鉄と鋼
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論文
トリエタノールアミンを含むアルカリジンケート浴からのZn-Co合金電析挙動
中野 博昭柴田 至徳荒川 真吾大上 悟小林 繁夫
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2013 年 99 巻 5 号 p. 346-351

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Synopsis:

Electrodeposition behavior of Zn-Co alloys was investigated at current densities of 2–500 A∙m−2 and a charge of 5 × 104 C∙m−2 in an unagitated zincate solution containing triethanolamine, which forms a stable complex with Co2+ ions at 308 K. At low current densities below 5 A∙m–2, the Zn-Co alloy exhibited normal codeposition, wherein electrochemically more noble Co deposited preferentially, while at high current densities above 6 A∙m–2, it exhibited anomalous codeposition, wherein less noble Zn deposited preferentially. The current efficiency for Zn-Co alloy deposition was low to be about 20% in the region of nomal codeposition at low current densities, while it was 95% in the region of anomalous codeposition at high current densities. In the region of anomalous codeposition at high current densities, the partial polarization curves for Co deposition and H2 evolution were significantly shifted to less noble direction by coexisting of Zn2+ ions, showing the formation of an inhibitor for deposition, which results from Zn2+ ions in the cathode layer. In contrast, in the region of normal codeposition at low current densities below 5 A∙m–2, the underpotential deposition of Zn apparently occurred with Co. Because Zn-Co alloys are composed of the stable intermetallic compounds of CoZn13 and Co5Zn21, the activity coefficient of Zn in the deposit appears to decrease remarkably.

1. 緒言

Zn-Co合金めっきは,少量のコバルトを含有させることにより,Znめっきに比べて耐食性が向上するため,従来より多数の研究が行われている1,2,3,4)。Zn-Co合金めっきの研究はこれまで硫酸塩浴,塩化物浴からのものが主に行われてきたが均一電着性の点ではシアン化物浴,ジンケート浴からの方が優れている5,6)。しかし,シアンは有毒物質であるので,本研究では環境問題の観点からジンケート浴からのZn-Co合金電析を検討した。硫酸塩浴からのZn-Co合金電析では,電気化学的に卑なZnが貴なCoより優先析出する変則型共析挙動を示すことが報告されている7,8,9,10,11)。また,塩化物浴でも硫酸塩浴からの場合と同様に,変則型共析となるが,浴中の塩化物イオン濃度の上昇に伴い変則型から正常型へ移行することが分かっている。

一方,ジンケート浴からのZn-Co合金の電析挙動も,変則型を示すことが報告4,12,13,14)されているが,浴温度,撹拌,添加剤の影響を大きく受けることが示されており,硫酸塩浴,塩化物浴からの場合に比べて不明な点が多い。ジンケート浴からの電析においては,Co2+の錯化剤,光沢剤が添加されており,それらが電析挙動に影響を及ぼしている可能性もある。本研究では,Co2+の錯化剤としてトリエタノールアミンを添加したが,電析挙動に及ぼすジンケート浴の影響を明確にするため光沢剤は添加しなかった。このジンケート浴からZn-Coの合金電析を行い,これまでに報告されているジンケート浴4,12,13,14)および硫酸塩浴7,8,9,10,11)からの電析挙動と比較した。

2. 実験方法

Table 1にジンケート浴の電解浴組成および電解条件を示す。電解浴は市販の特級試薬を用い,ZnO 0.15mol·dm−3,CoSO4・7H2O 0.016mol·dm−3,N(CH2CH2OH)3 0.16mol·dm−3,NaOH 2.5mol·dm−3を純水に溶解させて作製した。一部,Zn,Co単独浴での電析を行ったが,その際の浴組成は,上記の浴からCoSO4・7H2O 0.016mol·dm−3またはZnO 0.15mol·dm−3を抜いたものである。電析は,定電流電解法により電流密度2~500A·m−2,通電量5×104 C·m−2,浴温35°Cにおいて無撹拌下で行なった。陰極にはCu板(1cm×2cm),陽極にはPt板(1cm×2cm)を用いた。得られた電析物は硝酸で溶解し,ICP発光分光分析法によりZn,Coを定量し,電析合金組成,Zn,Co電析の電流効率を求めた。Zn,Co,H2の部分電流密度は,全電流密度にそれぞれの電流効率(%)/100を乗じて算出した。水素発生の電流効率は,100からZn,Coの電流効率(%)を差し引いて求めた。分極曲線を測定する際,参照電極としてAg/AgCl電極(飽和KCl,0.199V vs. NHE,25°C)を使用したが,電位は標準水素電極基準に換算して表示した。また,5,20A·m−2で得られた電析物のZn,Coの化学状態分析を10分間Arスパッタリングした後,X線光電子分光法(XPS,Mg-Kα線)により行った。電析物(膜厚:3μm)の表面形態は走査型電子顕微鏡(SEM)により,また構造はX線回折装置(Mo-Kα,管電圧50kV,管電流36mA)により調べた。

Table 1. Solution compositions and electrolysis conditions.

3. 結果および考察

3・1 Zn-Co合金の電析挙動

Fig.1にZn-Co合金電析における全分極曲線およびZn, Coの部分分極曲線を示す。全分極曲線において,電流密度は−0.95Vから徐々に増加し,電流密度が5A·m−2を超えると,電位が急激に卑な方に移行した。約−1.27Vの電位において,再度電流密度の立ち上がりが見られた。Znの部分電流密度は,−0.95~−1.0Vの領域においても検出され,その後,電位が急激に卑な方に移行し,全分極曲線と同様に−1.27V前後の電位において再度増加すると推察される。Znの部分電流密度は,全電流密度が500A·m−2の時,増加の程度が減少した。これはZnイオンが拡散限界に近づいたためと考えられる。一方,Coの部分電流密度は,−0.95Vから徐々に立ち上がり,0.2A·m−2以上で電位が急激に卑な方に移行し,−1.27V前後において再度立ち上がりが見られた。8A·m−2前後でほぼ一定となっており,これはCoイオンが拡散限界に近づいたためと考えられる。なお,純Znが析出すると仮定した場合のZn電析の平衡電位EZneqは−1.27Vである。

Fig. 1.

 Polarization curves for Zn-Co alloy deposition from a zincate solution.

Fig.2にZn-Co合金電析におけるCo含有率,析出金属全体の電流効率に及ぼす電流密度の影響を示す。図中の破線は,Coについてその浴組成と合金組成が等しい場合を示す組成参照線(Composition reference line,以下CRLと略す)である。合金のCo含有率がこの線の上部に位置していれば,電気化学的に貴なCoが優先析出する正常型共析であり,下部に位置していれば卑なZnが優先析出する変則型共析となる。Fig.2から分かるように,Co含有率は5A·m−2前後の領域で大きく変化した。3A·m−2以下ではCo含有率は85mass%前後と組成参照線より上部にあり,正常型共析となるのに対して,6A·m−2以上では組成参照線を下回り変則型共析となった。Co含有率が大きく変化した電流密度は,Fig.1に示す全分極曲線の電位が急激に卑な領域に移行する電流密度と一致している。一方,Zn-Co合金電析の電流効率は,Fig.2に示すように正常型共析の領域で20%程度であり,5A·m−2前後で一旦最小となり,その後急激に増加し,500A·m−2で大きく低下した。5A·m−2を超えると,Fig.1に示すように電位が急激に卑な方に移行しており,この電流密度(5A·m−2)近傍で電流効率が最小となった。6A·m−2以上での電流効率の急増は,陰極電位がZnの平衡電位(純Znが析出すると仮定した場合の平衡電位−1.27V)に到達したためであり,500A·m−2での低下は,Fig.1に示す分極曲線からも分かるようにZnイオン,Coイオンの拡散限界に近づいたためと考えられる。

Fig. 2.

 Effect of current density on the alloy composition in the deposit and current efficiency for Zn-Co deposition from a zincate solution.

Fig.3にCo単独浴,Zn-Co合金浴から得られたCo電析の部分分極曲線を示す。Co単独浴,Zn-Co合金浴ともにCo電析は−1.0V前後でその部分電流密度が急増しており,0.2A·m−2以下の低電流密度ではZnイオンの影響は小さかった。しかし,0.2A·m−2以上の部分電流密度域ではZnイオンが共存することによりCo析出電位がZnの平衡電位まで分極し,Co単独浴からの場合に比べて大きく分極した。

Fig. 3.

 Partial polarization curves for Co deposition from Co only and Zn-Co alloy alkaline solutions.

Fig.4にCo単独浴,Zn-Co合金浴から得られたH2発生の部分分極曲線を示す。Co単独浴,Zn-Co合金浴ともにH2発生の部分電流密度は−0.95V付近から増加し,−1.0Vより貴な電位域ではZnイオンの影響をほとんど受けなかった。しかし,全電流密度を更に上昇させるとZnイオンが共存することによりH2発生電位がZnの平衡電位まで急激に移行し,Co単独浴からの場合に比べて大きく分極した。H2発生に及ぼすZnイオンの影響は,Fig.3で述べたCo電析に及ぼすその影響とほぼ同様の傾向を示した。すなわち,H2発生,Co電析ともにある電流密度以上でZnイオンの共存により大きく抑制された。低電流密度域でCo電析がZnイオンの影響を受けていないことを確認するため,Co電析の電流効率に及ぼすZnイオンの影響を調べた。その結果をFig.5に示す。正常型共析となる3A·m−2付近の低電流密度域に着目すると,Co電析の電流効率は,Znイオンが共存しても低下しないことが分かった。すなわち,低電流密度域では,Co電析はZnイオンの影響をほとんど受けていないと言える。

Fig. 4.

 Partial polarization curves for H2 evolution from Co only and Zn-Co alloy alkaline solutions.

Fig. 5.

 Current efficiency for Co deposition from Co only and Zn-Co alloy alkaline solutions.

Fig.6にZn単独浴,Zn-Co合金浴から得られたZn電析の部分分極曲線を示す。Zn電析の開始点に着目すると,Zn単独浴では,純Znが析出すると仮定した場合のZn電析の平衡電位−1.27V付近からZnの析出が始まっているのに対して,Zn-Co合金浴では,Znの平衡電位より約0.3V貴な電位域においてZnの電析が始まっている。すなわち,Zn-Co合金浴では,見掛け上Znのunderpotential depositionが生じていることが予想された。

Fig. 6.

 Partial polarization curves for Zn deposition from Zn only and Zn-Co alloy alkaline solutions.

なお,Zn単独浴からのZn電析の部分分極曲線は,トリエタノールアミンを添加すると僅かに分極するがトリエタノールアミン無添加の場合と比べて大きな差は認められないことが報告されている15,16)。トリエタノールアミン添加による分極の程度が小さいことからトリエタノールアミンはZnイオンに対してはほとんど配位しておらず,またZn電析に対する影響はほとんどないと考えられる。

硫酸塩浴からのZn-Coの合金電析挙動と比較するため,硫酸塩浴において電流密度を変化させた場合の電析合金組成,電流効率の変化をFig.79)に示す。硫酸塩水溶液からのZn-Co合金電析では,低電流密度域では,電気化学的に貴なCoが卑なZnより優先析出する正常型共析となるが,電気化学的に最も貴な水素が優先的に析出し,電流効率がゼロに近い。電流効率の高い実用的な合金が得られる電流密度領域では,電気化学的に卑なZnが貴なCoより優先析出する変則型共析という特異的な挙動を示す7,8,9)。硫酸塩水溶液において変則性が生じる原因としては,1)水和イオンからのCo電析が水酸基を含有した吸着中間体CoOHadを経由した多段階還元機構により進行し,CoOHadが吸着できるサイトが制限されている,2)電解中の水素発生に伴う陰極近傍のpH上昇により生成,吸着したZn(OH)2がCoOHadの吸着サイトを封鎖しCo電析の抑制剤として作用する,水酸化物抑制機構7,8,9)が提唱されている。本研究のジンケート浴では,Fig.2に示すように低電流密度域では貴なCoが優先析出する正常型共析となり,電流密度が増加すると変則型共析となっており,硫酸塩浴からと同じ挙動を示した。しかし,ジンケート浴からの合金電析では,低電流密度域での正常型共析において電流効率はゼロ近傍ではなく,硫酸塩浴からとは明らかに異なっている。低電流密度域で硫酸塩浴からの合金電析の電流効率がゼロに近づくのは,CoOHadが吸着できるサイトが制限され,Zn(OH)2がCoOHadの吸着サイトを封鎖しCo電析を抑制するためである。ジンケート浴においては,Fig.3,5に示すように低電流密度域では,Co電析に対するZnイオンの影響は小さく,Coの析出サイトが制限されていないか,あるいはZn(OH)2のようなCo電析の抑制剤が形成されていない可能性がある。すなわち,硫酸塩浴における上記の1)および/または2)が成立していないことが予想される。このため,ジンケート浴では低電流密度域での電流効率が硫酸塩浴からの場合より高くなったと考えられる。しかし,電流密度が高くなると,ジンケート浴においても硫酸塩浴の場合と同様に卑なZnが貴なCoより優先析出する変則型共析となった。Fig.3,4に示すように,電流密度が高くなるとZnイオン共存によりCoの析出,H2の発生が大きく抑制されている。硫酸塩浴においては,陰極界面に形成されるZn(OH)2がCo電析,H2発生を抑制することが報告されており7,8,9),本研究のジンケート浴においても,5A·m−2を超えると,電位が急激に卑な方に移行していることから(Fig.1),電流密度が5A·m−2を超えて高くなるとZnイオンに起因するCo電析,H2発生の抑制剤が形成されることが考えられる。Fig.2に示すように5A·m−2前後で合金電析の電流効率が最小になったのは,Znイオンに起因する電析抑制剤によりCo電析が大きく抑制されたためと考えられる。アルカリジンケート浴からのZn電析は,界面インピーダンス測定に基づき,下記の式(1)の1段階2電子反応   

Fig. 7.

 Effect of current density on the composition and the current efficiency for Zn-Co alloy deposition from sulfate solutions.9) (ZnSO4 0.5mol∙dm–3, CoSO4 0.5mol∙dm–3, pH3, 40°C)

または下記の式(2),(3)の多段階反応により進行することが報告されている17,18,19)。   

  

電流密度が高い時,上記の式(2),(3)の多段階反応によりZn電析が生じると仮定すれば,陰極界面に形成されるZn(OH)2がCo電析を抑制し,変則型共析となることが説明できる。

一方,これまでのジンケート浴からのZn-Co合金電析では,Co2+の錯化剤としてトリエタノールアミン12,13),ジエタノールアミン12),テトラエチレンペンタミン,4)ヒドロキシカルボン酸14)等を添加した場合が検討されており,何れの添加においても変則型共析となることが報告されている。本研究においても,Co2+の錯化剤としてトリエタノールアミンを用いた場合,変則型共析となっており,これは従来からの報告と一致している。しかし,低電流密度域では,正常型の電析となっており,ある電流密度以上でZnイオンに起因するCo電析の抑制剤が形成されることが分かった。また,本研究では,Co析出,H2発生の部分分極曲線に及ぼすZnイオンの影響を調べた結果,変則型共析となる領域では,Znイオンの存在によりCo析出,H2発生の電位が大きく分極することが分かり,Znイオンに起因するCo電析,H2発生抑制剤の形成が裏付けられた。

3・2 Zn-Co電析合金の構造

本研究において,純Znが析出すると仮定した場合のZn電析の平衡電位は−1.27Vである。しかし,Fig.1, 6に示すようにZn-Co合金電析では,Zn電析の電流密度は−0.95V前後においても検出され,見掛け上Znのunderpotential depositionが生じていることが予想された。この電位域で得られた電析物のZnが金属状態で共析しているかどうかを確認するため,XPS分析を行った。Fig.8にZn電析の平衡電位−1.27Vより貴な電位となる5A·m−2で得られた電析物と約−1.27Vとなる20A·m−2で得られた電析物のXPSスペクトルを示す。なお,5A·m−2で電析させた際の陰極電位は−1.0Vであった。また,電析物のCo含有率は5,20A·m−2でそれぞれ,90mass%,8mass%であった。5,20A·m−2で得られた電析物を10分間Arスパッタリングした後のZnスペクトルのピークは何れもZnに一致しており,Znは金属状態で析出していることが確認された。以上のことから,ジンケート浴からのZn-Co合金電析では,低電流密度の領域で見掛け上Znのunderpotential depositionが生じることが分かった。ジンケート浴からのZn-Ni合金電析15,16)および硫酸塩浴,塩化物浴からのZn-鉄族金属合金電析20)においても鉄族金属固有の析出過電圧を減少させる条件下では同様の現象が生じることが報告されている。

Fig. 8.

 XPS spectra of Zn in the Zn-Co alloy deposited at (a) 5 and (b) 20 A∙m–2 from a zincate solution.

Fig.9に5,20A·m−2で得られた電析物のCoのXPSスペクトルを示す。5,20A·m−2で得られた電析物共に10分間Arイオンスパッタリングした後のCoスペクトルのピークはCoに一致しており,Coは金属状態で析出していることが確認された。

Fig. 9.

 XPS spectra of Zn in the Zn-Co alloy deposited at (a) 5 and (b) 20 A∙m–2 from a zincate solution.

Fig.10に5A·m−2で得られた電析物のX線回折図形を示す。Zn電析の平衡電位より貴な電位となる5A·m−2で得られた電析物には,金属間化合物であるCoZn13,Co5Zn21のピークとCo単相のピークが認められた。電析物のCo含有率は90mass%であることから,この電析物はCoZn13,Co5Zn21の金属間化合物とCo単相から構成されていると考えられる。なお,Fig.10にはCo単相のピークが4つ見られるがそれぞれ低角度側から順にCoの(10 10),(10 11),(10 20),(10 22)面への配向に相当する。

Fig. 10.

 X-ray diffraction pattern of the Zn-Co alloy deposited at 5 A∙m–2 from a zincate solution.

Fig.11に20A·m−2で得られた電析物のX線回折図形を示す。20A·m−2で得られた電析物には,Zn単相と金属間化合物であるCoZn13,Co5Zn21のピークが認められた。電析物のCo含有率は8mass%であることから,この電析物はCoZn13,Co5Zn21の金属間化合物とZn単相から構成されていると考えられる。

Fig. 11.

 X-ray diffraction pattern of the Zn-Co alloy deposited at 20 A∙m–2 from a zincate solution.

XRDによる解析結果より,ジンケート浴からのZn-Co合金電析において,Znは純Znが析出すると仮定した場合の平衡電位−1.27Vより貴な電位域では,安定な金属間化合物CoZn13,Co5Zn21の形で析出していると考えられる。

金属M電析の平衡電位EMeqは,ネルンストの式より下記式(4)のように表せる。   

(EM0:Mの標準単極電位,R:ガス定数,T:浴の絶対温度,n:Mの電荷数,F:ファラデー定数,aMn+:Mイオンの活量,aM:電析物のMの活量)

ここで,   

(fM:Mの活量係数,XM:Mのモル分率)

本研究において,Zn-Co合金電析のZnのモル分率が0.1の場合,電析物のZnの活量係数fZnが10−10になると,Zn析出の平衡電位は,−0.95Vとなり,見掛け上Znのunderpotential depositionが生じることを熱力学的に説明することが可能となる。Zn-Co合金電析において,電析物のZnの活量係数は安定な金属間化合物CoZn13,Co5Zn21を形成することによりかなり小さくなっていると推察される。

Fig.12に5,20A·m−2で得られた電析物のSEM観察像を示す。見掛け上Znのunderpotential depositionが生じる5A·m−2で得られた電析物は板状結晶が直立したような形態となった。Fig.10に示すXRDの結果より,Co単相は(10 10),(10 11),(10 20),(10 22)面へ配向していることから,Coの板状結晶[hcp構造の基底面(0001)]が基板に対して直立していると考えられる。一方,20A·m−2で得られた電析物は,直径1μm以下の粒状結晶の集合体から成った。この一つ一つの粒状結晶は,更に細かい粒状体から構成されていた。

Fig. 12.

 SEM images of the Zn-Co alloy deposited at (a) 5 and (b) 20 A∙m–2 from a zincate solution.

4. 結論

Co2+の錯化剤としてトリエタノールアミンを添加したジンケート浴からのZn-Co合金電析挙動について調査した。5A·m−2以下の低電流密度域では貴なCoが優先析出する正常型共析となり,電流密度が増加して6A·m−2以上となると卑なZnが優先析出する変則型共析となった。Zn-Co合金電析の電流効率は,正常型共析の領域で20%程度と小さいのに対して,変則型領域では95%と高くなった。Co析出およびH2発生の部分分極曲線は,変則型共析となる高電流密度域では,Znイオンが存在すると大きく分極しており,Znイオンに起因する電析抑制剤が陰極界面に形成されていることが示唆された。正常型共析となる5A·m−2以下の低電流密度域では,見掛け上Znのunderpotential depositionが生じた。低電流密度域においても,安定な金属間化合物CoZn13,Co5Zn21が形成されており,電析物のZnの活量係数がかなり小さくなっていることが考えられる。

文献
 
© 2013 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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