鉄と鋼
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論文
酸化鉄含有スラグの溶融還元に伴う発生気泡の気泡径分布および発生位置の測定
大野 光一郎 江口 大雅昆 竜矢
著者情報
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2024 年 110 巻 6 号 p. 441-451

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Abstract

Slag foaming is a phenomenon caused by the generation of CO bubbles due to the reaction between iron oxide in slag and carbon in pig iron. The purpose of this study is to explore the controlling factors of slag foaming by observing the bubble formation behavior caused by the chemical reaction between iron oxide and Fe-C alloy in slag. 0.06 g of Fe-C alloy was charged to the bottom of the BN crucible, and 6.0 g of slag (SiO2:CaO:Fe2O3 = 40:40:30) was charged on top of it. The crucible was placed in an infrared image heating furnace, and the temperature was rapidly raised to 1370°C at a rate of 1000°C/min in a N2 stream, then held for a predetermined time and rapidly cooled. After rapidly cooling, the internal structure of the sample was observed using a high-resolution X-ray CT device. The spherical equivalent volume is calculated based on the number of bubbles observed and their equivalent circle diameter, and the relationship between the volume ratio of small bubbles in the slag volume and the distance from the bottom of the crucible is calculated, and the bubble density and volume ratio are calculated. It was suggested that the value tends to increase as the distance from the bottom of the crucible increases.

1. 緒言

鉄鋼精錬プロセスに関する研究では,スラグをいかに有効に活用するか,いかにスラグをコントロールするかを模索してきた。特に酸素製鋼法の開発以降は,スラグフォーミングに起因するスラグおよび溶鉄の飛散に悩まされ続けてきた。スラグフォーミングとは,塩基度の低いスラグ中にガスを吹き込むことで,ガスがスラグ中に滞留し,スラグの体積が著しく増加し泡立つ現象のことである。近年では,電気炉を用いたスラグの溶融還元を伴うリサイクルプロセスなどでもその制御が課題となることが多く報告1,2,3)されており,酸化鉄を含有したスラグが炭素によって溶融還元されることにより発生し,その炭素源の適切な選択2,3)が重要であることが示唆されている。この問題は,COREXなどの流動層還元とメルターを組み合わせた新鉄源製造プロセスでも課題4)として取り組まれており,スラグフォーミング高さ制御を目指した機械学習による推定モデルなども報告がなされている5)

鉄鋼精錬プロセスにおける溶融スラグのスラグフォーミングは,転炉や溶銑予備処理,溶融還元,化石燃料を用いたスクラップ溶解等の上吹き酸素を使用する殆どの精錬プロセスにおいて,その発生が認められる6)。特に溶銑予備処理で行う脱リン処理の場合,溶銑中に存在する珪素が脱リン反応に先立って脱珪され塩基度の低いスラグが発生する。このような低塩基度スラグの存在下で脱リン処理を行うと脱リン反応と並行して進行する脱炭反応により発生するCOガスや脱リン剤吹き込みのための搬送ガスによりスラグフォーミングが起こる。溶銑予備処理工程で使用するトーピードカーや取鍋などの容器は,転炉に比べてフリーボードが小さいためスラグフォーミングが起こるとスラグが容器の外へ流れ出すことがあり,その鎮静化のためには操業を中断せざるを得ず,炉下部等の復旧作業に時間がかかり,生産性や作業性に著しい影響を及ぼしてしまう7)。また,気泡が界面を通過するときにメタル層を同伴してスラグ中に侵入するため,製品となるはずの鉄がスラグ中にエマルション化し,鉄の歩留まりの低下を引き起こしてしまう。

これらの問題のために,スラグフォーミングは,BOF製鋼技術の初期の段階から注目され,研究されてきた。スラグのフォーミング機構を考える場合には,反応によるガス発生の速度,泡の大きさなど発生側の因子と生成した泡の安定度を支配する因子とに分けて考える必要がある。スラグフォーミングの基礎研究はこの観点からなされている。泡の安定化因子の検討には,一定流量で融体にガスを送り込みスラグ上面の上昇した高さの測定や,融体を泡立てた後にガスを止めて,気泡上面が泡の破壊により一定距離を降下するのに必要な泡の寿命測定などで行う場合が多い。室温におけるフォーミングスラグを模したコールドモデルによる評価では,固相微粉や液相粒子を添加することで泡の発生挙動制御を試みた事例8)や,気相を含む液相粘度の測定9)が行われており,その中で固気液の界面エネルギー制御が重要であることが示唆されている。またコールドモデルにおいては発泡挙動の制御や粘度の測定において重要となる,泡のサイズと成長挙動についての報告10)もなされており,上部に浮上し滞留する泡は非球形化するとことが報告されている。

精錬温度におけるホットモデルでは,例えばCooper and Kitchener11)は,フォーミングスラグがモリブデン坩堝中で1623~1997 Kの温度範囲で定常状態に達した後にフォーミングスラグが任意の高さから崩壊するのに要する時間を測定することにより,CaO-SiO2-P2O5溶融物のスラグフォーミングの挙動を調べた。二成分のCaO-SiO2溶融物は発泡しないが,SiO2を50%より多く含む溶融物にP2O5を添加すると著しく発泡することが示された。これにより,P2O5,SiO2含有量の増加と共に泡の寿命が増大することがわかった。Haraら12,13)は,CaO-SiO2-FeO,およびNa2O-SiO2溶融物中へのガス注入により泡の寿命および泡の高さを測定し,泡の寿命は表面張力と良い相関関係があり,表面張力が低下することにより,急激に泡の寿命が増大することを報告している。Ito and Fruehan14)は,FeO-CaO-SiO2融体に毛細管を通してArガスを送り込む実験から,泡の寿命に相当する泡立ち指標(Foaming index)を融体の粘性,表面張力の関数として与えた。以下にIto and Fruehanによって提案された泡立ち指標を示す。

  
=570μρσ(1)

ここで,Σは泡の寿命(s),µはスラグの粘度(Pa・s),ρはスラグの密度(kg/m3),σは表面張力(N/m)を示す。これにより泡の寿命は粘度の増加と表面張力の減少と共に増加すると説明することが可能となった。しかし,これらの研究においては,用いた吹込みノズルの内径が2.1 mm,2.5 mmと大きく,形成される気泡径も大きくなることから,実際のプロセスの泡の特徴を良く再現しているかに疑問が残っている。また,Mukai7)は,毛細管を通じたガス注入によって作り出された泡は,実際のプロセスにおける化学反応のガス状生成物によって作り出された泡とは,ガスの流速,容器の容積,および気泡の大きさ,分散などの気泡の挙動の違い生じることを指摘している。実際のプロセスではFig.1に示すように,容器の底にある溶銑中の炭素と比重の関係から溶銑の上に浮かんでいるスラグ中の酸化鉄が反応することによってスラグフォーミングが発生する。そのため,FeOとFe-C合金の化学反応から生じる気泡について調べていく必要がある。

Fig. 1.

Slag foaming formation image illustration between molten slag and pig iron.

また,これまでの研究は,スラグの物性と泡の安定性との関係を調べたものが多く,泡立ったスラグ内部の構造や泡立ちの直接的な原因であるCO気泡の発生,分布挙動といった物理的側面から調査した研究は少ない。そのため,1980年代では,実際の操業条件に近い反応によって発生したガスによるスラグの泡立ちが,透過X線を用いる直接観察15,16,17,18)により調べられている。酸化鉄を含むスラグ融体と炭素飽和鉄間の反応状況の観察15)ではスラグのフォーミング高さは気泡直径の変化と関わっており,細かい気泡が発生している場合には泡立ちは激しく,気泡直径が増すと急速に泡立ちは低下する傾向を報告しており,微細気泡が形成され,合体しながら成長し破壊に至るプロセスが泡の寿命と関係することを示唆している。また,スラグ中に分散されたエマルションによって生じる脱炭や脱リン反応などの評価においては,スラグ粘度制御の重要性が示唆されている16)。しかしながらX線透過法における分解能の問題から,1 mm以下の微細な気泡生成過程にまでは迫ることが難しく,スラグフォーミングの主な操作因子と目される微細な気泡の形成機構の解明が望まれている。

以上のことから,本研究ではスラグ中のFeOとFe-C合金の化学反応から生じるスラグフォーミングについて,これまでアプローチの少なかったフォームを構成するCO気泡の大きさや分布挙動などの物理的側面からのスラグフォーミングについて検討し,内部構造からみたスラグフォーミングの支配因子を明らかにすることを目的とした。特に気泡のサイズや分布に着目し,現在課題となっている直径1 mm以下の微細な気泡の発生や分布に関する調査をすることによって新たな切り口からの支配因子を模索することに重きをおいて研究を行った。

2. 実験方法

本研究では,溶銑予備処理においてスラグと銑鉄の反応から発生するスラグフォーミングを模擬した実験を行うため,溶融スラグ中の酸化鉄とFe-C合金中の炭素の還元反応によって生じる微細気泡に注目し,フォーミングスラグにおける気泡の分布挙動の観察を以下の方法で行なった。

2・1 実験試料

溶銑予備処理で発生するスラグの基本系はCaO-SiO2-FexO三元系であるため,本研究では,スラグの構成成分をCaO,SiO2,Fe2O3とした。CaO/SiO2塩基度比は最も簡単な1を採用した。酸化鉄については,鉄の価数変化に伴うスラグ作製時また実験遂行時の取り扱いの困難さを考慮して,本研究では簡単のため,Fe2O3を採用した。スラグ中酸化鉄濃度については,Fe2O3濃度が20 mass%と40 mass%の場合について予備検討を行った結果,20 mass%の場合では,スラグ粘度が高くフォーミングスラグ中に大きな空洞を形成してしまい,今回注目したい1 mm以下の気泡観察が困難なため,本研究ではスラグの20 mass%のスラグと比較して,低粘度のFe2O3濃度40 mass%を採用した。Table 1に本研究で用いたスラグの試料組成を示す。実験には特級試薬SiO2,CaCO3,(いずれの試薬もシグマアルドリッチジャパン(株)製,純度:≥99.0)およびFe2O3(Strem chemicals製 99.8%-Fe)を用いた。CaCO3の熱分解を考慮した上で,各試料を所定の組成となるように秤量し,Al2O3乳鉢を用いて十分に混合した。次に混合した粉末を白金坩堝に充填し,1500°Cの大気雰囲気において1時間溶融した。その後,銅板上に流しだして急冷し,得られたガラス状スラグ試料を−600 µmに粉砕整粒した。

Table 1. Chemical composition of Fe-C alloy (mass%).

CSiMnPSCuAlN
0.630.240.480.00580.00270.0080.030.0028

本研究で用いた鉄-炭素合金試料の炭素濃度は,予備検討において炭素濃度が高い場合には,1 mm以下の微細気泡の観察を困難にするフォーミングスラグ中の大空洞の発生が確認されていたため,鉄中炭素濃度0.63mass%を用の試料を用いた。この鉄-炭素合金試料はTable 1に示した組成の標準試料(社団法人 日本鉄鋼連盟製)を用いた。鉄試料は粒子径1~2 mm程度まで粉砕して使用した。

2・2 実験方法

本実験では,溶銑予備処理で問題となっているスラグフォーミングの観察が目的であり,1400°C付近のスラグフォーミングを観察する必要がある。昇降温過程での反応を極力抑制し,スラグフォーミングが起きている状態を観察するためには,スラグフォーミング前の反応を抑止し,フォーミングが起きている状態を保ったまま急速に冷却する必要がある。これらの理由から,本実験では急速昇温,急速冷却が可能な赤外線イメージ加熱装置を用いて実験を行った。

本装置は,Fig.2に示すように,中段の赤外線イメージ加熱炉,炉心管,下段の試料坩堝の昇降機構,冷却チャンバー,にて構成されている。赤外線イメージ加熱炉による急速昇温,昇降式の試料坩堝,冷却チャンバー,熱衝撃に富む空冷式石英反応管の採用などの工夫を配して,急速昇温・急速冷却が可能となっている。

Fig. 2.

Schematic illustration of infrared image heating device and quenching chamber.

試料の温度測定および制御にはR型熱電対を用い,それをFig.3(a)に示すように黒鉛棒の内部に設置することで温度を測定,制御している。また,スラグフォーミングが起こることによってスラグの高さが高くなるため,スラグと黒鉛棒が触れないようにする必要がある。その上で,炉内と熱電対の温度の差が大きくなり過ぎないようにするために,黒鉛棒の位置は,Fig.3(b)に示すように黒鉛棒の下端がBN坩堝の上端の位置にくるように設定した。試料坩堝には,黒鉛坩堝(外径36 mm,内径30 mm,高さ40 mm)と黒鉛坩堝とスラグが反応してスラグフォーミングが発生することを防ぐためにBN坩堝(外径25 mm,内径20 mm,高さ32.5 mm)を用いた。BN坩堝内に,試料をFig.3(c)に示すようにFe-C合金,スラグの順に装入した。予備検討からFe-C合金の量が多い場合,激しいフォーミングにより大空洞を形成することが確認されたため,重量はFe-C合金が0.06 g,スラグが6.0 gになるように調整した。試料を装入した後に,坩堝を赤外線イメージ加熱炉内に設置し,流量2 NL/minのN2気流中の不活性雰囲気下で,1370°Cまで1000°C/minで急速昇温した後,所定の時間保持し,急冷チャンバーを利用して1000°C/minで急冷した。

Fig. 3.

Schematic illustration of sample holder part and sample setting. (Online version in color.)

2・3 三次元X線CT撮影

本研究では,フォーミングスラグの断面図から気泡の分布の観察を行うために,高分解能三次元X線CT装置(BRUKER社製 SKYSCAN 1172)を用いた。CT(Computed Tomography)装置は,対象物内をX線が透過する際の「透過しやすさ(X線透過率)」「吸収されやすさ(X線吸収係数)」の違いを利用して,内部構造や材質を調べることができる。異なる材料で構成された物質の場合だけでなく,同一物質でも,密度の違いによりX線吸収係数に違いが出るため,その差を計測することで形状を把握することが可能である。X線をある方向から対象物に照射するとX線の吸収による投影図の影の強度の減少が検出器で認識される。これを,対象物を回転する台座の上に乗せ,回転させながらX線を照射することで対象物内の吸収が強い位置の特定ができ,対象物断層面上の特定位置でのX線吸収率を算出し,これらのデータを集合させて,断面図を構築することができる。測定条件は,Camera Pixel Size 9.00 µm,Image Pixel Size 20.00 µm,Source Voltage 80 kV,Source Current 100 µA,Exposure time 2000 ms,Rotation Step 1.2degreeとした。

3. 結果と考察

実験後の各試料についてCT装置を用いた断面観察を行った。Fig.4には2 min保持後の急冷試料観察例を示す。CT撮影によりFig.4(a)に示すような坩堝水平方向の断面図とFig.4(b)に示すような坩堝垂直方向の断面図が得られ,スラグ,鉄,気泡および空隙を区別して観察することができた。図中において灰色の部分がスラグ,白い塊となっている部分が鉄である。また,スラグ中に含まれている黒く小さな円状になっている部分は気泡であり,黒い部分の面積が大きいものは空隙である。

Fig. 4.

Cross-sectioning photographs of quenched sample in BN crucible in (a) Radial section, and (b) Vertical section (Hold for 2.0 minutes).

3・1 フォーミングスラグ高さの評価

本研究では急冷試料のスラグフォーム高さを,高温溶融試験中のフォーム高さと同等であることを仮定し,Fig.5に各実験条件におけるフォーミングスラグの高さの測定結果を整理した。本図より,フォーミングスラグの高さは時間に対して一次関数的に増加していることが分かる。

Fig. 5.

Relationship between slag forming height and holding time at 1370°C.

この考察をするにあたり,ストークスの式19)を用いた。式(2)にストークスの式を示す。u(m/s)はスラグ中における気泡の終末速度,dp(m)は気泡径,ρP(1.14 kg/m3)はCO気泡の密度,ρf(3.17×103 kg/m3)はスラグの密度20),g(9.80 m/s2)は重力加速度,µ(1.60 Pa・s)はスラグの粘度9)を示す。

  
u=dp2(ρpρf)g18μ(2)

終末速度に達した気泡の速度は一定であるため,気泡の移動距離L(m)は式(3)のように表せる。

  
L=ut=dp2(ρpρf)g18μt(3)

式(3)に必要なスラグ物性値9)と,発生していると考えられる気泡直径(100 µm~1 mm)を代入することにより,気泡の浮上距離を算出した。その際,上昇気泡が終末速度に到達するのに,保持温度到達後60 sを要すると仮定し,時間tには保持温度から60 sを差し引いた時間を採用した。その結果をFig.6(a)に示す。また,Fig.6(b)に気泡径が小さい部分の拡大図を示す。これらの結果から,100~200 µm程度の気泡以外は,気泡の浮上距離の計算値がフォーミングスラグの高さの実験値よりを大きく上回り,200 µm以上の気泡は随時スラグフォーム層から随時脱離していることが推定される。

Fig. 6.

Calculated bubble floating distances of each bubble diameter cases. (Online version in color.)

3・2 円相当直径分布による評価

スラグフォーミングを評価するにあたり円相当直径分布を用いた。円相当直径分布を,ある断面の指定領域に相当する円の直径の分布と定義する。CT撮影を用いて坩堝の断面を撮影した後に,円相当直径の範囲別に着色し整理を行った。坩堝断面方向を全視野解析することを念頭に,取得可能なC T画像の分解能と画素数を勘案し,最小の円相当直径は200~300 µmとした。また,坩堝内において円相当直径範囲が示されていない黒色の部分はスラグを示している。この手法を用いて気泡の大きさ,数,位置関係を以下の通り整理した。Fig.7に各実験後試料のCT装置を用いて撮影した坩堝水平方向の断面図を示す。気泡の大きさが2 mmを超えるものがほとんどなかったので,坩堝の断面は2 mm刻みで観察を行った。

Fig. 7.

Radial section photograph of quenched sample in BN crucible using micro-CT observation. (Online version in color.)

これらの画像をもとに円相当直径分布について,気泡の数と円相当直径範囲の関係を表したグラフをFig.8に示す。これらのグラフから反応時間や坩堝の底からの距離に関わらず,円相当直径が200~300 µmの気泡が多いことが分かる。これはストークスの式(2)より,同じ粘度の時,気泡が小さいほど終末速度が小さくなるため,小さい気泡は滞留時間が長くなり,スラグ中に小さい気泡の数が多くなったと考えられる。また,Fig.8のグラフにおいて,円相当直径が200~300 µmの気泡に注目すると,反応時間が短い1.5 minの実験において,気泡の数が多くなる傾向があることが分かる。これは,時間が経つにつれてスラグ/メタル界面で発生する気泡のサイズが増大することで,小さい気泡の発生量が減少するためであると考えられる。

Fig. 8.

Relationships between the diameter range equivalent to a circle and the number of bubbles at each level from bottom. (Online version in color.)

スラグフォーミングの評価をするにあたって,円相当直径が1 mm以下の気泡を小さい気泡とし,フォーミングスラグ中の小さい気泡に注目してさらに詳細な整理を行った。各実験時間でのフォーミングスラグを最大高さまで1 mm刻みで断面観察を行い,円相当直径範囲ごとにすべての高さの気泡の数を合計したものをFig.9に示す。保持時間が長くなるにつれてスラグ中に内包される気泡の数が多くなっていることが分かる。これはスラグとFe-C合金の反応時間が長いことにより多くの気泡を発生するからであると考えられる。また,気泡径が大きくなるほど内包される気泡の数が少なくなっている。これは,大きい気泡ほど発生量が少なく,発生しても浮上速度が速いためにスラグ中に滞留しにくいためであると考えられる。

Fig. 9.

Relationships between the diameter range equivalent to a circle and the number of bubbles in whole part. (Online version in color.)

3・3 スラグフォーミングの三次元的評価

ここまでは円相当直径分布を用いて二次元的評価を行ったが,スラグフォーミングの内部構造をより詳しく理解するには,三次元的評価が必要である。そこで,Fig.10に示すようにフォーミングスラグを高さ1 mmごとに刻み,高さ1 mmの円柱のなかに存在する気泡や空洞の体積を2次元断面図から算出し分析を行った。

Fig. 10.

3D image of forming slag and 3D evaluation method (Hold for 2 min). (Online version in color.)

各断面にある円相当直径が1 mm以下の気泡は高さ1 mmの円柱の中に球体として存在すると仮定し,円相当直径から球相当体積を算出した。また,Fig.11に示すように円相当直径が1 mmより大きい部分に関しては,断面図の状態が高さ方向に1 mm続いていると仮定し体積を算出した。

Fig. 11.

Schematic illustration of small air bubbles evaluation method. (Online version in color.)

本手法による気泡体積の推定方法の妥当性を検証するために,全ての実験においてスラグの体積が実験前後で変化しないと仮定し,各実験においてフォーミングスラグの高さからフォーミングスラグの体積を算出した。フォーミングスラグの体積からスラグの体積を引いたものを気泡および空洞の総体積の理論値とし,高さ1 mmごとの断面から算出した気泡および空洞の総体積を実験値とした際の,理論値と実験値の関係をFig.12に示す。本グラフから理論値と実験値の大きな乖離がないことが確認され,今回の評価方法の妥当性が確認された。

Fig. 12.

Ideal and experimental values of total volume of bubbles and voids for each height of forming slag. (Online version in color.)

各実験条件で発生する円相当直径が1 mm以下の気泡はすべて球体であると仮定し,円相当直径ごとの気泡の球相当体積を算出した。各断面における円相当直径が1 mm以下の気泡の総体積と坩堝の底からの距離の関係をFig.13示す。Fig.12Fig.13,を比べると小さい気泡の体積は,フォーミングスラグ全体の体積と比べてかなり小さいことが考えられる。そのため,今回の実験においてフォーミングスラグの泡立ちの高さや体積を決めている支配的要因は小さい気泡ではなく,大きな気泡および空洞であると考えられるが,今後の検討課題としたい。

Fig. 13.

Relationship between the volume of small bubbles and the distance from the bottom of the crucible for each reaction time. (Online version in color.)

本研究の主目的は,スラグ中に内包される気泡の分布挙動についての評価であるため,各断面に存在する大きな空洞の部分を除き,スラグ中に内包される小さな気泡の評価を行った。そこでFigに示すように,厚さ1 mmの円柱において円相当直径が1 mm以上の部分を除いた領域の体積をV(mm3),各断面における小さな気泡の数をn(-)とし,スラグ中の気泡密度N(/mm3)を以下のように定義した。

  
N=n/V (/mm3)(4)

Fig.14に坩堝の底からの距離と気泡密度Nの関係を示す。保持時間に関わらず気泡密度Nは坩堝の底からの距離が遠くなるほど大きくなる傾向があることが分かる。坩堝の上部にある気泡はより早い段階で生成した気泡であることを考慮すると,スラグフォーミングの反応初期に小さな気泡が多く発生し,時間が経つにつれて徐々に発生する小さな気泡の数が減少していくことが考えられる。

Fig. 14.

Relationship between the distance from the bottom of the crucible and the bubble density for each reaction time. (Online version in color.)

気泡の大きさごとに気泡密度と坩堝の底からの距離の関係を表したものをFig.15に示す。この図から,円相当直径が小さい気泡ほど気泡密度が大きくなっていることが分かる。式(2)より,同じ粘度の時,気泡が小さいほど終末速度が小さくなるため,小さい気泡は滞留時間が長くなり,大きい気泡はすぐに浮上してスラグから抜け出すからであると考えられる。また,どの実験条件においても円相当直径が200~500 µmの気泡は坩堝の底からの距離が遠くなるほど気泡密度が大きくなっており,円相当直径が500~1000 µmの気泡は高さに関係なく気泡密度が小さくなっている傾向があることが分かる。

Fig. 15.

Relationship between the distance from the bottom of the crucible and the bubble density for each bubble size (Hold for 2.0 min). (Online version in color.)

フォーミングスラグの高さに影響を与えているのは気泡の体積であることが考えられるため,Volume ratio of small bubbles(-)を用いて評価を行った。円相当直径が1 mm以下の気泡の球相当体積をV’(mm3)とし,気泡密度N(/mm3)を用いてスラグに占める円相当直径が1 mm以下の気泡の体積割合を以下のように定義した。

  
Volumeratioofsmallbubbles=NV'()(5)

式(5)をもとに算出したスラグに占める円相当直径が1 mm以下の気泡の体積割合と坩堝の底からの距離の関係をFig.16に示す。

Fig. 16.

Relationship between the distance from the bottom of the crucible and the volume ratio of small bubbles for each holding time. (Online version in color.)

これらの結果はFig.12Fig.13と比べると坩堝の底からの距離と小さい気泡の体積の関係に相関がみられ,実験条件に関わらず,小さい気泡の体積は坩堝の底からの距離が遠くなるほど,スラグ中に占める小さな気泡の体積割合が大きくなる傾向がある。気泡のサイズおよび分布の仕方について,より詳細に確認するために円相当直径ごとの球相当体積と坩堝の底からの距離の関係を算出した。その結果をFig.17Fig.18に示す。

Fig. 17.

Relationship between the distance from the bottom of the crucible and the volume ratio of small bubbles for each bubble size smaller than 500 µm (Hold for 2.0 min). (Online version in color.)

Fig. 18.

Relationship between the distance from the bottom of the crucible and the volume ratio of small bubbles for each bubble size bigger than 500 µm (Hold for 2.0 min). (Online version in color.)

Fig.17から円相当直径が200~500 µmの気泡は坩堝の底からの距離が遠くなるほど,体積割合が大きくなっていることがわかる。これは坩堝の底からの距離が遠くなるほど,気泡密度が大きくなることに起因すると考えられる。また,Fig.18から円相当直径が500~1000 µmの気泡は200~500 µmの気泡に比べて,高さ方向における体積割合の分布に規則性がなくばらつきがあることが分かる。これは,円相当直径が500~1000 µmの気泡は円相当直径が200~500 µmの気泡に比べて発生量が少なく,気泡ひとつ当たりの体積の影響が大きくなるためであると考えられる。

3・4 気泡の発生および分布のメカニズム

これまでの結果を踏まえたうえで,気泡がどのように発生し,分布するのか考察を行っていく。気泡の発生および分布の変遷を表した図をFig.19に示す。

Fig. 19.

Schematic illustration of bubble distribution and formation mechanism. (Online version in color.)

反応が始まると①のように小さい気泡が発生し,これにより液面が上昇する。反応が進むにつれてスラグ中の酸化鉄濃度が低下することが考えられる。Mukaiら7)の研究により,酸化鉄濃度が低下するとスラグ/メタル界面で発生する気泡が大きくなることが報告されている。Terashimaら21)は,スラグと濡れにくいカーボンロッドとの界面から発生する気泡の寸法は大きいが,スラグと濡れやすい溶鉄との界面から発生する気泡の寸法は小さいことを報告しており,濡れ性の違いによって発生する気泡の大きさが変化することが考えられている。また,Mukaiら22)は,スラグと溶鉄の接触角を測定し,スラグ中の酸化鉄濃度が高くなるほどスラグと溶鉄の濡れ性がよくなることを報告している。これらの報告から,スラグ中の酸化鉄濃度が低くなり,スラグと溶鉄が濡れにくくなると気泡は大きく成長し,スラグ中の酸化鉄濃度が高くなり,スラグと鉄が濡れやすくなると気泡は小さいまま界面から離脱し,浮上していくことが考えられる。そのため,時間の経過とともに酸化鉄濃度が低下すると,②に示すようにスラグ/メタル界面で大きな気泡が発生し始めることが考えられる。大きな気泡が発生しているスラグ/メタル界面では小さな気泡は発生しないため,反応初期に比べると発生する小さな気泡の数が減少することが考えられる。これにより,坩堝の底からの距離が遠くなるほど,円相当直径が200~500 µmの小さな気泡の気泡密度が小さくなっていたことが説明できる。また,②の状態からさらに時間が経過し反応が進行すると,③のように,発生する大きな気泡の数が増加する。しかし,大きな気泡は上昇速度が速いため,スラグ中に滞留する時間が短くなり,内包される数が少なくなることが考えられる。そのため,高さに関係なく気泡密度が小さくなることが考えられる。

4. 結言

本研究では,CaO,SiO2,Fe2O3を用いて模擬スラグを作製し,赤外線イメージ加熱装置を用いて,1370°Cにおいて溶融スラグ中の酸化鉄とFe-C合金の化学反応から生じる気泡の大きさや分布挙動について,急冷後試料の断面観察を行うことで,以下の知見を得た。実験条件に関わらず,円相当直径が200~300 µmの気泡が多く観察された。これはストークスの式より,スラグの粘度が同じ時,気泡が小さいほど終末速度が小さくなることで滞留時間が長くなるためであると考えられる。円相当直径が200~500 µmの気泡密度や体積割合は坩堝の底からの距離が遠くなるほど大きくなる傾向があった。これは,時間の経過とともに大きい気泡が発生するようになり,同時に発生する小さい気泡の数が減少するからであると考えられる。円相当直径が500 µm以上の気泡は高さに関係なく気泡密度が小さくなる傾向があった。反応の進行とともにスラグ中の酸化鉄濃度が低下することによって大きい気泡が発生するが,浮上速度が速いため,スラグ中に滞留する時間が短く,内包される数も少なくなるからであると考えられる。

謝辞

著者らは,日本鉄鋼協会に設立された「多相融体の流動理解のためのスラグみえる化研究会」の研究グループからの財政的支援および科学的助言に感謝の意を表します。

文献
 
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