鉄と鋼
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論文
溶融Fe–18mass%Cr合金中Mo, B, Ni, Ti, NbとSn間の相互作用係数
堀 功雅加藤 謙吾小野 英樹
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2024 年 110 巻 7 号 p. 513-521

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Abstract

Increasing the utilization of steel scrap is strongly required for reducing CO2 emission in iron- and steel-making processes. In steel scrap recycling, the content of tramp elements in steel (such as copper and tin) inevitably increases. Accordingly, it is important to understand the thermodynamic characteristics of relevance to the accumulation of tramp elements in molten steel. The values of the interaction coefficients of Mo, B, Ni, Ti, and Nb with Sn in molten iron were reported previously. However, little is known about the interaction coefficients of alloying elements with tramp elements in molten high-chromium steel. In this work, the interaction coefficients of Mo, B, Ni, Ti, and Nb with Sn in the molten Fe–18mass%Cr alloy were measured at 1873 K by a chemical equilibration technique that uses the liquid immiscibility of the Fe–18mass%Cr alloy and Ag, yielding the following results:

The results show that the values of the interaction coefficients of M with Sn in the Fe–18mass%Cr alloy are smaller than those for molten iron, which were measured in the previous work, except for titanium. The interaction coefficients of M with Sn in Fe and Fe–18mass%Cr alloy were estimated based on a regular solution model. The estimated interaction coefficients of B, Ni, and Ti with Sn in molten iron and Ni and Ti with Sn in the molten Fe–18mass%Cr alloy reasonably agree with the measured values.

1. 緒言

製鉄プロセスにおけるCO2排出量削減のために,鉄スクラップの利用拡大が強く求められている1,2,3,4)。しかし,老廃スクラップには,一旦溶鉄に溶解すると除去が困難なトランプエレメントが多く含まれている。したがって,リサイクルにより生産された鉄鋼材中のトランプエレエント含有量は,リサイクル回数の増加とともに増加する。従って,トランプエレメントが製鋼プロセスや鋼の特性に与える影響を把握することはとても重要である。例えば,銅(Cu)や錫(Sn)は,凝固や熱間圧延工程で熱間脆性を引き起こすことが報告されている5,6,7,8,9,10,11)

今日まで,CuとSnの除去に関する多くの研究が行われてきた12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30)。しかし,実用化に向けた適切な除去プロセスはまだ確立されていない。Kuzuharaら31)は,電気炉での精錬中の鋼中不純物濃度を調査した。その結果,Cuは0.37 mass%であり,他の不純物よりも高濃度であった。Daigoら32)は,リサイクル鉄鋼材中に混入した15種類の不純物元素が,引張強さ,伸び,降伏点または耐力,溶接部の健全性,破壊靭性に及ぼす影響を調査し,強度と応力に関連する特性は,ほとんどすべての不純物の存在によって向上することがわかったが,伸びと溶接部の健全性はしばしば損なわれたことを報告している。従って,リサイクルされる鉄スクラップ中の不純物元素の量を厳しく監視する必要がある。

一方,Cuを1 mass%以上含有する抗菌性フェライト系ステンレス鋼33,34,35)や,クロム(Cr)やニッケル(Ni)の含有量が低いSn添加ステンレス鋼36)など,トランプエレメントを利用した鋼材も登場している。これらは,トランプエレメントの影響を把握し,その含有量を制御すれば,鉄スクラップから高級鋼を製造できることを示している。通常,高級鋼には遷移金属が添加されている37)。活量はそのような合金元素の含有量を制御するのに重要な熱力学データである。溶鉄中のトランプエレメントは,熱力学的相互作用により,共存する合金元素の活量に影響を及ぼすと考えられる。

溶鉄中の2元素間の熱力学的相互作用は相互作用係数によって表される。溶鉄中で見出された様々な元素の相互作用係数の値が報告されている。近年,溶鉄中の合金元素とトランプエレメント間の相互作用係数が報告された38,39,40,41,42)。しかし,溶融合金鋼中の遷移金属元素とトランプエレメント間の相互作用係数のデータは非常に限られている。著者らは以前に,溶鉄中におけるホウ素(B),コバルト(Co)およびNiとCu41),Mo,B,Ni,チタン(Ti)およびニオブ(Nb)とSn42)の相互作用係数を報告した。Crは,ステンレス鋼,耐熱鋼,高張力鋼,工具鋼などの高級鋼の製造に不可欠な元素として知られている。このような特殊鋼を製造するためには,高Cr鋼中の合金元素と不純物元素の相互作用係数を知ることが重要である。そこで本研究では,1873 Kにおいて,化学平衡法を用いて溶融Fe–18mass%Cr合金中のMo,B,Ni,Ti,NbとSn間の相互作用係数を測定した。

2. M (M:Mo, B, Ni, Ti, Nb)とSn間の相互作用係数の測定法

1873 Kにおいて,M(M:Mo,B,Ni,Ti,Nb)とSn間の相互作用係数をFe–18mass%Cr(Fe–18Cr)相と銀(Ag)相の2液相分離を利用し,Snの分配比に及ぼす M の影響を調べることにより求めた43)。平衡状態では,溶融Fe–18Cr相中のSnの部分モルギブスエネルギー(GSn(in Fe–18Cr))は,溶融Ag相中のそれ(GSn(in Ag))と等しくなる。この関係は式(1)で表される:

  
G¯Sn(inFe18Cr)=G¯Sn(inAg)(1)

各相におけるSnの活量の基準を同じ純物質液体にとると,式(2)のように書き換えられる:

  
lnaSn(inFe18Cr)=lnaSn(inAg)(2)

ここで,aSn(in Fe–18Cr)aSn(in Ag)は,それぞれFe–18Cr,Ag中のSnの活量を表す。(Fe–18Cr)–Ag–Sn系では,溶融Fe–18Cr相と溶融Ag相におけるSnの活量は,各相でSnが希薄な場合,式(3)式(4)でそれぞれ表される:

  
lnaSn(inFe18Cr)=lnxSn(inFe18Cr)+lnγSn(inFe18Cr)0+xSn(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Sn+xAg(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Ag(3)
  
lnaSn(inAg)=lnxSn(inAg)+lnγSn(inAg)0+xSn(inAg)εSn(inAg)Sn+xCr(inAg)εSn(inAg)Cr+xFe(inAg)εSn(inAg)Fe(4)

ここで,xi(in α)γ0.i(in α)εji(in α)は,それぞれ,(Fe–18Cr)–Ag–Sn系におけるα相中の元素iのモル分率(α:Fe–18CrまたはAg),α相中の元素iの無限希薄溶液における活量係数,α相中の元素iに対する元素jの相互作用係数である。(Fe–18Cr)–Ag–Sn–M系では,Snの活量は同様にそれぞれ式(5)および式(6)で表される:

  
lnaSn(inFe18Cr)=lnXSn(inFe18Cr)+lnγSn(inFe18Cr)0+XSn(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Sn+XAg(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Ag+XM(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)M(5)
  
lnaSn(inAg)=lnXSn(inAg)+lnγSn(inAg)0+XSn(inAg)εSn(inAg)Sn+XCr(inAg)εSn(inAg)Cr+XFe(inAg)εSn(inAg)Fe+XM(inAg)εSn(inAg)M(6)

Xi(in α)は,(Fe–18Cr)–Ag–Sn–M系におけるα相中の元素iのモル分率である。式(2)(3)(4)および式(2)(5)(6)より,以下の式(7)(8)が導かれる:

  
0=ln{xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)}+ln{γSn(inAg)0γSn(inFe18Cr)0}+xSn(inAg)εSn(inAg)SnxSn(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Sn+xCr(inAg)εSn(inAg)Cr+{xFe(inAg)εSn(inAg)FexAg(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Ag}(7)
  
XM(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)M=ln{XSn(inAg)XSn(inFe18Cr)}+ln{γSn(inAg)0γSn(inFe18Cr)0}+{XFe(inAg)εSn(inAg)FeXAg(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Ag}+XSn(inAg)εSn(inAg)SnXSn(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Sn+XCr(inAg)εSn(inAg)Cr+XM(inAg)εSn(inAg)M(8)

Fe–Ag二元系における相互溶解度は,xAg(in Fe)=0.002~0.004,xFe(in Ag)=0.006~0.01744)と報告されている。また,1873 KではCrとAgも非混和性であるため,AgのFe–18Crへの溶解度も小さいと考えられる45)。従って,FeとAgの相互溶解度に対するMの影響が無視できるほど小さいと仮定すると,MとFe–18Cr中のSnとの相互作用係数εMSn(in Fe–18Cr)は,式(7)式(8)から次のように導かれる:

  
εSn(inFe18Cr)M=[ln{XSn(inAg)XSn(inFe18Cr)}ln{xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)}+εSn(inAg)Sn{XSn(inAg)xSn(inAg)}εSn(inFe18Cr)Sn{XSn(inFe18Cr)xSn(inFe18Cr)}+εSn(inAg)Cr{XCr(inAg)xCr(inAg)}] / XM(inFe18Cr)+L'MεSn(inAg)M(9)

ここでL'MはMの分配比でありL'M=XM(inAg)XM(inFe18Cr)で定義される。

本研究では,Fe–18mass%Cr (Fe–18Cr) 相とAg相間のSnとMの分配比の実験結果から,式(9)を用いて相互作用係数を導出した。M=TiまたはNbの場合は,次節で説明する理由によりAlを添加した。そのため,AlとSn間の相互作用係数を以下のように考慮した:

  
εSn(inFe18Cr)M=[ln{XSn(inAg)XSn(inFe18Cr)}ln{xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)}+εSn(inAg)Sn{XSn(inAg)xSn(inAg)}εSn(inFe18Cr)Sn{XSn(inFe18Cr)xSn(inFe18Cr)}+εSn(inAg)Cr{XCr(inAg)xCr(inAg)}XAl(inFe18Cr)εSn(inFe18Cr)Al]/XM(inFe18Cr)+L'MεSn(inAg)M(10)

モル分率表示の相互作用係数(εMSn(in Fe–18Cr))は,次式を用いてmass%表示の相互作用係数(eMSn(in Fe–18Cr))に変換することができる:

  
εSn(inFe18Cr)M=230MMMFe18CreSn(inFe18Cr)M+(1MMMFe18Cr)(11)

ここで,MMMFe–18Crは,それぞれ元素Mの原子量とFe–18Crの平均モル質量である。

3. 実験方法

1873 Kにおいて,溶融Fe–18Cr合金と溶融Ag間のSnの分配比に及ぼすM(M:Mo,B,Ni,Ti,Nb)の影響を調べた。実験装置と試料配置をFig.1に示す。3種類の試料をそれぞれAl2O3るつぼ(外径:15 mm,内径:12 mm,高さ:100 mm)に入れ,アルゴン雰囲気下,電気抵抗炉のムライト管(外径:70 mm,内径:60 mm,高さ:1000 mm)内で1873 Kまで加熱した。このとき,大きめのAl2O3るつぼ(外径:45 mm,内径:38 mm,高さ:100 mm)をるつぼホルダーとして使用した。M=TiまたはNbの場合,Al2O3るつぼがTiまたはNbによって還元され,TiまたはNb含有量が減少するのを防ぐために,あらかじめ用意したFe–15mass%Al合金を添加した。各試料のFe,Ag,Cr,Sn,M(M:Mo,B,Ni,Ti,Nb),Fe–15mass%Al合金の初期質量をTable 1に示す。温度が1873 Kに達した後,5時間保持し,平衡させた。その後,試料を炉から取り出し,水中で冷却した。金属試料を細かく切断し,ICP発光分光分析法を用いて,Fe–18Cr相およびAg相中のCr,Sn,M,Al濃度を分析した。

Fig. 1.

Schematic of the experimental apparatus and arrangement of materials. (Online version in color.)

Table 1.

Initial masses and experimental results. (a): Mo, B, and Ni, (b): Ti and Nb.

4. 結果と考察

4・1 Ag中Snの自己相互作用係数

実験後のFe–18Cr相およびAg相のCr,Sn,M,Al濃度をTable 1に示す。すべての実験において,Fe–18Cr相のCr濃度は約18 mass%で一定であることを確認した。L'Sn=xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)で定義されるSnのモル分配比を計算し,Table 1に示した。その結果,Fe–18Cr相のSn濃度は一般に0.1 mass%未満と低くL'Snの値は19.4~41.9の範囲で変化することがわかった。また,Ag相中のM濃度は非常に低いことがわかった。

(Fe–18Cr)–Ag–Sn系(No.1~6)の実験では,xSn(in Ag)xSn(in Fe–18Cr)xCr(in Ag)よりもはるかに大きく,式(7)xSn(in Fe–18Cr)εSnSn(in Fe–18Cr)xCr(in Ag)εCrSn(in Ag)の項は無視できると考えられる。さらに,各相におけるAgとFeの相互溶解度はSn含有量に依存しないと仮定すると,式(7)は以下のように書き換えることができる:

  
lnL'Sn=xSn(inAg)εSn(inAg)Sn+const.(12)

lnL'Snの実験結果をxSn(in Ag)に対してプロットした図がFig.2である。Fig.2より,直線関係が観察され,lnL'SnはAg相中のSn含有量が増加するにつれてわずかに減少することがわかる。実験プロットの回帰直線であるFig.2の実線の傾きから,Ag相中のSnの自己相互作用係数εSnSn(in Ag)として3.80の値が得られた。

Fig. 2.

Concentration dependence of the partition ratio of Sn, for the (Fe–18Cr)–Ag–Sn system.

4・2 Fe–18Cr合金中Snの活量に及ぼすM (M:Mo, B, Ni, Ti, Nb)の影響

(Fe–18Cr)–Ag–Sn–M系におけるL'SnXM(in Fe–18Cr)依存性をFig.3に示す。Fig.3より,Snのモル分配比はB,Ti,Nbの含有量が増加すると増加し,Mo,Niの含有量が増加すると減少することがわかる。この結果から,Fe–18Cr中のSnの活量は,B,Ti,Nbによって増加し,Mo,Niによって減少することがわかった。L'M=XM(inAg)XM(inFe18Cr)の値は,Table 1に示すように0.00~0.06の範囲であり,無視できるほど小さいと判断した。さらに,XSn(in Fe–18Cr)xSn(in Fe–18Cr)の項の絶対値は0.002以下,XCr(in Ag)xCr(in Ag)の項の絶対値は0.003以下であり,これらも無視できるほど小さい値である。したがって,式(9)および式(10)L'M εMSn(in Ag), XSn(in Fe–18Cr)xSn(in Fe–18Cr)およびXCr(in Ag)xCr(in Ag)の項は無視した。式(9)εSnSn(in Ag)に導出した値3.80を代入すると,次式が得られる:

  
εSn(inFe18Cr)M=ln{XSn(inAg)XSn(inFe18Cr)}ln{xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)}+3.80{XSn(inAg)xSn(inAg)}XM(inFe18Cr)(13)
Fig. 3.

Dependence of L'Sn on XM(in Fe–18Cr), for the (Fe–18Cr)–Ag–Sn–M system. (Online version in color.)

式(13)より,

  
ln γ Sn M = ε Sn( inFe18Cr ) M X M( inFe18Cr ) = ln{ X Sn( inAg ) X Sn( inFe18Cr ) }ln{ x Sn( inAg ) x Sn( inFe18Cr ) } + 3.80{ X Sn( inAg ) x Sn( inAg ) } (14)

ここで,lnγMSnは,Fe–18Cr中のSnの活性係数に対するMの影響を表す。式(14)より,lnγMSnXM(in Fe–18Cr)は直線関係にあり,傾きはMとFe–18Cr中のSnとの相互作用係数,εMSn(in Fe–18Cr)に相当する。この式をM=Mo,B,Niに適用した。M=TiまたはNbの場合は,溶融Fe中のAlとSnの相互作用係数εAlSn(in Fe)=3.1037)を用い,式(10)から以下の式を導いた:

  
ε Sn( inFe18Cr ) M = ln{ X Sn( inAg ) X Sn( inFe18Cr ) }ln{ x Sn( inAg ) x Sn( inFe18Cr ) }+3.80{ X Sn( inAg ) x Sn( inAg ) } X M( inFe18Cr ) 3.10 X Al( inFe18Cr ) X M( inFe18Cr ) (15)
  
lnγSnM=εSn(inFe18Cr)MXM(inFe18Cr)=ln{XSn(inAg)XSn(inFe18Cr)}ln{xSn(inAg)xSn(inFe18Cr)}+3.80{XSn(inAg)xSn(inAg)}3.10XAl(inFe18Cr)(16)

式(14)(16)に従って,(Fe–18Cr)–Ag–Sn–M(M=Mo, B, Ni, Ti, or Nb)系の実験結果をそれぞれFig.4, 5, 6, 7, 8にプロットした。著者らが以前に報告42)したFe–Ag–Sn–M系の結果もFig.4, 5, 6, 7, 8に示されている。実線と破線はそれぞれ,(Fe–18Cr)–Ag–Sn–M系とFe–Ag–Sn–M系の回帰直線である。したがって,これらの実線と破線の傾きはそれぞれεMSn(in Fe–18Cr)εMSn(in Fe)を表す。εMSn(in Fe–18Cr)の値は,Fig.4, 5, 6, 7, 8の実線の傾きから求めた。また,mass%表示の相互作用係数の値(eMSn(in Fe–18Cr))も式(11)を用いて計算した。εMSn(in Fe–18Cr)eMSn(in Fe–18Cr)の計算値と,以前の研究42)で測定したεMSn(in Fe)Table 2にまとめて示す。ここで,括弧内の値は標準偏差を表し,lnγMSnの値は正規分布に従い,XM(in Fe–18Cr)の偏差は無視できると仮定して,Fig.4, 5, 6, 7, 8のlnγMSnの標準偏差とXM(in Fe–18Cr)の平均値から計算したものである。その結果,Fe–18Cr中のMとSnの相互作用係数の値は,Tiを除いて溶鉄中よりも小さいことがわかった。また,MoとSnの相互作用係数の符号は,Cr含有量が18 mass%に増加すると正から負に変化することがわかった。

Fig. 4.

Effect of Mo on the activity coefficient of Sn, for Fe–18Cr and Fe42), at 1873 K. (Online version in color.)

Fig. 5.

Effect of B on the activity coefficient of Sn, for Fe–18Cr and Fe42), at 1873 K. (Online version in color.)

Fig. 6.

Effect of Ni on the activity coefficient of Sn, for Fe–18Cr and Fe42), at 1873 K. (Online version in color.)

Fig. 7.

Effect of Ti on the activity coefficient of Sn, for Fe–18Cr and Fe42), at 1873 K. (Online version in color.)

Fig. 8.

Effect of Nb on the activity coefficient of Sn, for Fe–18Cr and Fe42), at 1873 K. (Online version in color.)

Table 2. Interaction parameter of M with Sn, for the molten Fe–18 mass%Cr, εMSn(in Fe–18Cr), eMSn(in Fe–18Cr) and those for Fe42), εMSn(in Fe,1873 K) at 1873 K.

MεMSn(in Fe–18Cr)eMSn(in Fe–18Cr)εMSn(in Fe)42)
Mo−2.9 (±3.2)−0.0054 (±0.0099)11.7 (±4.7)
B9.6 (±1.9)0.19 (±0.02)9.9 (±1.2)
Ni−8.9 (±2.6)−0.036 (±0.011)−6.8 (±1.7)
Ti10.4 (±5.7)0.051 (±0.028)6.0 (±1.2)
Nb20.5 (±8.0)0.055 (±0.022)31.7 (±1.8)

4・3 Fe–18Cr中SnとM (Mo, B, Ni, Ti, or Nb)の相互作用係数

Fe–Sn–M三元系におけるMの活量係数lnγM(in Fe–Sn–M)は,Toopの式46)に基づき,式(17)のように最近接原子間の結合を考慮して推定することができる:

  
lnγM(inFeSnM)=lnγM(inFeM)xFexFe+xSn+lnγM(inSnM)xSnxFe+xSn(1xM)2ΔGFeSnExRT(17)

ここで,lnγM(in Fe–M)および lnγM(in Sn–M)は,それぞれFe–MおよびSn–M二元系におけるMの活量係数であり,ΔGExFe–Snは,Fe–Sn二元系における混合過剰ギブス自由エネルギーである。ΔGExFe–Snは正則溶液モデルに基づいて式(18)で表される:

  
ΔGFeSnEx=RT{xFelnγFe(inFeSn)+xSnlnγSn(inFeSn)}(18)

xM≪1のとき,1−xMおよびxFe+xSnは約1となり,γM(in Fe–M)およびγM(in Sn–M)は,それぞれγ0M(in Fe)およびγ0M(in Sn)に置き換えることができる。したがって,式(17)および式(18)から式(19)が導かれる:

  
lnγM(inFeSnM)=xFelnγM(inFe)0+xSnlnγM(inSn)0(xFelnγFe(inFeSn)+xSnlnγSn(inFeSn))=xFelnγM(inFe)0+(1xFe)lnγM(inSn)0(1xFe)lnγSn(inFe)0(19)

一方,Fe–Sn–M三元系におけるMの活量係数は,lnγM(in Fe–Sn–M)=lnγ0M(in Fe)εSnM(in Fe) (1−xFe)で表すことができる。この式の右辺と式(19)は等しいので,次式が得られる:

  
εM(inFe)Sn=lnγM(inSn)0lnγSn(inFe)0lnγM(inFe)0(20)

式(20)に基づき,溶融Fe中のMとSnの相互作用係数は,各二元系の活量係数から計算できる。式(20)のFeをFe–Crに置き換えると以下の式が得られる:

  
εM(inFeCr)Sn=lnγM(inSn)0lnγSn(inFeCr)0lnγM(inFeCr)0(21)

溶融Fe中のCrがヘンリーの法則に従うと仮定すると SnとMの活量係数はそれぞれlnγ0Sn(in Fe–Cr)= lnγ0Sn(in Fe)+εCrSn(in Fe) xCr,lnγ0M(in Fe–Cr)= lnγ0M(in Fe)+εCrM(in Fe) xCrで表される。従って,

  
ε M( inFeCr ) Sn = ln γ M( inSn ) 0 ( ln γ Sn( inFe ) 0 + ε Sn( inFe ) Cr x Cr( inFeCr ) ) ( ln γ M( inFe ) 0 + ε M( inFe ) Cr x Cr( inFeCr ) ) (22)

式(22)から式(20)を引くと,次式が導かれる:

  
εSn(inFeCr)M=εSn(inFe)M(εSn(inFe)Cr+εM(inFe)Cr)xCr(inFeCr)(23)

溶鉄および溶融Fe–18Cr中のMとSnの相互作用係数をTable 3およびTable 4の値から式(20)および式(23)を用いて推定した。ここで,xCr(in Fe–Cr)はFe–18Crに対して0.191と算出した。推定値をTable 5に示し,実測値と比較した図をFig.9に示す。Fig.9から,正則溶液モデルに基づく溶融Fe中のB,Ni,TiとSn,溶融Fe–18mass%Cr中のNi,TiとSnの相互作用係数の推定値は,実測値とほぼ一致することがわかった。一方,溶融Fe–18mass%Cr中のMoとSnの相互作用係数は,実測値と推定値の差が比較的大きく,正則溶液モデルでは推定できない。溶質元素の活量を正確に決定するためには,相互作用係数を実験的に測定することが重要である。

Table 3. The values of γ0M(in Sn), γ0Sn(in Fe), and γ0M(in Fe), from the literature47,48,49).

Mγ0M(in Sn)γ0Sn(in Fe)47)γ0M(in Fe)47)
Mo2.581
B20448)0.022
Ni0.0023848)0.66
Ti0.65149)0.004
Nb12.448)0.2
Table 4. The values of εMSn(in Fe), εCrSn(in Fe), and εCrM(in Fe), from the literature.42,47)

MεMSn(in Fe)42)εCrSn(in Fe)47)εCrM(in Fe)47)
Mo11.73.27−0.0068
B9.9
Ni−6.8−0.0027
Ti6.03.5
Nb31.7
Table 5. The estimated values of the interaction coefficients of M (M: Mo, B, Ni, Ti, and Nb) with Sn, for the molten Fe–18Cr and for the molten Fe, at 1873 K, derived from the regular solution model.

MεMSn(in Fe)εMSn(in Fe–18Cr)
Mo11.1
B8.2
Ni−6.6−7.4
Ti4.14.7
Nb3.2
Fig. 9.

Relationship between the measured εMSn(in Fe), εMSn(in Fe–18Cr) values and those derived from the regular solution model.

5. 結論

1873 Kにおいて,溶融Fe–18mass%Cr合金中のMo,B,Ni,Ti,NbとSn間の相互作用係数を,Fe–18mass%CrとAgの2液相分離を用いて測定し,以下の結論を得た。

(1)1873Kにおける溶融Fe–18mass%Cr合金中のMo,B,Ni,Ti,NbとSn間の相互作用係数として以下の値が得られた:

  
εSn(inFe18Cr)Mo=2.9(±3.2),eSn(inFe18Cr)Mo=0.0054(±0.0099)εSn(inFe18Cr)B=9.6(±1.9),eSn(inFe18Cr)B=0.19(±0.02)εSn(inFe18Cr)Ni=8.9(±2.6),eSn(inFe18Cr)Ni=0.036(±0.011)εSn(inFe18Cr)Ti=10.4(±5.7),eSn(inFe18Cr)Ti=0.051(±0.028)εSn(inFe18Cr)Nb=20.5(±8.0),eSn(inFe18Cr)Nb=0.055(±0.022)

(2)溶鉄中および溶融Fe–18mass%Cr合金中のMo,B,Ni,Ti,NbとSnの相互作用係数を正則溶液モデルに基づいて推定した。推定された溶鉄中B,Ni,TiとSn間の相互作用係数および溶融Fe–18mass%Cr合金中Ni,TiとSn間の相互作用係数は,測定値とおよそ一致した。

(3)溶融Fe–18mass%Cr合金中のMoとSnの相互作用係数の推定値は測定値より大きく,符号が一致しない。溶質元素の活量を正確に決定するためには,相互作用係数を実験的に測定することが重要である。

謝辞

本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(B))(No.18H03405)の助成を受けた。

文献
 
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