生命現象は糖鎖によって精密に制御されていることがこれまでの研究から明確になってきている。近年では、ヒトにおける疾患と糖鎖の関係性が明らかにされており、例えば腫瘍関連糖鎖抗原の構造と発現変化は、様々な癌種の悪性形質に寄与していることが報告されている。このような糖鎖発現異常は癌のみで起こるわけではなく、先天性糖鎖異常疾患(CDGs)を始め、脳神経系疾患、そして自己免疫疾患であるIgA腎症、と様々な組織で、全く異なる機序で生じる。本稿では、代表的な腫瘍糖鎖抗原の一つであるムチン型O型糖鎖Tn抗原が、複合的に癌とIgA腎症の発症に関わっていることにつき、議論する。