Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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細胞接着と細胞分裂にかかわる糖鎖
比較グライコミクスの糖鎖生物学へなげかける光
Kazuya Nomura
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2004 年 16 巻 88 号 p. 125-134

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抄録

ABH式血液型抗原は何の生理学的機能もないと考えられてきた。Xenopus laevis のCa2+依存性細胞間接着を研究している時、私達は血液型B型抗原を付加されたGPIアンカー型レクチンとB型糖鎖を付加された複合糖質が初期胚の細胞接着を引きおこしていることを発見した。マウスの初期胚では、B型血液型抗原ではなく、Lewis x 血液型物質が付加された分子が、コンパクションにおいて同様の機能を果たしている。どのようにして細胞表面の細胞接着に働いているグリコームの発現パターンがこの二つの種で進化してきたのであろうか?
線虫 Caenorhabditis elegans においてはコンドロイチンプロテオグリカンの鎖が細胞分裂の完了に必須の役割を果たしている。胚細胞表面のコンドロイチンが減少するとみたところ細胞分裂が逆行する現象がひきおこされる。細胞質分裂と染色体の分配が異常になり、胚細胞は死亡する。高等動物においてもコンドロイチンは同様な役割を細胞分裂において果たしているのだろうか? あるいは、コンドロイチンの役割は異なる糖鎖によってとってかわられているのだろうか? これら二つの例から分かるように、様々な生物のグリコーム間の比較は、糖鎖生物学における様々な仮説を生み出す大変強力な手法ということができる。ゲノムDNA配列の解読の完了によって、バイオインフォマティックスと機能グリコミックスの手法をもちいてグリコームの進化を研究することができる時代がようやくおとずれてきたの考えられる。

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© FCCA, Forum; Carbohydrates Coming of Age
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