鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
溶鋼中の各種固体酸化物間に働く凝集力
笹井 勝浩 諸星 隆
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 110 巻 4 号 p. 353-363

詳細
Abstract

In this study, to elucidate the agglomeration mechanism of various inclusions in molten steel based on their interfacial chemical interactions, the agglomeration forces exerted between the solid-phase oxides of MgO, MgAl2O4, ZrO2, SiO2, and TiO2 in molten steel, in addition to those between the reference material Al2O3 have been measured directly. We experimentally verified for the first time that the agglomeration force due to the cavity bridge force in molten steel acts in a relatively stable manner between all solid-phase oxides that are difficult to wet with molten steel. Furthermore, this force decreased with increasing O concentration in molten steel, which is attributed to the interfacial activation effect caused by the adsorption of oxygen at the interface between the oxides and molten steel. The agglomeration properties of various oxide inclusions in the deoxidized molten steel were further evaluated from the perspectives of both agglomeration force and thermodynamics. Quantitative analysis indicated easy agglomeration of oxide inclusions in the order MgO < TiO2 < SiO2 < MgAl2O4 < ZrO2 < Al2O3. A comparative evaluation of the agglomeration and external forces acting on the oxide inclusions in molten steel suggests that any oxide inclusion in the deoxidized state forms cavity bridges and agglomerates and retains that state under intense molten steel flow. However, these agglomerated inclusions may separate again under a molten steel flow at a high O concentration. The extent of separation depends primarily on the type of oxide used.

1. 緒言

高清浄鋼への要求水準の厳格化に伴い,精錬工程ではこれまで問題にならなかった微細な介在物までを対象に凝集合体を促進し,粗大介在物として溶鋼中から除去すると共に,浮上分離が困難な連鋳工程では反対に凝集合体を抑制し連続鋳造用ノズルへの付着と付着物剥離に起因する粗大介在物の混入を防止するといった工程一貫での介在物制御が重要となる。著者は,これまで溶鋼中でのAl2O3介在物の凝集機構1,2,3)とAl2O3介在物の生成・成長・除去の速度論4,5)について界面化学の観点から基礎的な検討を行い,脱酸速度の律速過程ではAl脱酸により溶鋼中に生成したAl2O3介在物が空隙架橋力を起源とする大きな凝集力に基づいて凝集合体し,Al2O3クラスター介在物として除去されることを明らかにした。これら一連の研究はAl2O3介在物だけを対象にしてきたが,実際の製鋼プロセスでは多種・多様な介在物の粒径や量を適正に制御する必要があるため,Al2O3以外の酸化物系介在物の凝集機構を各々の界面物性の影響まで考慮して,基礎的に解明することが重要である。

製鋼プロセスでは,精錬反応速度や上述の脱酸生成物の浮上分離挙動など,溶鋼と酸化物界面の関与する複雑な現象が数多く存在するため,それらの現象の理解と効果的な制御を目的として溶鋼と酸化物との濡れ性や界面張力の測定が行われてきた6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19)。しかし,酸化物との接触角や界面張力に及ぼす溶鋼中O濃度の影響7,8,9,10,11,12,13)については,Al2O3と酸化物系スラグを除いて僅かな測定例12)があるのみで,Al2O3以外の固体酸化物の凝集性を溶鋼中のO濃度に応じて系統的に議論するには十分でないように思われる。

本研究では,溶鋼中の固体介在物の凝集機構を界面化学的な相互作用の観点から理解するために,既報1,2,3)で確立した溶鋼中での酸化物の凝集力測定実験を用いて,O濃度の異なる溶鋼中でAl2O3,MgO,MgAl2O4,ZrO2,SiO2およびTiO2の各固体酸化物間に働く凝集力を測定した。得られた凝集力に酸化物粒子間の相互作用モデルを適用してOによる界面物性の変化を解析すると共に,各種介在物の凝集性を評価した。

2. 実験

2・1 実験装置

溶鋼中の酸化物円柱間に作用する凝集力を直接測定するための実験装置をFig.1に示す。実験には,凝集力に及ぼす溶鋼流動の影響を極力抑制する目的から,高周波誘導加熱されたグラファイト円筒を発熱体とする抵抗加熱炉を使用した。凝集力測定のために,内径40 mm,高さ150 mmのアルミナ製るつぼの内側壁に,直径8 mmの所定組成の酸化物円柱を垂直に固定した。一方,外径 8mm,長さ380~440 mmのアルミナ製保護管の下端にも,同じ直径と組成を有する長さ30 mmの凝集力測定用の酸化物円柱を取り付けた。このアルミナ製保護管の上端を溶解炉上のアルミニウムロッドにつなぎ,るつぼ内の溶鋼中で酸化物円柱同士が平行に線接触するように配置した。アルミニウムロッドの上端から40 mm下の位置を回転軸として,アルミナ製保護管が滑らかに回転できる機構となっている。力計測器をガイドレール上の可動ステージに固定し,ワイヤーで駆動モータに連結した。アルミニウムロッドの回転軸から30 mm上方の位置に力計測器を水平にフックでつなぎ,駆動モータによりアルミニウムロッドを引っ張ると,溶鋼中の酸化物円柱間の凝集力に抗して発生する牽引力が出力される。本装置では,回転軸から上方の力計測器取り付け位置までの距離に対して回転軸から下方の酸化物円柱までの距離を大きくとることで,溶鋼中の酸化物円柱間に生じる微小な凝集力をてこの原理により増幅して測定することができる。

Fig. 1.

Experimental apparatus for agglomeration force measurement.

2・2 実験方法

凝集力を評価した酸化物円柱は,Al2O3(poly crystal, 99.6% Al2O3, Nikkato, Japan),MgO(poly crystal, 99.6% MgO, Nikkato, Japan),MgAl2O4(poly crystal, 98.8% MgAl2O4, Nikkato, Japan),ZrO2(poly crystal, 93% ZrO2-5.5% CaO, Nikkato, Japan),TiO2(poly crystal, 85% TiO2-10% SiO2, Takao Manufacturing, Japan)およびSiO2(glass, transparent quartz)である。全ての酸化物円柱は高純度緻密質の保護管または丸棒から所定長さに切り出し,製品表面のまま実験に使用した。詳細な粗度測定は実施していないが,顕微鏡観察によると全ての酸化物円柱の表面粗度は最大高さで10×10−6 m以下の範囲であった。酸化物円柱を内側壁に固定したるつぼに電解鉄(C濃度=0.001 mass%, S濃度=0.0001 mass%, O濃度=0.005 mass%)600 gを入れ,Arガス雰囲気中で溶解した後,溶鋼温度をSiO2とTiO2では1580°C一定,他の酸化物では1600°C一定に保持した。脱酸状態(低O濃度域)で凝集力を測定する場合,Al2O3,ZrO2,SiO2およびTiO2では酸化物組成に応じて各々Al,Zr,SiおよびTiを添加することにより,またMgOとMgAl2O4では脱酸元素濃度の安定化の観点から揮発性のMgは使用せずAlを添加することにより脱酸しO濃度を調整した。一方,未脱酸状態(高O濃度域)で凝集力を測定する場合には,所定量のFe2O3を添加することにより溶鋼中のO濃度を高めた。保護管の下端に取り付けた各種酸化物円柱を成分調整後直ちに溶鋼中に浸漬し,るつぼ底から10 mmの位置で,るつぼ内側壁の同種の酸化物円柱と平行に接触させて凝集力の測定を開始した。可動ステージを緩やかに移動させると,出力される牽引力は最大値に達した瞬間に酸化物円柱の分離を伴って低下する。この最大牽引力FT,Max(N)からてこの原理に基づく式(1)を用いて,その溶鋼成分と酸化物種における凝集力FA(N・m−1)を求めた。

  
FA=LU(LDL2)LFT,Max(1)

ここで,LUは回転軸から力計測器取り付け位置までの距離(m),LDは回転軸から酸化物円柱下端までの距離(m),Lは酸化物円柱の長さ(m)である。実験時の溶鋼成分を把握するため,凝集力測定の前後で内径6 mmの透明石英管により溶鋼試料を採取し,溶鋼中の脱酸元素濃度,全酸素濃度の分析に供した。実験時の溶鋼中O濃度として,脱酸溶鋼では実験前後の脱酸元素濃度から各々の脱酸平衡値20,21)を用いて算出した平衡O濃度の平均値を,またFe2O3のみ添加した未脱酸溶鋼では実験前後の全酸素濃度の平均値を用いた。実験時の脱酸元素濃度についても,同様に実験前後の分析値の平均濃度とした。

3. 実験結果

溶鋼中での二等円柱酸化物間の凝集力に及ぼす溶鋼中脱酸元素濃度の影響をFig.2に示す。[X]は溶鋼中のX元素濃度(mass%),dCYは酸化物円柱の直径(mm)である。Fig.2と後述のFig.3では凝集力の主要な変化を酸化物毎に実線で,またばらつきが見られるMgAl2O4円柱とZrO2円柱については凝集力の下限値の変化を一点鎖線で表示した。なお,MgO円柱とMgAl2O4円柱はAl脱酸溶鋼中に浸漬しているが,両酸化物は熱力学的にAl2O3に近い安定性を持ち,さらにAl脱酸直後に凝集力の測定を開始していることから測定中は酸化物円柱表面でのMgO→MgAl2O4→Al2O3への変化は無視できるとした。酸化物円柱間の凝集力は,概ね脱酸元素濃度の上昇に伴い増大した後,各々の脱酸元素濃度以上で一定の値に達している。これらの凝集力の最大到達値を酸化物種毎に見ると,Al2O3円柱,MgAl2O4円柱およびMgO円柱では[Al]≧0.02 mass%において各々14.86 N・m−1,6.87 N・m−1および4.42 N・m−1,SiO2円柱では[Si]≧0.9 mass%において5.73 N・m−1である。ZrO2円柱の到達凝集力は上下に乖離しており,[Zr]≧0.025 mass%において1/3の測定値が下限の到達値4.01 N・m−1となるが,2/3の主要な測定値は最大の到達値9.95 N・m−1を示している。また,TiO2円柱については溶損のために低Ti濃度域の凝集力は測定できなかったが,[Ti]≧0.04 mass%になると浸漬直後であれば凝集力が発生し5.39 N・m−1の一定値を示した。よって,脱酸溶鋼中における各種酸化物の最大到達凝集力は,MgO(4.42 N・m−1)<TiO2(5.39 N・m−1)<SiO2(5.73 N・m−1)<MgAl2O4(6.87 N・m−1)<ZrO2(9.95 N・m−1)<Al2O3(14.86 N・m−1)の順に大きくなると評価できる。

Fig. 2.

Effect of deoxidizing element concentration in molten steel on the agglomeration force between two identical oxide cylinders with various composition in molten steel.

Fig. 3.

Effect of the concentration of O in molten steel on the agglomeration force between two identical oxide cylinders with various composition in molten steel.

溶鋼中の二等円柱酸化物間の凝集力に及ぼす溶鋼中O濃度の影響をFig.3に示す。Fig.3にはFig.2の凝集力が一定となりはじめる脱酸元素濃度から求めた平衡O濃度に対して各種酸化物の最大到達凝集力を,また測定値に乖離のあるZrO2円柱については凝集力の下限の到達値も併せてプロットした。各種酸化物の最低O濃度における凝集力が最大到達値である。MgAl2O4円柱とZrO2円柱の凝集力は一点鎖線を共通の下限値として,[O]≦0.01 mass%程度の低O濃度域でばらついている。しかし,これらを含む全ての酸化物円柱の主要な凝集力は,実線で示すように溶鋼中O濃度の増加に伴い減少する傾向にあり,溶鋼の表面張力や酸化物との接触角に及ぼすO濃度の影響と類似している6,7,8,9,10,11,12)。既報1,2,3)のAl2O3円柱と同様に,他の酸化物円柱の凝集力についても溶鋼と濡れ難いために生じる酸化物円柱間の空隙架橋を起源にして発生すると考えれば,これらの凝集力が溶鋼の表面張力や酸化物との接触角を介してO濃度の影響を受けるのは妥当な結果である。

脱酸溶鋼中で酸化物円柱同士を接触保持させた後,そのまま溶解炉の電源を切って急冷した凝固塊中の酸化物円柱の断面写真をFig.4に示す。Al2O3円柱と同様に,MgO円柱,MgAl2O4円柱,ZrO2円柱およびSiO2円柱でも,空隙架橋の形成が確認できる。なお,TiO2円柱では接触部が溶融しており空隙架橋は観察されなかったが,溶鋼への浸漬直後には空隙架橋が存在したために凝集力を測定できたと推定される。

Fig. 4.

Cross-sectional photograph of various oxide cylinders with a diameter of 8 mm in solidified steel ingots. (A) Al2O3, [Al]=0.064 mass%, (B) MgO, [Al]=0.07 mass%, (C) MgAl2O4, [Al]=0.11 mass%, (D) ZrO2, [Zr]=0.097 mass%, (E) SiO2, [Si]=0.091 mass%.

以上の結果から,本研究の対象とした各種酸化物円柱間に働く凝集力は,溶鋼と濡れ難いために生じる空隙架橋力に起因して発生すると考えられる。

4. 考察

4・1 溶鋼中の酸化物間に働く凝集力の変動

溶鋼中の酸化物円柱間に働く空隙架橋力による凝集力は,式(2)に示すように空隙架橋と溶鋼間の圧力差ΔPFe(Pa)と溶鋼の表面張力σFe(N・m−1)に起因する2つの粒子間引力の合力で表される1,2,3)

  
FA=2X4ΔPFe+2σFe=2(σFe2σFeΔPFedCYcosθOxFe)0.5(2)

X4は空隙架橋頸部の半幅(m),θOx-Feは溶鋼と酸化物間の接触角(°)である。一般に,酸化物は溶鋼と非常に濡れ難いため,その接触角は低O濃度域で90°よりもかなり大きく,溶鋼中のO濃度が高くなるにつれて90°付近まで低下する7,8,9,10,11,12)。その場合,式(2)から凝集力はO濃度の上昇に伴い減少し,溶鋼の表面張力に起因する粒子間引力2σFeに近づく。しかし,空隙架橋内の負圧ΔPFeが変動し0 Paになると,接触角が90°超の低O濃度域であっても凝集力は2σFeまで低下することが予想される。このような凝集力の変化を検証するために,溶鋼の表面張力の予測式(3)3)から2σFeを求め,Fig.3に点線で示した。

  
σFe=1.940.291ln(1+237[O])(3)

実験の精度や表面張力の予測精度を考えれば,実線で示した全ての酸化物円柱の主要な凝集力は低O濃度域で2σFeよりも大きく,O濃度が高くなるにつれて2σFeまで低下することから,溶鋼中の酸化物円柱間には主に空隙架橋内の負圧と溶鋼の表面張力に起因する2つの粒子間引力が作用していることが分かる。一方,一点鎖線で表されるMgAl2O4円柱とZrO2円柱の両凝集力の下限値はO濃度の依存性まで含めて2σFeに概ね一致することから,低O濃度域における両酸化物円柱の凝集力は一部空隙架橋内の負圧の減少に伴って溶鋼の表面張力に起因する粒子間引力まで低下していると理解できる。以上の検討から,溶鋼中の酸化物円柱間には,酸化物種に応じて空隙架橋内の負圧と溶鋼の表面張力の両者に起因する凝集力が実線のように比較的安定して作用するが,空隙架橋内の圧力は酸化物種に関わらず最大で溶鋼静圧+大気圧まで許容されるため,何れの酸化物円柱でも凝集力は溶鋼の表面張力に起因する粒子間引力を下限値として一部実線よりも低値側に変動すると考えられる。

凝集力の下限値は空隙架橋内の圧力変動に起因し低頻度で発生するため,Fig.3から[O]≦0.01 mass%程度の低O濃度域で下限値と判断できるMgAl2O4円柱とZrO2円柱の凝集力を除いた各種酸化物の主要な凝集力の変化をFig.5に改めて示す。以下では,この結果に基づいて凝集力の妥当性,酸素濃度依存性の機構および各種介在物の凝集性について詳細に議論する。

Fig. 5.

Effect of the concentration of O in molten steel on the major agglomeration force between two identical oxide cylinders with various composition in molten steel.

4・2 脱酸溶鋼中での各種酸化物の最大到達凝集力

溶鋼中の酸化物間に働く凝集力については測定例がないため,Fig.2の脱酸溶鋼中での各種酸化物の最大到達凝集力から接触角を算出し,文献値と比較することによりそれら凝集力の妥当性を検証する。式(2)から溶鋼と酸化物間の接触角を求めると式(4)となる。

  
θOxFe=cos1(4σFe2FA24σFeΔPFedCY)(4)

この式から接触角を求めるためにはΔPFeを知る必要があるが,前述のように変動する場合もあるため空隙架橋内の圧力を理論的に推定することは難しい。そこで,適当な仮定を置いて得たΔPFeから接触角を計算し,その値の妥当性により安定状態での適切なΔPFeを決定する。空隙架橋と溶鋼間の圧力差が酸化物の種類によらず一定であるとすれば,全ての酸化物のΔPFeはAl2O3で求めた3860 Pa1)となり,最大到達凝集力の測定値と脱酸溶鋼の表面張力から式(4)により各種酸化物の接触角を計算できる。一方,空隙架橋内の負圧が酸化物種に応じて変化する場合も想定される。この場合,溶鋼と濡れ難い性質の酸化物表面ほど酸化物粒子間から溶鋼を排出し易く,溶鋼と酸化物との界面の消失と酸化物表面の新たな生成を伴って負圧の大きな空隙架橋を形成する。そこで,空隙架橋内の負圧は,溶鋼排出に伴う自由エネルギー変化(σOxOx-Fe)が負の大きな量になるほど増加すると仮定し,Youngの式(5)を考慮してΔPFe式(6)のように与えた。

  
σOxFe=σOxσFecosθOxFe(5)
  
ΔPFe= β(σOxσOxFe)= βσFecosθOxFe(6)

σOxは酸化物の表面張力(N・m−1),σOx-Feは溶鋼と酸化物間の界面張力(N・m−1)である。式(6)式(4)を適用してΔPFeについて解くと,式(7)が得られる。

  
ΔPFe={β(4σFe2FA24dCY)}0.5(7)

ΔPFeは酸化物固有の値と考え,溶鋼中O濃度の影響を受け難い脱酸溶鋼の表面張力と最大到達凝集力を用いてΔPFeを評価する。Al2O3のΔPFe=3860 Paからβを定数として求めると2310である。この式(7)から計算した酸化物毎のΔPFeTable 1にまとめて示す。

Table 1. Pressure difference of various oxides between cavity bridge and molten steel.

OxideσFe of deoxidized molten steel
(N・m−1)
Maximum FA
(N・m−1)
ΔPFe
(Pa)
Al2O31.8814.863860
MgO1.884.42620
MgAl2O41.886.871540
ZrO21.929.952465
SiO21.745.731220
TiO21.725.391115

各種酸化物の脱酸溶鋼との接触角をTable 1を用いて式(4)から計算し,それらの値を文献の接触角1,10,11,14,15,16,17)と比較してFig.6に〇印で示す。これらは空隙架橋内の負圧が酸化物種に応じて変化する場合の各種酸化物の接触角である。また,脱酸溶鋼中のO濃度は脱酸元素の種類により0.0004~0.0047 mass%で変化するが,0.001 mass%を代表O濃度としてΔPFe=3860 Pa一定の場合とΔPFe=−2310σFe・cosθOx-Feの場合(Table 1のΔPFe)における最大到達凝集力と接触角の関係を,各々一点鎖線と実線で記載した。各酸化物の最大到達凝集力から酸化物種によるΔPFeの変化を考慮して求めた接触角(〇印と実線)は,TiO2を除いてΔPFeを一定としたそれ(一点鎖線)よりも文献値に近い値であり,酸化物毎の接触角の大小傾向とも概ね一致している。文献のTiO2の接触角は90°を切っており,溶鋼に浸漬したTiO2円柱が溶損していたことからも分かるように,溶鋼との反応を伴って本来のTiO2のそれよりもかなり小さな値を示していると思われる。

Fig. 6.

Effect of the maximum attained agglomeration force on the contact angles between deoxidized molten steel and various oxides.

以上の結果から,溶鋼と濡れ難い表面の酸化物ほど大きな負圧の空隙架橋が形成され易いため,酸化物の種類に応じて空隙架橋内の負圧が変化すること,さらに脱酸溶鋼中で測定された各種酸化物の最大到達凝集力はそれから得られた接触角を基に判断して妥当な値であることが明らかになった。

4・3 溶鋼中の酸化物間に働く凝集力の酸素濃度依存性

Fig.5に示した凝集力の酸素濃度依存性の機構を,凝集力から求めた溶鋼と酸化物間の界面張力に基づいて検討する。式(4)とYoungの式(5)を用いて溶鋼と酸化物間の界面張力を求めると式(8)となる。

  
σOxFe=σOx(4σFe2FA24ΔPFedCY)(8)

式(8)からσOx-Feを求めるためには,固体酸化物の表面張力が必要である。Ogino7)らは,Al2O3の表面張力の温度係数−1.0×10−4 N・m−1・°C−1と凝固時の約10%の表面張力増加を考慮して,他の研究者らの報告値を1600°Cに外挿しAl2O3の表面張力を概算している。各種酸化物の1600°Cにおける表面張力は,基本的にこれと同様の方法により求めた11)。Haraら22)は,融点におけるTi酸化物の表面張力測定に基づいてTiO2では0.38 N・m−1,Ti2O3では0.584 N・m−1であるが,低酸素分圧下でTiO2は時間の経過と共に酸素を欠損しTi2O3に変化するとしている。本実験ではTiO2円柱をTi脱酸溶鋼中に浸漬しているため,酸素欠損により両Ti酸化物が混じったTi3O5を想定し,TiO2の表面張力を1600°CにおけるTiO2とTi2O3の平均表面張力とした。MgAl2O4の表面張力はAl2O3とMgOの表面張力の中間値をとるものと考えた。SiO2についてはBruce23)の実験式からCristobalite を想定して,1600°Cにおける表面張力を直接求めた。以上の検討で得られた各種酸化物の表面張力を一括でTable 2に示す。

Table 2. Surface tension of various oxides at 1600°C.

OxideSurface tension σOx
(N・m−1)
Reference
Al2O30.75Nogi et al11)
MgO0.71Nogi et al11)
MgAl2O40.73Estimation11)
ZrO20.62Nogi et al11)
SiO20.56Bruce23)
TiO2 (assuming Ti3O5)0.56Estimation20)

σFeとΔPFeは,各々式(3)Table 1で与えられているため,式(8)Table 2を用いてFig.5の凝集力から求めた各種酸化物の界面張力と溶鋼中O濃度との関係を,Oginoら13)の溶融FeOの界面張力と共にFig.7に示す。図中には比較のためにOginoら6,7)とTakiuchiら9)がAl2O3と溶鋼との濡れ性を測定したデータに基づいて,著者がAl2O3解離とFeAl2O4生成のないO濃度範囲(0.005~0.058 mass%)で定式化したAl2O3の界面張力1)を一点鎖線で,Oginoら13)が自身の測定を基に整理した複数組成の溶融スラグ(CaO-Al2O3, CaO-Al2O3-FeO, CaO-Al2O3-SiO2, CaO-SiO2-FeO,等)の界面張力を破線で囲む灰色領域で記載した。凝集力から求めた各種酸化物の界面張力は,O濃度が0.01 mass%まで増大する間に急激に低下し,その後は緩やかに低下して溶融FeOの界面張力0.3 N・m−1に漸近する。同様の変化は後述のFig.8でも確認できる。これらの界面張力は[O]≦0.01 mass%の低O濃度域でOginoらとTakiuchiらのAl2O3の界面張力よりも急峻に低下しているが,界面張力に及ぼすO濃度の影響は両者と同様の傾向にある。Oginoら13)によればFig.7の破線で囲まれた灰色領域で示されるように,溶鋼と溶融スラグ間の界面張力はスラグ組成の相違による差が小さく溶鋼中O濃度によりほぼ決定され,O濃度を溶鋼の飽和溶解度0.21 mass%(1580°C)まで増加させると溶融FeOの界面張力0.3 N・m−1に達するとしている。本研究の固体酸化物の界面張力については,溶融スラグの界面張力に比べて酸化物種による相違が大きく,特に[O]≦0.001 mass%の脱酸溶鋼中では0.8から2.4 N・m−1程度の差が見られる。しかし,溶鋼中O濃度が高くなり飽和溶解度に近づくと,溶融スラグと同様に固体酸化物の界面張力でも酸化物種の影響は小さくなり,溶融FeOの界面張力に収束する。これは,溶融酸化物に比較して固体酸化物では,熱力学的安定性や表面構造の明確な相違が脱酸溶鋼との界面の性質に反映されるが,溶鋼中のO濃度が高くなると固体酸化物と溶鋼との間に溶融FeOが形成され,固体酸化物の種類による差が界面の性質に現われ難くなるためである。

Fig. 7.

Relation between the O concentration in molten steel and the interfacial tension of various oxides.

Fig. 8.

Relation between the logarithm of the O concentration in molten steel and the interfacial tension of various oxides.

以上のように,凝集力から求めた界面張力を他の研究者らによるAl2O3と溶融スラグの各々の界面張力と比較することにより,本研究で得られた各種酸化物の凝集力は,低O濃度域で固体酸化物の特性を反映し,かつ高O濃度域で溶融FeOの生成に対応した適正な酸素濃度依存性を示すことが明らかになった。

4・4 各種酸化物の溶鋼との界面における酸素吸着

Oginoら6,13),Takiuchiら9,10),Nakashimaら8)は,溶鋼表面または溶鋼とスラグの界面における酸素吸着ではGibbsの等温吸着式が成立するとして,表面張力および界面張力の測定結果から酸素の飽和過剰量を求めている。溶鋼中のOが固体酸化物との界面に吸着する場合にも同様の取り扱いが可能だとすると,酸素の界面過剰量ΓO,I(mol・m−2)は式(9)のGibbsの等温吸着式で表される。解析対象となるFeO・Al2O3生成のない0.058 mass%以下のO濃度域では,学振推奨平衡値21)から求めたOの活量係数はほぼ1であるため,式(9)ではO活量の代わりにO濃度を用いた。

  
ΓO,I=1RTdσOxFed(ln[O])(9)

ここで,Rは気体定数(N・m・K−1・mol−1),Tは絶対温度(K)である。

酸化物と溶鋼間の界面における酸素吸着量を算出するため,Fig.7を各種酸化物の界面張力と溶鋼中O濃度の対数との関係に整理し直し,Fig.8に示す。酸化物と溶鋼の界面における酸素の飽和過剰量ΓSO,Iは,Fig.8の関係に式(9)を適用して得られるΓO,Iの飽和値として求めた。Fig.8の実線の傾きは−R・T・ΓSO,Iを表している。界面における酸素の飽和過剰量に及ぼす酸化物と脱酸溶鋼間の最大界面張力の影響をFig.9に示す。Table 3はNarita24)が整理した各種酸化物の結晶構造と格子定数に基づいて計算した低指数面の理論界面酸素濃度であり,界面での酸素の飽和過剰量と比較してFig.9にプロットした。なお,Al2O3,ZrO2およびSiO2は,各々Corundum,CaF2型構造とβ-Cristobaliteとした。酸化物と脱酸溶鋼間の最大界面張力が大きくなるほど,界面での酸素の飽和過剰量が大きくなっている。これは,O濃度の低い脱酸溶鋼中で大きな界面張力を示す酸化物ほど,界面に酸素を吸着して界面張力を低下させるためであり,熱力学的に妥当な関係が得られている。Takiuchiら9)は,静滴法を用いて溶鋼の表面張力およびAl2O3基板との濡れ性を測定することにより,FeAl2O4生成のO濃度範囲で溶鋼とAl2O3の界面における酸素の飽和過剰量として2.4×10−5 mol・m−2を得ており,FeAl2O4の稠密面(111)の酸素濃度と一致するとした。本研究のAl2O3との界面における酸素の飽和過剰量は2.54×10−5 mol・m−2でありTakiuchiらの値に近いが,Al2O3の稠密面(0001)の酸素濃度2.54×10−5 mol・m−2と一致している。凝集力測定実験のO濃度がFeAl2O4を生成しない0.058 mass%以下であることを考慮すると,本実験で得られた酸素の飽和界面過剰量は妥当であり,溶鋼とAl2O3との界面における酸素の吸着はAl2O3の酸素稠密面(0001)の構造を有する単分子層吸着であると考えられる。ZrO2,MgAl2O4,MgOとSiO2の酸素の飽和界面過剰量は各々2.20×10−5 mol・m-2,1.86×10−5 mol・m−2,1.24×10−5 mol・m−2,1.32×10−5 mol・m−2である。各酸化物の溶鋼との界面には飽和過剰量に近い界面酸素濃度の面が形成されているとすれば,ZrO2,MgAl2O4,MgOおよびSiO2の界面には,各々(111)面,(100)面,(110)面,(100)面の構造を有する酸素の単分子吸着層が形成されていると推定される。Al2O3以外の酸化物に関しては,溶鋼との界面における酸素の飽和過剰量の報告値は見当たらない。このため文献値との比較検証は難しいが,各酸化物における酸素の飽和界面過剰量は,低指数面ではあるものの概ね結晶構造から求めた理論界面酸素濃度の範囲内にあると見てよい。

Fig. 9.

Effect of the maximum interfacial tension between oxides and deoxidized molten steel on the saturated excess of oxygen on the interface between oxides and molten steel.

Table 3. Theoretical interfacial oxygen concentration on low-index planes of various oxides.

OxideCrystal planeUnit area (m2)
a:Lattice constant
Number of O atomsInterfacial oxygen concentration (mol・m−2)
Al2O3(0001)3/2a232.54 × 10−5
FeAl2O4(111)3/8a222.33 × 10−5
MgAl2O4(111)3/8a222.35 × 10−5
(110)2/4a221.44 × 10−5
(100)1/4a222.03 × 10−5
MgO(111)3/2a222.16 × 10−5
(110)2a221.32 × 10−5
(100)a221.87 × 10−5
ZrO2(111)3/2a232.24 × 10−5
(110)2a241.83 × 10−5
(100)a242.58 × 10−5
SiO2(111)3a2122.27 × 10−5
(110)2a240.93 × 10−5
(100)a241.31 × 10−5

このように,凝集力から評価した界面張力に基づいて得られた酸化物の飽和界面過剰量が熱力学と表面構造の両面から合理的に説明できるため,O濃度の増大に伴う凝集力の低下は酸化物と溶鋼界面への酸素吸着に起因する界面活性効果であると考えられる。

4・5 溶鋼中酸化物の凝集に伴う自由エネルギー変化

溶鋼中に酸化物系介在物が分散している系では,Fig.7に示すように溶鋼と酸化物間の界面張力が大きいため,系全体の自由エネルギーは非常に高い状態にある。熱力学によれば系全体がより低い自由エネルギー状態に向かって変化するので,溶鋼中での酸化物同士の凝集に伴う自由エネルギー変化が大きな負の値をとるほど凝集し易い酸化物種であることが分かる。溶鋼中の二つの円板状酸化物が凝集する際の自由エネルギー変化ΔGAg4)を,式(4)を用いて書き直すと,式(10)が得られる。

  
ΔGAg=2σFecosθOxFe2σOx(1cos(ϕ/2))=4σFe2FA22ΔPFedCY2σOx(1cos(ϕ/2))(10)

二面角ϕは同種の酸化物同士で150°である。σFe,ΔPFe,σOxは,各々式(3)Table 1Table 2により与えられているので,式(10)Fig.5の凝集力から各種酸化物の凝集に伴う自由エネルギー変化を求め,O濃度との関係を整理してFig.10に示す。本実験のΔGAgは負の値であることから,全ての酸化物は自発的に凝集することが分かる。各酸化物におけるΔGAgは溶鋼中のO濃度が低くなるにつれて減少し,最低O濃度でFig.2の最大到達凝集力に対応した最小値となる。この最小のΔGAgに基づいて酸化物の凝集性を評価すると,MgO(−1.59 J・m−2)<TiO2(−1.79 J・m−2)<SiO2(−1.89 J・m−2)<MgAl2O4(−2.42 J・m−2)<ZrO2(−3.05 J・m−2)<Al2O3(−4.46 J・m−2)の順に凝集し易く,最大到達凝集力に基づく順番と一致する。凝集力と凝集に伴う自由エネルギー変化の関係をFig.11に示す。両者の関係はΔGAg=−0.3FAの原点を通る直線で整理される。酸化物間に凝集力が働かなければ(FA=0 N・m−1)自発的な凝集は起こらないし(ΔGAg=0 J・m−2),凝集力が発生し大きくなると凝集の自由エネルギー変化も低下して強い凝集傾向を示すことが分かる。

Fig. 10.

Relation between the O concentration and the change in free energy associated with agglomeration of various oxides.

Fig. 11.

Relation between the agglomeration force of various oxides and the change in free energy associated with agglomeration of various oxides.

よって,空隙架橋による凝集力は,凝集に伴う自由エネルギー変化ともよく対応し,各種酸化物の凝集性を熱力学的な観点からも合理的に説明できる。

4・6 溶鋼中での各種球形介在物の凝集

溶鋼中での各種酸化物系介在物の凝集力に及ぼすO濃度の影響を,介在物に作用する外力との相対比較により理解するために,溶鋼中の二等球介在物間に働く凝集力と溶鋼流動による抗力を見積もり比較検討する。溶鋼中で空隙架橋を形成して接触している直径d(m)の二等球介在物間の凝集力FA,S(N)は,式(2)と同様に空隙架橋と溶鋼間の圧力差および溶鋼の表面張力に起因する力の和として式(11)のように表される1,2,3)

  
FA,s=πR42ΔPFe+2πR4σFe(11)

R4(m)は空隙架橋頸部の半径であり式(12)で与えられる。

  
R4=3σFe+{9σFe2(4σFe2FA2)ddCY}0.52ΔPFe(12)

凝集力測定実験の酸化物円柱の直径は8 mmである。式(3)のσFeTable 1のΔPFe式(11)式(12)に適用し,実測の凝集力FAから溶鋼中の直径1~10 µmの球形介在物間に働く凝集力を求めた。溶鋼中のO濃度が高くなり凝集力が低下すると,僅かな測定誤差によってFAが下限値2σFeより小さい値を示すため,式(11)式(12)から負の凝集力,すなわち反発力が計算される場合がある。空隙架橋力による凝集力は引力であるため,FA≦2σFeの場合には両者の差が僅かであることを考慮してFA,Sを0 Nとした。一方,溶鋼中の球形介在物が溶鋼との相対運動によって受ける抗力FD(N)は式(13)で表される。

  
FD=CDρFev2S/2(13)
  
CD=24(1+0.158ReP2/3)ReP(14)

CDは抗力係数であり,粒子のReynolds数ReP(=d・v/ν)が1000以下で実験値とよく一致する式(14)を用いた。vは溶鋼流速(m・s−1),ρFeは溶鋼の密度で7000 kg・m−3,νは溶鋼の動粘性係数で7.14×10−7 m2・s−1,Sは流動方向への介在物粒子の投影面積(m2)である。連鋳工程で最も速い浸漬ノズル内の溶鋼流速2 m・s−1を用いて,直径1~10 µmの介在物に作用する抗力を算出した。

溶鋼中の二等球介在物間に働く凝集力FA,S・(d・σFe−1に及ぼす溶鋼中O濃度の影響を,溶鋼流から受ける抗力FD・(d・σFe−1と比較してFig.12に示す。実線は凝集力,一点鎖線は抗力である。最もO濃度の低い脱酸溶鋼中の介在物間には抗力を超える大きな凝集力が作用するが,それらの凝集力は溶鋼中O濃度の増大に伴って[O]≦0.01 mass%の低O濃度域で急激に低下する。ZrO2,MgAl2O4とMgOの凝集力は[O]≦0.01 mass%の領域内で一挙に0まで減少するが,Al2O3とSiO2の凝集力はO濃度の更なる上昇と共に緩やかな減少傾向を示し,[O]≧0.03 mass%で溶鋼流からの抗力と同程度まで低下している。介在物間に働く凝集力が抗力よりも小さくなるO濃度は,Al2O3=SiO2([O]=0.027~0.04 mass%)>MgAl2O4=ZrO2([O]=0.0055~0.009 mass%)>MgO([O]=0.0015~0.002 mass%)の順に低くなる。O濃度を基準に見ると凝集した介在物はこの順に分離され易い傾向にあるが,SiO2がAl2O3とほぼ同等で他の酸化物よりも分離され難く,凝集状態を維持し易いことは興味深い。

Fig. 12.

Effect of the O concentration in molten steel on the agglomeration force between two isospherical oxide inclusions in molten steel.

以上のように,溶鋼中の各種酸化物系介在物に作用する外力との比較から,脱酸状態では何れの酸化物組成の介在物でも激しい溶鋼流動下で空隙架橋を形成して凝集しその状態を維持するが,溶鋼中のO濃度が高くなると一旦凝集しても溶鋼流により再び分離される可能性があり,その程度は酸化物の種類により異なることが明らかになった。

5. 結言

溶鋼中での固体酸化物間に働く凝集力を,基本のAl2O3に加えてMgO,MgAl2O4,ZrO2,SiO2およびTiO2まで拡張して直接測定すると共に,酸化物粒子間の相互作用モデルを用いて凝集力から求めた種々の界面物性により測定結果の妥当性を検証した。更に,実測の凝集力に基づいて溶鋼中での各種酸化物系介在物の凝集性を熱力学と力学の両面から定量的に評価した。得られた結論は以下の通りである。

(1)溶鋼中では,溶鋼と濡れ難い固体酸化物間に空隙架橋内の負圧と溶鋼の表面張力の両者を起源とする空隙架橋力による凝集力が比較的安定して作用する。しかし,空隙架橋内の負圧は酸化物種に関わらず0 Paまで許容されるため,何れの酸化物でも凝集力は溶鋼の表面張力に起因する粒子間引力を下限値として低値側に変動する可能性がある。

(2)空隙架橋力による凝集力は脱酸溶鋼中で最大値を示し,溶鋼中O濃度の上昇に伴い低下する。凝集力の酸素濃度依存性から求めた酸素の飽和界面過剰量が各種酸化物の表面構造に基づく理論界面酸素濃度により説明できることから,溶鋼中O濃度の上昇による凝集力の低下は,酸化物と溶鋼界面への酸素吸着による界面活性効果である。

(3)脱酸溶鋼中での各種介在物の凝集性を凝集力と熱力学の両面から評価すると,MgO<TiO2<SiO2<MgAl2O4<ZrO2<Al2O3の順に凝集し易くなる。

(4)溶鋼中の介在物に作用する外力との比較から,脱酸状態では何れの酸化物組成の介在物でも激しい溶鋼流動下で空隙架橋を形成して凝集しその状態を維持するが,溶鋼中のO濃度が高くなると一旦凝集した介在物でも溶鋼流により再び分離される可能性があり,その程度は酸化物の種類により異なる。

文献
 
© 2024 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top