1990 年 76 巻 5 号 p. 783-790
蒸気タービン低圧部の大胴径回転軸材に用いられる3.5Ni-Cr-Mo-V鍛鋼品を対象とし,γ化熱処理中の逆変態/細粒化挙動を観察すると共に細粒化に関与する金属組織的要因を検討した.得られた結果を要約すれば以下のとおりである.
(1)3.5Ni-Cr-Mo-V鋼のγ化昇温中の細粒化は前針状フェライト組織の方向性を受け継ぐ針状γ相の生成及び針状γ相界面の粒界移動による等軸結晶粒の生成と成長の二つのプロセスを経て進行する.後者のプロセスは広義の意味で再結晶過程といえるものと考えられる.
(2)高温引張試験により得られたAc3点直上での高いフローストレスは針状γ相の集合体(DEC)が高い内部欠陥を有していることを示しており,針状γ相の粒界移動の駆動力となるものと考えられる.
(3)Ni含有量の増加は針状γ相を高温側まで安定化させ,粒界移動による等軸結晶粒の生成密度を減ずるため,逆変態/細粒化の度合いを低下させる.
(4)針状γ相の等軸化に要する粒界移動は,γ単相温度域でなお未固溶のV炭化物により抑制されるため,V含有量の増加に伴い細粒化が難しくなる.
(5)軸材の大胴径化はγ化昇温速度の低下をもたらし,逆変態/細粒化の阻害要因となる.