鉄と鋼
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論文
フローターによる薄鋼帯の蛇行矯正力の予測
小林 弘和 高嶋 由紀雄武田 玄太郎加藤 健司脇本 辰郎
著者情報
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2024 年 110 巻 2 号 p. 61-71

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Abstract

Flotation dryer systems are widely used to dry liquid layers on substrates such as films, paper and steel strips, and many reports discussing design optimization for better heat transfer characteristics and strip stability are available.

As an advantage of this type of system, surface defects caused by contact between a support roll and the strip are prevented by floating the strip with a jet flow. However, since the friction force between the jet flow and the strip is smaller than that between a support roll and strip, flotation systems are prone to strip walking.

This tendency is noticeable in case of bad shape strip. Thus, it is important to improve the strip centering force. To our knowledge, no systematic in-depth study on prediction of the strip centering force with flotation dryers exists in the literature, and in particular, literature which compares experimental and analytical results is very rare.

In the present study, the centering force acting on a steel strip in a flotation dryer was investigated by experiments and simplified two-dimensional fluid analyses in order to evaluate the influence of the side plate geometry and the off-center value from the center of the floatation dryer on the centering force.

The centering force in the experiment and analysis showed a good correlation. Therefore, it is thought that the centering performance of actual floatation dryers can be estimated by simplified experiments and analyses.

1. 緒言

薄鋼帯の製造プロセスにおいて,鋼帯の安定的な搬送は,高い品質と生産能率を達成するために必要不可欠である。薄鋼帯の搬送には,一般的にロールが用いられる。しかしながら接触して回転するロールは,鋼帯に擦り疵や異物による押し疵を発生させる場合がある。家電や自動車といった製品部材の外板となる薄鋼板は,特に美麗な外観を要求されるため,疵の防止と検査・管理を徹底して行う必要がある。また薬液等を鋼帯に塗布する場合,乾燥前の液膜や柔らかい被膜の剥離・損傷を避けるため,ロール接触による搬送は行えない。そこでロールによる接触式搬送の課題を解決するための手段として,気体噴射の圧力により鋼帯を浮上させて搬送を行う非接触式搬送技術,フローター技術1,2,3,4,5)が開発されている。

フローターは,ノズルから噴射される気体噴流による高い熱伝達係数6,7)を利用して,搬送と同時に,効率的な加熱,冷却,乾燥といった熱処理を行える利点を有している。一方で,搬送の安定性や熱伝達,乾燥での被膜品質・エネルギーコストなどに設計・操業パラメーターが作用する複雑さも有しており,実験や解析モデルによる適正化の研究8)が行われている。

フローターにおける基材搬送の課題は,浮上の安定性と蛇行である。浮上量が適切でなく,大きな上下振幅のある場合,フローターとの接触により基材は損傷する。またロール搬送と異なり接触による大きな摩擦力が働かないため,基材の形状不良などの影響により簡単に蛇行が発生する。浮上に関して,Fujiwaraら9)は,浮上力に対しノズル外縁形状が大きく影響することを示している。またTakeda and Watanabe10)は,空気の圧縮性を考慮した解析や実験により,基材とフローターの隙間からの流れに起因する自励振動以外に,圧縮性に起因する自励振動が発生することを示している。

蛇行の矯正力に関して,Shimokawaら11)は,フローター面上に設置するリブ板に段差を設けることで蛇行の矯正力が高まることを示している。

またChang and Moretti12)は,フローターの流体力学的な特性が,噴流の噴射角度・噴流厚み・浮上のための静圧を作用させる面幅・静圧の4つの因子で決定づけられることを簡易な解析モデルや実験で検証している。Kimら13)もまた,三次元数値流動解析と実験により,それら因子がフローターの力学的な特性を決めることを示している。

このようにフローターによる帯状基材の浮上搬送に関して,基礎的な特性や設計の基本事項は明らかとなっている。その一方で,様々な設計要素があるフローターの正確な浮上挙動や蛇行矯正力を把握するには,実大規模での実験や数値解析を行う必要がある。しかしながら,長尺の帯状基材を搬送するフローター全体の構造は巨大で,実大規模での実験は困難であり,数値解析にも多くの時間とコストがかかるといった課題がある。

そこで本研究では,簡易な二次元数値流動解析14)によるフローター蛇行挙動および蛇行の矯正力予測を目的に,縮小スケール実験による精度検証を実施し,開発した二次元数値流動解析モデルの妥当性を評価した。また開発した解析手法により実大規模スケールの数値解析を実施し,縮小スケール現象との差異についても明らかにした。

2. フローター構造と蛇行矯正原理

一例として,薬液を塗布した薄鋼帯が連続的に搬送されるフローター乾燥炉の概略をFig.1に示す。塗装装置により薬液を塗布された鋼帯は,被膜の損傷を避けるため乾燥が完了するまでロールと接触させることはできない。そこで乾燥炉内の鋼帯は,フローターからの気体噴流の圧力により非接触状態を維持しながら浮上搬送され,乾燥が同時に行われる。要求される基材の搬送速度や乾燥能力などからフローター乾燥炉の炉長は決定され,基材の自重を支えるため必要なフローターの台数やその設置間隔が決定される。例えば,Fig.1左下に示すように,フローターからの気体噴射を2本のノズルで対向する向きに行うことで,基材とフローター天板間での静圧を効率的に高めることができ,安定した浮上搬送を行うことができる。またフローター天板上にサイドプレート,リブプレートと呼ばれる基材幅方向への横流れを抑制する邪魔板を配置することで更に安定して静圧を高めることができる。

Fig. 1.

Schematic illustration of flotation dryer system. (Online version in color.)

次にフローターの基材蛇行の矯正メカニズムについて,基材幅方向断面におけるフローター天板上の構造と基材を示したFig.2を用いて説明する。基材エッジ側のサイドプレートは,リブプレートよりも高く設計される。基材の位置がフローターの幅方向中心位置から左にずれて蛇行した場合,左側サイドプレートと破線で示す基材エッジ間の隙間(Fig.2のA部)が狭くなり,左側の基材下方の静圧が大きくなることで矢印の向きに(破線から実線の位置に)基材は角度θ傾斜する。基材傾斜前の圧力分布と流れの模式図を示したFig.3を用いてより詳細に説明する。左側は流路が狭く気体が抜けにくいため,基材下方の静圧は上昇する。反対に右側は流路が広く気体が抜けやすいため静圧は低下する。このように基材下面にかかる静圧の分布が変化することで基材は傾斜する。Fig.2の傾斜後の基材下面には,静圧により基材面に垂直な方向の力が作用する。その力は基材の傾きに応じて,基材の自重を支える重力方向の力である浮上力と水平方向の力に分配される。この水平方向の力が,基材の蛇行を矯正するセンタリング力として作用し,基材は中央に戻り,安定的な搬送が可能となる。この蛇行矯正力は,フローターのリブやサイドプレート,ノズルの設計により変化する。

Fig. 2.

Centering mechanism of strip walking. (Online version in color.)

Fig. 3.

Schematic diagram of pressure distribution and gas flow. (Online version in color.)

3. 二次元数値流動解析によるフローター蛇行挙動と蛇行矯正力予測

3・1 解析条件

フローターによる基材の浮上と蛇行現象を簡易な数値解析により予測できないか検証するため,汎用流動解析ソフトANSYS Fluent 1415)を用いた二次元数値流動解析を実施した。解析モデルと解析メッシュをFig.4に示す。本解析では,フローターのサイドプレート高さ変更による蛇行矯正力の変化を検証した。

Fig. 4.

Analytical model of floater strip walking. (Online version in color.)

二次元解析モデルは,縮小スケール実験との比較による精度検証のため,フローター天板上の幅方向断面構造,リブプレートやサイドプレート高さを実験で再現可能なサイズである実大規模1/10スケールとした。基材厚みは薄くなりすぎないよう配慮した。厚みを薄鋼板の1/10とする場合,金属箔となり,折れや変形など実験での取り扱いが困難となるためである。また下方からの気体噴射により鋼板の浮上を解析できるよう設定した。

下方からの気体噴射速度は,Fig.4に示すように鋼帯をフローター中央に配置した条件で数値解析を行い,浮上高さ約5 mmでの安定的な浮上が確認できた噴射速度0.153 m/secを流入速度条件として設定した。

浮上高さは,実大規模および縮小スケール実験においても任意の値に設定できるが,浮上量が小さい場合はフローターとの接触リスクがあり,浮上量が大きい場合は浮上量が安定しないため,実大規模において想定できる浮上高さの約1/10となる5 mmと設定した。

フローターからのガス噴流は,実際には,Fig.1に示す通り細いスリットから水平に近い角度で噴射される。二次元数値流動解析では,幅方向断面をモデル化しており,鋼帯長手方向のフローター構造の再現に制約があるため,鉛直方向の流入速度を設定した。浮上高さ5 mmで安定する流れは,鋼帯下面の流れを大きく乱すことなく静圧を安定的に高めており,実現象における鋼帯下面の流れ場からも大きくは乖離していないと考える。

また解析領域は,領域境界の影響を受けにくくするため十分に広く設定し,フローター構造物から幅方向,高さ方向共に50 mm以上の距離を確保し,周囲境界は自由流出流入境界とした。鋼帯は自由に移動できる剛体として,張力による拘束は考慮していない。解析の前提条件を以下に示す。

  •  物理モデル:二次元非定常非圧縮性流れ
  •  乱流モデル:Realizable k-eモデル
  •  ソルバー:6自由度ソルバー
  •  流体:30°C空気

フローター圧力は小さく気体速度も低速であることから,空気は非圧縮性流体とした。乱流モデルは,広範な流れに適用実績があり,ジェットの広がり角度を適正に予測することができるRealizable k-eモデル16)を選定した。

本解析では,鋼帯は空間に固定せず自由に動けるよう,時間ステップ毎にメッシュが移動変形,再生成するダイナミックメッシュモデル17,18,19)を用いて解析を行った。総メッシュ数は,鋼帯の移動によるメッシュの再生成に伴い多少変化するが,およそ60,800セルである。

また鋼帯は剛体として扱い,変形は考慮していない。薄鋼帯は,下方の圧力分布の変化により幅方向の反りが変化することも考えられ,解析精度を高めるには変形を考慮した解析が好ましい。Huangら17)は,フローターの基材長手方向の変形を考慮した解析において,基材を剛体と仮定した場合に対し,流れ場や圧力場に差異が生じることを報告している。

鋼帯サイズは幅120 mm,厚さ0.26 mmである。サイドプレート高さは,5,10 mmの2条件とした。鋼板の初期位置は,フローター幅方向中央から10 mmオフセットした位置,浮上高さ5 mmの位置として,鋼板の蛇行挙動の解析を行った。

3・2 解析結果と考察

サイドプレート高さ5 mmにおける鋼帯挙動の解析結果をFig.5に示す。

Fig. 5.

Steel strip attitude in case of 5mm of side plate height. (Online version in color.)

二次元数値流動解析にて薄鋼帯が流体力により浮上し,傾きが発生し,蛇行が矯正される様子を再現することができた。初期に左側にずらして配置した鋼帯が,サイドプレートとの隙間が狭い左側下面の静圧の上昇により時計回りの方向に傾き,鋼帯下面にかかる静圧の水平方向成分の力(センタリング力)により右側に移動していく挙動が再現できている。

圧力と速度分布について詳しく説明する。Fig.5で鋼帯が初期位置から幅方向に約3 mm移動した0.34 sec時における圧力と速度の分布をFig.6に示す。中央部では,鋼帯下面の圧力が高く速度が遅く流れが安定していることがわかる。鋼帯下面の圧力は,幅方向に並んだリブプレートにより区切られているため,段階的に鋼帯エッジに向かって低下していく。左右の圧力バランスに着目すると,鋼帯エッジがサイドプレートに近く流路の狭くなった左側の圧力が高くなっている。この圧力の分布により鋼帯は傾き,蛇行の矯正力が働く。鋼帯下面のガス速度は,中央で遅く,気体が流れ出る鋼帯エッジに向かって速くなる。また左側の流れは,背の高いサイドプレートに近い影響で,右側よりも上方に流れ出ていることがわかる。

Fig. 6.

Pressure and velocity distribution contours at 0.34 sec of Fig.5. (Online version in color.)

鋼帯位置の移動の履歴をFig.7に,鋼帯の傾きと下面にかかる圧力の関係から算出される水平方向成分の力(センタリング力)と鋼帯位置の関係をFig.8に示す。鋼帯中央の初期位置を-10 mm,フローター中央を0 mmと表記している。センタリング力Fcの算出は,Fig.2に示す幾何学的な関係性から下記の式で計算できる。

  
Fc=Psinθ(3-1)
Fig. 7.

Strip position history. (Online version in color.)

Fig. 8.

Relationship between centering force and strip position. (Online version in color.)

ここで,Pは鋼板下面に作用する圧力,θは鋼板の傾き角度である。

サイドプレートが高い条件にて,鋼帯が速く中央に戻っていることがわかる。また最大センタリング力は,サイドプレート高さ5 mmに対し10 mmで,約2.15倍大きくなっている。サイドプレートを高くすることで,流体の横流れを抑制し,蛇行の矯正力が高まったと言える。簡易な二次元数値流動解析において,蛇行の矯正挙動を定性的に正しく模擬できることがわかった。

二次元数値流動解析により,サイドプレート高さ変更時の蛇行挙動を評価できた理由として,フローター天板上のリブプレートやサイドプレートは長手方向に一様な構造であることが挙げられる。実現象においても,基材の下面で発生する静圧は長手方向に均一な分布を保っている区間が存在することは想像できる。基材長手方向の変化が少なく,鋼帯の蛇行という幅方向の挙動に特化した現象のため,二次元数値流動解析において現象を上手く再現できたと考える。

この結果は,ダイナミックメッシュモデルを用いた二次元数値流動解析手法が,次元の制約を考慮する必要はあるが,フローターだけではなく三次元流れ場における物体の運動現象全般を予測できる可能性を示している。

4. 縮小スケール実験による数値解析精度検証と相似則の考察

4・1 実験装置の概要および実験方法

二次元数値流動解析の精度検証を目的として,前章の解析条件と寸法を合わせた実験を考案・実施した。

一方で,縮小スケール実験にて実大規模現象を直接予測できれば有益である。また実験では,二次元数値流動解析で考慮できない張力や鋼帯の振動・長手方向の変化を含めて検証が可能であるといった利点もある。そこで,もう一つの目的として,縮小スケール実験から実大規模の蛇行矯正力を予測できるかを明らかにするため,相似則を含めた考察・検証を実施した。

本実験では,鋼帯厚み以外の幾何学的な寸法は実大規模の1/10スケールとなるよう調整しており,前章の数値解析条件と同じである。実験装置の概要をFig.9に示す。

Fig. 9.

Experimental set-up about 1/10 model of real scale floatation device. (Online version in color.)

実ラインにおけるフローターでの鋼帯浮上搬送は,複数台のフローターにより行われる場合が多い。そこで1台のフローターで3台のフローターが基材長手方向に連続する条件を再現できるよう,基材長手方向の隣接するフローターにおける基材の浮上支持をワイヤーでの吊り上げにより模擬した。ワイヤーでの吊り上げは,フローターによる基材浮上で発生する上下動は模擬できないが,幅方向の横揺れに対する自由度を確保できる。また鋼板の両端をワイヤーと連結し,エアシリンダーとロードセルを用いて長手方向に任意の張力を作用できるよう設計した。ワイヤー吊り上げ間の鋼帯は,張力と重力の関係からカテナリ曲線を形成し,フローターで鋼帯を浮上させない限り垂れ下がってフローターと接触する。つまり,2箇所の吊り上げワイヤー間の距離と鋼板の長手方向に作用させる張力の調整により,フローター1台分が受け持つ鋼帯の自重を支える条件を任意に再現できる。

カテナリ曲線20)は,基材長手方向座標をx,重力方向座標をyとした場合,一般的に次の式で表される。

  
y=acosh(xc1a)+C2(4-1)
  
a=T/M(4-2)

ここでC1C2は積分定数,Tは張力,Mは鋼帯の単位長さあたりの重量である。本実験では,フローター間の間隔と鋼帯の垂れ下がり量の縮尺を実大規模条件と合わせるよう張力を設定した。また鋼帯の浮上高さも実大規模条件とサイズの縮尺を合わせた。数値解析条件と同様に鋼帯がフローター天板から約5 mmで安定的に浮上するフローター内部圧力を実験で検証し設定した。各種実験条件をTable 1に示す。

Table 1. Experimental conditions.

Strip sizethickness0.26×width120 [mm]
Tension9.8×105 [Pa]
Pressure600 [Pa]
Off-center0, 10 [mm]
Side plate height5, 10 [mm]

実験フローターの鋼帯長手方向および幅方向の断面模式図をFig.10に示す。空気噴射口のスリット幅は2 mmで,ガスは2箇所から対向する向きに噴射される。フローター天板上にはリブプレートと鋼帯エッジ側には背の高いサイドプレートを設置している。リブプレートの高さは数値解析と同じ2.5 mmである。

Fig. 10.

Schematic illustration of experiment flotation device. (Online version in color.)

縮小スケール実験において,実機現象を精度良く再現するには,相似則を考慮する必要がある。幾何学的な相似については,鋼帯厚み以外に関して一致させた。一方で,幾何学的な相似を一致することで,流れや振動といった力学的な相似について,実大規模の現象に対し乖離が発生する。フローター浮上現象において考慮すべき力学的な相似21)は,鋼帯の気体による浮上搬送のメカニズムから,流れの相似,振動現象の相似,浮上現象の相似と考える。これら乖離について考察を加える。

流れの相似において考慮すべきレイノルズ数Reの一致は,鋼帯の浮上量(幾何学的な相似)により噴射流速が決まるため,除外せざるを得ない。物体回りの流れ,境界層の速度分布や抗力の影響について実大規模との比較で差異が生じる点には注意が必要である。

次に,鋼帯の振動現象に関する相似を考察する。両端を固定されたフローター上の鋼帯は,流体力の影響で絶えず重力方向に振動し,その振幅は鋼帯の固有振動数で共振により増大22)する。そのため振動現象を鋼帯周りの流れより優先すべきパラメーターとして,ストローハル数Stを実大規模と縮小スケール実験で一致させることが重要である。St数の定義を以下に示す。

  
St=fHV(4-3)

fは流れにある振動現象の周波数を示すが,固有振動で鋼帯が振動するフローター浮上現象において,流れ場も鋼帯振動に合わせて変化するため,fを鋼帯の振動周波数と置き換えたSt数,換算振動数21)とした。Hは代表長さで,ここでは基材幅方向に気体が流れる流路の幅,つまり基材の浮上高さと定義した。Vはガス速度を示す。

1/10スケールにおいてSt数を一致させる場合,ガス速度Vが同じであれば,周波数を10倍とする必要がある。

両端固定された距離Lのストリップの振動周波数(つまり固有振動数,共振振動数)fは以下の式で表せる17)

  
f=n2LTgM(4-4)

ここで,nは整数,gは重力加速度である。Lと鋼帯の単位長さあたりの重量Mが1/10となる縮小スケールでは,張力Tを1/10とすることで,fを10倍とすることができる。しかしながら,Tは幾何学的な相似,鋼帯カテナリ曲線の縮尺比から決定されており,St数もまた完全に一致させることは困難であることがわかる。補足として,二次元数値流動解析では張力を考慮していないので,解析における縮小スケールと実大規模スケール間でのSt数の考慮は不要である。

次に,浮上現象の相似に関して考察する。気体の慣性力と鋼帯にかかる重力の比を表す無次元数フルード数Frを一致させることが好ましい。

  
Fr2=V2gW(4-5)

ここで,Vはガスの速度,gは重力加速度,Wは代表長さで鋼帯幅である。鋼帯の浮上量により噴射流速が決まるため,Re数と同様に一致させることは困難である。

本実験において,幾何学的な相似は考慮したが,力学的相似パラメーターは実大規模現象との乖離がある点を踏まえた上で,フローター構造変更による蛇行矯正力の評価を行った。

数値解析と同様に,フローターのサイドプレート高さを5, 10 mmと変更した2条件において,鋼帯をフローター幅方向中央に設置した場合と幅方向に10 mmオフセンターした2条件で鋼帯傾きの変化を検証した。

次に鋼帯の傾き角度の測定方法について,鋼帯とフローター天板上のリブプレート,サイドプレートの幅方向断面構造を示したFig.11を用いて説明する。鋼帯の傾きは,レーザー距離計2台を基材の幅方向に並べ測定距離の関係から算出した。レーザー距離計には,オムロン社製ZX-LD100を使用した。

Fig. 11.

Measuring method of the strip tilt angle. (Online version in color.)

鋼帯は長手方向両端の拘束があるため,厚み方向および幅方向の振動が発生し,傾きは絶えず変化する。そこで厚み方向振動より周期の長い幅方向振動の周期(約0.4 sec)に対し,十分に長い測定時間(30 sec,測定周期0.1 sec)の平均値を傾き角度と定義した。

鋼帯をフローター中央からオフセンターした場合の鋼帯傾き変化の評価方法について,Fig.12を用いて説明する。鋼帯を中央に設置した場合の傾き角度をa°,10 mmオフセンターした場合の傾き角度をb°として変化b-a°を傾き角度増加分と定義して評価した。鋼帯がフローター中央にある場合,理想的な条件において,振動による変動はあるが時間平均した角度a°はほぼゼロとなるはずである。しかしながら,実際の薄鋼帯は圧延や焼鈍工程で生じる長手方向伸びの板幅内での不均一分布を有しており,完全に平坦ではない。また実験装置の水平調整も0.1~0.2°程度が限界であった。縮小スケール実験においてmm単位の位置調整を行ったが,フローター中央の浮上においてわずかな傾きが発生した。そこで鋼板形状や装置調整によるフローター中央での浮上時の傾き影響を除外して,鋼帯をオフセンターした場合の傾き増分,つまり蛇行矯正力の増分を検証するためba°を評価した。

Fig. 12.

Definition of “Increase of tilt angle”. (Online version in color.)

補足として,本実験において,基材の幅方向の位置はワイヤーで固定されているため,幅方向変位の評価は行えない。幅方向へ移動する連続的な蛇行挙動を評価するには,切板ではなく走行する鋼帯を用いるなど,実験装置の改良が必要となる。

4・2 実験結果と考察

鋼板傾き角度の時間変化をFig.13に示す。左図はサイドプレート高さ5 mm,右図はサイドプレート高さ10 mmの条件である。それぞれ鋼帯をフローター中央に設置した条件と,中央から幅方向に10 mmオフセットした2条件の傾き変化を示している。

Fig. 13.

Experiment results of tilt angle. (Online version in color.)

鋼帯は絶えず振動しており,鋼帯角度は細かい周期で大小様々な変動をしていることがわかる。鋼板傾きの標準偏差は約0.18~0.28°であった。また鋼帯が幅方向中央に位置する条件においても,平均0.7°程度の傾きが発生した。これは前述の通り,鋼板形状および初期調整により発生する傾きである。鋼板位置を幅方向に10 mmオフセンターすることで傾き角度は増加した。これはオフセンターすることでサイドプレートと鋼板間の流路が狭くなり鋼板下面に作用する静圧がオフセンターさせた側で高まった効果である。更にサイドプレート高さを5 mmから10 mmに高くすることで,鋼板の傾きは大きく増加した。これは鋼板をオフセンターした際のサイドプレートと鋼板間の流路が更に狭くなり,オフセンターさせた側で鋼板下面に作用する静圧がより大きくなった効果である。

次に鋼帯の傾き角度a°,b°および傾き増加量ba°の結果をFig.14に示す。

Fig. 14.

Experiment results of tilt angle. (Online version in color.)

鋼帯をフローター中央からオフセンターすることで傾きが増加し,更にサイドプレート高さを5→10 mmと高くすることで傾きの増加量,つまり蛇行の矯正力が2.21倍増加することがわかった。ここで,鋼帯の傾きを蛇行の矯正力に比例としたが,厳密にはFig.2に示す通り,矯正力は鋼帯自重にtanθを乗じた値が正しい。微小な角度域では,tanθはほぼ角度と比例であり,角度増加分での評価とした。縮小スケール実験において,サイドプレート高さを高くすることで鋼帯の傾きが大きくなり,蛇行矯正力が向上する増加量を定量的に評価することができた。

また縮小スケール実験で得られた蛇行の矯正力2.21倍は,同じスケールの数値解析で得られた結果2.15倍と定量的にほぼ一致している。これは簡易な二次元数値流動解析において,フローター構造変化による鋼帯の蛇行矯正力変化を定量的にも良い精度で予測できる可能性を示していると言える。

蛇行矯正力の定性的な評価が可能である点は既報14)においても述べている。一方で,鋼帯をフローター中央に配置した場合において,サイドプレート高さ変更時の傾きにわずかな差異がある点を考慮すると,実験装置の寸法精度の向上により,更なる実験結果の高精度化が図れる可能性について言及しておきたい。また実大規模との比較において,縮小スケール実験による力学的な相似の乖離がある点を踏まえると,実験パラメーターの設定により実大規模の予測精度を向上できる可能性がある。

5. 実大規模フローター蛇行挙動の予測

5・1 解析条件

縮小スケール実験との比較検証により,二次元数値流動解析にて定量的に蛇行挙動を予測できる可能性が得られたため,実大規模スケールでの蛇行挙動の検証を目的に数値解析を実施した。解析モデルと解析メッシュ構造をFig.15に示す。

Fig. 15.

Analytical model of floater strip walking. (Online version in color.)

鋼帯サイズは幅1200 mm,厚さ0.23 mmである。リブプレート高さは25 mmとした。気体は450°C空気とした。下方からの流入速度条件は,鋼板をフローター中央に設置した条件の数値解析を行い,浮上高さ50 mm程度で安定的な浮上を確認できた0.254m/secとした。解析領域は,境界の影響を受けにくくするため,十分に広く設定し,構造物から幅方向,高さ方向共に500 mm以上の距離を確保した。総メッシュ数は,メッシュの結合や再生成により多少変化するがおよそ57600セルである。その他,解析の前提条件や手法は,前述の二次元数値流動解析と同様である。

鋼板をフローター中央から左側に100 mmオフセットした位置を初期位置として,サイドプレート高さ50,100 mmと変更した2条件について蛇行挙動の解析を行った。

5・2 解析結果と考察

サイドプレート100 mm条件における鋼板の蛇行挙動をFig.16に示す。初期にオフセットした鋼帯が,0.4秒後には時計回りに大きく傾き,鋼板下面にかかる静圧が鉛直方向の浮上力と水平方向成分のセンタリング力に分配され,センタリング力により1.0秒後には右側に移動している様子がわかる。実大規模条件においても問題なく,鋼帯が傾き蛇行が矯正される挙動を解析することができた。

Fig. 16.

Steel strip attitude after 0.0, 0.4, 1.0 seconds in case of 100mm side plate. (Online version in color.)

鋼帯位置の移動の履歴をFig.17に,鋼帯の傾きと下面にかかる圧力の関係から算出される水平方向成分の力(センタリング力)と鋼帯位置の関係をFig.18に示す。グラフは,鋼帯中央の初期位置を-100 mm,フローター中央を0 mmと表記している。

Fig. 17.

Strip position history. (Online version in color.)

Fig. 18.

Relationship between centering force and strip position. (Online version in color.)

サイドプレート高さの高い100 mm条件において,早く蛇行が矯正されていることがわかる。またその最大センタリング力は,サイドプレート高さ50 mm条件より約2.48倍大きくなった。補足として,既報14)においては,最大角度で蛇行矯正力を評価していたが,数値解析における鋼帯は移動し,鋼帯下面にかかる静圧も変動するため,鋼帯下面に作用する圧力の水平方向成分,式(3-1)で示したセンタリング力で評価する方がより正確であると言える。

実大規模1/10スケールの解析結果Fig.7と比較すると,鋼板がフローター中央に戻るまでの時間が長くなっていることがわかる。これは無次元数フルード数Fr(式(4-5))の差により説明できる。

フルード数が一致すれば鋼帯浮上運動の時間スケールは一致する。鋼帯幅が10倍となる実大規模スケールにおいて,フルード数を縮小スケール解析と一致させるには,速度を10倍する必要がある。しかし実大規模解析におけるガス速度は縮小スケール解析の2倍以下であり,フルード数は小さくなる。そのため縮小スケール解析より長い時間スケールの現象となっている。

Fig.19に縮小スケール実験,縮小スケール解析,実大規模解析におけるサイドプレート高さ2倍変更時の蛇行矯正力の増加倍率を示す。実大規模解析の2.48倍は,縮小スケール解析の2.15倍よりも大きな増加となっている。

Fig. 19.

Comparison of increase rates of centering force. (Online version in color.)

この理由について,センタリング力のピーク値の変化から考察を加える。縮小スケール解析Fig.8のサイドプレート高さ5 mmにおいては,センタリング力の極大値がはっきり表れているのに対し,実大規模解析Fig.18のサイドプレート高さ50 mmにおいては,極大値がはっきりせず,ピーク値に近いセンタリング力を維持しながら鋼帯が移動していることがわかる。

先に述べた通り,縮小スケール解析における時間スケールは短く,鋼帯の傾き変化も短い時間で起こる。すると加速度の速い,慣性力の大きい傾き変化により,鋼帯はより大きく傾く傾向にあると言える。鋼帯下面にかかる静圧により傾いているだけではなく,傾き変化の慣性力も影響している証拠として,最大傾き時における鋼板下面に作用する圧力分布をFig.20に示す。鋼板幅と圧力の値は,各条件の最大値で除することで規格化している。幅方向0位置がオフセットした側の鋼帯エッジ,1.0位置がフローター中央側の鋼帯エッジである。

Fig. 20.

Analysis results of normalized pressure distribution on the lower surface of the steel sheet at maximum tilt angle. (Online version in color.)

縮小スケール解析において角度が最大となった0.08 sec時における圧力分布は,オフセットした側(左側)で圧力が低下している。鋼板は慣性力により大きく傾いたものの,既に鋼板下面に作用する静圧分布は傾きを維持する限界を超えており,その後傾きは急激に減少したため,センタリング力の極大値がはっきり現れたと言える。

一方で,実大規模解析において角度が最大となった0.30 sec時における圧力分布は,オフセットした側(左側)の圧力が高い状態で維持されており,鋼板は慣性力で傾き過ぎることなく,傾きを維持しながら鋼帯が移動したと言える。このようなサイドプレート高さ50 mm時の特徴により,最大傾き角度,つまり最大蛇行矯正力は小さく抑えられた。結果として,実大規模解析では縮小スケール解析より,サイドプレート高さ増加時の最大蛇行矯正力の増加割合が大きくなったものと考える。

フローター蛇行の矯正力検証に関して,鋼帯の移動・傾き変化の時間スケールや慣性力の影響まで加味する必要があり,実大規模での評価が適切であると言える。その点で,フローター現象の予測に関して,フルード数の一致が重要となる。

6. 結言

フローターによる薄鋼帯の蛇行矯正力を簡易に予測するため,二次元数値流動解析モデルを開発した。実大規模1/10スケールの数値解析と実験による比較検証を行い,開発した数値解析モデルがフローター蛇行矯正力を定量的に精度良く評価できる可能性を示した。また開発した数値解析モデルにより実大規模フローターの蛇行矯正力の予測を行った。得られた結論を以下に示す。

(1)メッシュの移動,変形,再生成を扱えるダイナミックメッシュモデルを用いることで,フローターからの気体噴射により,鋼板が浮上し,傾き,蛇行が矯正される挙動を解析できる二次元数値流動解析モデルを開発した。実大規模1/10スケールの数値解析にて,フローターサイドプレート高さ変更による蛇行矯正力の変化を評価した。サイドプレート高さを5 mmから10 mmに高くすることで,最大蛇行矯正力は2.15倍向上した。

(2)数値解析の精度検証のため,実大規模1/10スケールのフローター1台を用いた実験にて,フローターサイドプレート高さ変更による蛇行矯正力の変化を評価した。サイドプレート高さを5 mmから10 mmに高くすることで,蛇行矯正力は2.21倍向上した。

(3)サイドプレート高さを変更した際の蛇行矯正力変化について,二次元数値流動解析は,実験と定量的に良い一致を示した。開発した二次元数値流動解析モデルは,蛇行矯正力の定量的な評価が可能であることを示した。

(4)開発した二次元数値流動解析により,実大規模フローターのサイドプレート高さ変更による蛇行矯正力の変化を評価した。サイドプレート高さを50 mmから100 mmに高くすることで,最大蛇行矯正力は2.48倍向上した。

(5)縮小スケール実験は,相似則の観点から実大規模の蛇行矯正力の予測に課題がある。一方で,二次元数値流動解析で考慮困難な鋼帯長手方向の張力の影響を検証でき,フローター蛇行挙動の解明に有効な手段である。また縮小スケールと実大規模解析の比較を行い,時間スケールや慣性力の違いが蛇行挙動に影響することを示し,相似則としてフルード数を一致させることの重要性を示した。

文献
 
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