抄録
口腔癌切除後の軟組織欠損に対し,皮弁を用いた再建を行うことで機能的・審美的回復が図られている。しかしながら,極めてまれではあるが,再建皮弁内から新たに癌が発生することが報告されている。今回,頬粘膜癌切除後の再建に用いた前腕皮弁に発生した扁平上皮癌の症例を経験したので報告する。
患者は58歳男性で,左頬粘膜癌(cT3N2bM0)の臨床診断にて頬粘膜悪性腫瘍切除術,左根治的頸部郭清術変法,遊離前腕皮弁による再建術が施行された。術後8年で再建皮弁上にびらんを認め,生検にて扁平上皮癌の病理組織学的診断を得て,悪性腫瘍切除術を施行した。現在,術後3年で再発なく経過している。
本症例では腫瘍が皮弁中央部の表皮および真皮に限局して発症しており,皮弁原発癌と診断した。原発腫瘍と皮弁内腫瘍との遺伝子検査を行ったところ,同一遺伝子の変異を認めた。このことから,両者には遺伝的な関連があり,同一の起源の腫瘍である可能性が示唆された。