糖タンパク質や糖脂質上のシアル酸含有糖鎖は、細胞接着やレセプター認識などの多くの生物学的現象と関係している。シアル酸含有糖鎖の構造上の多様性とその制御された発現様式は、それらの機能と関連していると思われる。シアル酸含有糖鎖の生物学的機能やそれらの発現制御機構を解明するうえで、シアル酸転移酵素遺伝子は非常に有用である。これまでに12種のシアル酸転移酵素遺伝子がクローン化された。酵素学的な解析により、複数の酵素が同じ糖鎖構造を合成しうることが明らかとなった6個々のシアル酸転移酵素遺伝子は、組織、細胞、発生段階によりそれぞれ特異的な発現パターンを示し、細胞表面糖鎖のシアリル化の様式を転写レベルで制御していることが明らかとなった。クローン化されたシアル酸転移酵素cDNAを用いて、特定のシアル酸含有糖鎖の生物学的機能が直接証明された。また、シアル酸転移酵素cDNAの取得により、シアル酸含有オリゴ糖の大量合成や、医療用の組換え糖タンパク質の糖鎖構造の改変が可能になった。シアル酸含有糖鎖の機能を理解することは、新しい医薬品の創製を含む多くの応用へ繋がるであろう。