鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
レビュー
バイオフィルムによる微生物金属腐食:構造機能とその可視化
尾花 望 野村 暢彦
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2026 年 112 巻 3 号 p. 79-87

詳細
Abstract

Biofilms are structured microbial communities embedded in a self-produced matrix of extracellular polymeric substances (EPS) that adhere to material surfaces. On metal surfaces, biofilms can both accelerate and inhibit corrosion, suggesting that understanding their structural and functional properties is critical for effective corrosion control. This review introduces the fundamental characteristics of microbial biofilms, including their EPS composition, life cycle, and adaptive functions in response to environmental cues. Multispecies biofilms are the predominant state of natural environments, exhibiting metabolic cooperation, electron exchange, and structural robustness that is not often observed in laboratory monoculture conditions. The temporal and spatial dynamics of microbial association within complex biofilms are also highlighted.

We further discuss recent advances in biofilm imaging techniques, such as contentious-optimizing confocal reflection microscopy (COCRM), label-free autofluorescence analysis, and microfluidic devices. These tools have enabled non-invasive, real-time observation of living biofilms, revealing their structural plasticity and interactions with metal surfaces. Through these methods, biofilms are now increasingly viewed as dynamic ecosystems rather than static surface deposits.

Finally, we describe various mechanisms of microbiologically influenced corrosion (MIC), including acid production, extracellular electron transfer, and localized differential concentration. The EPS matrix could play a central role in creating microenvironments that induce corrosion.

Understanding biofilms as living communities opens new possibilities for microbiologically influenced corrosion control. Integrating insights from microbiology, materials science, and electrochemistry is essential for the development of sustainable anti-corrosion technologies.

1. 緒言:バイオフィルムとは

バイオフィルムは,微生物が固体表面に付着し,自ら産生する細胞外高分子物質(extracellular polymeric substances:EPS)によって三次元的な構造を形成した微生物集合体である1)。自然環境をはじめ,医療,食品,工業分野など広範な領域に存在し,近年では金属材料表面に形成されるバイオフィルムが,腐食の促進あるいは抑制といった相反する影響を及ぼすことが明らかになってきた。このため,バイオフィルムの理解は,材料保護および劣化制御の観点から極めて重要である2)

身近な例として,水回りのぬめりや歯垢が挙げられ,バイオフィルムは我々の生活環境においても頻繁に観察される。一説によれば,地球上の微生物の最大80%はバイオフィルム状態で生息しているとされ,その起源は約30億年前にまで遡る3)。バイオフィルムは,単なる付着構造ではなく,微生物が環境中で生存・適応するための基本的なライフスタイルであると考えられている。

一般に細菌は,液中を単独で浮遊する(planktonic)状態で存在するイメージがあるが,バイオフィルム内では細胞が協調的に機能し,遺伝子発現の不均一性や代謝の空間的偏りを伴って「微生物社会」を構成していることが明らかになっている。バイオフィルムは,発酵食品の製造や水処理といった有益な機能を担う一方で,産業設備の汚損や感染症の原因にも関与する。特に金属材料との接触においては,腐食を促進あるいは抑制する双方向の影響を持つことから,鉄鋼材料分野においてもその存在意義はますます高まっている4)。今後,バイオフィルムを微生物による腐食・防食の本質現象として捉え,構造と機能に基づいた制御戦略を構築することが求められている。

2. バイオフィルムマトリクス

Fig. 1(a)および(b)はバイオフィルムの模式図を示しており,バイオフィルムは,微生物細胞と,それらが自ら産生する細胞外マトリクスから構成されている。この細胞外マトリクスはEPS(Extracellular Polymeric Substances)から構成され,多糖類(Fig. 1(c)),脂質,核酸(DNA・RNA)(Fig. 1(d)),タンパク質(Fig. 1(e)),脂質,さらに細胞外膜小胞(membrane vesicle)(Fig. 1(f))などからなる高分子複合体である5)Fig. 1(c)-(f)はバイオフィルム中に含まれる細胞外マトリクスを可視化した顕微鏡像を示している。なお,真核生物の細胞外マトリクスを含む概念として“Extracellular Matrix(ECM)”が用いられることもあるが,本稿ではバイオフィルムに特化して“EPS”を用いる。

Fig. 1.

The extracellular polymeric substances (EPS) matrix in biofilms. (a) A schematic illustration of biofilm formation attached to a solid surface. (b) Major matrix components, extracellular DNA (eDNA), polysaccharides, proteins and membrane vesicles (MVs) are heterogeneously distributed among bacterial cells. (c) Visualization of polysaccharides (red) produced by Streptococcus mutans, stained with tetramethylrhodamine-conjugated concanavalin A (a lectin). (d) eDNA released from dead lysed cells is a major source of eDNA in the biofilm matrix. Green indicates DNA stained with the fluorescent dye, Sytox green. Bar = 10 µm. (e) Extracellular proteins (red) produced by Clostridium perfringens (cells shown in green), visualized by immunostaining with specific antibodies. Bar = 10 µm. (f) MVs secreted by bacteria, observed by transmission electron microscopy. Bar = 500 nm. (Online version in color.)

EPSは微生物を外的環境から保護するとともに,物質の保持,細胞間シグナル伝達,基質表面および細胞同士の付着など,多岐にわたる機能を担っている。また,EPSはバイオフィルムの立体構造の骨格を形成し,その組成や物理化学的性質は,微生物種や成育環境,基質表面の特性によって大きく異なる。とくに金属材料表面において形成されるバイオフィルムでは,EPSがイオン拡散の制御や腐食生成物の保持,さらには金属–微生物間の電子授受を媒介する可能性があり,腐食進行に対する影響は極めて大きいと考えられる。

EPSの産生と維持は,微生物の外部環境に応じて高度に調節されている。たとえば緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)では,鉄イオン濃度や電子受容体の存在量に応じて細胞外多糖の産生量が変化し,結果としてバイオフィルムの厚さや構造が変化する6)。これにより,酸素や鉄といった環境資源へのアクセスが調節され,細胞内の酸化還元状態や鉄濃度の恒常性が保たれていると考えられる。このようにEPSは,単なる構造成分にとどまらず,微生物集団が環境変化に適応するための戦略の一つであり,バイオフィルムの形成・維持・機能発現を支える中心的役割を果たしている。とくに材料表面における微生物の挙動を理解・制御する上で,EPSの構造と機能の理解は重要であると考えられる。

3. バイオフィルム形成機構

バイオフィルムの形成は一般的に,(1) 初期付着,(2) マイクロコロニー形成,(3) 成熟,(4) 脱離,の4段階の動的プロセスとして捉えられている7,8)Fig. 2)。この一連の現象は,細菌の遺伝子発現や情報伝達機構により精緻に制御されており,細胞間コミュニケーション(quorum sensing)9)や,cyclic dimeric guanosine monophosphate(c-di-GMP)10,11)などのセカンドメッセンジャーが主要な役割を担っている。また,酸化還元状態,栄養条件,剪断応力,温度などの環境因子もその過程に強く影響を与える。Fig. 2では,バイオフィルムの各形成ステージと,それらを制御する因子(シグナル分子や遺伝子発現経路)との関係を示している。

Fig. 2.

Conceptual illustration of the biofilm life cycle, showing the sequential stages of surface attachment, biofilm maturation with EPS matrix production, and dispersal, which are regulated by environmental cues. (Online version in color.)

3・1 初期付着:浮遊細胞から定着へ

初期段階では,浮遊状態の細胞が固体表面に接触し,可逆的に付着する。その後,線毛やEPSなどを介して付着が不可逆化され,定着が完了する。付着効率は,基材の疎水性,表面電荷,粗さといった物理化学的性質に加えて,微生物の運動性やEPS分泌能にも依存する。たとえばParacoccus denitrificansでは,BapAと呼ばれる大型付着タンパク質を介して強固に表面に定着することが報告されている12)Pseudomonas fluorescenceP. aeruginosaにおいては,細胞内c-di-GMP濃度の上昇によりEPS産生が誘導され,付着の不可逆化とバイオフィルム形成への移行が促進される11)

3・2 マイクロコロニー形成・成熟:三次元構造の構築

定着した細胞は増殖を開始し,同時にEPSを産生しながらマイクロコロニーを形成する。その後,細胞数の増加とEPSの蓄積により,三次元的に発達した成熟バイオフィルムへと成長していく。EPSはバイオフィルムの安定性を支える主構成成分であり,その分解はバイオフィルム崩壊を誘導する要因にもなる5)。とくに細胞外DNA(eDNA)は,さまざまな細菌で共通して利用されるEPS成分であり,培養初期にDNA分解酵素を添加することで多くの細菌においてバイオフィルム形成が阻害されることが報告されている13)

バイオフィルム構造は単一ではなく,環境条件に応じて可塑的に変化する。たとえばPseudomonas aeruginosaは,好気条件下で「マッシュルーム状構造」14)を形成する一方,嫌気条件では菌体が伸長して網目状の構造となる15)。このような構造的変化は,栄養や酸素の拡散経路を最適化することによって,代謝効率やストレス耐性を高める戦略であると考えられている。

さらに,Clostridium perfringensでは温度変化に応じてバイオフィルムの厚さや密度が変化し,この応答性が病原性や生残性に関連していることが示唆されている16)。同一種であっても,培養条件のわずかな違いによって構造が大きく変化することから,バイオフィルムは極めて柔軟な構造可塑性を有することがわかる。こうした特性は,抗菌薬処理や環境ストレスへの耐性にも影響を与えるため,微生物制御を考慮する上では,単一細胞ではなく,集団としてのバイオフィルムに着目する必要がある。

3・3 脱離:浮遊状態への再移行

成熟したバイオフィルムは,外部環境の変化や代謝産物の蓄積,物理的刺激に応答して,一部の細胞がバイオフィルムから離脱し,再び浮遊状態へと移行する17)。この脱離は,バイオフィルムのライフサイクルにおいて重要な転換点であり,脱離した細胞は新たな表面に定着し,二次的なバイオフィルム形成を開始する。

脱離は大きく「受動的脱離」と「能動的脱離」に分類される17)。前者は剪断応力や振動,流体の力によって機械的に剥がれる現象であり,後者は細胞内シグナル伝達などに基づく能動的なプロセスである。能動的脱離は,c-di-GMP濃度の低下により誘導され,EPSの分解酵素の分泌,運動性の再獲得などが引き金となる。c-di-GMPは環境中の酸素濃度,栄養枯渇,温度変化といった刺激に応答して分解されることが知られている。また,脱離にはc-di-GMP以外の因子も関与する。たとえば,P. aeruginosaにおいてはバイオサーファクタント(生物由来の界面活性物質)の生産が細胞間コミュニケーションによって制御され,成熟したバイオフィルム構造からの脱離を誘導する18)。また,Aggregatibacter actinomycetemcomitansの分泌酵素Dispersin Bは,細胞外多糖を分解することによりバイオフィルムの崩壊と脱離を促すことが知られている19)

バイオフィルム状態の微生物は,抗菌薬や物理的ストレスに対して高い耐性を示すが,脱離して浮遊状態へと戻ると,感受性が増す傾向がある。このため,抗バイオフィルム戦略として,脱離を積極的に誘導することが注目されている。実際,P. aeruginosaでは,低濃度の一酸化窒素(NO)がc-di-GMPの分解を促進し,バイオフィルムからの脱離を誘導することが報告されている20)。この知見に基づき,脱離促進を利用した新規抗菌戦略や薬剤開発も進行中である。

このように,バイオフィルム形成は単なる物理的付着ではなく,環境応答的かつ遺伝子によって高度に制御された現象である。特に鉄鋼材料においては,初期付着の阻害,成熟構造の分解,さらには脱離の制御といった各段階に対する介入を検討することが,微生物腐食の制御に向けたアプローチとなると期待される。

4. 複合バイオフィルム

実環境においては,単一種ではなく複数種の微生物が共存し,相互に影響し合いながらバイオフィルムを形成する「複合バイオフィルム」が一般的に観察される21)。こうした微生物群集は,単独培養では見られない新たな性質や機能を発現することがあり,腐食環境におけるその影響は無視できない4)

複合バイオフィルムにおける代表的な特徴として,微生物間のクロスフィーディングや共凝集が挙げられる22)。クロスフィーディングとは,ある菌種が産生した代謝産物を他の菌種が利用することにより,集団全体の代謝効率が向上し,微生物生態系が安定して維持される仕組みである。また,電子の授受,栄養の分担,さらには局所的な酸化還元電位やpH勾配の形成など,構成菌間の協調的相互作用によって多様な機能が発現すると考えられている。

たとえば,鉄酸化菌と鉄還元菌23),または硫酸還元菌24)が共存することで,金属腐食が促進されることが知られている。さらに,構造的階層性やバリア機能の分担によって,外部ストレスから内部の細胞群が保護されることもあり,ストレス環境下での生残性が向上する傾向がある。実際,口腔細菌2種から構成される複合バイオフィルムに消毒薬クロルヘキシジンを添加した実験では,単菌バイオフィルムでは細胞がほぼ全滅するのに対し,複合バイオフィルムでは上層部の細胞が死滅した後も,内部の細胞は生きたまま保持されていたことが報告されている25)

このように,複合バイオフィルムは単一種系と比較してより複雑で多層的な構造をとる傾向があり,物理的・化学的ストレスに対して高い耐性を示すことが多い。その一方で,構成菌種の種類やその相互作用の様式によっては,必ずしも単一種よりも高い耐性を持つとは限らないため,個別の解析が重要である。

加えて,複合バイオフィルムの構成は,時間の経過や環境の変化に伴って動的に変動する。すなわち,初期に表面へ定着する菌種と,後期に集団へ加わる菌種とでは種類や機能が異なり,これはそれぞれの微生物種のすみ分けや,代謝の違いに基づいていると考えられる。代表的な例として,口腔内における初期定着菌(Streptococcus属など)と,それに続いて定着する後期定着菌(Fusobacterium属やPorphyromonas属など)との遷移がよく知られている26)。近年では,Wakaiらの淡水中に浸漬させた様々な金属片を観察した研究において,時間経過に伴う構成菌種の遷移が観察されており,初期には鉄酸化菌が多く検出され,腐食の進行段階では鉄還元細菌が増加し,後期には硫酸塩還元菌が台頭することが報告されている27)

このような複雑な時空間的構成変化は,微生物集団の柔軟な適応戦略を反映しており,バイオフィルムを標的とした腐食制御技術の設計においては,静的な構成だけでなく,時間的推移を考慮することが重要である。

5. バイオフィルム観察法

バイオフィルムの構造と機能を理解するためには,非破壊的かつ高分解能で,生理的状態を維持したまま観察可能な技術が求められる。従来,走査電子顕微鏡(SEM)や共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)などが広く用いられてきたが,近年では生細胞状態での観察や材料との相互作用の可視化を可能とする新たな技術の開発も進んでいる。

5・1 走査型電子顕微鏡(SEM)

SEM(scanning electron microscopy)は,nmオーダーの高解像度でバイオフィルムの表面構造を詳細に可視化できる手法である。微細な表面形態や細胞配置の観察に適しており,実際に観察されたバイオフィルムは,複雑に発達した三次元構造を示す。Fig. 3(a)はう蝕(虫歯)の起因菌となるStreptococcus mutansが形成するバイオフィルムのSEM観察像を示す。連鎖状に並んだ細菌細胞の周囲には,不溶性多糖を主成分とする細胞外マトリクスが多量に生産され,三次元的なバイオフィルム構造が観察される。しかしながら,SEMは真空下での観察が必要なため,試料には固定・脱水・乾燥といった不可逆的な前処理が必要となり,生理的状態の保持が困難である。近年では,低真空SEMや大気圧下での観察が可能な大気圧SEM(atmospheric scanning electron microscopy:ASEM)など,試料の脱水を抑える手法も開発されているが,いずれも内部構造の観察には適していないという制約がある。

Fig. 3.

Conventional biofilm imaging methods. (a) Scanning electron microscopy (SEM) image showing biofilm formation by the cariogenic oral bacterium Streptococcus mutans. (b) Confocal laser scanning microscopy (CLSM) image showing biofilm formation by the opportunistic pathogen Pseudomonas aeruginosa. GFP (green fluorescent protein)-expressing cells are shown in green. (Online version in color.)

5・2 共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)

CLSM(confocal laser scanning microscopy)は,厚みのある試料でも非侵襲的に三次元構造を観察できる顕微鏡法であり,生きたままのバイオフィルムの観察手法として使用され,バイオフィルムの立体構造形成機構の理解に重要な役割を果たしてきた28)Fig. 3(b))。Fig. 3(b)は,緑膿菌が形成したバイオフィルムをCLSMで観察した像であり,特徴的なマッシュルーム構造を示している。CLSMは,このような三次元構造の形成過程や機能的意義を明らかにするうえで重要な観察手法である。CLSMは蛍光を検出する手法であり,目的の細胞に蛍光タンパク質(例:緑色蛍光タンパク質GFP)を発現させる,もしくは蛍光染色を併用することで,細菌の細胞を可視化している。蛍光染色剤にはEPSを標的にしたSYPRO Ruby(タンパク質)やレクチン(多糖)があり,バイオフィルム研究によく用いられている。また,Live/Deadと呼ばれる染色法では,膜透過性の違いを利用して,生菌と死菌を識別でき,多くの研究者によって使用されている。一方,蛍光染色剤には微生物の生育や代謝に影響を及ぼすものがあり,観察中に細胞機能が変化するリスクがある。また,GFPなどの蛍光タンパク質は酸素存在下で発色するため,嫌気環境下では観察が困難である。加えて,環境中の多くの微生物は非モデル細菌であり,遺伝子組換えによる外来遺伝子(GFP遺伝子など)の導入が技術的に非常に困難な場合が多い。このため,CLSMの利用には対象微生物の特性を十分に考慮する必要があり,実環境中に形成される複合系バイオフィルムを生きたまま観察するには複数のハードルがある。

5・3 共焦点反射顕微鏡(COCRM)

COCRM(continuous-optimizing confocal reflection microscopy)は,CLSMの原理を応用し,反射光を用いて非染色で対象を可視化する手法である(Fig. 4(a))。蛍光標識を必要とせず,生きたままの状態で細胞やバイオフィルム構造を非侵襲的に観察できる点が大きな利点である。著者らは,COCRMを用いて病原細菌が形成する嫌気的バイオフィルムをライブイメージングし,環境条件に応じた構造変化と迅速な適応の様子を明らかにしてきた29,30)。また,COCRMは反射光の検出により,金属や歯などの光を反射する材料表面を同時に可視化できるため,バイオフィルムと基材との界面相互作用を観察可能である。たとえば,Fig. 4(b)は唾液由来の複数種の口腔細菌が形成するバイオフィルムをCOCRMで撮影した画像であり,このバイオフィルム直下の歯表面でう蝕が進行する様子が観察されている31)。またFig. 4(c)–(f)は,様々な物質表面((c) ステンレス鋼;(d) プラスチック;(e) 木材;(f) 生肉)上に形成された緑膿菌バイオフィルム(緑)の同時観察例を示している32)。特にFig. 4(c)では,バイオフィルムのマッシュルーム構造の直下に孔食様の陥没構造が観察されており,バイオフィルムの三次元的構造と腐食の空間的な関連性が示唆される(Fig. 4(c))。Fig. 4(c)–(f)は著者らの研究成果であり,各種材料表面におけるバイオフィルム観察手法の確立を目的としている。腐食との因果関係を詳細に検討したわけではないが,COCRMを用いることで,金属表面の構造とその上に形成されるバイオフィルムの三次元構造を,非侵襲的かつ時系列的に観察できる。このように,COCRMはバイオフィルム構造の解析とともに,材料との相互作用を理解する上でも極めて有効な手法である。

Fig. 4.

Continuous-optimizing confocal reflection microscopy (COCRM) for biofilm imaging. (a) Schematic diagram of the COCRM system. (b) COCRM image showing biofilm formation by diverse oral microbiota from human saliva on a hydroxyapatite disk. (c–f) The COCRM observations of P. aeruginosa expressing GFP grown in the Stickable Flow Device. P. aeruginosa biofilm structures formed on (c) stainless steel, (d) plastic, (e) wood, and (f) raw meat surfaces. Material surfaces (white) were illuminated with an argon laser (514 nm), and the reflected light was collected through a 505-to-530 nm band-pass filter. Panels (c–f) are modified from reference 32: Kiyokawa et al., Microbes and Environments 32(1): 1–7, 2017 (https://doi.org/10.1264/jsme2.ME16161). (Online version in color.)

5・4 透明化技術

厚さが数百µmに及ぶバイオフィルムでは,CLSMや二光子顕微鏡であっても深部構造の観察には限界がある。近年では,哺乳類組織の透明化技術を応用し,バイオフィルム専用の透明化試薬を用いて光透過性を高める手法が開発されている33)。透明化技術では,屈折率の差を緩和することで光散乱を抑制し,バイオフィルム内部の細菌やEPS分布を三次元的に観察可能とする。現時点ではラボスケールでの利用が主であるが,金属材料表面に形成された実環境バイオフィルムへの応用も今後期待される。

5・5 自家蛍光解析

微生物は,代謝産物や細胞構造成分に由来する自家蛍光を発することが知られており,これを利用したラベルフリーの観察技術が注目されている。中でも,一細胞自家蛍光分析技術CRIF(confocal reflection microscopy-assisted single-cell innate fluorescence analysis)は,COCRMにより細胞位置を特定し,超高感度蛍光スペクトル共焦点顕微鏡で各細胞の蛍光スペクトルを波長分解することで,生細胞の代謝状態や細胞間ヘテロ性を非侵襲的に評価することを可能とする34)。本手法は機械学習との併用による細胞群のクラスタリングなど,今後の解析基盤技術としても期待されている。

5・6 マイクロ流体デバイス

近年,マイクロ流体デバイスは,微生物の挙動や機能の解析に用いられる技術として注目されている。細胞を取り巻く微小環境を高精度に制御できるマイクロデバイスは,従来困難であった様々な環境下における一細胞レベルの解析を可能とする35)。著者らは,油滴をマイクロスケールで封入した開放系デバイスを開発し,海洋細菌Alcanivorax borkumensisが油界面に形成するバイオフィルムのライブセル観察に成功した36)Fig. 5)。このマイクロ流体デバイスを用いることで,直径10~200 µm以下の油滴をトラップし,油滴上の油分解性細菌を1週間以上観察し続けることができる(Fig. 5(a))。観察の結果から,A. borkumensisは油滴上に2つの異なる形状のバイオフィルムを形成することが明らかとなり,この2つのタイプを,球状バイオフィルム(spherical biofilm:SB)と樹状バイオフィルム(dendritic biofilm:DB)と名付けた(Fig. 5(b), (c))。DBでは,細菌が油滴表面に付着して増殖し,特徴的な樹状構造を形成して油を分解していた(Fig. 5(c))。特に,細胞配向の乱れ(トポロジカル欠陥)が構造形成の起点となることが示された。このデバイスでは,溶液交換や栄養条件の制御が可能であり,長期間にわたる環境応答性バイオフィルムの形成・変化を追跡できる。したがって,バイオフィルム形成メカニズムの解明や制御戦略の構築においても有用なツールとなる。

Fig. 5.

(a) (Left) Schematic diagram of the microfluidic device used in this study. Bar = 200 μm. (Right) Bright-field image of oil droplets in the oil droplet trap. Bar = 20 μm. (b, c) CLSM images of biofilms on oil droplets. Green indicates cells. Bar = 10 µm. (b) In spherical biofilm, the oil droplets (central cavities) maintain their spherical shape while gradually shrinking. (c) In dendritic biofilm, the oil droplets transform into a dendritic-like shape over time and extend into tubular structures. Panels are modified from reference 36: Prasad et al., Science, 381(6659): 748–753, 2023 (https://doi.org/10.1126/science.adf3345). (Online version in color.)

このように,近年の観察技術の進展により,バイオフィルムの構造・動態・代謝機能に関する多角的な理解が進みつつある。今後,これらの技術を複合的に活用することで,バイオフィルム研究および材料との相互作用の可視化,さらには腐食制御技術への応用が一層加速することが期待される。

6. 微生物金属腐食とバイオフィルム

2000年代以降,鉄と鋼やISIJ Internationalにおいても,実環境における金属材料表面への微生物付着と腐食挙動との関係を示す研究例37,38)や,細菌の生育やバイオフィルム形成を阻害する材料の検討39,40)が報告されている。これらの報告を含め,国内外で蓄積されつつある知見からは,微生物の付着やバイオフィルム形成が局所腐食に関与する可能性が示唆されており,微生物金属腐食(Microbiologically Influenced Corrosion:MIC)の理解や対策の必要性が示されている。MICは,金属表面に形成されたバイオフィルム内における微生物の代謝活動によって誘導される腐食現象である。これまでに報告および議論されているMICの機構には,以下のような多様なプロセスが関与することが知られている。

6・1 有機酸や無機酸によるpHの局所的低下

硫酸塩還元菌が生成する無機代謝物(H2Sなど)や,酸産生菌や発酵菌の代謝によって分泌される有機酸に由来するH+(プロトン)は,金属表面の不動態皮膜を破壊し,金属鉄(Fe0)の酸化を促進する。これにより,局所的な酸性環境が形成され,孔食形成の引き金となることがある41)

6・2 細胞外電子伝達(Extracellular Electron Transfer:EET)

硫酸還元菌など一部の微生物は,金属鉄を電子供与体として利用し,金属表面から電子を獲得することで腐食促進につながると考えられている。このような電子の移動は細菌の細胞膜を超えて起こることから,細胞外電子伝達(EET)と呼ばれる。EETには,微生物の細胞が金属表面に直接接触して電子を取り込む直接型(direct EET)と,フラビンやフェナジンなどの電子シャトルを介する間接型(mediated EET)があると考えられている4)

6・3 酸素や栄養素の拡散制限による電位差形成

バイオフィルム内部は酸素や栄養素の濃度が空間的に不均一であり,酸素に曝される外縁部と無酸素となる内部で電位差が生じ,酸素濃淡電池が形成されることで局部腐食が進行すると考えられている42)。加えて,EPSマトリクスは,イオンの拡散を制限する性質を持つため,Fe2+やH+などの腐食関連物質が局所的に蓄積しやすいと考えられる。このような局所的環境ではpHの低下や酸化還元状態の変化が起こり,腐食反応が促進される可能性がある。

一方で,バイオフィルム形成が逆に腐食を抑制する例も実験室レベルではあるものの報告されている。たとえば,ある種の微生物が形成するバイオフィルムは金属表面を占有することで,腐食活性を有する細菌(硫酸塩還元菌)の定着を阻害することが示されている。また,バイオサーファクタントなどの抗菌性物質を産生する微生物を利用することで,他の細菌の生育や金属表面への付着を妨げる可能性がある。さらに,微生物ごとの代謝経路を利用することにより,栄養素の利用競合を引き起こすことで,腐食活性細菌の生育を抑制する戦略も考えられている42)。加えて,バイオフィルムの脱離を誘導する化合物や,細胞間コミュニケーションを阻害する物質,さらには,細菌捕食性微生物や細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)などを用いたMIC阻害法の研究も進められている2)

このように,バイオフィルムは多様なメカニズムによって金属腐食を促進する一方で,条件によっては保護的に機能する場合があると考えられている。今後のMIC研究には,微生物生態学,材料科学,電気化学,分子生物学を融合した学際的なアプローチが求められる。

本稿で紹介した観察手法の中でも,COCRMを用いた実験では,ステンレス鋼表面上に形成されたバイオフィルムの三次元構造と,金属表面上に生じたピット状の構造変化を同時に可視化できており(Fig. 4(c)),これはバイオフィルム構造が腐食の空間的分布と関係する可能性を示唆している。今後,このような時空間的な可視化により,MICのメカニズム解明および複合微生物系による腐食抑制の戦略設計が期待される。

7. 結語

バイオフィルムは,微生物と材料表面との界面における反応の場として,極めて重要な役割を果たしている。とりわけ金属材料においては,バイオフィルムの形成が腐食の進行にも抑制にも関与し,その構造や機能の理解と制御は,材料の長寿命化や防食技術の開発において不可欠な課題である。

本総説では,バイオフィルムを構成するEPSの多様性とその動的変化,形成から成熟,脱離に至る一連の制御機構,さらに複数の微生物が共存する複合バイオフィルムにおける代謝相互作用,そしてそれらが引き起こすMICの多様な様式について概説した。

近年の観察技術の進展や複合微生物系を解析する技術の向上により,生きたバイオフィルムの構造や代謝のリアルタイム解析が可能となり,バイオフィルムを「生きた生態系」として捉える視点が定着しつつある。MICの本質を理解するうえでも,個別の菌株のみならず,微生物集団としての応答や相互作用を解析することが重要であり,今後は多様な学術分野の知見を融合した学際的アプローチが求められる。

MICバイオフィルム研究は,基礎と応用を橋渡しする学際的な領域であり,腐食制御に新たな視点をもたらす可能性を秘めている。観察技術の進歩と複合微生物系に対する理解がより進むことにより,持続可能な防食材料の設計や,環境調和型の腐食抑制手法の確立につながると考えられる。今後の研究の進展により,微生物金属腐食制御技術のさらなる発展が期待される。

利益相反に関する宣言

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。

謝辞

本研究は,日本学術振興会 科学研究費助成事業(基盤研究S:課題番号23H05471,基盤研究B:課題番号25K01926,23H01706,20H02460)の助成を受けて実施されたものです。

文献
 
© 2026 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top