鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
速報論文
その場中性子回折による複相マルテンサイト組織を有する中Mn鋼の逆変態挙動の解析
松田 恭輔 増村 拓朗土山 聡宏小貫 祐介高梨 美咲前田 拓也川本 雄三白幡 浩幸植森 龍治
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 110 巻 2 号 p. 83-88

詳細
Abstract

The reverse transformation behavior during heating in Fe-10%Mn-0.1%C (mass%) martensitic alloy consisting of α’-martensite, ε-martensite and retained austenite was investigated using the in-situ neutron diffraction. When the temperature was elevated with a heating rate of 10 K/s, the ε→γ reverse transformation occurred first at the temperature range of 535–712 K, where Fe and Mn hardly diffused. In the temperature range where the ε→γ reverse transformation occurred, the full width at half maximum of the 200γ peak increased, indicating that the austenite reversed from ε-martensite contains high-density dislocations. In addition, the transformation temperature hardly depends on the heating rate and the crystal orientation of the reversed austenite was identical to that of the prior austenite (austenite memory), which suggests that the ε→γ reverse transformation would proceed through the displacive mechanism. After completion of the ε→γ transformation, the α’→γ reverse transformation occurred at the temperature range of 842–950 K. When the heating rate is low (<10 K/s), the reverse transformation start temperature significantly depends on the heating rate. It could be because the diffusional reverse transformation accompanying the repartitioning of Mn occurs. On the other hand, a higher heating rate (≥10 K/s) resulted in the disappearance of the heating rate dependence. This was probably due to the change in the transformation mechanism to the massive-type transformation, which is diffusional transformation without repartitioning of Mn.

1. 緒言

マルテンサイト組織を有するFe-9%Ni-0.1%C合金(mass%)は二相域焼鈍によりNiが濃化した安定な残留オーステナイトを形成させることができ,低温環境下で高い強度と靭性を兼ね備えているため,低温用鋼として広く用いられている。近年では,工業的な観点からNiの安価な代替元素としてMnへの期待が高まっており,著者らのグループでもFe-10%Mn-0.1%C合金1)を対象とした研究を行ってきた。本鋼種はFe-9%Ni-0.1%C合金とAc1温度が近く,二相域焼鈍によって同様に安定な残留オーステナイトが形成されることが知られており,著者らは適切な加工熱処理後に二相域焼鈍を行うことで優れた靭性を示すことを確認している2)。しかしながら,焼入れ時に形成されるマルテンサイト組織は両者で大きく異なる。焼入れままのFe-9%Ni-0.1%C合金はα’-ラスマルテンサイト単一組織となる一方で,Fe-10%Mn-0.1%C合金ではMn添加に伴うオーステナイトの積層欠陥エネルギー(Stacking Fault Energy: SFE)の低下によってγ→ε→α’の二段階変態が生じるようになるため,微細なα’マルテンサイト,εマルテンサイトおよび残留オーステナイトから構成される複相マルテンサイト組織を呈する。したがって本鋼種では,昇温過程においてα’マルテンサイトおよびεマルテンサイトからオーステナイトへの2種類の逆変態が生じるため,Fe-9%Ni-0.1%C合金とは異なる複雑なオーステナイトの核生成および成長挙動を示すと考えられ,それを理解することが中Mnマルテンサイト鋼の組織を制御し,機械的性質を改善するために重要となる。本研究では,複相組織(α’マルテンサイト,εマルテンサイト,残留オーステナイト)の解析が可能なその場中性子回折法を用いて,複相マルテンサイト組織を有するFe-10%Mn-0.1%C合金の逆変態挙動を調査した。

2. 実験方法

供試材としてFe-10%Mn-0.1%C合金の50 kgインゴットを真空溶解により作製した。詳細な化学組成をTable 1に示す。作製したインゴットを1473 Kで熱延し,さらに1473 Kで1.8 ksのオーステナイト化処理後,焼入処理によりマルテンサイト組織を得た(焼入材)。電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM: SIGMA 500, Zeiss, 加速電圧: 20 kV)を用いた電子線後方散乱回折(EBSD)法により組織観察を行った。昇温中の逆変態挙動の解析のために,大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された飛行時間型中性子回折計iMATERIAにより,昇温中のその場中性子回折測定を行った3)。70×10×2 mmの焼入材に対して20×20 mmサイズの中性子線(529 kW)を入射しながら10 K/sの速度で室温から1073 Kまで昇温し,分解能が高い背面バンク(145°<2θ<165°)から得られた回折プロファイルを取得した。昇温中の回折プロファイルは1 sごとに分割した。また,焼入材に対して室温で600 sの中性子回折測定を行い,Maudソフトウェアを用いたRietveld Texture Analysis(RTA)4)により初期組織の相分率を求めた。熱膨張試験をトランスマスターII(アドバンス理工株式会社)により行った。試験片サイズをφ3×10 mmとし,昇温速度を0.5~50 K/sの範囲で変化させた。

Table 1. Chemical composition (mass%) of Fe-10%Mn-0.1%C alloy.

CSiMnPSAlFe
0.0970.01910.03<0.0010.00290.012bal.

3. 実験結果

3・1 焼入材の組織

Fig.1(a)にFe-10%Mn-0.1%C合金の焼入材の結晶方位マップを示す。bcc構造のα’マルテンサイト,hcp構造のεマルテンサイトおよびfcc構造の残留オーステナイトが混在するため,一般的な低炭素鋼のラスマルテンサイト組織と比べて著しく微細で複雑な形態を呈している。Fig.1(b)はα’マルテンサイトの結晶方位情報(Fig.1(a))からKurdjumov-Sachs(K-S)関係({111}fcc//{011}bcc, <1-10>fcc//<1-11>bcc)に基づき計算された焼入れ前の旧オーステナイトの再構築像5)を示す。焼入材の旧オーステナイト粒径はおおよそ140 µmである。焼入材の組織を高倍率で観察した結果をFig.1(c)(d)(e)に示す((c)all phase,(d)hcp,(e)fcc)。α’マルテンサイトのサイズは約0.46 µmと微細である。また,α’マルテンサイトとεマルテンサイトはいずれもアスペクト比が小さい微細な粒状組織であり,ラスマルテンサイトのような板状の形態を有していないのが特徴である。このような組織は焼入れ時にγ→ε→α’の2段階マルテンサイト変態が生じる鋼の特徴であり,オーステナイトからまず板状のεマルテンサイトが生成した後に,その内部で微細なα’マルテンサイトが核生成することで形成される6)Fig.2は上記の焼入材の中性子ラインプロファイルおよびRTAにより求めた各相のピーク位置を示す。α’マルテンサイト,残留オーステナイト,εマルテンサイト(格子定数はそれぞれaα’=0.2877 nm,aγ=0.3588 nm,aε=0.2528 nm,cε= 0.4094 nm)のピークが確認される。多くのピークで重なりが生じているが,RTAにより焼入材における各相の割合を計算した結果,α’マルテンサイトが73 vol.%,εマルテンサイトが18 vol.%,そしてオーステナイトが9 vol.%と相定量された。

Fig. 1.

Orientation maps of Fe-10%Mn-0.1%C alloy before heating: (a) low magnification, (b) reconstructed austenite map of (a), (c)-(e) high magnification ((c) all phases (d) hcp (e) fcc). (Online version in color.)

Fig. 2.

Neutron diffraction line profile of Fe-10%Mn-0.1%C alloy before heating.

3・2 昇温中の逆変態挙動

Fig.3(a)は,室温から10 K/sで昇温している間の中性子ラインプロファイルの変化を100 Kおきに示す。またFig.3(b)には,他の相とのピークの重なりが生じていない200α’,200γおよび1011εのピークにおける,昇温に伴う積分強度の変化を示す。1011εでは,535 Kから積分強度の低下が確認され,712 Kにおいてピークが完全に消滅している。さらに,この1011εピークの積分強度の低下に対応して200γピークの積分強度の増大が生じていること,ならびに1011εピークの消滅と同時に200γピークの積分強度の増大が止まっていることから,この温度域でε→γ逆変態が生じていることが分かる。すなわち,ε→γ逆変態の開始温度(Aεs)は535 K,終了温度(Aεf)は 712 Kである。これらの温度はいずれも鉄原子や溶質原子の拡散が困難な低温である。また,ε→γ逆変態が生じている温度範囲において200α’ピークの積分強度にほとんど変化が生じていないことから,この温度範囲における逆変態にα’マルテンサイトは関与しておらず,ε→γ逆変態が単独で生じていると判断される。さらに昇温すると,842 Kから950 Kの温度範囲で200α’ピークの積分強度の低下および200γピークの積分強度の上昇が確認され,α’→γ逆変態が生じていることが分かる。すなわち,Aα’sは842 K,Aα’fは950 Kである。Fig.3(c)は昇温に伴う200γピークの半価幅の変化を示す。昇温開始時点において示される大きな半価幅は,本実験の試料作製段階における焼入処理において,周囲のマルテンサイト変態時の形状変化がもたらした残留応力や転位によるものであると考えられる。Aεs(535 K)以下の温度では,残留応力の低減によるものと考えられる単調な半価幅の低下が確認される。しかしながら,ε→γ逆変態が生じている温度範囲(535–712 K)において半価幅が顕著に増加している。これは,ε→γ逆変態時のわずかな体積膨張により残留オーステナイトの転位密度が顕著に上昇するとは考えにくく,生成した逆変態オーステナイト自体が高い転位密度を有していると考えられる。ε→γ逆変態が終了し,さらに昇温を続けると半価幅は単調に低下していく。その後842 Kに達するとα’→γ逆変態が開始するが,半価幅はε→γ逆変態時のように増大せず,連続的に低下する。

Fig. 3.

Changes in (a) neutron diffraction line profile, (b) integrated intensity of 200α’, 200γ and 1011ε and (c) full width at half maximum of 200γ during heating. (Online version in color.)

4. 考察

逆変態機構は,原子拡散が伴う相変態により生じる拡散型逆変態と,原子の拡散をほとんど伴わずマルテンサイト変態的に構造変化を生じるせん断型逆変態に分けられる。さらに,拡散型逆変態は母相と生成相間で溶質原子の再分配を伴う場合と伴わない場合があり,後者はマッシブ型の拡散型逆変態と呼ばれ,界面近傍での短距離拡散により進行する7)。これらの逆変態機構を同定するには,合金元素の分配挙動に加えて,変態温度の昇温速度依存性や逆変態オーステナイトの結晶方位の継承(オーステナイトメモリー)の有無などについて議論が必要である8,9,10)。さらに,逆変態時の格子欠陥の導入挙動も逆変態機構が拡散型かせん断型かを区別する重要な情報であることから,転位密度の解析が可能なその場中性子回折法は逆変態挙動の調査に対して有益な手法である。以下では,既述のその場中性子回折法の結果を踏まえてFe-10%Mn-0.1%C合金のε→γ逆変態およびα’→γ逆変態の機構を検討する。

4・1 ε→γ逆変態の変態機構

ε→γ逆変態については,FeやMnの拡散がほとんど生じない比較的低い温度域での変態であることや,Fig.3(c)で示唆される高密度転位を有する逆変態オーステナイトの生成から,せん断型逆変態11)と予想される。せん断型逆変態時に生じた格子ひずみが軟質なオーステナイト自身の塑性変形によって自己緩和されたと考えれば,高密度の転位が逆変態オーステナイトに導入されたことが合理的に理解される。せん断型逆変態のその他の特徴として,逆変態温度に昇温速度依存性がないこと12),および旧オーステナイトと同じ結晶方位のオーステナイトが生成する,いわゆるオーステナイトメモリー13)が発現することが挙げられる。Fig.4は熱膨張試験により逆変態点の昇温速度依存性を調査した結果を示す。上記の通り,本鋼種ではε→γ変態とα’→γ変態が同時に生じていないことが確認されており,熱膨張測定でも逆変態温度を見積もることが可能である。曲線(I)は焼入材を10 K/sで昇温した場合の熱膨張曲線である。ε→γ変態とα’→γ変態ではそれぞれ体積の膨張および収縮が生じることが知られていることから14,15),昇温過程の520 Kで生じている膨張開始,および830 K付近で生じている収縮開始の温度がそれぞれAεsおよびAα’sに対応すると考えられる。この結果は,中性子回折で得られた結果(Fig.3(b))とも良く一致した温度域である。熱膨張試験で測定した変態点の変化を昇温速度(0.5~50 K/s)で整理した結果をFig.4(b)に示す。また図中には,Thermo-Calc(データベース:SSOL7)により計算したT0点をあわせて示している(図中点線)。ε→γ逆変態ではAεsの昇温速度依存性は認められず,いずれの昇温速度でもAεsはT0点より約80 K高温で生じている。このときの過熱度はギブスの自由エネルギー差で315 J/molに相当する。なお昇温速度依存性はAεfにも認められず,変態機構自体に昇温速度依存性が存在しないと考えられる。

Fig. 4.

(a) Dilatometric curves of Fe-10%Mn-0.1%C alloy heated to (I) 1073 K and (II) 723 K at a heating rate of 10 K/s and (b) heating rate dependence of transformation start/finish temperature. (Online version in color.)

Fig.5(a)(b)は焼入材をAεf直上の温度である723 Kまで10 K/sで昇温した後に5 sの恒温保持を行い,直ちにN2ガス冷却をした試料の結晶方位マップを示す((a)全相,(b)fccのみ)。ここで, Fig.5(c)(d)Fig.5(a)中の四角の領域を高倍率で観察した像である((c)全相,(d)fccのみ)。ε→γ逆変態が生じたことで,焼入材と比べて多量の残留オーステナイトが確認される。それらのオーステナイトは集団で同一の結晶方位を有しており,その方位は旧オーステナイトの方位と同じである。つまり,オーステナイトメモリーが発現していると判断できる。また,この昇温冷却過程における熱膨張曲線をFig.4(a)中の曲線(II)に示す。昇温時にε→γ逆変態に伴う膨張を示しているが,冷却中では単調に収縮しているのみであり,Aα’s以下の温度からの冷却ではγ→ε変態やγ→α’変態がほとんど起こっていない。これは,昇温,冷却中にα’マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の濃化が生じ,安定化したためと考えられる。以上の結果より,ε→γ逆変態は中性子回折の結果から予測された通り,せん断型逆変態であると結論づけられる。

Fig. 5.

Orientation maps of Fe-10%Mn-0.1%C alloy after heating to various temperatures: (a)-(d) heated to 723 K ((a)(b) low magnification ((a) all phases (b) fcc), (c)(d) high magnification ((c) all phases (d) fcc), (e)-(h) heated to 1003 K ((e)(f) low magnification ((e) all phases (f) fcc), (g) austenite reconstructed map of (e), (h) enlarged view of area enclosed by black frame in (g)). (Online version in color.)

4・2 α’→γ逆変態の変態機構

Fig.3(c)において,α’マルテンサイトから逆変態したオーステナイトには高密度の転位が含まれていなかったことから,α’→γ逆変態は拡散型の機構により逆変態が生じていると予想される。Fig.4(b)中に示すように,α’→γ逆変態温度は,昇温速度が小さい場合(<10 K/s)には昇温速度に依存して変化している。Han and Leeは初期組織がα’単相であるFe-(5–9)%Mn-0.05%C合金のα’→γ逆変態温度の昇温速度依存性を調査しており,昇温速度が小さい場合(<15 K/s)には変態温度が昇温速度に依存することを報告している8)。また,その場合にはMnの拡散を伴う逆変態が進行し,Mnが濃化したオーステナイトが昇温中に形成されることを確認している。本研究でも同様の挙動が生じたと仮定すれば,昇温速度が小さい場合のα’→γ逆変態温度の昇温速度依存性は,α’→γ逆変態がMnの分配に律速されて生じたことによるものであると推察される。一方,10 K/s以上の昇温速度の場合,α’→γ変態温度の昇温速度依存性は確認されない。Han and Leeは,Fe-9%Mn-0.05%C合金において,昇温速度が速い場合(>15 K/s),Mnの分配が起こらず,変態温度も昇温速度に依存しないことを報告している8)。したがって,彼らはせん断型逆変態が起こったと結論づけた。しかし,Yangらは,この逆変態が昇温前の冷間加工により促進されることや,α'-マルテンサイトとオーステナイトのギブス自由エネルギーの差がせん断型変態を起こすには小さすぎるなどといった理由からマッシブ型変態であると指摘した10)。また,本研究のα'→γ逆変態(昇温速度:10 K/s)では生成オーステナイトの転位密度が大きくないこと(Fig.3(c))を考慮すると,10 K/s以上の昇温速度で昇温を行った場合のα'→γ逆変態の変態機構はMnの分配を伴わない拡散変態,すなわちマッシブ型の変態であることが予想される。

Fig.5(e)(f)は焼入材に対し,Aα’fの直上温度である1003 Kまで10 K/sで昇温を行い,直ちにN2ガス冷却をした試料の結晶方位マップを示す((e)全相,(f)fccのみ)。Fig.5(c)(d)と比較すると,室温まで残留しているオーステナイトが非常に少ないことが確認される。これは組織全体がオーステナイトになったことでC分布が均一となり,オーステナイト安定性が低下したためと考えられる。Fig.5(g)Fig.5(e)に対するオーステナイト再構築像であり,1003 K昇温時のオーステナイト組織に対応している。焼入材と同等の粒径を有する旧オーステナイト粒が主に観察され,逆変態によりオーステナイトメモリーが発現したことを示している。マッシブ変態によるα’→γ逆変態の場合,変態時にK-S関係を満たす必要はないが16,17),α’→γ逆変態開始以前から存在していた旧オーステナイト方位を有するオーステナイト(残留オーステナイトおよびε→γ逆変態で生じたせん断型逆変態オーステナイト)が成長することでα’→γ逆変態が進行すると考えられるため,マッシブ型変態でありながら大部分はオーステナイトメモリーを発現したと考えられる。一方で,Fig.5(g)中に示す四角の領域のオーステナイト再構築像であるFig.5(h)から,粗大な旧オーステナイト粒の中に,粒径10~20 µmの細かいオーステナイト粒が生成していることが確認できる。これらのオーステナイト(γ1,γ2,γ3)は,オーステナイトメモリーが発現した周囲のオーステナイト(γ0)とは異なる方位を有しており,別のメカニズムで形成されているように考えられる。このような微細なオーステナイト粒は,Aα’sより高い温度でオーステナイトメモリーを発現せずに新たに核生成したマッシブ型の逆変態オーステナイトや,せん断型ε→γ逆変態で形成された高密度の転位を有するオーステナイトから生じた再結晶オーステナイト粒であると予想される。

5. 結言

複相マルテンサイト組織を有するFe-10%Mn-0.1%C合金の昇温中の逆変態挙動について以下にまとめる。

昇温前の焼入材には微細なα’マルテンサイト,εマルテンサイト,残留オーステナイトが存在している。昇温を行うと,まずせん断型変態によりε→γ逆変態が生じ,高密度の転位を有するオーステナイトが生成される。ε→γ逆変態が完了した後にさらに昇温を行うと,α’→γ逆変態が開始する。昇温速度が10 K/s以下の場合,逆変態開始温度が昇温速度に大きく依存することから,Mnの分配に伴う拡散型の逆変態機構が進行すると考えられるが,昇温速度を大きくすると昇温速度依存性が消失する。これは,Mnの分配を伴う拡散型逆変態から分配を伴わないマッシブ型逆変態に変態機構が変化したためと考えられる。

謝辞

本研究における中性子回折実験は,J-PARCのMLFにおける実験課題(No. 2021BM0008)によって実施されました。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top