1999 年 85 巻 2 号 p. 102-107
(1)鉄分離原子吸光法の分析精度は直接原子吸光法よりも大幅に向上した.定量下限が直接原子吸光法では30~100ppmであったが,除鉄原子吸光法を用いると今回検討した10種類の金属元素では10ppmの定量下限が得られた.
(2)従来JIS法などでは残さ処理には二硫酸カリウムを用いていたが,硫酸イオンは200~300nmに分子吸収による化学干渉があるため微量成分を定量する場合は問題があることが分かった.このため微量域の金属元素を原子吸光法で定量するための分析試料処理には硫酸系試薬の使用を行わない方法とし,不溶解残さはふっ化水素酸,過塩素酸で処理し最終試料溶液は塩酸酸性とした.
(3)測定時のマトリックスの影響を取り除くため4-メチル2-ペンタノンによる除鉄操作を行ったが,4-メチル2-ペンタノン抽出でも完全には鉄を除去できず極微量ではあるが鉄が残存する.したがって,検量線作成時にも鉄を共存させた状態で試料処理操作を行い,原子吸光法で測定する際の残存鉄量による干渉の影響の補正を行って,分析精度(正確度)の向上を図った.
(4)確立した方法によれば,同一試料溶液から10元素の定量が可能であり,多元素同時定量型原子吸光装置などを用いると多元素同時定量が可能である.
(5)著者等の検討結果の一部は鉄鉱石中ビスマス定量方法として改訂JIS法の中に取り込まれている.