Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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バイオフィルムと感染症
Hiroshi Yasuda
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1996 年 8 巻 44 号 p. 409-417

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抄録

本総説は、細菌によって形成されるバイオフィルムとは何か、それが我々とどう関り合っているのか、物質的にはいかなるものなのか、等について概説するものである。細菌バイオフィルムは、本来、細菌が環境に順応して生き延びて行くために形成する細菌集落のありかたの一つであって、細菌自らが分泌する粘性の多糖類と菌体とからなる構造体である。自然界に存在するほとんどの細菌バイオフィルムは人間とは無関係であるが、時々それらは人間が構築した構造物の中に、あるいは、それらの表面に形成され、構造物の機能をそこなう場合がある。また、人間の体内で、感染という形で侵入した病原菌によって形成されるバイオフィルムは結果的に抗菌剤や生体の防禦機構から病原菌を護るように作用し、感染症からの回復を妨げる。種々の細菌によってバイオフィルムは形成されるが、人体での「感染症」を考える時、特に問題となるのは緑膿菌と表皮ブドウ球菌である。緑膿菌はバイオフィルムを形成することにより、しばしば難治性の呼吸器感染症や尿路感染症の原因となる。また、表皮ブドウ球菌は、種々の病気の治療目的でしばしば人体に挿入されるカテーテルやカニューレといった異物体の表面にバイオフィルムを形成し、異物体周辺感染症の原因となる。緑膿菌が産生する多糖類はアルギン酸であり、構造や合成経路、産生の制御機構などについて非常に良く研究されている。表皮ブドウ球菌については良く分かってはいない。最後に、バイオフィルム感染症に対するいくつかの対処策についても触れる。

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© FCCA, Forum; Carbohydrates Coming of Age
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