鉄と鋼
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二相ステンレス鋼のσ相析出挙動におよぼす諸因子の影響
前原 泰裕藤野 允克邦武 立郎
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1982 年 68 巻 6 号 p. 673-681

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抄録

Fe-25Cr-7Ni-3Mo(A)およびFe-23Cr-6Ni(B)の2種類の二相ステンレス鋼を用いてσ相析出挙動におよぼす種々の因子の影響を調べ,以下の結果を得た.
(1)B鋼はA鋼に比し,σ相の析出に2桁以上長い時間を要した.σ相の析出が非常に速いA鋼との差は,化学組成,特にσ相とγ相に相分離することが知られているσ相の化学組成の差に起因すると思われる.
(2)冷間加工のみならず熱聞加工あるいは焼入歪みもσ相の析出を促進することがわかつた.中でも冷間加工による促進効果は顕著であり,α粒内での析出に加えてγ粒内でもσ相の析出が認められ,従来知られているα→σ+γの反応に加えてγ→σの反応も存在することが認められた.このような内部歪みによる促進効果は,σ相析出の核形成サイトとしての格子欠陥の存在と,これによる相分離の際の各元素の移動のしやすさに起因するものと考えられる.
(3)σ相析出温度域に至るまでの熱履歴により析出速度は大きく異なり,前処理としての加熱温度を高くすることにより析出が遅れることがわかつた.これはαとγとで化学組成が異なるミクロ偏析がα単相としたことによつて軽減され,各元素の濃度が均一化し,σの析出域で再びγの生成過程を必要とするためと考えられる.再溶解では化学組成はほぼ完全に均一化するのでσ相の析出が最も遅れる条件となるのである.このことは鋳塊にはσ相が析出しにくいことを示しており,σ相が析出しやすい二相ステンレス鋼の連鋳化に際し,重要な知見となる.

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