2020 年 32 巻 185 号 p. J1-J5
ノイラミニダーゼ(NA、シアリダーゼ)阻害剤は、急性感染症であるインフルエンザの治療や予防に有効である。その第一世代型は、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸、NANA)から生じる推定オキソカルベニウムイオン遷移状態のアナログ2-デオキシ-2,3-デヒドロ-N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac2en、DANA)から展開したものであった。次世代型へのアプローチとして、NAのTyr406残基との共有結合形成による不可逆的阻害剤の開発が進められている。そして、2α,3(a)-ジフルオロシアル酸がインフルエンザNAを不可逆的に阻害することがわかって以来、NA活性中心の三つのArg残基と静電的に相互作用するアノマー位カルボキシ基の置換が検討されてきた。より負に帯電するよう設計合成されたアノマー位スルホ基アナログは、相当するカルボキシ基アナログやホスホノ基アナログに比べ、強くインフルエンザNAを阻害した。これら二方面からのアプローチの組合わせにより、強力な不可逆的NA阻害剤の創出が試みられている。