Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene
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熱帯熱マラリア原虫47kD抗原の疫学的意義
狩野 繁之AHMED AYOUB EL GADDAL鈴木 守
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1990 年 18 巻 4 号 p. 317-324

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抄録

日本人輸入熱帯熱マラリア患者の血清を入院時より治療後にかけて, 約2カ月間継時的に採取し, それぞれの血清中の免疫グロブリンと反応する熱帯熱マラリア抗原分子につき, ウェスタン・プロット法により調べた。その結果, 感染初期血清中の免疫グロブリンが特異的に47kD抗原と結合すること, しかし, 入院後57日目の血清は, 47kD抗原との反応性が著しく弱まってしまうことが見出された。この間, 間接蛍光抗体法によって測定された特異的免疫グロブリンの力価は, 1 : 256と変りなく高値を示した。同様の事実が, 4名の日本人熱帯熱マラリア感染においても確認された。この知見は, 47kD抗原特異的免疫グロブリンは, 現在の熱帯熱マラリア感染, もしくは, 極めて近い過去において起こった熱帯熱マラリア感染を反映する特徴的な抗体であることを示している。日本人患者において見出された以上の知見をもとに, スーダンにおいて野外調査を行い, 低流行地, 中等度流行地, 高度流行地の住民につき, ABC-ELISA法により抗体価を測定した。さらに, それぞれの流行地において血清が得られた例について, 各血清と47kD抗原との反応性をウェスタン・プロット法により調べた。その結果, 現在末梢血液中に熱帯熱マラリア原虫が証明された例では, 1例以外はすべて47kD抗原結合性免疫グロブリンが確認された。また, 現在原虫は証明されないが, 極めて近い過去に感染を受けたと想定される住民から採取された高抗体価血清も, 47kD抗原と強く反応した。しかし, 一部の高抗体価血清では, 47kD抗原との反応性が示されなかった。これらの血清供与者は, 過去のマラリアの累積結果が高抗体価として表現され, 現在および近い過去において熱帯熱マラリア感染はなかったグループと判断された。以上の実験結果から, 熱帯熱マラリア原虫の47kD抗原は, 疫学上, 現在もしくはごく近い過去のマラリア流行を捉える上で, 有用な抗原であると考察された。

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