鉄と鋼
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熱間圧延後のフェライト変態開始温度に及ぼす圧延条件と化学成分の影響
大内 千秋三瓶 哲也小指 軍夫
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1981 年 67 巻 1 号 p. 143-152

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抄録

熱間圧延後の γ-α 変態開始温度 (Ar3 点) の測定が可能な thermal analyzer を試作, 用いて, 熱間圧延条件を広範囲に変化させた時の Ar3 点の変化と制御圧延後の Ar3 点に及ぼす化学成分と板厚の影響について検討したが, 以下の結果が得られた.
(1) Nb 鋼では加熱, 圧延温度, 圧下率などの熱間圧延条件に伴う Ar3 点の変化は 100℃ 以上になるが, Si-Mn 鋼では 30℃ 前後である.
(2) 熱間圧延による再結晶 γ 粒の微細化に伴う Ar3 点の上昇は緩やかであるのに対して, Nb 鋼での未再結晶 γ 域での圧下率の上昇による Ar3 点の上昇は急激であり, 50% 以上の圧下率で化学成分と板厚により決まる Ar3 点に飽和する傾向を示す.
(3) オーステナイトからのフェライトの生成は再結晶, 未再結晶 γ 組織の場合とも γ 粒界, 変形帯から始まり, 未再結晶 γ 組織の場合でも変態初期では粒内からのフェライトの生成は認められない.
(4) Ar3 点に関与するこれら γ 組織を定量化する方法として単位体積当たりの有効界面面積 (SV 値)を導入したが, 未再結晶 γ 組織の SV は未再結晶域圧延に入る直前の等軸 γ 粒径を d, 未再結晶 γ 域での圧下率を ε とすると次式で示される.
SV={1.67(ε-0.10)+1.0}(2/d)+63(ε-0.30) (mm2/mm3)
(5) γ 中に固溶した Nb が Ar3 点を著しく低下させる機構は, Nb 原子が γ の界面エネルギを低下させているためであり, 未再結晶 γ 域での圧延により Ar3 点が急激に上昇するのは γ 粒界や変形帯での Nb(CN) の歪み誘起析出により界面での固溶 Nb 原子の減少を通してフェライトの核生成速度が増加するためであると考えられた. すなわち未再結晶 γ 組織が有する蓄積歪みエネルギに起因するものではない.
(6) 制御圧延後の Ar3 点に及ぼす化学成分と板厚 (t) の影響は次式の関係式で示される.
Ar3(℃)=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo+0.35(t-8)
上式は未再結晶 γ 域で 50% 以上の圧下率を採る圧延条件の場合に適合するが, この条件下では Nb, V は Ar3 点に影響しない.

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