鉄と鋼
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論文
ビッカース圧子ハンマを用いた反発硬さ試験における試料締結用ねじの有無の影響
橋口 武尊松田 健次
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2024 年 110 巻 7 号 p. 532-540

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Abstract

For manufacturers, rapid and accurate quality control of materials and products in the field is essential for improving competitiveness. Rebound hardness testing is one of the fundamental material tests expected to meet this requirement. However, it has been known that many factors affect rebound hardness which may cause the fluctuation in the measured value. In order to elucidate the effect of the fixing method of the specimen, the coefficient of restitution of a hammer using a Vickers indenter was compared with and without bolting the specimen to the base. The motions of the hammer and the specimen were measured simultaneously using two laser Doppler vibrometers and were also numerically analyzed using an elastoplastic finite element method. It has been clarified that, in the case of without bolting, the restitution coefficient is decreased compared to with bolting. The decreasing tendency becomes larger as the impact point moves away from the specimen center. The rebounding behaviors of the hammer and the specimen without bolting can be reproduced with a numerical model in which an appropriate elastic film is inserted between the specimen and the base. The numerical results show that the hammer impact causes rigid body motion in the specimen, which consumes hammer energy, resulting in a decrease in the coefficient of restitution. The range in which the coefficient of restitution can change is also evaluated by assuming a simple two-body collision model.

1. 緒言

製品の安全性や性能は,製造者によって保証される。製造者は,それらを保証するために種々の検査を実施する。検査工程を短時間で完了させることができれば,品質のさらなる向上や製造コストの低減へと結びつき,製造者の競争力向上へとつながると期待される。

品質管理のための試験手法には,検査対象や目的によって様々なものが存在するが,本研究で注目するのは反発式硬さ試験である。反発式硬さ試験は,古くから行われている基本的な材料試験の1つであり,代表的なショア硬さ試験1,2)やリーブ硬さ試験3)は,特に現場での評価手段として強い支持を得ている。その特徴は,試験機が小型・軽量であるとともに,測定に要する時間が極めて短いということである。例えば,代表的な「押込み硬さ試験」の一つであるビッカース硬さ試験では,試験荷重での保持時間が日本産業規格4)で10~15秒と規定されており,一点の硬さ値を得るためには,さらにその前後の負荷・除荷過程と圧痕寸法の読み取り時間を含めた時間が最低限必要となる。一方,指示形(D形)ショア硬さ試験では,高さ19 mmからハンマを自由落下させ,試料表面に衝突後の跳ね上がり高さを指示部で捉えて硬さ値を表示するが,ハンマが自由落下を開始してから反発後に最大高さに到達するまでに要する時間は0.1秒程度である5)。すなわち,押込み硬さ試験と比較して,反発硬さ試験は原理上,試験時間を著しく短くすることができるという利点を有している。

ただし,幅広い試料の評価に用いようとする場合には留意すべき事項も存在する。上記の試験法は独自の定義で「硬さ」を定めているためにその物理的意味は必ずしも明確でないのであるが,反発係数の観点から検討した場合,球体の反発係数は衝突速度の低下とともに増加し6),極めて低速度においては1に近づくことが古くから知られている7,8,9)。既存の試験法ではハンマ先端は球面形状を呈しているため,上記の事実は,衝突条件(例えば衝突速度)の異なる結果を直接比較することや,低衝突速度による評価が理論的に困難であるということを意味している。さらに,ダイヤモンドはその結晶構造のために,正確な球面に加工することが困難であり,ダイヤモンド以外の素材を用いると高硬度材の測定が困難になる。

著者らは,ハンマ先端形状に由来するこれら問題点を一挙に解決する手法として,ビッカース圧子のような四角錐ダイヤモンド圧子を,超硬合金のようなヤング率の高い材質で作製した高剛性の軸先端に付与したハンマに注目している。これまでの研究によって,このハンマを用いれば,落下高さ約0.2–20 mmの範囲で,落下高さによらずほぼ一定の反発係数が得られることを明らかにした10)

本研究は,このビッカース圧子ハンマを用いた反発硬さ試験法における信頼性の向上を目的として計画されたものである。上記ハンマを用いれば,小さい試料の評価も可能になると期待しているが,反発硬さ試験には試料上での測定位置や試料受台の質量等,様々な要因が影響すると指摘されている11)。すなわち,測定値がばらつく原因を明らかにしてその対策を講じることが目的達成のために重要であると言える。そこで本研究で対象としたのは試料の固定方法の影響である。

反発硬さに及ぼす試料の固定方法に関して,Matsudaら12)はガラスを試料とした場合を調査しており,試料と試料受台の間に種々の物体をはさみ,設置状況を意図的に変えることによって,衝突により生じた試料の弾性変位が十分に回復する前にハンマが離脱し,試料に残留する振動エネルギの増加が反発係数の低下をもたらす一因であることを示している。一方,固体表面には一般に様々な凹凸が存在するため,二つの固体表面が接触した場合の真実接触面積は,見かけの接触面積と大きく異なることが知られている13)。接触域の低下は変位の増加,すなわち試料と試料受台間の接触面剛性の低下をもたらし,これが反発硬さに影響を及ぼすことも考えられる。

そこで,本研究では,金属試料を対象として,質量の大きな試料受台の上に載せた金属試料表面に,四角錐ダイヤモンド圧子を付与したハンマを自由落下させ,衝突前後のハンマおよび試料表面の動的挙動を2つのレーザドップラー振動計を用いて同時計測することにより,ボルトによる試料の固定の有無がこれらに及ぼす影響を調査した。また,有限要素法を用いた3次元弾塑性接触解析を実施し,実験結果と比較することによって,ボルト固定の有無の影響を再現できる手法を提案するとともに,反発係数にその影響が生じるメカニズムについて検討した。さらに,運動量保存則を用いて,試料と試料受台間の接触面剛性が低下した場合の反発係数の取り得る下限値について考察した。

2. 実験方法

2・1 試験装置

Fig.1(a)に実験装置全体の系統図を,(b)に試料付近(Fig.1内の領域A部)の拡大図を示す。装置の基本的構造は前報12)と同じである。すなわち,上下動可能なスタンドに取り付けられたモータハンドでハンマをつかみ,これを開くことでハンマを試料表面上に自由落下させる構造となっており,任意の長さ,太さのハンマを,任意の高さから落下させることが可能である。ハンマの反発挙動は,レーザドップラー振動計のレーザをハンマ上端部にあてることにより測定した。本研究では,試料表面のハンマ衝突位置から約5 mm離れた位置にもう1台のレーザドップラー振動計のレーザを照射することによって,この点の挙動も同時計測した。なお,試料を載せる試料受台はx-yステージ上に固定されており,このステージを移動させることにより,ハンマ衝突位置すなわち試料中心から衝突位置までの距離(半径)Rを変化させることが可能である。

Fig. 1.

Schematic diagram of (a) overall image of experimental apparatus, and (b) enlarged view of part A.

2・2 ハンマ

Fig.2に,ハンマの寸法・形状を示す。超硬合金製の本体先端部に対面角136°のダイヤモンド四角錘圧子がろう付けされている。質量mHは4.29 gである。試験の際のハンマの落下高さHは,ハイトゲージを用いて設定した。本研究では,H=4 mmとした。

Fig. 2.

Shape and dimension of hammer.

2・3 試料および試料受台とその固定方法

試料として使用した材料は,SCM435の未熱処理品(HV≒230)製のドーナツ状の円板(直径φ40×穴径φ7×厚み10 mm)である。試料を設置する試料受台には材質による影響を極力小さくするため,試料と同材質のSCM435の未熱処理品の円柱(直径φ100,高さ100 mm)を用いた。試料の中央に空けた穴に市販のSCM435製の六角穴付きボルト(呼径M6×ねじ長25 mm)を1本通し,試料受台中央に加工しためねじにねじ込むことにとって試料を試料受台に固定した。締付トルクは,東日トルクハンドブックにおける1.8T系列の標準締付トルク値14)を参考にし,約9 N・mに設定した。なお,ねじ面および座面の摩擦係数がともに0.15であると仮定するとトルク係数は約0.20となり15),ボルトの締付け軸力は約7500Nと見積もられる。

3. 解析方法

Fig.3に解析で用いたモデルの概略図を示す。本研究では,試料と試料受台の接触界面に注目して,3つの異なるモデルを比較した。すなわち,(a)は,試料下面と試料受台上面を固着させた場合(Case I),(b)は,鋼どうしの乾燥摩擦係数の測定結果16)を参考にして,試料下面と試料受台上面の間に摩擦係数μ=0.4の接触条件を与えた場合(Case II),(c)は,試料と試料受台間に厚さtとなる弾性フィルムを挿入して試料底面に固着させ,フィルム下面と試料受台上面間には,μ=0.4の接触条件を与えた場合(Case III)である。ここで,弾性フィルムを挿入したのは,フィルムが変形することによって試料の動きを再現できると考えたためである。垂直荷重に対するフィルムの潰れにくさは試料と試料受台間の接触面剛性を意味するが,接触面剛性の定量的評価に関しては,表面粗さの高さ情報を用いてその値を推定する方法が提案されている17,18,19,20,21)。一方,接触面剛性にはうねりの変形が支配的であるとの報告もなされている22)。表面性状と接触面剛性との関係を明らかにすることは,そこに生じている現象を理解してそれを設計に応用にするためにも極めて重要であるが,第一段階として本研究では,ボルトで固定しなかった場合のハンマと試料の動的挙動を把握することを目的とした。そこで下記の結果に示すように,フィルムのヤング率Eeを0.1025×10−3~205 GPaの範囲で変化させて解析を実施し,試料の変位が最も大きかった場合の試料中心から衝突位置までの距離(半径)R=18 mmでの反発係数が実験値に近くなるようにヤング率を決定した。なお,間隔の狭い2面間に挟まれて面に平行方向の変形が拘束された弾性体の剛性は,ポアソン比が大きくなる(0.5に近づく)と無限大に近づく23)ため,ポアソン比には小さな値(ν=0.01)を用いた。

Fig. 3.

Analysis condition of (a) fixed specimen (Case I), (b) non-fixed specimen (Case II), and (c) non-fixed specimen (Case III) in finite element method (FEM).

解析には市販の非線形有限要素解析ソフトMarc Mentat 2020を用いた。Fig.4に解析モデルの全体図を示す。モデルの対称性より,試料の中心とハンマの中心とを通る断面で分割される1/2領域を解析の対象とした。本解析では,ハンマ先端が試料表面に接触している状態を初期条件とし,ハンマの全節点に落下高さH=4 mmに相当する衝突速度280.1 mm/sを初速度として与えた。圧子および試料表面間の接触判定を行いながら,ハンマが試料から完全に離れるまでの負荷,除荷過程におけるハンマ,試料および試料台の変位および変形挙動を,10−6 s経過するごとに繰返し計算を行っている。解析には三次元8節点六面体アイソパラメトリック要素を用いた。節点数および,要素数は衝突位置によって異なり,節点数は251,607~511,899,要素数は233,716~488,568となっている。圧子と試料表面間の摩擦係数は0.3とした。

Fig. 4.

Finite element meshes and mechanical properties of each body. (Online version in color.)

材料の動的な降伏応力は静的な値より大きくなることが知られており24,25),先の著者ら26,27)のショア硬さの解析においても,静的な引張試験による応力―ひずみ線図を代入して得られた解析結果は実験値よりも若干小さい値を示した。したがって,厳密には試料の機械的特性のひずみ速度依存性まで考慮した解析が必要であるが,使用した材料に対してそれが把握できていないこと,上記のショア硬さの解析における解析値と実験値の反発係数の差は本研究で使用した試料と同程度の硬さを有する炭素鋼で5%未満でありそれほど大きくないこと,本実験条件では落下高さを一定としているため,各測定値に及ぼすひずみ速度依存性の影響は同程度であると考えられることにより,本研究では試料の塑性後の変形挙動として静的な引張試験により得られた応力―ひずみ線図を解析に用いた。ヤング率は205 GPa,ポアソン比は0.3である。一方,ハンマと試料受台は弾性体と仮定し,ハンマのシャフト部のヤング率,ポアソン比をそれぞれ590 GPa,0.24,圧子部のヤング率,ポアソン比をそれぞれ965 GPa,0.228)とした。試料受台のヤング率とポアソン比は試料と同じである。

4. 実験結果と解析結果の比較

4・1 反発係数

Fig.5に,反発係数eと試料中心から衝突位置までの距離(半径)Rの関係を示す。ここで,実験におけるeの値は,レーザドップラー振動計で測定した衝突前の速度vH1と,衝突直後の速度vH2との比(e=−vH2/vH1)で定義した。ねじで試料を締結した場合の実験結果は,ボルト頭部とモータハンドとの干渉を防ぐためR≧15 mmの結果しか得られていないが,試料の外周縁付近(R=19.7 mm)を除いてR=19 mm程度までほぼ一定の値が得られている。これに対して,締結しない場合の実験結果は,全体的に締結した場合よりも値が減少し,外周に近づくにつれて低下の度合いが増加している。

Fig. 5.

Relation between the distance R from the center of the specimen to the impact point and the coefficient of restitution e.

解析結果と実験結果を比較すると,試料と試料受台を凝着させたCase Iの場合,ボルトで締結した場合の実験結果に近い値が得られることが分かる。また,試料と試料受台を凝着させていないCase IIの場合,R>5 mmでほぼ一定値を示し,R≧15 mmでCase Iの結果とほぼ一致した。すなわち,本モデルのように,試料と試料受台の平滑面どうしが接する場合には,接触面の凝着の有無ではボルト締結の有無の影響を再現できないと言える。

一方,Fig.5中のCase IIIは,試料と試料受台の間に介在させたフィルムのヤング率Eeと厚さtをそれぞれEe=0.1025×10−3 GPa,t=0.01 mmとした場合の結果であるが,締結していない場合の実験結果の傾向を良く再現している。ここで,Eetは以下のように決定した。Fig.6は,実験でボルト締結の有無の影響が大きく生じたR=18 mmにおいて,

(a)フィルム厚さをt=0.01 mmとして,そのヤング率Eeを変化させた場合,

(b)Ee=0.1025×10−3 GPaとして,tを変化させた場合

のそれぞれについてeの変化を求めたものである。Fig.6(a)より,ある一定以上のEeを有していればCase I,IIの場合に近い値が得られ,その限界値を下回ると,急激にeは低下することが分かる。また,Fig.6(b)より,Ee=0.1025×10−3 GPaの一定値とした場合には,t=0.001 mmを超えると急激にeは低下し,t=0.01 mmを超えた付近からeはある一定値に漸近するように変化することが分かる。Ee=0.1025×10−3 GPa,t=0.01 mmの場合に締結していない場合の実験結果に近い値(e≒0.15)となるため,これらの値を用いてRの影響を求めた。なお,Eetの他の組み合わせについての可能性を確認するため,Ee*=0.1025×10−3 GPa,t*=0.01 mmを基準として,2Ee*,2t*およびEe*/2,t*/2と変化させた場合の解析結果をTable 1に示す。いずれも基準とほぼ同じ値を示しており,ヤング率,フィルム厚さの各々の値が多少変化しても,その比の値が同じであれば同様なハンマ挙動を示すと言える。

Fig. 6.

Dependence of restitution coefficient e on (a) Young’s modulus Ee and (b) thickness t of the film for R=18 mm.

Table 1. Comparison of coefficient of restitution when the Young's modulus and thickness of the film are doubled and halved, respectively, for R=18 mm.

ConditionEe, MPat, mme, -
Ee*, t*0.10250.010.15
2Ee*, 2t*0.2050.020.14
Ee*/2, t*/20.051250.0050.15

4・2 試料の挙動

Fig.7に,R≒18 mmの場合におけるハンマ速度v,および試料表面速度wの経時変化を示す。ここで,横軸の時間はハンマの速度が0となる時刻を0 msとしている。また,鉛直上向きの速度を正と定義している。ボルトで締結している場合のwの変化は微小であるのに対し,締結しない場合は,ハンマ衝突直後から下向きの速度が増加し,ハンマの速度が0となる時刻からハンマが試料から離脱するまでの間で最小値を取った後に上向きの速度へと反転している。Case IIIの解析結果では,上向きの速度へと反転するところまでのデータは取得できていないものの,それまでの傾向は実験結果を良く再現できていると言える。

Fig. 7.

Time variations of the hummer velocity v and the velocity of the specimen surface w for R≒18 mm.

5. 考察

5・1 エネルギ収支

Fig.7の結果は,ボルトで締結しない場合には,試料表面の衝突点にはかなりの変位が生じることを示している。ここでFig.8は,R=18 mmの場合における試料底面の鉛直方向変位分布の経時変化であり,Fig.4のモデルにおける対称面上の節点の衝突後から0.04 msごとの結果をプロットしたものである。ハンマ衝突によって試料には回転運動が生じていることが分かる。

Fig. 8.

Time evolution of the orientation of the bottom surface of the specimen obtained by FEM under the condition of Case III at R=18 mm.

Fig.9は,Case IとCase IIIのR=18 mmにおける,(A)ハンマの運動エネルギ,(B)試料の運動エネルギ,(C)試料全ひずみエネルギ,(D)試料塑性ひずみエネルギ,および(E)フィルムの弾性ひずみエネルギの経時変化を比較したものである。Case Iの場合,ハンマ速度が0,すなわちハンマが最低高さに達したときに試料の全ひずみエネルギは最大値に達している。一方,Case IIIの場合の試料の全ひずみエネルギは,ハンマの運動エネルギが最小になる前に最大を迎えており,その大きさはCase Iと比較して小さい。また,Case IIIの場合,ハンマが試料から離れる直前まで試料の運動エネルギは増加を続け,その大きさは反発直後のハンマ運動エネルギよりもかなり大きい。その後の試料運動エネルギの低下は,フィルムの弾性ひずみエネルギの増加をもたらしていることが分かる。なお,Case Iの場合,時刻t=0 sからハンマ離脱時に至るまでの試料の全ひずみエネルギの減少量,すなわち試料の弾性回復エネルギを取得してハンマは運動エネルギを増加させるが,離脱直後のハンマの運動エネルギは試料の弾性回復エネルギよりも大きい。これは,試料受台の弾性回復エネルギも取得しているためである。一方,Case IIIの場合,離脱直後のハンマの運動エネルギは試料の弾性回復エネルギよりもかなり小さい。すなわち,試料の弾性回復エネルギの一部は試料の運動エネルギとフィルムの弾性ひずみエネルギに供給されていることが分かる。

Fig. 9.

Time variations of (A) kinetic energy of hammer, (B) kinetic energy of specimen, (C) total strain energy of specimen, (D) plastic strain energy of specimen and (E) strain energy of film obtained by FEM for R=18 mm.

Fig.10に,時刻t=0 sにおける試料の全ひずみエネルギUS0および運動エネルギKS0と衝突位置Rの関係を示す。ここで,各エネルギは衝突直前のハンマ運動エネルギE1(=mHgH, g:重力加速度)で除して無次元化している。また,R>5 mmの範囲の結果が得られているCase IIとCase IIIの結果を比較している。Rが変化してもほぼ一定の反発係数を示したCase IIの場合,KS0は極めて小さく,US0Rに依存せずほぼ一定の値となっている。一方,Case IIIの場合,Rの増加とともにKS0は増加,US0は減少していることが分かる。すなわち,ボルトで試料を締結しない場合に反発係数が低下する主たる原因は,ハンマの衝突により試料に剛体的運動が生じ,衝突前にハンマが有していた運動エネルギの一部がその運動エネルギに費やされるためであると言える。衝突位置が試料中心から遠ざかるにしたがい反発係数が低下する原因も,この観点から説明できる。

Fig. 10.

Relation between distance from specimen center R and kinetic energy of specimen KS0 and strain energy of specimen US0 at t=0 obtained by FEM.

5・2 固定条件が反発係数に影響を及ぼすメカニズム

試料と試料受台間に適切な剛性を有する弾性フィルムを設置することによって,ボルトで試料を締結しない場合の実験結果に近いハンマおよび試料の反発挙動を再現できた一方,平滑な試料を平滑な試料受台に直接載せたCase IIでは再現できなかったことにより,試料と試料受台の接触面の表面粗さ,あるいはうねりが剛性を低下させ,試料の剛体的運動を許容したと言える。ここで,面積A,厚さT,ヤング率Eの物体の厚さ方向の剛性はEA/Tに依存するが,Table 1においてETの値が異なってもE/Tが同じであればほぼ同じ結果が得られたことも,剛性が同じであるからと説明できる。

接触面剛性は押付け荷重によって変化し,押付け荷重の増加とともに接触面剛性は増加することが知られている17,18,19,20,21)。本研究のボルトで締結していない場合,ハンマ衝突前には試料の自重のみが接触面に作用しているため,この状態の接触面剛性はかなり小さいものと予想される。衝突時には荷重が大きく変化するが,接触剛性が極めて小さい場合に反発係数がどの程度低下し得るかを把握しておくことも結果の妥当性を検証するために重要だと言える。そこで,Fig.11に示すような,試料とハンマに拘束や外力が全く働いていない系を仮定して反発係数を見積もった。これは一般に「偏心衝突」と言われている衝突モデル29)であり,静止している試料(質量mS,重心まわりの慣性モーメントIG)の重心Gから距離Rだけ離れた点Pに,質量mHのハンマが速度vH1で垂直に衝突すると仮定している。衝突によって試料は回転を伴うが,衝突後のハンマの速度をvH2,試料の重心の速度をvG,重心まわりの角速度をωとすると,衝突時に試料に働いた力積Sはハンマの運動量の変化に等しいため,

  
S=mHvH1mHvH2(1)

となる。また,試料の重心の並進運動の運動量と重心まわりの角運動量の変化から,

  
S=mSvG(2)
  
SR=IGω(3)

の関係が成立する。式(1)(2)の関係(運動量保存)より次式が得られる。

  
vG=mHvH1mHvH2mS(4)

また,式(1)(3)の関係(角運動量保存)より下式が成立する。

  
ω=R(mHvH1mHvH2)IG(5)

ここで,試料の衝突点Pの衝突後の速度をvPとすると,反発係数eは次式で定義できる。

  
e=vH2vPvH1(6)

vPvGの関係が成立するため,同式を式(6)に代入して式(4)(5)の関係を用いると,次式で定義される見かけの反発係数e’を求めることができる。

  
e=vH2vH1=emSIGmHIGmHmSR2mSIG+mHIG+mHmSR2(7)

なお,Fig.11において,PGの延長上に重心Gから距離R0=GO=vG/ωだけ離れた点(図中点O)をとると,点Oは衝突の瞬間には速度を持たないことになる。この点Oは一般に衝突点Pに対する「打撃の中心」と言われている30)式(2)(3)の関係を用いると,R0を求めるための次式が得られる。

  
R0=IGmSR(8)

Fig. 11.

Hammer-specimen collision model without external constraints.

ここで,ハンマ質量mH=4.29 g,試料の質量mS=94.9 g,重心まわりの慣性モーメントIG=1.06×104 g mm2,ボルトで試料を固定した場合の反発係数(e≒0.31)を式(7)に代入して得た見かけの反発係数e’とRの関係をFig.5中に示す。全体的に,試料を固定しない場合の実験結果と良く一致している。さらに,式(8)R=18 mmを代入するとR0=6.2 mmとなり,Fig.8に示すCase IIIにおける試料の回転中心にほぼ一致していることが分かる。すなわち,本実験条件の場合,試料を試料受台に乗せただけの状態は,反発係数の観点からは,試料が宙に浮いている状態と大きくは変わらないと言える。また,Fig.6(b)において,弾性フィルムの厚さtを0.01 mm以上にしても反発係数に大きな低下が認められなかったのは,試料を拘束しない場合の反発係数の下限値に近づいたためだと言える。

なお,式(7)は,ハンマ質量や試料の質量および慣性モーメントが変化すると見かけの反発係数が変化することを示唆している。今後,これらの影響も明らかにすることにより,信頼性の高い反発硬さ試験法の確立に向けた検討を進めていく予定である。

6. 結言

先端に四角錐ダイヤモンド圧子を有する高剛性ハンマを用いた反発硬さ試験を行い,ボルトによる試料の締結の有無が反発係数に及ぼす影響を調査した。ハンマの反発挙動と試料表面の挙動を,2つのレーザドップラー振動計を用いて同時計測するとともに,有限要素法を用いて両者の運動を解析した。得られた結果は下記の通りである。

(1)ボルトを用いて十分なトルクで試料を試料受台に固定した場合,測定場所によらずほぼ一定の反発係数が得られる。一方,ボルトで締結しなかった場合,締結した場合と比較して反発係数は低下する。その低下の程度はハンマ衝突位置が試料中心から遠ざかるにしたがって増加する。

(2)有限要素解析において,試料と試料受台間に適切な剛性を有する弾性フィルムを設置することによって,ボルトで試料を締結しない場合の実験結果と近いハンマおよび試料の反発挙動を再現できる。

(3)ボルトで試料を締結しなかった場合,ハンマ衝突後の試料には剛体的運動が生じる。この運動に衝突前にハンマが有したエネルギの一部が費やされることが主要因となって,反発係数は低下する。

(4)ハンマ質量,試料質量とその重心回りの慣性モーメント,試料中心からハンマ衝突位置までの距離,および試料が試料受台にしっかり固定されている場合の反発係数の5つの値を用いて,試料と試料受台間の接触面剛性が低下した場合の反発係数の取り得る下限値を推定できる手法を提案した。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP22K03886の助成を受けて行われたものである。

文献
 
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