Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene
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1974年ナイジェリア国のオニッチャ市において, ラッサ熱で死亡した医師の剖検報告
佐藤 喜一Silvanus E. IKERIONWUKenneth C. KATCHY
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1982 年 10 巻 1 号 p. 23-31

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抄録

1974年2月, ナイジェリア国のオニッチャ市にあるボロメオ病院内で, ラッサ熱の流行があった。この時期に, この病院で働いていた29歳の西ドイツ人医師 (男) が入院中の患者から, ラッサ熱に感染し死亡した。著者らはナイジェリア大学病院 (Enugu市 : Onitsha市より東へ約70km) の病理解剖室で本例の病理解剖を行なった。剖検体は, 1974年2月10日に40℃の高熱と腹痛を訴えた。そして嘔吐があった。抗生物質の投与に抗して高熱は5日間継続した。10日目には激しい咽頭痛を訴え, 扁桃と軟口蓋に潰瘍がみられ, 頸部リンパ腺腫脹も現われた。呼吸困難が現われたために気管切開術を行なったが, 間もなく意識喪失し死亡した。
病理組識学所見のうち, 主たる所見は以下の如くであった。 (1) 脳 (1500g) : 脳膜炎と脳炎の所見を認めた (図1~6) 。すなわち脳膜はうっ血を示し, 組識学的には軽度のリンパ球や組織球の浸潤と浮腫がみられた。脳実質にもうっ血と浮腫がみられた。また神経細胞の壊死とNeuronophagiaが考えられた (図7~9) 。肝細胞と肝細胞の小塊には好エオジン性壊死像がみられた。 (3) 脾臓 (240g) : 脾周囲炎と脾炎がみられた。脾白色髄の辺緑帯と脾索内に硝子様物質の沈着がみられた (図10~13) 。 (4) 腎臓 : 巣状糸球体腎炎 (図14) 。 (5) 胸水と腹水をイバダン大学ウイルス研究所へ送り, ラッサ熱ウイルスの同定試験で陽性であった (図17) 。 (6) その他として肺のうっ血と浮腫, 心筋の限局性線維症などがみられた。これらの所見から, ラッサウイルスが直接障害したと考えられる所見として大脳皮質の神経細胞の壊死, 肝細胞の散在性壊死, 腎糸球体の巣状壊死などにみられるような毛細血管内皮細胞の障害などがあげられる。

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