typical categories, by the shape factor Γ; 1) Γ < 1.0; a positive relation, 2) 1.0 < Γ < 1.9; a negative relation, 3) 1.9 < Γ < 3.1; a positive relation and 4) 3.1 < Γ; a negative relation. In other words, the sign of the warpage changes at three times with increasing the shape factor Γ. These experimental results were predicted by the two-dimensional rigid plastic steady-state finite element analyses. The analyses numerically showed that shear bands are initiated at the entrance of the roll-bite with the shear stress field, and that the intensity and configuration of the shear bands determine strip warpage behavior.

1. 緒言

板圧延プロセスでは,被圧延材が圧延機出側で上下に湾曲する反り現象が発生することがある。過大な反りが起こると,被圧延材と圧延設備が接触し設備に深刻な損傷を与える場合があり,予定外の操業ライン停止を生じると,生産に多大な損害をもたらす。

この板圧延における反り現象は,圧延に影響する因子が上下で異なるために発生することがこれまでに報告されている。Kennedy and Slamar1)やTanakaら2)は,上下ロールの径が異なる圧延における反り挙動を評価した。Johnson and Needhamは,異径圧延における反り挙動3)や上下で異なるロール表面粗さが反り挙動に与える影響4)について報告している。Buxton and Browningは油粘土の一種であるプラスティシンを用いて,上下の異周速率や上下ロールのうち一本のロールを非駆動とした片側駆動圧延における反り挙動について網羅的に調査を行った5)。Nakajimaらはプラスティシンに加えて鉛も用い,異周速圧延における反り挙動を示した6)。近年では, Utsunomiyaらがスケール厚さの上下差による反り挙動7)を報告している。

上記の実験的取り組みと並行して,反り挙動を再現するための数値解析も,これまでに様々な取り組みがなされている。先駆的な研究では,Zorowski and Shutt8)やHolbrook and Zorowski9)はOrowanの均一変形理論10)の拡張による片側ロール駆動圧延の解析を試みた。非対称圧延における反り挙動を数式モデル化する取り組みは近年でもいくつかの報告事例がある11,12,13,14)。Collinsらは,すべり線場法を用いて,異周速圧延においては,高速ロール側の方向に反りが発生する場合があること,圧下率により反り方向が反転することを説明している15,16)。Hwangらは流れ関数を用いてクラッド材圧延解析を行い,反り曲率の定量的な予測が可能であると報告している17)

1980年代以降は有限要素解析を用いた研究が主流となり,剛塑性有限要素法を用いて,Yamadaら18)やShivpuriら19)は異周速圧延における反り挙動を,Hamauzuら20)は被圧延材の変形抵抗および摩擦係数の上下差の影響について調査している。Oheらは厚板圧延に対して被圧延材の非対称温度分布に起因した相変態の進展度および累積ひずみの影響度を考慮した板厚方向の変形抵抗分布を算出し,反り挙動を解析した21)。一方,弾塑性有限要素法についてはRechelsen22)やNilsson23)はロールを剛体とした条件での反り挙動の解析を,Leeら24)やKijima25)はロールも弾性体とした評価を行っている。

実験ならびに解析的研究の結果,板圧延における反りの方向と曲率については,ロールと被圧延材との投影接触弧長ldとロールバイト(RB)内の平均板厚hmとの比で定義される圧延形状比Γを介して整理できることが知られている18,20)。ここで, 圧延形状比Γ式(1)で,投影接触弧長ld 式(2)で,平均板厚hm式(3)でそれぞれ与えられる。Rはワークロール(WR)半径,R' はへん平WR半径,Hhはそれぞれ入側板厚,出側板厚である。へん平WR半径R'の算出は本研究ではHitchcockのへん平ロール式(4)26)を用いる。ここで,Δhは入側板厚Hと出側板厚hとの差,Pは単位幅あたりの圧延荷重,EνはそれぞれWRのヤング率およびポアソン比である。

  
Γ=ld/hm(1)
  
ld=R(Hh)(2)
  
hm=(H+2h)/3(3)
  
R=(1+C0P/Δh)R,C0=16(1ν2)/(πE)(4)

Yamadaら18),Yoshiiら27),Pawelski28),Knightら29)はそれぞれ,種々の上下非対称圧延条件における有限要素解析を行い,圧延形状比Γに応じて反りの曲率が変化すること,特に上下WR異周速条件においては,圧延形状比Γが約1.5未満の条件では低速側のWRの方向に反りが発生するが,圧延形状比Γが約1.5を超えると反りの方向が反転し,高速側のWRの方向に反りが発生することを述べている。Yoshiiらは実験でも圧延形状比Γによる反りの反転を確認している27)

前報30)では,異周速圧延法の一つである片側駆動圧延条件における板材の反り挙動について,圧延実験および剛塑性有限要素解析を行い,圧延変形はロールバイト(RB)入口およびRB内でせん断変形集中帯(せん断帯)をともない,このせん断帯におけるひずみの集中度と形態によって反りの方向および曲率が決まることを明らかにした。RB内のひずみ分布や応力分布の形態と反り挙動との関連については,前報の他にも報告事例があるが28,31,32),それらは応力・ひずみの分布と反りの特徴とを整理するに留まる。前報30)では,せん断帯は圧延方向に対しおおよそ45°方向に伝播するため,多くの報告で提唱されてきた反り曲率と圧延形状比Γとの関係について,理論的な説明を与えた。圧延形状比Γの増加に伴い,RB入口を起点とするせん断帯が反対側の接触界面で折り返しRB出口へ伝播することが,反り方向の反転をもたらす。このせん断帯に基づく反り発生機構は他の上下非対称外乱条件,例えば,RB入側で被圧延材に付与された傾斜角や,上下WR径差が存在する条件下でも,成立すると考えられる。

RB入側での被圧延材に,圧延方向に対する上下方向の傾斜角,すなわち入射角が付与された条件下における反り挙動については工業的にも重要であり,これまでにも実験的に調査した報告があるが1,2,5,33),その発生メカニズムについて,明確に述べられたものはない。Kiuchi and Hsiangは上界法による解析を行い,反り挙動に与える被圧延材の圧延機入側の入射角の影響が大きいことを指摘し,これを解析上で考慮することで実験結果を説明可能であると述べているが34),その機構についての言及はなされていない。

幾何学的な上下非対称性の存在する圧延条件においては,WRと被圧延材との投影接触弧長が上下で異なるため,RB入口およびRB内のせん断帯およびせん断応力場の形態は前報で報告した片側駆動圧延のような幾何学的上下対称条件とは異なったものであると想定される。そこで本報では,広範な圧延条件下で圧延実験および剛塑性有限要素解析を行い,幾何学的に上下非対称な因子として,被圧延材に圧延機の入側で入射角を付与した状況下において発生する反り挙動を対象とした調査および解析を行い,前報において展開したRB内のせん断帯の形態を切り口とし,その発生機構を力学的に明らかとする。被圧延材への入射角の付与は操業への適用も可能であると判断し,今回の検討で上下非対称因子として採用した。

2. モデル圧延実験

2・1 実験方法

RB入側での被圧延材に入射角θを付与した状況下での圧延における反り挙動の特性を調査するため,Table 1に示す条件で圧延実験を実施した。被圧延材としてアルミニウム板(A1050-H24)を用い,無潤滑条件で圧下率が2%から40%までの8条件を設定した。

Table 1. Experimental conditions for the model rolling experiment.

Rolled materialAluminum (A1050-H24)
Material dimensions [mm]3.0t×50w×1250L
Roll diameters [mm]Work roll: 80
Backup roll: 160
Reduction in thickness [%]2, 5, 7, 10, 15, 20, 30, 40
Inclination angle [deg.]±8
Distances between the mill center and two guide rollers [mm](a) 350
(b) 850
Diameters of guide rollers [mm]20
Rotation speed of WR [rpm]4.0
LubricationDry

Fig.1に圧延実験の概略図を示す。圧延機入側に設置したローラーガイドで被圧延材を挟むことで拘束し,このローラーガイドを水平面に対し傾斜させることで被圧延材に入射角θを付与した。斜め上方から上下WR間に向かう入射角を正,斜め下方から上下WR間に向かう入射角を負と定義し,入射角θ=+8°,−8°の2条件で被圧延材をRBに噛み込ませた。±8°の入射角条件は,実操業におけるパスラインのずれや被圧延材の噛み込み前の先端形状より付与される入射角を想定し,設定されたものである。被圧延材の板先端の噛み込みは被圧延材の尾端部を上下WR間に向かって押し込むことで実施しており,押込み力を低減する目的で,入射角θ=+8°の条件では被圧延材の上面が上WRに,θ=−8°の条件では被圧延材の下面が下WRに接するようにローラーガイドの高さを調整している。ローラーガイドでは,ロールギャップの中心から板の進行方向にそれぞれ(a)350 mm,(b)850 mm離れた長手方向2か所に設置された上下無駆動ローラーで被圧延材を挟むことで,入射角θを保持する。この無駆動ローラーと被圧延材は上下とも接触しており,クリアランスのない状態とした。すなわち,被圧延材の厚みは変化しない。また,ローラーガイドの支持機構にはロードセルを装備し,前後2か所の上下ガイドローラー位置で被圧延材から作用する鉛直方向の力を独立に測定した。圧延は被圧延材先端の噛み込みからおよそ6.0 s経過した後にミルモータの駆動を停止し,噛み止めた。

Fig. 1.

Schematic view of the rolling experiment.

圧延後の被圧延材の反り形状の一例をFig.2に示す。本実験における反り曲率は,圧延後の被圧延材の反り形状を,円弧近似した曲率半径ρの逆数である。反り曲率はWR半径の曲率1/Rで規格化した値,すなわちWR半径Rを反り曲率半径ρで除した値で示し,上側に反った場合の符号を正,下側に反った場合の符号を負で定義する。本実験では圧延後の被圧延材について,圧延トルクの時系列計測値から,噛込直後にWR回転速度が低下する現象,すなわちインパクトドロップ現象が影響していると考えられる被圧延材先端から5 mm部分を除き,また自重の影響を排除するため,以降の被圧延長さ20 mm部分を対象とし,円弧近似した。

Fig. 2.

Approximated radius of Warped strip shape. (Online version in color.)

2・2 実験結果

Fig.3に,本実験結果における圧延形状比Γと反り曲率との関係を示す。ここで圧延形状比Γは実測した入出側板厚,板幅,圧延荷重から式(1)(2)(3)(4)を用いて算出した。WRのヤング率は206 GPa,ポアソン比は0.3とした。

Fig. 3.

Strip curvature change with the shape factor.

Fig.3より, 同じ圧延形状比Γの条件で比較すると入射角θ=+8°の条件とθ=−8°の条件とで反り曲率は上下にほぼ線対称であり,今回の圧延条件の範囲において,自重の影響等,入射角θ以外の上下非対称外乱の影響は小さいことが確認された。圧下率rが5%以下の条件,すなわち圧延形状比Γが1.0未満の条件では被圧延材は圧延機出側で入側ローラーガイドの傾斜方向と同じ方向に,すなわち,入射角θ=+8°の条件では上側に,θ=−8°の条件では下側に反ることが確認できた。一方,圧下率rが7%~20%の条件,すなわち圧延形状比Γが1.0から1.9の条件になると反り方向が反転し,被圧延材は入側ローラーガイドの傾斜方向とは逆方向へと反った。圧下率rが30%の条件,すなわち圧延形状比Γが2.5の条件では再度反り方向が反転し,圧延形状比Γが1.0未満の条件と同様に,入側ローラーガイドの傾斜方向と同じ方向に反り,さらに圧下率rが40%の条件,すなわち圧延形状比Γが3.1の条件では再度反り方向が反転し,被圧延材は入側ローラーガイドの傾斜方向とは逆方向へと反ることが確認できた。

反りの方向が圧延形状比Γの増加に伴い反転する傾向は,片側駆動圧延を行った前報30)や異周速圧延における反り挙動評価事例17,27,28,29)でも報告されており,被圧延材に入射角θを付与した本実験でも類似の挙動が観察された。

3. 剛塑性有限要素法非対称圧延解析による実験結果の考察

前章では, RB入側の被圧延材に入射角を付与した板圧延における反り挙動の実験結果について述べた。本章では,剛塑性有限要素解析によってRB内の応力・ひずみ状態を明らかにし,反り現象のメカニズムについて考察を行う。

3・1 解析条件

計算は前報30)と同様にYamadaらが報告している剛塑性FEMコード35)を用い,Table 2に示す条件で二次元平面ひずみ定常圧延解析を行った。WRは剛体とし,WR半径は40 mmで固定した。なお実験結果から式(4)で算出されたへん平ロール半径は41.4~46.2 mmの範囲であり,圧延変形への影響は限定的と考えられる。解析領域の入口断面には自由度1(ローラーガイド上の移動成分)の剛体接続境界条件がロールギャップの中心から350 mmの位置(Fig.1の距離(a)の位置)に課されており,入側ローラーガイドの拘束,すなわち被圧延材から作用するせん断力とモーメントの支持を模擬している。解析領域の出口断面(ロールギャップ中心から約10 mm位置)には3自由度(二次元並進成分と剛体回転成分)が許されており,せん断力およびモーメントの双方が解放される。ここで,板厚方向の要素分割数は60,圧延方向の要素分割数は圧延条件によって最適化した結果に基づきRB内で70~150,RB入側で30,出側で15である。降伏応力式は引張試験で測定した応力-ひずみ曲線からべき乗近似した。実験に用いたWRおよび被圧延材は前報30)と同じ仕様であり,被圧延材とWR間のクーロン摩擦係数も同じ0.2を仮定した。なお実験と同様に,解析においても被圧延材の下面が下WRに接するように圧下率毎に圧延機入側の被圧延材と上下WRとの鉛直方向の位置関係を変更している。

Table 2. Analysis conditions.

Material thickness [mm]3.0
Roll diameter [mm]Work roll: 80
Reduction in thickness [%]
(Shape factor [-])
2, 5, 7, 10, 15, 20, 30, 40
(0.5. 0.8, 1.0, 1.2, 1.6, 1.9, 2.5, 3.1)
Inclination angle [deg.]−8
Distance between mill the center and entry section of analytical region [mm]350
Rotation speed of WR [rpm]4.0
Yield stress [MPa]158.9 ε 0.063
(ε: Equivalent strain)
Friction coefficient0.2

3・2 実験結果と解析結果との比較

前章の実験で得られた入射角θ=−8°の条件での規格化反り曲率と,剛塑性有限要素解析結果との比較をFig.4に示す。解析結果の圧延形状比Γについては,へん平ロール半径ではなく解析に用いた剛体WR半径を用い,Table 1中の被圧延材寸法,圧下率条件から計算される圧延前後の板厚と式(1)(2)(3)から算出した。実験で確認した圧延形状比Γの増加とともに反り方向(符号)が三度反転する現象が解析結果でも再現され,かつ反転が生じる圧延形状比Γや反り曲率の値も概ね良い一致を示した。前報30)で確認された実験での圧延長さの十分さと解析に用いた摩擦係数の適合度が本解析でも再確認され,加えて,本報の実験で施した押し込み力低減のためのローラーガイドの高さ調整や,解析領域の入口断面の境界条件の設定が適切であったと考えられる。

Fig. 4.

Comparison of curvature between experiments and calculations. (θ = −8°)

圧延トルクについても実験結果と剛塑性FEM解析結果との比較を行った。Fig.5に示すとおり,圧延形状比Γが1.0以上の領域では実験結果と解析結果は概ね良い一致を示しており,圧延形状比Γが3.0に至るまでに上下WRの圧延トルクの大小関係が2度反転する等,反り曲率と同様に特徴的な挙動が観察された。一方,圧延形状比Γが1.0未満の領域では,実験結果と解析結果に乖離が見られ,実験結果では下WRの圧延トルクがほぼ零から圧延形状比Γとともに増加し,上WRではほぼ零に停留したのに対し,解析結果では上WRが負値の圧延トルクからほぼ零まで増大し,下WRでは正値で停留した。ただし,上下WRの合計トルクは実験結果と解析結果でほぼ一致しており,両結果の塑性変形仕事量はほぼ等価と考えられる。実験では,ミルモータ速度制御応答能力の観点から,圧延形状比Γが1.0未満の2条件においては上WRが下WRより2~3%程度高速であったことが確認された。一方,FEM解析は上下WR同周速条件でなされており,実験で2~3%程度高速であった上WRには負の圧延トルクが生じ,この負の圧延トルク分を供給するために実験結果に比べて下WRの圧延トルクが増加したと考えられる。圧延形状比Γが1.0未満の2条件について実験で測定された上WR速度を用いてFEM解析を行い,算出された反り曲率をFig.4に追加したものをFig.6に示す。上下WR同周速条件の解析結果と比較すると,実験結果に近い反り曲率が得られた。ただし,Fig.3で観察された反り曲率と圧延形状比Γの特徴的な関係を大きく変えるものではなく,また,ミルモータ速度制御能力が十分な駆動電動機を用いた実験を行えば上下同周速条件の解析結果に近づくと考えても不合理ではなく,以降の考察では上下WR同周速条件での解析結果を用いる。

Fig. 5.

Comparison of rolling torque between experiments and calculations. (θ = −8°)

Fig. 6.

Comparison of curvature between experiments and calculations. (θ = −8°)

3・3 入射角を付与した圧延現象の考察

3・3・1 上下WRの圧延トルク

ここでは実験および数値解析によって得られた,入射角を付与した圧延の特徴について,先ず,上下WRの圧延トルク特性についての考察を行う。なおこれより,圧延方向をx方向,板厚方向をy方向として記述する。

圧延トルクに直接寄与するのは上下WRと被圧延材との接触境界面に作用する摩擦力である。Fig.5に示した上下WRの圧延トルク特性を特徴づける6段階の圧延形状比Γの条件について,剛塑性FEMで解析した被圧延材の上下面に作用する摩擦せん断応力分布をFig.7に示す。ここで,圧延方向位置xは被圧延材の上下面のうち先に接触領域の下流端に到達した側のRB出口点を原点とし,圧延方向を正方向として表現している。また,Fig.8には同じ圧延形状比Γ条件におけるRB内の上下面での被圧延材の流線方向速度vsl分布を,WRの周速度と共に示す。両図とも,RB入口点を〇,中立点を×,RB出口点を△のプロット点で表示している。RB内の被圧延材上下面速度を示した報告は他にもあり36),WR速度と被圧延材速度変化との相対関係や中立点位置の定量化に有効である。

Fig. 7.

Evolution of friction shear stress at both surfaces. (θ = −8°)

Fig. 8.

Evolution of material velocity along streamlines at both surfaces. (θ = −8°)

圧延形状比Γが0.5(圧下率r=2%)の条件では,上面側の投影接触弧長(接触長)が下面側の半分程度であり,また,中立点は上面側のRB入口点の直後にあるのみで下面側には存在せず,上面側はRB範囲のほぼ全域が先進域,すなわち負の摩擦せん断応力の作用域であるのに対し,下面側は全域が後進域,すなわち正の摩擦せん断応力の作用域となっており,解析で得られた上WRの負の圧延トルク,下WRの正の圧延トルクと符合する。上下面ともに全域で一方向すべり領域であることを考えれば,上下のWRの圧延トルクの絶対値がほぼ等価になることも理解できる。

圧延形状比Γが0.8(r=5%)になると上下面の接触長が共に拡大し,上面ではRB入口点から中立点が離れて後進域が拡大するのに対し,下面ではRB出口点近傍に中立点が現れ,後進域とほぼ同じ長さの先進域が生じている。これは圧延形状比Γが0.5の条件に比べて上WRの圧延トルクが増大し,下WRの圧延トルクがほぼ一定に留まることと符合する。圧延形状比Γが0.8から1.0(r=7%)になると,上面の中立点位置はほぼ変化せず後進域のみが拡大する一方,下面の接触長はほぼ不変であり,中立点位置のみ上流側に移動することで先進域が拡大しており,上WRの圧延トルクの増加と下WRの圧延トルクの減少が説明される。

さらに圧延形状比Γが1.6(r=15%)になると接触長の上下差はさらに縮まる。中立点は上面のみ上流に移動し,下面での上流への移動は僅かである。これにより上面では後進域の占有率が先進域を僅かに上回り,下面では後進域が拡大することになり,圧延トルクの上昇量は下WRの方が大きい。

圧延形状比Γが2を超え,2.5(r=30%)や3.1(r=40%)になる際は,上下面の接触長の拡大量は上下でほぼ同値であるが,その大半は後進域の拡大に現れている。中立点の移動,すなわち先進域の変化は複雑であり,圧延形状比Γが1.6から2.5への変化に伴い上面の先進域は縮小し,一方で下面は拡大する。さらに圧延形状比が3.1になると,上面は拡大する一方,下面はほぼ変化しない。上WRの圧延トルクは圧延形状比Γが1.6から2.5の間で増大し,2.5から3.1の間は後進域と先進域の拡大量がほぼ等価になるため圧延トルクは変化しない。下面では圧延形状比Γが1.6から2.5の間の後進域と先進域の拡大量がほぼ等価なため下WRの圧延トルクは変化せず,2.5から3.1の間は後進域だけが拡大するため,圧延トルクが増大する。

3・3・2 RB内の塑性変形挙動と入射角を付与した圧延条件下における反り発生機構

前報では片側駆動圧延において,相当塑性ひずみ速度の集中帯はせん断変形の集中した,いわゆるせん断帯であること,このせん断帯は上下のRB入口に始まり,圧延方向に対しておおよそ45゜で主せん断応力の向きに大略一致する方向に進展し,圧延形状比Γが大きい場合には反対側の接触界面で折り返しながらRB出口に到達すること,被圧延材表面の速度変化は斜行するせん断帯が被圧延材表面と交差する位置に集中し,せん断帯の集中度,すなわち相当塑性ひずみ速度に応じて生じること,中立点とRB出口間のせん断帯で生じる速度変化によって被圧延材のRB出口速度が決まり,その上下差によって圧延反りの方向が決定されること,と述べており30),この考察は力学的には他の圧延条件に対しても成立するように考えられる。Fig.9に,Fig.7およびFig.8と同じ圧延形状比Γ条件における相当塑性ひずみ速度分布に,主せん断応力の作用方向を表すベクトル線図(互いに直交する2つの単位方向ベクトルを連結。以下,主せん断応力の作用方向ベクトル線図と呼称)を重ねた図を示す。図中の△▽点はRB入出口点の位置を,上下矢印は中立点位置を表している。上述した片側駆動圧延で得られた知見は入射角を付与した圧延条件下の解析から得られた同図でも観察されており,特にRB出口点直前のせん断帯の集中度の上下差が,圧延形状比Γが0.8と1.0の間,および1.6と2.5の間で反り方向が反転する今回の結果を捉えていることが確認される。

Fig. 9.

Distributions of equivalent strain rate around the roll-bite. (θ = −8°)

一方で前報30)とは異なって,圧延形状比Γが1.0以下の条件では接触長の上下差が大きく,せん断帯の伝播方向は主せん断応力の作用方向と一致するものの,RB入口点近傍ではおおむね板厚方向に向かうことが観察される。Fig.8との比較から,この様な伝播方向の場合にはせん断帯の集中度が高くても被圧延材表面の速度変化が生じ難いことがわかる。また,1.0以上の圧延形状比Γ条件を含めRB入口におけるせん断帯の集中度は常に上面側で高く,このせん断帯の始点での集中度の大小関係が他方のせん断帯との交叉や表面での折り返し後も維持され,RB出口近傍のせん断帯集中度の上下差に影響すると考えられる。Fig.10には,Figs.7, 8, 9と同じ圧延形状比Γ条件におけるせん断応力分布を相当塑性ひずみ速度分布の等高線と重ねて表示した。接触長の上下差が小さい圧延形状比Γが1.6以上の条件では,前報30)の結果と同様に,下面側RB入側の予変形域および上面側RB入口から出側板厚中央にかけて,さらに下面の先進域において正のせん断応力場が,上面側RB入側の予変形域および下面側RB入口から出側板厚中央にかけて,さらに上面の先進域において正のせん断応力場が発生しており,それぞれ予変形域を起点に,同符号のせん断応力場を縫うように板厚を貫通し,また反対面での折り返しを経て伝播するせん断帯が発生している。一方,小さい接触長の上下差が大きい圧延形状比Γが1.0以下の条件では,下側のRB入口点と上側のRB入口点の間に,板厚をほぼ貫通する負のせん断応力場が広く作用しており,これは下WRからの反力によるせん断力が被圧延材に作用したものと考える。この負のせん断応力が圧延形状比Γの小さい条件では当該領域を通過するせん断帯の伝播方向に有意に影響していると考えられる。

Fig. 10.

Distributions of shear stress τxy around the roll-bite. (θ = −8°)

3・3・3 入射角の変化

入射角θを付与した条件下での圧延現象は,特に圧延形状比Γが1.0以下の条件で現れる接触長の上下差と上下のRB入口点に挟まれた板厚を貫通する負のせん断応力場,および圧延形状比Γが1.0以上の条件も含むRB入口近傍でのせん断帯集中度の上下差で特徴づけられ,これがせん断帯の伝播方向や集中度に影響し,RB出側での反り方向を決定している。

Fig.11にFEM解析から得られた上下の接触長と圧延形状比Γとの関係を示す。図中には式(3)から得られる接触長も合わせて記載している。全ての条件で下側の接触長の方が長いが,上下差は圧延形状比Γが0.5から0.8までが最も大きく,圧延形状比Γが1.0を超えるとその差は漸近していく。本実験における入射角の付与は,Fig.1に示したように圧延機入側に設置したローラーガイドによるが,仮に入射角θ=−8°の条件で上側のガイドローラーを外して圧延を行うと,圧延開始直後に被圧延材の尾端が上方に回転し,圧延中の被圧延材は水平方向を維持することが想定される。したがって,上側ガイドローラーを設置した本実験の場合には被圧延材には上方への回転を抑える下向きの拘束力が作用したものと考えられる。Fig.12に,入射角θ=−8°の圧延実験で測定された前後2か所のガイドローラーに作用する垂直方向力を示す。正の値はガイドローラーに上方向に作用する被圧延材からの反力であり,逆に被圧延材からするとこの力はガイドローラーから下方向に作用する拘束力となる。Fig.12から,当該拘束力の太宗はRBから350 mmの位置に設置したガイドローラーで発生しており,圧延形状比Γが0.5で最大値を示し,圧延形状比Γの増加に伴い単調に減少する。この結果から,RB入口の上流側近傍の被圧延材の断面に生じるせん断力と曲げモーメントは,被圧延材と下WRのみが接触する範囲で下WRに支持され,Fig.11に示したような圧延形状比Γが小さい条件ほど接触長の上下差が大きくなる,という関係になっていると考えられる。なおFig.12にはFEM解析領域の入口断面に作用する垂直方向力を併記しているが,実験結果と良い一致を示している。実現象ではRB近傍の被圧延材には塑性だけでなく弾性の曲げ変形も生じていると考えられるが,弾性変形を考慮していない剛塑性FEMの結果と実験結果が一致することから,RB近傍の弾性変形はRB入側の被圧延材に関わる力の釣り合いには影響は少ないものと考えられる。すなわち,入側のローラーガイド側は弾性梁の支持と同等と認められるが,WR側では塑性変形している被圧延材を上下WRとの接触域の面圧と摩擦せん断力で支えているため,WR側での支持剛性が実質的に弾性支持よりも低くなっていることが想定される。従い,変位の拘束がWR側では実質的に緩くなり,RB内の塑性加工力との釣り合いで,ローラーガイド力が決まるものと考えられる。

Fig. 11.

Variation of contact arc length with the shape factor. (θ = −8°)

Fig. 12.

Variation of entry-guide forces with the shape factor. (θ = −8°)

Fig.13には,Fig.11に示した被圧延材上下面の接触長を上下WRとの接触角に変換した値を破線で,また,FEM解析の節点座標から求めたRB入口直前の被圧延材表面の傾斜角,具体的にはWRと被圧延材との接触位置の接点とその一つ入側の接点とが成す角を,実線で示す。Fig.12に示した拘束力によって生じた入側での曲げ変形により,被圧延材の進行方向が水平方向に変化し,圧延形状比Γが小さいほどローラーガイドの入射角θ=−8°からの変化が大きく,圧延形状比Γが0.5の条件では下側のRB入口直前の傾斜角は約−3°まで緩和され,下WR表面にほぼ接するようにRBに進入する。上側のRB入口直前の傾斜角は下側に比べてより水平に近く,その差分はWRとの接触角の上下差と概ね等しいことから,下WRとの接触から上WRとの接触までの間の被圧延材は下WRに巻き付いていることが想定される。一方,圧延形状比Γの増加に伴い傾斜角の変化は減少し,接触角がローラーガイド傾斜角の絶対値8゚超える圧延形状比Γが2.5以上の条件以降は,傾斜角の変化は停留する。

Fig. 13.

Variations of various angles around roll-bite entry with the shape factor. (θ = −8°)

RB入側での曲げ変形については,Fig.8で示した被圧延材の上下面速度が,RB入側において差があることからも確認できる。これはRBの上流側での塑性変形領域,いわゆる予変形領域で発生した速度差である。このRB入側における上下速度差は,RB入口点の上下差を介し,RB内のせん断帯の形態およびRB出側の反り挙動に影響すると考える。Fig.14に,RB入口点における被圧延材の上下速度差から算出したRB入側の曲率と,上下RB入口点の圧延方向座標の差を併せて示す。被圧延材はどの条件でも下側に曲がっており,下WRとの接触が先行する。この影響は上下速度差の大きい,圧延形状比Γが小さい条件ほど顕著であり,速度差が大きいほど,下WRへの接触開始位置がより入側に移動する。

Fig. 14.

Variations of curvature at entry and difference in entry points with the shape factor. (θ = −8°)

以上のRB内の塑性変形挙動に関する考察により,入射角θを付与した条件においても,RB入口およびRB内のせん断応力場に従ってせん断帯が発生し,せん断帯の集中度と形態によって反り挙動が決まることが明らかとなった。ただし,入射角θを付与した条件では,特に圧延形状比Γが低い領域において,RB入口点位置の上下差が大きくなり,これがせん断応力場およびせん断帯の形態の決定に寄与する。

4. 結言

圧延機入側で被圧延材に上下方向の進入角,すなわち入射角を付与した条件下での圧延における板材の反り挙動について,広範な条件で圧延実験および剛塑性有限要素解析を行い,以下の結果を得た。

(1)入射角θを付与した条件においても,圧延形状比Γの変化に伴い反りの方向が変化することが実験的に明らかとなった。圧延形状比Γが1.0未満の低い領域では被圧延材の進入方向と反対方向へ反りが発生するが,圧延形状比Γが1.0~1.9の範囲になると反り方向は反転し,進入方向と同方向に反りが発生すること,さらに圧延形状比Γが2.5以上になると再度反り方向が反転し,圧延形状比Γが1.0未満の場合と同様に被圧延材の進入方向と反対方向に反ることが明らかとなった。

(2)二次元定常剛塑性有限要素解析によって,実験で得られた板材の反り挙動を再現することができた。

(3)入射角θを付与した条件においても,前報で報告した片側駆動圧延での考察30)と同様に,RB入口およびRB内に発生するせん断帯の形態と変形の集中度によって,反り挙動は支配される。ただし,入射角θを付与した条件では片側駆動圧延と異なり,特に圧延形状比Γが低い条件では,せん断応力場およびせん断帯の形態はRB入口点位置の上下差に大きな影響を受ける。

利益相反に関する宣言

本研究の遂行に関する開示すべき利益相反関連事項は無いことを宣言する。

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