Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Cold Spot Joining of Galvannealed DP 780 MPa Steel Sheets
Takumi AibaraYoshiaki MorisadaKohsaku UshiodaMasayoshi KamaiTakaaki MiyauchiShinichi HasegawaHidetoshi Fujii
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 110 Issue 5 Pages 414-425

Details
Abstract

The microstructural evolution and tensile properties of joints fabricated by the newly developed cold spot joining (CSJ) method were investigated using galvannealed DP 780 MPa steel sheet. The novel solid-state joining method called CSJ is proved to make the joining interface plastically deformed under high pressure and appropriate current by expelling Zn-Fe coated layer, resulting in the sound joints with strong interface. Joints exploiting CSJ method were made focusing on the effects of the pressing speed and current level. Microstructural observations of the joints revealed that the lower pressing speed increases the interface temperature. In addition, the increase in the current also increases the interface temperature. The increase in the interface temperature has a positive effect in terms of expelling Zn-Fe coated layer. The positive effect of increasing current is more significant than that of decreasing the pressing speed. The increase in temperature near the interface by increasing current promotes the removal of the Zn-Fe coating layer, resulting in plastic deformation near the joining interface. Appropriate pressure and current settings can facilitate the sound spot joints with enough tensile strength. Both tensile-shear and cross-tension tests have confirmed a plug failure in the base material region.

1. 緒言

自動車産業において,安全性の向上と環境負荷の低減の両立は重要な目標であり,自動車車体に使用される鋼材の強度を向上させることは,衝突安全性と車体軽量化による燃費向上を同時に達成するための効果的な手段である1,2,3,4,5)。それと同時に,自動車用鋼板には防錆性も求められるため,鋼板表面に亜鉛めっきを施した高張力鋼板の使用も増加している6,7,8,9)。自動車用鋼板として使用される主な亜鉛めっき鋼板には,純亜鉛めっきである溶融亜鉛めっき(galvanized:GI)鋼板と合金化溶融亜鉛めっき(galvannealed:GA)鋼板がある。GA鋼板は,溶融亜鉛めっきの直後に鋼板を加熱することで,鋼板のFe成分を亜鉛めっきに拡散させ,めっき層を亜鉛と鉄の合金にしており,成形性が高く,溶接時の抵抗スポット溶接性が良好であるという特徴を持つ10)。このため,GA鋼板は,特に成形性や防食性が重視される自動車の部品製造において,広く用いられている。

車体製造においては,主に抵抗スポット溶接が採用されている11,12)。抵抗スポット溶接は,金属板を銅電極で挟み,短時間大電流を流して金属板間に溶融部を形成することで接合を実現する。しかし,亜鉛めっき鋼板では,抵抗スポット溶接を行った際に,電極消耗が激しいという問題や13),溶融亜鉛に起因した液体金属脆化割れ,いわゆるLME(liquid melt embrittlement)が発生しやすいなどの問題があることが知られている14,15,16,17)。LMEは,固体金属と液体金属が接触していることと,塑性変形を引き起こすのに十分な応力が加わっていることの2つが発生のための必要条件であるとされている18)

これまでに,我々は固相抵抗スポット接合法(cold spot joining:CSJ)と呼ばれる新しいスポット接合法を開発し,報告してきた19,20)。当該接合法は,高い圧力を印加して接合界面近傍の材料を塑性変形させ,酸化被膜などの不純物を微細に分断し,さらに界面近傍の材料と共にこれらを外部に排出し,新生面を突合せることで固体での接合を実現するものである。この時,接合界面においては熱と塑性変形によって動的再結晶が生じ,初期の接合界面が新しい再結晶粒に置き換わることにより,強い結合強度を有する接合が達成されるものと考えている20)。このコンセプトは,線形摩擦接合法21),回転摩擦圧接法22),圧力制御通電圧接法23)などを採用した先行研究でも検証されている。これまでに,固相抵抗スポット接合法を用いて,中炭素鋼S45Cの鋼板のA1点以下での固相接合に成功している19,20)。一方で,これまでの検討で使用した鋼板は,表面処理されていない材料で検討を行っており,接合性に及ぼすめっき層の影響は不明である。固相抵抗スポット接合法は,接合界面の不純物を外部に排出して接合を達成するため,亜鉛めっき鋼板に対しても効果的であると考えられる。

本研究では,固相抵抗スポット接合法を用いて780 MPa級のGA鋼板の接合を実施し,加圧速度と電流値を変化させて接合を行い,これらのパラメータが接合組織と継手の機械的特性に及ぼす影響を系統的に調べた。

2. 実験方法

Fig.1に固相抵抗スポット接合装置の外観写真を示す。本接合装置は,直流インバータ式電源,インバータ式トランス,電動サーボプレス,制御盤,接合ユニットから構成された自作の装置である。電源装置は,最大電圧10 V,最大電流14000 Aであり,電動サーボプレスの最大荷重は100 kNである。接合ユニット部分は赤点線にて右側に拡大して示している。Fig.2(a)に接合ユニットの断面図を示す。接合ユニットは加圧のみを行う超硬合金製の中心加圧棒と,通電のみを行うクロム銅合金製の円筒電極の2つの部分から構成されている。このような二重電極構造を採用することにより,大荷重の印加と通電の両立が可能となった。中心加圧棒は電動サーボプレスで,円筒形状の銅電極はエアシリンダーで加圧することで,別々に制御した。Fig.2(b)に中心加圧棒の先端の断面図を示す。中心加圧棒は凸形状となっており,凸部の直径は3 mmでありその先端は半径6 mmの球面になっている。先端から0.8 mmの位置から10°のテーパー形状となっており,先端から1.3 mmの位置に平坦な部分がある。先端を凸形状とすることで,この後示す接合工程のStep 2における突起の形成が容易となり,テーパー形状によりStep 4の加圧の際に界面近傍の材料の外周方向への塑性変形を促すことができる。さらに平坦な部分によって板の広がりを抑制できる。銅電極の内径は12 mm,外径は14 mmとした。

Fig. 1.

Cold spot joining (CSJ) apparatus. (Online version in color.)

Fig. 2.

(a) Cross-sectional view of the CSJ unit apparatus. (b) Tip of the central pressure rod. (Online version in color.)

固相抵抗スポット接合法の接合工程をFig.3に示す。初めに,被接合材を重ね,中心加圧棒にて接触させる(Step 1)。次に,中心加圧棒で被接合材を加圧し変形させることで,板に突起を形成させる(Step 2)。その後,銅電極にて電流を流すことで材料の接合界面近傍を加熱する(Step 3)。この時Step 2にて作製した突起により通電経路を中心に集中させることが可能となる。通電と同時に中心加圧棒にて被接合材を加圧し,指定された押し込み量に達すると通電を停止し,接合を完了する(Step 4)。この変形により,接合界面が押し広げられ,鋼板表面の酸化被膜などの不純物層が微細に分断かつ外部に排出され,接合界面が形成される。この時,界面の亜鉛めっきも同時に外部に排出される。加圧時の印加圧力によって接合温度が制御できることが知られており,その概念は,線形摩擦接合法21),回転摩擦圧接法22),圧力制御通電圧接法23),固相抵抗スポット接合法19,20)の先行研究で検証されている。しかし,本研究で用いる中心加圧棒は,形状が複雑であり,厳密に印加圧力で制御することが困難である。そのため,加圧速度を一定として制御した。ここで,後に述べるように,加圧速度を増すことで,印加圧力を大きくすることができる。

Fig. 3.

Schematic diagram showing the joining process for CSJ. (Online version in color.)

接合条件は,Step 1での板と接触した位置を0 mmとして,突起形成時の中心加圧棒の押し込み量を0.85 mm,接合完了の押し込み量を2.2 mmとした。中心加圧棒の加圧は,加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ,通電方法は一定電流制御とし,8000 Aと10000 Aの二つの電流値条件を用いた。

被接合材は,市販品である厚さ1.6 mmの780 MPa級のGAめっきを施したDP鋼板を用いた(以下,GA780鋼板)。初期ひずみ速度1×10−3の条件で母材に対して引張試験を行ったところ,0.2%耐力(0.2%YS)は523 MPa,引張強度(UTS)は781 MPa,全伸び(TEl)は19.7%であった。接合前の試験片の表面はアセトンで脱脂した。Fig.4にGA780鋼板断面の表面部分の走査型電子顕微鏡(scanning electron microscopy:SEM)観察およびSEM-EDS(energy dispersive spectroscopy)による元素マッピングの結果を示す。この結果より約9 µmのFeを含む合金化亜鉛めっき層が存在することがわかった。

Fig. 4.

(a) Cross-sectional SEM (scanning electron microscopy) images of the zinc layer of base material. EDS (energy dispersive spectroscopy) elemental mappings of (b) Zn and (c) Fe in the same region. (Online version in color.)

作製した継手から断面試験片を作製した。この試験片を4000番までの防水SiCエメリー紙で研磨し,アルミナパウダーを用いて鏡面仕上げを行った後,走査型電子顕微鏡(JEOL JSM-7001 FA)で観察し,接合界面の微細組織を評価した。加えて,EDSを用いて元素分析を行った。さらに,SEMで組織を観察するため2%ナイタールを用いて腐食し組織を現出した。

Fig.5に引張せん断試験および十字引張試験における引張試験片の形状を示す。引張試験は,JIS Z 3136およびJIS Z 3137に準拠して実施し24,25),万能試験機(Shimadzu Autograph AG-10 TB)を用いてクロスヘッド速度 10 mm/min で行った。各接合条件に対して3個の試料を準備し引張試験を実施した。

Fig. 5.

Schematic illustrations showing specimens for (a) tensile shear test and (b) cross-tension test.

3. 実験結果および考察

3・1 加圧速度の影響

3・1・1 加圧速度と荷重の関係

Fig.6にGA780鋼板に対し,電力値を8000 A一定とし,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ継手を作製した際の,時間と荷重の関係を示す。GA780鋼板の最大荷重は,10 mm/sでは53.4 kN,20 mm/sでは70.1 kN,40 mm/sでは89.7 kNであった。加圧速度が大きいほど,被接合材に印加される荷重が大きくなることが示されている。これは,加圧速度の増加に伴い被接合材に印加される荷重も大きくなることを示唆している。加圧速度が大きい場合,材料は加熱される前に加圧され,低温での変形が必要となり,結果としてより大きな荷重が要求される。したがって,この結果は加圧速度が大きいほど,印加される圧力が増加し,低温での接合が進行することを示している。なお,この際,接合はわずか50~150 msで完了する。

Fig. 6.

Relationship between load and time for joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A. (Online version in color.)

3・1・2 接合界面のマクロおよびミクロ組織

Fig.7に,GA780鋼板に対し,電力値を8000 A一定とし,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ作製した継手の断面のマクロ写真を示す。いずれの速度条件においても,接合界面の端部では材料がバリとして外部に排出されている様子が確認された。接合界面の端部に暗いコントラストを有する領域aが存在しており,その領域を囲うように明るいコントラストを有する領域bが存在する。さらに外側では母材に比べやや暗いコントラストの領域cが存在している。Fig.8に,加圧速度20 mm/sの条件における界面端部の各コントラスト領域を拡大した組織を示す。内側の暗いコントラストの領域は主にマルテンサイトで構成される組織であり,その外側の明るいコントラストの領域は,新たに生成されたマルテンサイトと母材組織からなる組織であった。一番外側のやや暗いコントラストの領域では,焼戻された母材の組織であった。この傾向は加圧速度10 mm/s,40 mm/sの速度条件においても同様であった。Fig.7より,これらの熱影響部の大きさは,加圧速度が大きくなるほど減少していることがわかる。この結果からも,加圧速度大きくなるほど接合温度が低下することが明らかとなった。

Fig. 7.

Macrographs of joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A. (Online version in color.)

Fig. 8.

(a) Macrograph at the periphery of the interface of joint fabricated at pressing speed of 20 mm/s with a joining current of 8000A. (b–g) Magnified views of the red square regions in (a). (Online version in color.)

Fig.9に,Fig.7に青四角で示した接合界面近傍の領域の反射電子像,Znの元素マップに加えて,接合界面に沿って最端部から0.5 mm間隔で赤四角で示した6か所の領域を拡大して観察した結果を示す。いずれの加圧速度においても,ナゲット中央部には未接合部領域が観察され,元素マップの結果より,接合界面に亜鉛が残存していることが明らかとなった。一方で,端部においては亜鉛は観察されなかった。これは界面の塑性変形によって接合界面に存在した亜鉛を外部に排出したためであると推察する。加圧速度が40 mm/sでは,未接合部が広範囲にわたって確認され,中心部では亜鉛めっきの残存が認められたが,端部では亜鉛めっきは観察されなかった。これは,端部で合金化した亜鉛めっきの排出は行われたものの,接合温度が低いため新生面同士の界面での動的再結晶による接合が十分に進行しなかったことによると考えられる。

Fig. 9.

Backscattered electron images using SEM in the area indicated by blue squares in Fig. 7, elemental mapping of Zn in the same region, and magnified views at six points along the interface, indicated by red squares, at 0.5 mm intervals from the edge. (Online version in color.)

Table 1に,Fig.7で示した継手断面より測定した各加圧速度条件における接合径と中央の未接合部直径を示す。接合径は加圧速度が10 mm/sで最大であり,加圧速度の増加と共に減少する傾向が観察された。上述した通り,加圧速度が大きくなるほど接合温度が低下するため,入熱量が最も大きい10 mm/sで接合径が最大となり,加圧速度の増加に伴って接合径も減少したと考えられる。接合径に対する未接合部の直径の割合(未接合部の直径/接合径)で整理すると,10 mm/sでは0.67,20 mm/sでは0.74,40 mm/sでは0.99となり,加圧速度が大きくなるほど,未接合部の割合が増加していることがわかる。これらの未接合部では,Fig.9で示したように接合界面に亜鉛が残存しており,これが接合を阻害していると考えられる。加圧速度の増加により接合温度が低下し,界面の亜鉛の排出が困難となったことに加えて,40 mm/sでは新生面同士の界面での動的再結晶による接合が進行せず,未接合部の割合が増加したと推測される。これらの結果は,合金化させた亜鉛の排出が不十分な場合には,十分な接合面積を確保できないことを示唆している。なお後述の破断面観察の結果でも示すように未接合領域の分布は不均一であり,Table 1の未接合部の直径および接合径に対する未接合部の直径の割合は,Fig.7で示した断面による測定値であることに注意されたい。

Table 1. Nugget diameter, unbonded diameter together with their ratio for joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A.

Nugget diameter Unbonded diameter Unbonded to nugget diameter ratio
10 mm/s 8.9 mm 6.0 mm 0.67
20 mm/s 8.0 mm 5.9 mm 0.74
40 mm/s 7.2 mm 7.1 mm 0.99

3・1・3 引張特性

Fig.10に,GA780鋼板に対し,電力値を8000 A一定の条件で,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ作製した継手の引張せん断強さ(tensile shear strength:TSS)および十字引張強さ(cross-tensile strength:CTS)を示す。各条件にて3個の試料で試験を行った。TSS,CTSともに加圧速度10 mm/sで最も高く,20 mm/s,40 mm/sと加圧速度が増加するに伴い減少する傾向がみられた。破断形態は,いずれの加圧速度条件でも界面破断となった。

Fig. 10.

Tensile shear strength (TSS) and cross-tensile strength (CTS) of the joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A. (Online version in color.)

Fig.11に引張せん断試験後の破断面のマクロ写真およびSEMを用いて拡大した観察結果を示す。いずれの継手においても,外周を囲うように存在する端部のコントラストの暗い領域(Fig.11(b1-3))では,ディンプルが観察され良好な接合が達成されたと考えられる。内側のコントラストの明るい領域(Fig.11(c1-3))では,主に脆性的な破断形態であったが一部延性的な破断を示していた。さらに内側のコントラストの暗い領域(Fig.11(d1-3))では,引張によって破断した様子は見られず未接合であったと考えられる。この領域はFig.9で示した亜鉛めっきが観察された領域とおおよそ一致するため,亜鉛めっきが残存しており,未接合となったと考えられる。マクロ写真(Fig.11(a1-3))からわかるように,この未接合領域の分布はおおよそ円形であるが,一部外周付近まで分布している領域が確認できる。

Fig. 11.

Fractographs after the tensile shear test of joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A. (Online version in color.)

抵抗スポット溶接の先行研究にて,TSS,CTSは接合径の増加に従い増加することが知られているため11),加圧速度の増加に伴うTSS,CTSの低下は,接合領域の直径の減少に由来すると考えられる。Table 1より,加圧速度が増加するに従い接合径は減少していることがわかる。加えて,Fig.11より接合に寄与する領域(b, c)の面積も減少しているため,これも接合強度低下の原因と考えられる。

3・2 電流値の影響

3・2・1 加圧速度と荷重の関係

前節では,GA780鋼板に対し固相抵抗スポット接合法を適用した結果,接合界面の合金化させた亜鉛めっきが排出できず,大きな未接合部領域が残存し界面破断となったことが示された。そこで本節では,接合時の電流値を8000 Aから10000 Aに増加させ,接合界面の亜鉛めっきを排出できる接合条件の適正化を検討した。Fig.12に,GA780鋼板に対し,電力値を10000 A一定の条件で,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40mm/sと変化させ継手を作製した際の,時間と荷重の関係を示す。比較として8000 Aの結果も示す。電流値10000 Aの最大荷重は,電流値の増加に伴い減少し,10 mm/sでは39.7 kN,20 mm/sでは61.3 kN,40 mm/sでは87.5 kNであった。電流値の増加により単位時間当たりの入熱量が増加し,同じ加圧速度で加圧した場合は接合温度が増加し,印加荷重が減少したものと考えられる。これらの結果より,加圧速度と電流値の二つのプロセス変数により接合温度を制御できることがわかる。

Fig. 12.

Relationship between load and time for joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A and 10000 A. (Online version in color.)

3・2・2 接合界面のマクロおよびミクロ組織

Fig.13に,GA780鋼板に対して電力値を8000 Aから10000 Aに増加させ,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ作製した継手の断面のマクロ写真を示す。いずれの速度条件においても,8000 Aの結果と比べて,熱影響部の大きさが増加していた。加圧速度10 mm/sでは接合時にチリの発生が観察され,接合時に鋼が一部溶融したと考えられる。Fig.7の電流値8000 A,加圧速度10 mm/sで作製した条件と,Fig.13の電流値10000 A,加圧速度20 mm/sで作製した継手の熱影響部の大きさを比較すると,横方向ではおおよそ同じ大きさであるが,板厚方向の厚さは電流値8000 A,加圧速度10 mm/sの条件で作成した継手のほうが大きい。これらの結果より,電流値を増加させた加圧速度の大きい条件では,加圧速度を低下させた場合と比べて,より接合界面近傍が加熱されていることがわかる。これは,より短時間で入熱し変形させることができるためと推察する。

Fig. 13.

Macrographs of joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 10000 A. (Online version in color.)

Fig.14に,Fig.13に青四角で示した接合界面近傍の領域にて,反射電子像およびZnの元素マップを行った結果を示す。さらに,各条件において,接合界面に沿って最端部から0.5 mmごとに赤四角で示した6か所の領域で拡大して観察を行った。加圧速度に関わらず,中央部では電流値8000 Aの場合と同様に未接合部領域が存在し,元素マップの結果から亜鉛が残存している様子が確認された。端部においては,加圧速度10 mm/sでは赤矢印で示すように接合界面に沿って亜鉛が検出されており,微小な欠陥が連続して存在していることがわかる。これは,鋼の溶融により材料が液体状態となり界面近傍での十分な荷重がかからず,外方向への塑性変形が十分に起こせず,接合界面の亜鉛が完全に排出されなかったためと考えられる。印加圧力20 mm/s,40 mm/sの端部においては,界面に亜鉛は観察されず,欠陥の存在しない良好な接合が達成されていた。これは,電流値を増加させたことで,より接合界面近傍が加熱され,材料の塑性変形量が大きくなったことでより内側から界面の合金化させた亜鉛が排出されたためである。

Fig. 14.

Backscattered electron images using SEM in the area indicated by blue squares in Fig. 13, elemental mapping of Zn in the same region, and magnified views at six points along the interface, indicated by red squares, at 0.5 mm intervals from the edge. (Online version in color.)

Table 2に各継手の接合径と中央の未接合部の直径を示す。8000 Aの結果と比べ,いずれの速度条件においても接合面積は増加し,未接合部領域の直径は減少した。加圧速度10 mm/sにおいては,端部でみられた微小な欠陥を除き,中央でみられた大きな欠陥にのみに着目注目して評価した。接合径に対する未接合部の直径の割合(未接合部の直径/接合径)で整理すると,10 mm/sでは0.50,20 mm/sでは0.62,40 mm/sでは0.64となり,いずれも8000 Aの結果から減少した。このように電流値を増加させることで,界面近傍の領域の材料の塑性変形量が増え,合金化させた亜鉛めっきを十分に排出できることが明らかとなった。断面の観察に関して規定されているJIS Z 3140では26),ナゲット端部からナゲット径の15%の値を減じた位置から外側の領域における割れの有無を確認することが定められている。10 mm/sではこの領域で微小な欠陥が確認されたが,20 mm/sおよび40 mm/sではこの領域における未接合部や欠陥は確認されなかった。このことからJIS Z 3140の断面観察の基準を満たす良好な接合ができていると言える。

Table 2. Nugget diameter, unbonded diameter together with their ratio for joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 10000 A.

Nugget diameter Unbonded diameter Unbonded to nugget diameter ratio
10 mm/s 10.0 mm 5.0 mm 0.50
20 mm/s 9.2 mm 5.7 mm 0.62
40 mm/s 8.8 mm 5.6 mm 0.63

固相抵抗スポット接合法では接合時に接合界面近傍のみを発熱させるため,鋼の表面温度の上昇が抑制される。加えて,継手の温度が低いため,LMEの原因となる溶融亜鉛が存在しない,もしくは,溶融亜鉛が存在する時間が短くなるため,LMEの抑制にも効果的であると期待される。さらに高強度なGA鋼板を用いたCSJにおけるLMEの研究については,今後の課題としたい。

3・2・3 引張特性

Fig.15に,GA780鋼板に対し,電力値10000 A一定の条件で,中心加圧棒の加圧速度を10 mm/s,20 mm/s,40 mm/sと変化させ作製した継手のTSSおよびCTSを示す。電流値8000 Aにて得られた結果も同時に示す。各条件にて3個の試料で試験を行った。電流値8000 Aの条件では,TSS,CTSともに加圧速度の増加に伴い減少する傾向がみられたが,10000 Aの条件では,8000 Aと異なった傾向を示し,加圧速度10 mm/sから20 mm/sで増加し,40 mm/sでわずかに減少していた。加えて,20 mm/s,40 mm/sでは接合強度が8000 Aに比べて増加したが,10 mm/sでは接合径は増加したにも関わらず低下した。破断形態は10 mm/sのみ界面破断で,20 mm/s,40 mm/sではプラグ破断となった。

Fig. 15.

TSS and CTS of the joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 8000 A and 10000 A. (Online version in color.)

Fig.16に各加圧速度条件で接合した継手の十字引張試験後の断面写真を示す。加圧速度10 mm/sで接合強度が低下し界面破断となった原因を調査するため,10 mm/sで得られた接合部の端部を拡大して観察した。Fig.17にSEM写真および亜鉛の元素分析結果を示す。この結果から,バリの根元から接合界面方向に亀裂が進展し破断していることがわかる。加えて,赤矢印で示したように接合界面に沿って亜鉛が残存する様子が観察された。これらの結果より,バリの根元から界面に残存した亜鉛領域に亀裂が進展し,界面で破断したと考えられる。加圧速度20 mm/s,40 mm/sでは未接合部の領域が減少し,接合径が増加したことで,接合強度が増加しプラグ破断となったと考えられる。

Fig. 16.

Macrographs after the cross-tension test of joints fabricated at pressing speeds of 10, 20, and 40 mm/s with a joining current of 10000 A. (Online version in color.)

Fig. 17.

(a) Backscattered electron images using SEM in the area indicated by red squares in Fig. 16, (b) elemental mapping of Zn in the same region. (Online version in color.)

抵抗スポット溶接を用いた構造体においては,スポット接合部の破壊モードが溶接部の耐荷重とエネルギー吸収能力に大きく影響することが知られている。プラグ破断は延性的な破断であり,接合界面破断は脆性的な破断である。一般的に,プラグ破断は塑性変形とエネルギー吸収が大きいため,好ましい破壊モードであるとされる27,28)。逆に,接合界面破壊によってスポット溶接部が破損すると,自動車の衝突安全性が著しく損なわれる29)。さらに,脆性破壊では,応力集中箇所によって接合強度の大幅なばらつきが生じる可能性があり,接合強度の予測や製品の安全性の保障を困難とする。一方,プラグ破断は,接合強度のばらつきが少なく延性が大きいため望ましい。本研究においても,電流値10000 Aの加圧速度20 mm/s,40 mm/sでは,ばらつきが少なく安定したTSSとCTSが得られている。引張強度780 MPa級鋼板の抵抗スポット溶接におけるJIS規格によると,最も強度の高い基準として規定されているA級の平均値が,TSSは16.6 kN,CTSは5.56 kNとされている26)。したがって,本研究で得られたTSSおよびCTSの値は,これらの値と比較して,およそ1.7倍,2.2倍と大きく上回り十分高いものであったと判断できる。

4. 結言

本研究では,接合界面の塑性変形を利用して固相接合を実現する固相抵抗スポット接合に及ぼす亜鉛めっきの影響を調査した。接合は板厚1.6 mmの780 MPa級のGA鋼板に対して実施した。接合条件を加圧速度10,20,40 mm/s,定電流8000 A,10000 Aとして得られた結論を以下に示す。

(1)加圧速度は接合温度に影響を与え,加圧速度が大きいほど接合温度が低下することが確認された。

(2)電流値8000 Aでは,加圧速度10,20,40 mm/sのいずれの条件でも,継手は接合界面で破断した。入熱不足のため界面に亜鉛や未接合部が残存したことが接合界面破断の原因と考えた。

(3)電流値を増加させることで入熱量が増し,接合界面近傍で十分な塑性変形を生じさせることが可能となった。その結果,亜鉛めっきの排出量が増加し,電流値10000 A,加圧速度20,40 mm/sの条件下でプラグ破断となる高強度な継手の実現を達成した。

謝辞

本研究は,国立研究開発法人科学技術振興機構の未来社会創造事業(JPMJMI19E5),および科学研究費補助金(基盤A:19H00826),科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(JPMJFS2125)の支援を受けたものである。

文献
 
© 2024 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
feedback
Top