抄録
ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60は、単球/マクロファージ経路に沿った分化の研究に広く使用されてきた。ホルボールエステルはHL-60細胞のプロテインキナーゼCを介したマクロファージへの分化を誘導し、ビタミンD、腫瘍壊死因子α(TNFα)およびγ-インターフェロンは単球への分化を誘導する。これらの分化はそれぞれ異なるスフィンゴ脂質代謝を伴っている。マクロファージへの分化にはガングリオシドGM3の選択的な増加を伴っていて、これが分化のプログラムの決定的な局面を惹き起こしているらしい。マクロファージへの分化にはスフィンゴミエリンの合成も必要である。スフィンゴミエリン合成は接着現象に先行して起こり、おそらく接着の過程に直接必要とされている。対照的に、単球への分化には中性のスフィンゴミエリナーゼの作用によるスフィンゴミエリンの分解が必要のようだ。この場合、セラミドはセカンドメッセンジャーとして機能していると思われる。最近、HL60細胞にセラミド-1-リン酸とそれに関連したカルシウム依存性のキナーゼ、セラミドキナーゼが発見された。セラミド-1-リン酸の生物学的役割とセラミドキナーゼの制御に関しては、現在のところわかっていない。スフィンゴミエリナーゼの作用によって開始される、ホスホイノシチド経路と類似したスフィンゴミエリン経路が存在するかも知れないという見解を、このミニレビューで述べてみたい。この始まったばかりの研究は、生物学的に意味のある信号がスフィンゴミエリンという分子を通して伝達されていることを示唆している。