2024 年 110 巻 6 号 p. 463-472
To meet the increasing demand for low-impurity steel products, powder top blowing has been applied to the steelmaking process. Powder reagents penetrating deeper into the molten metal lead to longer resident time and higher efficiency of refining. Many studies have been performed on the basis of cold model experiments with a single liquid phase for clarifying the penetration behavior of the particle. However, the effects of the second liquid phase have been reported little whereas molten slag often exists on the surface of molten metal in the steelmaking process.
In the present work, the sphere was penetrated into the fluids consisting of a silicone oil layer and water bath. The time variation of the penetration depth of the sphere was measured with a high-speed camera. Effects of the type and size of the sphere, entry velocity, and oil depth were estimated. As a result, the stagnation of penetration occurred under the condition of no air column behind the sphere. On the other hand, a thin oil layer led to no stagnation and deeper penetration due to promoting the formation of air or oil columns. However, an oil layer thicker than 2 mm suppressed the penetration by decreasing the kinetic energy under the condition of high viscosity. The same penetration behavior was observed with a smaller sphere. However, the behavior was more sensitive to the effect of buoyant force because the size of the residual bubble on the surface of the sphere became relatively bigger than the sphere.
鉄鋼製品の品質向上のため,精錬工程ではリンや硫黄濃度の低減を目的に,溶銑または溶鋼の浴面上方から粉粒状の精錬材を吹き付ける粉体上吹き法が開発されている1,2,3,4)。粉体上吹き法では,粉体の鉄浴中への侵入深さの増加により粉体の浴内滞留時間が増加すると精錬反応の効率の向上が期待できる。そのため,粉体の侵入条件や侵入深さに及ぼす各種要因を評価することを目的として,粉体の代わりに球体を模擬液体に突入させた実験や数値流体解析の結果が多数報告されている。上吹きされた粉体が浴内に侵入できる条件については,Enghら5)を始めとして各種の検討が加えられている6,7,8,9,10)。球体の侵入深さについても各種の実験式が報告されている11,12,13,14)。また,Fig.1(a)に示すように,球体背後の空気が浴中に引き込まれて形成された気柱は中間部に発生したくびれを起点として分断が生じること,気柱の一部が残留気泡として球体表面に付着して球体の侵入距離に影響を与えること,が報告されている15,16,17,18,19,20,21)。これらの実験的検討に対し,理論的な検討22,23)や数値流体計算による検討24,25,26,27,28,29,30)も行われている。
Schematic features of solid sphere penetrating into liquid bath with and without oil layer.
しかし,上述した研究の多くは,粉体が侵入する溶鉄の表面を覆っているスラグなどの溶融酸化物の存在を想定していない。精錬プロセスにおける粉体上吹き法では,キャリアガスである酸素ガスによる鉄の酸化,あるいは,上吹きした粉体の溶融化,などによって浴表面に溶融スラグ層が形成されている場合も多い。この場合,Fig.1(b)に示すように,気柱だけではなくスラグ柱が形成されることが予想され,それが侵入挙動に影響を及ぼすことが予想される。しかし,このような異種の液体層で覆われた浴への球体の突入挙動に関する研究は比較的少ない。最近,Tanらは薄いオイル層で覆われた水浴にステンレス球を突入させた実験を行い,水とオイルの間の剪断作用の影響で球体に作用する抗力が増加すると報告している31,32,33)。また,Sunらはジメチコン(直鎖シロキサン重合体の一種)を浮かべた水浴に球体を突入させ,生成したキャビティとスプラッシュの挙動を実験的に検討している34)。さらに,Liらはシリコンオイルで覆われた水浴に液体密度より大きな球体を衝突させ,球体の直径や突入速度が小さい場合には沈降せずに浴表面に捕捉されると報告している35)。これらの結果はオイル層の存在により球体に作用する抗力が増加することを示しており,球体の侵入深さは水浴だけの場合よりも浅くなることが予想される。しかし,いずれの報告も球体の侵入深さに関して,オイル層の存在がどのような影響を及ぼしているかの検討も不十分である。
以上のように,従来の研究には様々な課題が残されている。そこで,本研究では水浴上のオイル層の有無,および,オイル層の粘度・厚さ,球体の突入速度を変更した実験を行い,これらの要因が球体の侵入挙動に及ぼす影響を検討した。
Fig.2に実験装置の概略図を示す。200 mm角のアクリル製容器内に,水単独,あるいは,水をシリコンオイル層で覆った浴を形成し,浴面上方から球体を自由落下させた。球体の両側に光が当たるようにするため,側面の光源からの光を対面に置いた鏡で反射させた。その際の球体の浴内侵入挙動を高速度カメラで側面から撮影し,侵入深さの時間変化を求めた。球体は水より高密度のPOM(polyoxymethylene)を主に使用した。また,精錬プロセスにおける粉体上吹きで使用する粉体の密度が鉄浴密度よりも低いことを考慮し,水より低密度のPP(polypropylene)も使用した。球体直径DSはPOMが4.0 mm,11.1 mm, PPが4.0 mm,12.7 mmとした。水の浴深Dwaterは160 mmとし,オイル厚Doilは0~10 mm,浴面到達侵入直前の球体の突入速度(以下初速度と表記)U0は1.2~4.0 m/sとした。使用した球体,流体の物性値をTable 1に示す。本実験におけるレイノルズ数は最大で4.4×104であり,Watanabe36)が評価した臨界レイノルズ数2.5×105以下であった。
Schematic of experimental apparatus. (Online version in color.)
material | properties | |
---|---|---|
sphere | POM PP | ρs: 1400 kg/m3 ρs: 900 kg/m3 |
upper liquid | silicon oil | ρoil: 873 ~ 970 kg/m3 νoil: 2.0 ~ 500 mm2/s |
Lower liquid | water | ρwater: 998 kg/m3 νwater: 1.0 mm2/s |
まず,シリコンオイルなし条件で浴面上方から球体を突入させ,球体侵入挙動に及ぼす初速度の影響を評価した。次に,シリコンオイルあり条件で同様の実験を行い,浴面のシリコンオイルが球体侵入挙動に及ぼす影響を調査した。さらに,オイル厚,オイル動粘度,初速度をそれぞれ変更し,球体の浴内侵入に及ぼすこれらの影響を調査した。
水よりも高密度のPOM球を球体直径DS=11.1 mm,初速度U0=2.2 m/s,4.0 m/sの条件で浴内に突入させた。各条件での侵入挙動の連続画像をFigs.3(a),(b)にそれぞれ示す。初速度が2.2 m/sの条件では球体の背後に気柱は形成されなかった。また,球体は侵入後70–130 msの間で沈降速度が緩やかになり,その後に加速する現象が観察された。一方,初速度が4.0 m/sの条件では,球体の背後に気柱が生成された。球体の初速度U0を1.2~4.0 m/sの範囲で変化させた場合の浴内侵入開始からの時間と球体下端の侵入距離の関係をFig.4に示す。初速度が増加するほど球体は深く侵入した。また,初速度が3.4 m/s以下では沈降速度の停滞が観察されたが,3.7 m/s以上では観察されなかった。POM球の水に対する接触角の報告値は,60°17),74.5°38)と90°よりも低く,POM球は親水性を示す。Matsuzawaら21)は,親水性の球であっても,初速度が3 m/s前後を越えると気柱が発生すると報告している。初速度が2.2 m/sの場合に気柱が生成せず,4.0 m/sで気柱が生成した結果は,Matsuzawaらの報告と対応している。
Dynamics of POM sphere penetrating into bath without oil at entry velocity of 2.2 and 4.0 m/s.
Change in penetration depth of POM sphere into bath. (Online version in color.)
次に,水よりも低密度のPP球を使い,球体直径DS=12.7 mm,初速度U0=2.4~3.0 m/sの条件で浴内に突入させた。各条件での浴内侵入開始からの時間と球体下端の侵入距離の関係をFig.5に示す。POM球とは異なり,PP球は水より低密度のため浴内侵入後,最終的に浮上した。初速度が2.4, 2.6 m/sでは気柱は発生せず,2.8,3.0 m/sでは気柱が発生した。2.6 m/sと2.8 m/sとを比較すると,初速度の差はわずかであるが,気柱が生成した2.8 m/sの条件では球体は速度の停滞が起きずに深く侵入した。
Change in penetration depth of PP sphere into bath. (Online version in color.)
以上の観察結果は,気柱生成の有無が球体の侵入深さに影響を与えていることを示唆している。Matsuzawaら21)はPP球を水浴内に侵入させた際に気柱が形成する臨界初速度が存在し,最大侵入深さは臨界初速度を越えると大きく増加したと報告している。このことから,本実験ではMatsuzawaらと同様な現象が観察されており,臨界初速度が2.6 m/sと2.8 m/sの中間に存在していたと考えられる。PP球の水に対する接触角の報告値は98.5°39),100°40)と90°よりやや高く,PP球は疎水性を示す。Matsuzawaら21)は,接触角が90°を越えると,接触角の増加とともに,気柱が発生する臨界の初速度が3 m/sから低下すると報告している。したがって,気柱生成の臨界値が2.6と2.8 m/sの間に存在していたという結果は,接触角が90°より若干高かったためと考えられる。また,Kikuchiら37)はアクリル球を最初から浸水させた状態で水中を落下させ,球体の速度が沈降中に変化する挙動を調査している。その結果,球体後方では渦の生成と放出が起こり,それにともなって沈降速度が減少と増加を繰り返すとしている。この報告に基づけば,気柱が生じなかったPOM球の実験では球体の後方で渦の生成と放出が生じていたと考えられる。渦の生成は球体後方の圧力を低下させるため球体の沈降を抑制し,渦の放出は圧力の回復をもたらすため,沈降の停滞と加速が生じたことが示唆される。球体後方に気柱が生成する条件で,沈降の停滞と加速が観察されなかったのは,気柱の生成によって渦形成が抑制されたためと考えられる。
3・2 球体侵入挙動に及ぼす初速度の影響(シリコンオイルあり条件)シリコンオイル層で覆われた水浴の上方からPOM球を球体直径DS=11.1 mm,初速度U0=2.2 m/s,オイル動粘度 νoil=500 mm2/s,オイル厚Doil=0.5 mm,2.0 mmの条件で浴内に侵入させた場合の連続画像をFigs.6(a),(b)にそれぞれ示す。オイル厚Doil=0.5 mmの条件ではFig.6(a)に示すように球体は気柱を形成し,気柱の側面にはオイル層が形成された。オイルをともなった気柱は引き延ばされ,くびれが生じて破断した。破断部下方に存在していた気体は残留気泡として球体表面に付着したが,その後すぐに球体から離脱した。一方,オイル厚Doil=2.0 mmの条件ではFig.6(b)に示すように気柱の生成と破断が生じたが,オイル厚Doil=0.5 mmの条件と比較すると球体の侵入深さは浅くなった。
Dynamics of POM sphere penetrating into bath with oil depth of 0.5 and 2 mm at entry velocity of 2.2 m/s.
オイルなし条件では気柱が生成しなかった初速度でも,オイルあり条件で気柱やオイル柱が形成された原因について検討する。この現象にはPOM球に対するオイルの濡れ性が関係していると考えられるが,接触角の値は報告されていない。そこで,高分子材料で一般的な臨界表面張力を用いて検討する。臨界表面張力は,液体の種類を変更した実験で得た接触角と表面張力の関係から接触角がゼロになる表面張力を外挿によって求めた値である。表面張力がこれより低い液体は接触角がゼロの拡張濡れを起こすことが知られている41)。臨界表面張力はPOM球が36 mN/m42),38 mN/m43)と報告されており,今回使用したオイルの表面張力は20 mN/mと低いため拡張濡れが生じていたと考えられる。以上より,水よりも先に接触したオイルがPOM球の表面に濡れ拡がり,球体の降下とともにオイルが随伴されてオイル柱が生成したことが示唆される。また,オイル柱の内側に気柱が形成されたのは,POM球のさらなる降下にオイルの流入が追い付かなかったためと考えられる。オイル厚Doilを0~2.0 mmの範囲で変化させた場合の浴内侵入開始からの時間と球体侵入距離の関係をFig.7に示す。オイルなし(Doil=0 mm)と薄いオイル厚(Doil=0.5 mm)の条件を比較すると,侵入後0.05 sまでの両者の侵入挙動はほぼ同じであったが,薄いオイル厚(Doil=0.5 mm)では沈降速度の停滞が発生しなかった。それよりも厚いオイル厚(Doil=2.0 mm)の条件も沈降速度の停滞が発生しなかったが,オイルなしおよび薄いオイル厚の場合と比較すると,侵入深さは浅かった。以上から,オイル層がわずかでも存在すると,球体後方の渦形成が抑制されて深く侵入するが,オイル層がある程度厚くなると侵入を阻害する作用が存在していたと考えられる。後者の作用はTanら31,32,33)の報告と定性的に一致するが,前者のようにごく薄いオイル層が侵入を促進する現象は本実験で初めて観察された。これらの作用については,後述の3・3節で検討する。
Change in penetration depth of POM sphere into bath with oil depth of 0, 0.5 and 2.0 mm. (Online version in color.)
POM球を球体直径DS=11.1 mm,初速度U0=1.7 m/s,2.4 m/s,オイル動粘度νoil=5 mm2/s,オイル厚Doil=10 mmの条件で浴内に侵入させた。球体が侵入する様子の連続画像をそれぞれFigs.8(a),(b)に示す。Fig.8(a)に示すように,オイル動粘度が5 mm2/sと低い場合,初速度が1.7 m/sの条件では随伴する空気量は多く大きな気柱が形成された。気柱周囲のオイル膜は比較的薄く,気柱とオイルが同時にくびれて破断した。破断後に球体に付着した気泡とオイル膜から浴面に向かって細長いオイル柱が形成された。その後,沈降中にこの細長いオイル柱は千切れ,球体に付着した気泡とオイルはさらに分裂した。 初速度が2.4 m/sの条件では,随伴する空気量がより多くなり気柱は大きくなったが,オイル膜は薄くなった。そのため,気柱破断後の細長いオイル柱は写真では判別しにくいが,初速度が1.7 m/sの条件よりも細くなった。一方,同じ条件でオイル動粘度だけを500 mm2/sにした場合の連続画像をFigs.9(a),(b)に示す。オイル動粘度が500 mm2/sと高く,初速度が1.7 m/sの条件では,Fig.9(a)に示すように,随伴する空気量は少なく,気柱周囲のオイル膜は厚くなった。厚いオイル膜が球体表面に回り込んでオイル柱が形成され,気柱の空気はそのオイル柱の中を上昇して離脱した。また,Fig.9(b)に示すように,初速度が2.4 m/sの条件でもほぼ同様の現象が観察されたが,1.7 m/sの場合と比較すると随伴する空気量が増加し,気柱は若干大きかった。なお,オイル厚の影響を確認するためにオイル厚を10 mmから2 mmに変え,POM球を同様の条件で浴内に侵入させたが,10 mmの条件と比較すると,オイル柱の太さに及ぼす動粘度の影響は小さかった。
Dynamics of POM sphere penetrating into bath with oil of 5 mm2/s at entry velocity of 1.7 and 2.4 m/s. (Online version in color.)
Dynamics of POM sphere penetrating into bath with oil of 500 mm2/s at entry velocity of 1.7 and 2.4 m/s. (Online version in color.)
次に,POM球を球体直径DS=11.1 mm,オイル動粘度νoil=5~500 mm2/s,オイル厚Doil=0~10 mmの条件で球体を浴内に侵入させた。初速度U0=1.7 m/s,2.4 m/sでの侵入開始0.15 s後の侵入深さとオイル厚の関係をそれぞれFigs.10(a),(b)に示す。初速度1.7 m/sでの侵入深さは,オイル厚を0から0.5 mmへ増やすと増加したが,2.0 mmに増やすと逆に減少した。オイル厚を2.0 mmからさらに増やすと,侵入深さは減少したが,その変化量はわずかであった。また,オイル動粘度が5 mm2/sと低い条件では,オイル厚を2.0 mm以上に増やしても侵入深さは浅くならず,0.5 mmの場合とほぼ同程度であった。しかし,オイル動粘度を5 mm2/sから50 mm2/sに増加させると侵入深さは大きく減少した。さらにオイル動粘度を増やすと侵入深さは減少したが,その変化量は比較的小さかった。一方,初速度が2.4 m/sでの挙動もほぼ同様であったが,1.7 m/sより侵入深さは若干大きくなった。
Effects of depth and viscosity of oil on penetration depth at entry velocity of 1.7 and 2.4 m/s. (Online version in color.)
低オイル厚,あるいは,低オイル動粘度の条件では,オイルの存在は球体の侵入を助長した。オイルなしの場合に球体の侵入速度が停滞したのは気柱やオイル柱が形成されずに,球体後方に形成された渦の影響である可能性については,前節で述べた通りである。一方,低オイル厚,あるいは,低オイル動粘度の場合,気柱やオイル柱が形成されたことから,球体後方の渦形成が抑制されたために球体の侵入深さが大きくなったと考えられる。一方,逆に高オイル厚や高オイル動粘度の条件では球体の侵入は抑制された。これはFig.8(b)に示したように,オイルの随伴挙動の変化が球体の運動エネルギーに影響を与えたためと考えられる。そこで,オイル厚およびオイル動粘度がオイル随伴量に及ぼす影響を検討した。オイル随伴量の指標として,気柱破断時のオイルくびれ幅w(mm)を採用した(Fig.11)。初速度が1.7 m/s,2.4 m/sでの気柱破断時のオイルくびれ幅とオイル厚の関係をそれぞれFigs.12(a),(b)に示す。いずれの初速度においても,オイル厚やオイル動粘度の増加とともに,オイルくびれ幅も増加した。また,初速度が大きい場合には,オイルくびれ幅が小さくなった。この図とFigs.10(a),(b)から,侵入深さとオイルくびれ幅はいずれもオイル厚と正の相関があることがわかる。したがって,オイル随伴量の増加による球体の運動エネルギーの減少が侵入深さ低下の一因であったと考えられる。ただし,オイルくびれ幅の増加に対して,侵入深さの増加率は相対的に小さかった。球体突入にともない背後に形成される空洞(気柱)にオイルが重力によって流下する随伴量を考慮すると,それ以外のオイル随伴に消費される運動エネルギーはそれほど大きくなかったためと考えられる。後者の定量的な評価については今後の課題である。
Schematic of constricted part of air and oil columns. (Online version in color.)
Effects of depth and viscosity of oil on oil width at constricted part of oil column. (Online version in color.)
水よりも密度が小さいPP球を使い,球体直径DS=12.7 mm,初速度U0=2.4 m/s,オイル動粘度νoil=2 mm2/s,オイル厚Doil=0 mm,0.5 mmでの条件で球体を浴内に侵入させた。オイル厚毎の球体侵入の連続画像をそれぞれFigs.13(a), (b)に示す。オイルなし(Doil=0 mm)の条件ではPP球は浴内に侵入したが,気柱は生成せずにt=246 msで最大深さに到達した後に浮上した(Fig.13(a))。一方,オイル厚が0.5 mmの条件では側面にオイル膜をもつ気柱が生成し,その気柱が延伸後にくびれて破断した。PP球はt=246 msで最大深さに到達した後に浮上した(Fig.13(b))。臨界表面張力は,PP球が29 mN/m44),32 mN/m43)と報告されており,オイルの表面張力の方が低いため,POM球と同様に拡張濡れが生じていた可能性があり,これが側面にオイル膜をもつ気柱が生成した原因と考えられる。これに,オイル厚が10 mmの条件を加えた3条件での球体の侵入深さの経時変化をFig.14に示す。この図からオイル厚が0.5 mmの場合に球体の侵入を促進する現象は,球体の密度に関わらず共通する現象であることがわかる。また,オイル厚が0.5 mmから10 mmに増加した場合の侵入深さの変化は小さかった。これは,オイル動粘度が2 mm2/sと低粘度条件であったためであり,Figs.10(a),(b)に示したPOM球での結果と同様の現象が観察された。以上の結果から,厚みが薄いオイルの存在が気柱の形成を促進して球体の侵入を促進させ,厚いオイルは逆に球体の侵入を阻害する現象は球体密度によらないことが確認された。
Dynamics of PP sphere penetrating into bath with oil of 2 mm2/s at entry velocity of 2.4 m/s. (Online version in color.)
Change in penetration depth of PP sphere into bath with oil depth of 0, 0.5 and 10 mm. (Online version in color.)
ここまで比較的大きな球体の実験結果を示したが,小径球体でも同様の挙動をとるかどうかを確認した。球体直径を約1/3のDS=4.0 mmにしたPOM球を初速度U0=1.7 m/s,オイル動粘度νoil=500 mm2/sの条件で球体を浴内に侵入させた。オイル厚Doil=0 mm,0.5 mmでの球体が侵入する様子の連続画像をそれぞれFigs.15(a),(b)に示す。Fig.15(a)に示すように,オイルなし(Doil=0 mm)では生成途中の気柱が球体の浴内侵入直後の早期に分断し,球体の上部に小気泡が付着した。一方,Fig.15(b)に示すように,オイル厚Doil=0.5 mmでは安定した気柱が生成され,その気柱がくびれて破断した後に比較的大きな気泡が球体表面に付着した。これに,初速度が2.4 m/s,の条件を加えた条件での球体の侵入深さの経時変化をFig.16に示す。オイルなし(Doil=0 mm)では,いずれの初速度においても上述の小気泡の付着により緩やかな速度で沈降した。なお,U0=2.4 m/sで0.2 s以降に沈降速度が増加したのは,付着気泡が離脱したためである。一方,オイル厚Doil=0.5 mmでは,従来の挙動と同様にオイルなし(Doil=0 mm)の場合よりも初期の侵入深さは深くなった。0.15 s以降で浮上に転じたのは,生成気柱の分断により球体に比較的体積の大きい気泡が付着し,その浮力の作用によるものである。
Dynamics of POM sphere (Ds=4.0 mm) penetrating into bath with and without oil at entry velocity of 1.7 m/s.
Change in penetration depth of POM sphere (Ds=4.0 mm) penetrating into bath with and without oil at entry velocity of 1.7 and 2.4 m/s. (Online version in color.)
次に,球体直径がDS=4.8 mmと小さいPP球を初速度U0=2.4 m/s,オイル動粘度νoil=2.0 mm2/s,オイル厚Doil=0 mm, 0.5 mm,の条件で球体を浴内に侵入させた。その際の球体の侵入深さの経時変化をFig.17に示す。Doil=0.5 mmの条件では,球体はオイルなし(Doil=0 mm)の場合よりも深く侵入した。また,0.2 s以降での浮上速度がオイルなしの場合より速かったが,これは気柱破断後の残留気泡の体積が大きかったためである。
Change in penetration depth of PP sphere (Ds=4.8 mm) penetrating into bath with and without oil at entry velocity of 2.8 m/s. (Online version in color.)
以上のように,小径球体が浴内侵入する場合も基本的な挙動は大径球体の場合と同様であるが,球体に付着する気泡の体積が球体体積よりも相対的に大きくなるため,気泡の浮力の影響を受けやすくなることがわかる。
粉体状の精錬剤を上方から鉄浴に吹き付ける粉体上吹き法における粉体の浴内侵入挙動は精錬に必要な時間や処理効率に影響を及ぼす。鉄浴表面に存在するスラグなどの溶融酸化物膜が粉体の侵入に影響を及ぼす可能性があるが,これまでに十分な検討が加えられていなかった。そこで本研究では,スラグ層を通過して鉄浴に侵入する粉体の侵入挙動を模擬するために,オイル層を浮かべた水浴にプラスチック製の球体を突入させる水モデル実験を行った。その結果,以下の知見を得た。
(1)オイル層がない水浴に対して球体が浴内に侵入すると,気柱が生成しない条件では侵入後に沈降速度が低下する停滞状態が起こり,その後に加速する現象が観察された。気柱が生成しない条件では,球体の背後に渦が形成されて沈降速度が低下し,渦の剥離によって加速が起きていることが示唆された。
(2)水浴面上にオイル層が存在すると,オイル膜をともなう気柱が形成されやすくなり,それと同時に,沈降速度の低下は観察されなくなった。その結果,オイル厚が0.5 mmの条件,あるいは,オイル動粘度が2.0 mm2/sと低い条件では,オイルなし条件と比較して球体の侵入深さは増加した。しかし,オイル層が2.0 mm以上の条件では,オイルなし条件と比較して侵入深さは減少した。これは薄いオイル膜は気柱生成を促進して球体背後の渦形成を抑制するが,厚く粘度の高いオイル膜は球体の運動エネルギーを減衰させるためであることが示唆された。
(3)小径の球体でも上記と同様の現象が観察されたが,生成気柱の分断により球体上部に付着する残留気泡の影響が大径の球体よりも相対的に大きくなるため,気泡の浮力の影響を強く受けることが明らかになった。