鉄と鋼
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応力腐食環境下でのき裂の発生・進展に関する共通試験
青木 孝夫岩舘 忠雄江原 隆一郎梅山 嘉夫横堀 武夫
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1992 年 78 巻 11 号 p. 1644-1649

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抄録

応力腐食環境下での寿命評価技術に関する情報収集を目的として,原子力発電用大形低圧タービンロータ材を用いた38%NaOH+0.01%CuO水溶液環境下での,き裂発生試験およびき裂進展試験が実施された.その結果,寿命評価にあたっての評価試験方法として,下記の点が指摘された.
(1)4点曲げ試験によるき裂発生寿命試験では,一部の試験片においてき裂発生寿命が短い場合が観察されたが,1000時間の寿命を与えるひずみのばらつきは3500~4000×10-6と比較的小さな結果を示した.
(2)WOL試験片によるき裂進展寿命試験では,き裂進展開始までの潜伏期間がなく,き裂進展曲線のばらつきは,学振129委員会基準設定時の共通試験である3.5%NaCl水溶液環境下に比較して小さい結果を示した.
(3)下限界応力拡大係数KISCCの測定には,初期応力拡大係数KIOの影響は小さいが,試験時間には10000時間前後が必要である.
(4)最終荷重解析によるKISCCの値は,荷重測定の問題から誤差が大きく,弾性ボルト解析によるKIf値の採用が推奨された.
(5)KIfのばらつきは比較的大きく,その原因は分枝き裂の発生とき裂進展面の湾曲に起因していることが明らかにされた.
(6)この分枝き裂とき裂進展面の湾曲は,実機での原子力発電用大形低圧タービンロータに観察された破面形態とよい一致を示した.
このように,本共同試験の試験環境は加速試験であるが,実機でのき裂進展形態を再現できており,本研究の試験の結果は実機の寿命評価に対して一つの情報を与えるものである.

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© 一般社団法人 日本鉄鋼協会
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