2024 Volume 110 Issue 2 Pages 41-50
As for steelmaking process such as basic oxygen furnace (BOF) and electric arc furnace (EAF), slag foaming consists of introducing gas bubbles into molten metal and slag by chemical reaction. In the case of the BOF process, excessive foaming is over the converter capacity, a phenomenon called “slopping”. Slopping reduces yield and equipment lifespan and increases production time. It is therefore important to control slag foaming properly. In previous studies by other investigators, the jet from top lance in BOF process effectively suppresses slag foaming. However, it is not obvious which mechanism of the jet from top lance is effective to suppress slag foaming, and its quantitative effect has not been reported. To clarify the relationship between slag foaming and the jet from top lance, the effects of the number of nozzle holes and lance height on the slag foaming were investigated by using a converter-shaped water-model device and test converter. The experimental results indicated that slag foaming height decreased as the number of nozzle holes increased. Also, slag foaming height changed instantly with the change in lance height, e.g., slag foaming height decreased as lance height increased, and vice versa. The foaming suppression mechanism of the jet from top lance is the entrainment of foaming slag into the jet. Consequently, slag foaming model that takes the effect of the jet from top lance into account is proposed. And it enables to predict the change in slag foaming height with time.
転炉プロセスにおいて,脱炭反応によるCOガスに起因して,スラグフォーミング(以降,フォーミングと称す)現象が起こる。フォーミングが激化すると,炉口から粒鉄混じりのスラグが溢れ出す,いわゆるスロッピングが発生する。スロッピングは鉄歩留まりの低下や炉下清掃時間のための時間確保による稼働率の低下を引き起こすため,吹錬中はスロッピングを発生させないことが重要である。
スロッピング防止に関する既往知見として,Fig.1に示すように,上吹きランスを単孔ノズルから多孔ノズルにしたことで,スロッピング発生率が減少したと報告されている。なお,Fig.1は文献中の表データを基に著者が作成1)した。スロッピングの発生とフォーミング高さは密接な関係にある2)ことから,単孔ノズルから多孔ノズルにしたことで,フォーミング高さも減少したと推測される。しかし,多孔ノズルによって,フォーミング高さが減少したメカニズムについては,不明とされている1)。
Comparison of the slopping frequency between single-hole nozzle and multiple-hole nozzle1).
上吹き条件がフォーミング挙動に及ぼす影響については,コールドモデル実験による複数の調査が行われている3,4)。Niら3)は,底吹きArガスによってシリコンオイルを泡立たせて,異なる種類のノズルを用いて,ガス(圧縮空気)を上から吹き付けたときのフォーミング高さの変化を調査した。また,Wangら4)は,H2SO4とNa2CO3の化学反応で生じたCO2ガスによってシリコンオイルを泡立たせて,ランス高さや上吹きガス流量を変化させた条件で,上吹きランス噴流がフォーミング高さの推移に及ぼす影響を調査した。いずれの結果も,上吹きランス噴流によってフォーミング高さは減少した。さらに,上吹きランスの仕様,ガス流量,ランス高さといった上吹き条件がフォーミング挙動に影響を及ぼすことが確認された。しかし,上吹きランス噴流によるフォーミング抑制メカニズムについては,両文献ともに,上吹きランス噴流によって泡沫の液膜が破壊されたため,フォーミング高さが低くなったという報告に留まり,定量的な効果については不明である。
そこで,本研究では,上吹き条件とフォーミング挙動に関する基礎的な検討として,水モデル実験と試験転炉実験を行い,上吹きランス噴流がフォーミング挙動に及ぼす影響を調査し,その定量的な効果について検討した。
上吹きランス噴流がフォーミング挙動に及ぼす影響を調査する上で,容器形状や容器と上吹きランスの位置関係を実機と相似とするため,Fig.2に示す転炉水モデル装置(炉内径650 mm,高さ1000 mm)を用いた。なお,容器下部は上面直径650 mm,下面直径545 mm,高さ215 mmの円錐台形状である。
Schematic diagram of experimental apparatus in the water model experiments.
Niら3)やWangら4)の実験では,模擬スラグとして転炉スラグの粘度と同程度のシリコンオイルが使用されている。しかし,Niら3)の実験装置(直径93 mm,高さ280 mmの円筒形状)よりスケールの大きい本実験装置では,シリコンオイルを泡立たせる大量の微細気泡を発生させることは不可能であった。また,Wangら4)のフォーミング生成方法では,上吹きランス噴流による浴の攪拌が化学反応に寄与し,フォーミング生成速度を変化させる。そのため,上吹きランス噴流によるフォーミング抑制効果のみを抽出し,評価することが困難である。そこで,本実験では,比較的スケールの大きい実験装置においても泡寿命が長い泡沫層を形成でき,かつ,上吹きランス噴流がフォーミング生成速度に寄与せず,フォーミング生成速度を制御可能な石鹸水を使用することとした。
容器内に水深200 mm,室温の石鹸水(水55 L,合成洗剤25 mL)を用意した。容器の底に高気孔率セラミック板を設置し,下からガス(圧縮空気)を流すことで,微細気泡を発生させて,石鹸水を泡立たせ,フォーミングやスロッピングを模擬した。測定時間は,上吹きガスと底吹きガスをほぼ同時に流し始め,そのタイミングを0秒とした。そして,フォーミング高さが炉口付近に到達したタイミングで底吹きガスを止めて,測定を終了した。測定開始時のフォーミング高さを基準0 mmとし,フォーミング高さの推移を装置正面に設置したビデオカメラで撮影した。
ノズル孔数の影響を調査する実験では,4~6孔のノズルチップを用意した。ノズル孔数が同じであっても,ノズル径によって,噴流強度が異なるため,フォーミングに及ぼす影響も異なる3)。そこで,噴流強度に関する指標に基づいて,その指標がそろうようにノズルチップを設計し,その条件下におけるノズル孔数の影響を調査した。
Segawa5)によると,凹み深さは浴の攪拌と関連があり,炉内の反応を考える上で一つの目安となる。そこで,凹み深さLと浴深さL0の比L/L0を上吹き条件の指標とし,凹み深さLをSegawaの方法で計算した。
以上より,L/L0をそろえて設計した4~6孔の上吹きランス仕様をTable 1に示す。その他,上底吹きガス流量はそれぞれ50 Nm3/h,ランス高さは200, 350, 550, 700 mmの4水準とし,実験を行った。
Nozzle tip | Nozzle diameter | Nozzle angle | L/L0 (Lance height 550 mm) |
---|---|---|---|
4-hole, straight nozzle tip | 3.75 mm | 15° | 0.057 |
5-hole, straight nozzle tip | 3.00 mm | 15° | 0.057 |
6-hole, straight nozzle tip | 2.50 mm | 15° | 0.057 |
次に,メタル-スラグ系における上吹きランスのノズル孔数,ランス高さがフォーミング挙動に及ぼす影響を調査するために,炉内径980 mm,高さ2000 mmの試験転炉を用いて実験を行った。実験手順としては,炉内に溶銑2.0トン(浴深380 mm)を装入し,装入塩基度が1.0となるように石灰石と耐火物保護のためMgO粒(4.0 kg)を添加した。その後,上吹きランスから酸素を溶銑へ吹き付け,底吹き羽口からArガスを溶銑中へ吹き込んで吹錬を行った。吹錬時間は上吹きランスからの酸素吹き付けを開始したタイミングを0秒とした。実験中のフォーミング高さの時間推移をマイクロ波スラグレベル計2)を用いて測定した。浴温度やメタル・スラグ成分については,実験中に測温サンプラーを炉内に降下させ,浴温度を測定しながらメタルとスラグを採取し,それらの成分分析を行い,時間推移データを得た。
2・2・1 ノズル孔数の影響実験条件をTable 2に,上吹きランス仕様をTable 3に示す。同一酸素流量およびランス高さにおいて,L/L0をそろえた3~5孔ランスを用いて,ノズル孔数がフォーミング挙動へ及ぼす影響を調査した。
Hot metal | Mass (ton) | 2.0 | |
Initial composition (mass%) | C | 4.2 | |
Si | 0.48 | ||
Mn | 0.20 | ||
P | 0.12 | ||
Slag | Amount (kg/t) | 40 | |
Input basicity (-) | 1.0 | ||
Top blowing conditions | Lance height(mm) | 720 | |
Oxygen flow rate (Nm3/h) | 360 | ||
Blowing time (s) | 360 | ||
Bottom blowing conditions | Argon flow rate (Nm3/h) | 36 |
Nozzle tip | Nozzle diameter | Nozzle angle | L/L0 (Lance height 720 mm) |
---|---|---|---|
3-hole, straight nozzle | 8.9 mm | 20° | 0.16 |
4-hole, straight nozzle | 6.8 mm | 20° | 0.16 |
5-hole, straight nozzle | 5.3 mm | 20° | 0.16 |
実験条件をTable 4に示す。吹錬中,ランス高さを変更した後に基準の高さ(600 mm)に戻す操作を行い,フォーミング挙動を調査した。ランス高さは吹錬開始180秒で900 mm,300秒で800 mm,420秒で350 mm,540秒で1000 mmに変更した。なお,ランス高さの変更時間は,ランス高さが精錬挙動へ及ぼす影響を極力排除するために,15秒の短時間とした。
Hot metal | Mass (ton) | 2.0 | ||||
Initial composition (mass%) | C | 4.2 | ||||
Si | 0.15 | |||||
Mn | 0.30 | |||||
P | 0.13 | |||||
Slag | Amount (kg/t) | 40 | ||||
Input basicity (-) | 1.0 | |||||
Top blowing conditions | 3-hole, straight nozzle | |||||
Oxygen flow rate (Nm3/h) | 360 | |||||
Blowing time (s) | 630 | |||||
Lance height (mm) | Base | Blowing time (s) | ||||
180–195 | 300–315 | 420–435 | 540–555 | |||
600 | 900 | 800 | 350 | 1000 | ||
Bottom blowing conditions | Argon flow rate(Nm3/h) | 72 |
Fig.3にランス高さ550 mmにおけるフォーミング高さの推移を示す。まず,上吹きなしの結果と比較して,上吹きによるフォーミング抑制効果を確認した。また,ノズル孔数が増加するほど,フォーミング抑制効果が増大した。本実験条件の範囲において上吹きなしではフォーミング高さは単調増加するが,上吹きによりフォーミング高さの増加速度は緩やかになった。また,フォーミング高さ上昇に伴い,フォーミング高さの増加速度が緩やかになっており,これは,フォーミング高さが上昇するほど,フォーミング抑制効果が大きくなることを示唆している。Fig.4に6孔においてランス高さを変更した際のフォーミング高さの推移を示す。ランス高さ200 mm,350 mm,550 mmで比較するとランス高さが大きくなるほど,フォーミング高さは減少傾向であった。一方で,ランス高さ700 mmについては,他3水準と傾向が異なった。この理由については,後述する。
Behavior of foaming height with lance height of 550 mm in the water model experiments.
Behavior of foaming height with 6-hole nozzle in the water model experiments.
Fig.5に浴温度とメタル中炭素濃度,メタル中珪素濃度,スラグ中T.Fe濃度,スラグ塩基度の推移を示す。ノズル孔数に依らず,温度推移と脱炭脱珪挙動は同様であった。スラグ中T.Fe濃度についても大きな差異はなかった。スラグ塩基度は,吹錬中盤までノズル孔数が多いほど高い傾向が見られたが,吹錬後半は概ね同じであった。Fig.6にマイクロ波スラグレベル計で測定したフォーミング高さの推移を示す。ノズル孔数増加に伴ってフォーミング高さの低下が確認された。これは,転炉水モデル実験の結果と同等の傾向であり,試験転炉(メタル-スラグ系)においてもノズル孔数増加によるフォーミング抑制効果が確認された。
Behavior of hot metal temperature, carbon content in hot metal, silicon content in hot metal, T.Fe content in slag and slag basicity in the test converter experiments to examine the influence of the number of nozzles holes on slag foaming behavior.
Influence of number of nozzle holes on the foaming behavior.
Fig.7に浴温度とメタル中炭素濃度,メタル中珪素濃度,スラグ中T.Fe濃度,スラグ塩基度の推移,Fig.8に吹錬中にランス高さを変更した際のフォーミング高さの推移を示す。Fig.8より,ランス高さ変更とともに,フォーミング高さは瞬時に変化し,フォーミング高さはランスを下げると増加し,逆に上げると低下した。吹錬終了直後の挙動について,ノズル孔数の影響を調査した実験結果(Fig.6)と比較すると,フォーミング高さが急上昇していないことがわかる。この理由については,吹錬時間が長く,吹錬末期の温度が100°C近く高くなり,スラグの粘度が低下したためと推測される。
Behavior of hot metal temperature, carbon content in hot metal, silicon content in hot metal, T.Fe content in slag and slag basicity in the test converter experiments changing the lance height during the top blowing period.
Behavior of foaming height in the test converter experiments changing the lance height during the top blowing period.
実験結果をもとに,上吹きランス噴流によるフォーミング抑制効果を考慮したモデルを検討した。噴流は周囲の流体を巻き込みながら減衰する特性があるため,上吹きランス噴流が周囲の流体としてフォーミングスラグも同時に巻き込むことで破泡し,フォーミングを抑制するという仮説を立てた。三次元軸対称円形自由噴流において,噴流に巻き込まれる体積流量Q(m3/s)は式(1)で表される6)。
(1) |
ここで,Q0:上吹き流量(m3/s),x:噴流の軸方向の長さ(m),r0:ノズル孔半径(m)である。噴流がフォーミングスラグ中を通過する際の1孔当たりの巻き込み破泡流量Q1がQに比例すると,xはフォーミングスラグ中を通過する噴流の軸方向の長さとみなすことができるため,以下のように書ける。
(2) |
(3) |
ここで,式(2)はランス先端がフォーミングスラグに浸漬しているか否かによって,フォーミングスラグ中を通過する噴流の長さが変わることを表す。Q1:噴流がフォーミングスラグ中を通過する際のノズル1孔当たりの巻き込み破泡流量(m3/s),Hf:フォーミング高さ(m),Hlance:ランス高さ(m),θ:ノズル傾斜角(°),α:破泡効率(噴流への泡の巻き込まれやすさおよび巻き込まれた泡の破泡割合を表すパラメータ),n:ノズル孔数(-)である。
底吹きガスによるフォーミング生成速度と上吹きランス噴流による破泡速度のバランスにより,上吹き時のフォーミング速度(フォーミング体積変化)は式(4)で表される。
(4) |
ここで,Vf:フォーミング体積(m3),S:容器断面積(m2),β:フォーミング寄与率,Q2:底吹き流量(m3/s),γは噴流干渉パラメータである。フォーミング寄与率とは,炉内発生ガスのうちフォーミングに寄与する割合を表すパラメータであり,水モデル実験では炉内発生ガスを底吹きガスとし,試験転炉実験では炉内発生ガスを脱炭反応で生じたCOガスとした。噴流干渉パラメータとは,多孔ノズルからの吐出する噴流において隣接する噴流間の干渉影響を表すパラメータであり,γ=1は噴流間の干渉がない状態を表す。γが小さいほど噴流間の干渉影響が大きくなることを表し,孔数増加の影響が小さくなることを意味する。βは上吹きなしの実験結果から求めることができ,本実験条件ではβ=0.82となった。式(4)を積分し,フォーミング高さの経時変化を計算した。
Fig.9に実験値と計算値の比較を示す。パラメータフィッティングにより,α=0.0247, γ=0.35とすることで,ランス高さ200 mm,350 mm,550 mmの条件で本モデルによる計算値と実験値が概ね一致し,ノズル孔数増加によるフォーミング抑制効果を定量化することができた。したがって,水モデル実験における上吹きランス噴流によるフォーミング抑制メカニズムは,噴流への巻き込み破泡流量で整理可能と考えられる。
Comparison between the calculated and measured foaming height in the water model experiments. (a) Hlance =200 mm (b) Hlance =350 mm (c) Hlance =550 mm (d) Hlance =700mm
一方で,ランス高さ700 mmの条件では,実測値と計算値に乖離が生じた。浴面における上吹きランス噴流の衝突面を幾何学的に求めると,ランス高さ700 mmの条件のみ,噴流が容器側面に衝突しており,噴流への巻き込み破泡流量が減少したため,他3水準と異なる傾向を示したと推測される。
4・2 試験転炉実験 4・2・1 ノズル孔数の影響フォーミングは脱炭反応により生じたCOガスがスラグ内に気泡として滞留することで発生する。一方で,Matsuura and Fruehan7)はCOガスの発生速度が大きく,かつ,泡寿命が長く,スラグ全体がフォーミングしている場合は,スラグ量がフォーミング高さに大きく影響を及ぼすと報告している。そこで,スラグ量で規格化したスラグのフォーミング度合を示す平均フォーミング倍率(=Vf/Vs)を算出し,スラグ内に滞留しているCOガスの割合について調査した。ここで,Vfはフォーミング体積(m3)で,フォーミング高さに転炉内断面積を掛けた値,Vsは非フォーミング時のスラグ体積(m3)で,スラグ量をスラグ真密度(3000 kg/m3)で除した値である。スラグ量はメタルとスラグの分析値より,Mnの物質収支計算で求めた。
Fig.10に吹錬中から吹錬終了直後における平均フォーミング倍率の推移を示す。吹錬中の平均フォーミング倍率は約20倍であったのに対し,吹錬終了直後の平均フォーミング倍率は40倍程度と急激に増加した。この結果より,吹錬中は上吹きランス噴流によるフォーミング抑制効果が発現していたが,吹錬終了直後は,その効果がなくなったため,スラグが40倍程度までフォーミングしたと考えられる。また,ノズル孔数が多いほど,吹錬中の平均フォーミング倍率は小さくなり,フォーミング抑制効果の増大を確認した。
Behavior of averaged foaming ratio in the test converter experiments to examine the influence of the number of nozzle holes on the slag foaming behavior.
Ogawa and Tokumitsu8)は,X線透視法によるスラグフォーミングの観察を行い,スラグが泡沫層と気泡分散層の2層に分かれる様子を観察した。この知見を基に,炉内のスラグは,泡沫層に相当する「フォーミングした低密度スラグ層」と気泡分散層に相当する「フォーミングしていない高密度スラグ層」の二層に分離すると考え,上吹きランス噴流によるフォーミング抑制メカニズムの仮説を立てた。Fig.11に概略図を示す。吹錬終了直後は,高密度スラグ層が存在せず,低密度スラグ層の状態と推測される。このときの吹錬直後の上吹きがない場合の平均フォーミング倍率が約40倍という前述の結果より,低密度スラグ層では,スラグが40倍にフォーミングしていると考えられる。一方,吹錬中は,上吹きランス噴流の影響がない箇所では,低密度スラグ層の状態と考えられるが,噴流によるスラグ巻き込み領域では,破泡効果により,噴流近傍で局所的に高密度スラグ層が生成した後に,沈降して湯面近傍に滞留し,スラグ全体の平均フォーミング倍率は低下する。ノズル孔数が増加すると,巻き込み破泡流量が増加するため,高密度スラグ量も増加し,スラグ全体の平均フォーミング倍率はさらに低下すると考えられる。
Schematic diagrams of slag foaming suppression mechanism by the jet from top lance.
以上の仮説に基づき,水モデル実験で考案したフォーミングモデルを拡張し,メタル-スラグ系のフォーミングモデルを検討した。Fig.12にフォーミングモデルの概略図を示す。本モデルでは,上吹きランス噴流による破泡とフォーミングの鎮静ならび生成によって,スラグが低密度スラグ層と高密度スラグ層の間で循環すると仮定し,各層のスラグ重量からフォーミング高さを計算する。吹錬中の平均フォーミング倍率が約20倍だったことから,高密度スラグの重量割合は約50%であったと推定され,したがって,破泡および鎮静によって高密度スラグ層に供給されたスラグは,瞬時にフォーミングせずに,高密度スラグ層にしばらく滞留し,その後にフォーミングすると推測される。
Schematic diagrams of the slag foaming model.
以下モデルの詳細について述べる。フォーミング高さHfは式(5)で,各スラグ層の収支は式(6),(7),(8)で表される。
(5) |
(6) |
(7) |
(8) |
Hf:フォーミングスラグ高さ(m),Vf:フォーミングスラグ体積(m3),S:炉断面積(m2)
ρ:スラグ真密度(kg/m3)(=3000),ε:低密度スラグ層のフォーミング倍率(-)(=40),WF:低密度スラグ量(kg),WD1:フォーミング生成サイト以外に存在する(噴流中や沈降中の)高密度スラグ量(kg),WD2:フォーミング生成サイトに存在する高密度スラグ量(kg),wf:フォーミング生成速度(kg/s),wj1:上吹きランス噴流による低密度スラグの破泡速度(kg/s),wc1:低密度スラグの鎮静速度(kg/s),wj2:破泡によるフォーミング生成サイトへの高密度スラグ供給速度(kg/s),wc2:鎮静によるフォーミング生成サイトへの高密度スラグ供給速度(kg/s),wslag:液相スラグの生成速度(kg/s),t:時間(s)である。
ここで,鎮静とは,時間経過とともに重力の作用によって液膜が薄くなり,気泡が不安定となることで破壊され,低密度スラグが高密度スラグになることである。また,本モデルでは,液相スラグのみがフォーミングすると仮定し,液相率はFactSage7.39)で計算した。
フォーミング生成速度は「フォーミング生成サイトに存在する高密度スラグ量」か「COガス発生速度」のどちらか少ない方に制約される。すなわち,前者が後者より小さいときはスラグ量が,逆に後者が小さいときはCOガスがフォーミング生成の支配因子になることを意味する。フォーミング生成速度wfを式(9)に示す。
(9) |
QCO: COガス発生速度(m3/s)である。COガスは火点で発生すると仮定し,COガス発生速度は,ガス温度2000°Cとして算出した。
上吹きランス噴流による低密度スラグの破泡速度wj1(以降,破泡速度と称す)は,転炉水モデル実験で得られた破泡速度(式(3))を基に,式(10)で表される。
(10) |
泡寿命については,Zhang and Fruehan10)が提唱したフォーミングインデックス:Σ(s)を用いて,式(11)より求めた。
(11) |
ここで,μ:スラグ粘度(Pa・s),σ:スラグの表面張力(N/m)(=0.5),Db:気泡径(m)(=2.0×10-3)8)である。スラグ粘度は,Iidaらの手法11)より計算した。解析結果より,フォーミングインデックスの値は,約0.5秒であった。これは,Ogawa and Tokumitsu8)が報告した泡の寿命は約120秒という値と比較して1/240である。Ogawa and Tokumitsu8)のスラグ組成は,塩基度約1.0,T.Fe濃度約15mass%,温度1500°Cと,本実験と概ね同じことから,フォーミングインデックスの補正係数をaとして,a=240とした。フォーミングインデックスより,低密度スラグ層の鎮静速度wc1は式(12)で表される。
(12) |
破泡によるフォーミング生成サイトへの高密度スラグ供給速度wj2と鎮静によるフォーミング生成サイトへの高密度スラグ供給速度wc2については,それぞれ,フォーミングスラグが破泡,鎮静して高密度スラグになった後,沈降してフォーミング生成サイトに吸収される速度を意味し,沈降するまでの滞留時間を考慮して,式(13),式(14)で表される。
(13) |
(14) |
ここで,tj:破泡後の高密度スラグがフォーミング生成サイトに供給されるまでの滞留時間(s),tc:鎮静後の高密度スラグがフォーミング生成サイトに供給されるまでの滞留時間(s)である。
式(6),(7),(8)から各スラグ量を求めることができ,各スラグ量を式(5)に代入し,フォーミング高さHfを計算した。初期条件,t=0の時の各スラグ量は0とし,パラメータフィッティングを行い,α=0.05,β=0.30,γ=0.65,tj=4,tc=3とした。Fig.13にフォーミングモデルにおける計算値と実測値の比較を示す。本モデルの計算値と実測値は吹錬初期を除き概ね一致した。吹錬初期に一致しなかった理由については,後述する。以上より,メタル-スラグ系においても,ノズル孔数増加によるフォーミング抑制効果を定量的にモデルで再現することができた。
Comparison between the calculated and measured foaming height in the test converter experiments to examine the influence of the number of nozzle holes on the slag foaming behavior.
フォーミングモデルを用いて,フォーミング高さの推移を計算した結果をFig.14に示す。各パラメータについては,前述の値と同じ値を使用した。フォーミング高さがランス高さより大きい時,すなわち,ランスがスラグに浸漬している時にランス高さを変更した場合(300秒および420秒近傍),計算値は実測値と同様の挙動を示した。しかし,ランスがスラグに浸漬していない時にランス高さを変更した場合(180秒および540秒近傍)のフォーミング挙動は再現できなかった。ランスがスラグに浸漬しているときにランスを上昇させた場合,上吹きランス噴流への巻き込みの影響を受けていなかった上方のスラグが噴流に巻き込まれ,破泡速度が増加し,フォーミング高さは低下した。ランスを降下した場合は,上記と逆の現象が生じるはずであるが,そうならなかった理由としては,本モデルではランスがスラグに浸漬しない範囲でランス高さを変更しても,破泡速度が変化しないためであると考えられる。噴流吐出直後の流速が大きい箇所ではフォーミングスラグと噴流の間にスリップが発生し,破泡効率αが変化する可能性も考えられ,今後,水モデルや数値解析による詳細な検討が必要である。また,Fig.13,14ともに吹錬初期の挙動が再現できていない。モデルでは,フォーミング倍率40倍一定としているが,実態は実塩基度や温度等によって,吹錬中のフォーミング倍率が変化しており,吹錬前半の値が40倍よりも大きいこと等が原因として考えられる。今後,塩基度や温度等の条件を変更した実験を行い,検証する。
Comparison between the calculated and measured foaming height in the test converter experiments changing the lance height during the top blowing period.
水モデル実験と試験転炉実験を行い,転炉上吹きランス噴流がフォーミング挙動に及ぼす影響を調査し,以下の結論を得た。
(1)転炉水モデル実験より,上吹きランス噴流によるフォーミング抑制効果ならびにノズル孔数増加によるフォーミング抑制効果の増大を確認した。
(2)上吹きランス噴流へのフォーミングスラグ巻き込みによる破泡効果を考慮したフォーミングモデルを作成し,実測値を概ね再現した。上吹きランス噴流のフォーミング抑制メカニズムは,噴流へのフォーミングスラグ巻き込み量で説明できると考えられる。
(3)試験転炉実験において,ノズル孔数増加に伴い,フォーミング高さは減少した。L/L0を同等とした3~5孔の精錬挙動がほぼ同等であることから,水モデル実験と同様に,上吹きランス噴流がフォーミング挙動に影響を及ぼしたと考えられる。
(4)吹錬中にランス高さを変更することで,フォーミング挙動は瞬時に変化し,ランスを下げるとフォーミング高さは増加し,逆に上げるとフォーミング高さは減少した。
(5)水モデル実験で得たモデルを拡張し,メタル-スラグ系におけるフォーミングモデルを作成した。本実験条件において,上吹きランス噴流がフォーミング挙動に及ぼす影響を概ね定量的に再現することができた。