仏教文化研究論集
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Print ISSN : 1342-8918
序論
prajñā/ paññā の訳語をめぐって
バウッダコーシャ 研究会
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2017 年 18.19 巻 p. 3-4

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 バウッダコーシャは「仏教用語の宝庫」を意味し,仏教における重要な術語をそれぞれの定義や主要な用例にもとづいて,なるべく平易で適切な現代語に翻訳するプロジェクトである.本特集号は,2014年11月15日(土)に開催された公開シンポジウム「仏教用語の―翻訳はいかにして可能か―」(於東京大学仏教青年会ホール)に設けられた,「prajñā/ paññā の訳語をめぐって」と題する特別シンポジウムでの発表を中心に,関連成果をとりまとめた.同シンポジウムでは,

中村隆海(東北大学大学院出身・寺院住職):「ヴェーダ文献のprajñā」

河﨑 豊(大谷大学真宗総合研究所特別研究員):「パーリ文献のpaññā」

一色大悟(東京大学特任研究員):「説一切有部のprajñā」

高橋晃一(東京大学特任研究員):「瑜伽行派文献のprajñā」

横山 剛(京都大学大学院博士課程):「中観派文献のprajñā」

菊谷竜太(東北大学特任研究員):「密教文献のprajñā」

渡辺章悟(東洋大学教授):「般若経のprajñā」

の7つの研究発表が行われ,斎藤明が「バーヴィヴェーカのprajñā」を簡潔に補足するとともに全体を総括した.(発表者の所属・肩書は当該シンポジウム時点のもの.)

 「般若」や「智慧」「慧」等と訳されることの多いprajñā/ paññāは,仏教においてきわめて重要な概念の一つである.よく知られるように,初期仏典では,ブッダが縁起,中道,三法印等の道理を洞察したことを説く折りにも,しばしば「智慧によって」(paññāya)という定型的な表現が採られる.このprajñā/ paññāは,その後の仏教史においても,南北両伝のアビダルマ(論),大乗仏教系の瑜伽行派,中観派,仏教論理学,密教文献等において重視された.総じてprajñā/ paññāは,諸法の特質や道理を見究めるために,実践主体に期待された知力(intellect, etc.),理解力(understanding, etc.),識別知(discernment, etc.),洞察力(insight, etc.)などをさす術語として,仏教史を通底するキーワードでありつづけたのである.

 以上のような問題関心から,本特集号では,prajñā/ paññāの訳語をめぐって,パーリ文献(河﨑豊),説一切有部(一色大悟),『菩薩地』(岡田英作),瑜伽行派(高橋晃一),バーヴィヴェーカ(斎藤明),チャンドラキールティ(横山剛),仏教論理学(石田尚敬)の7領域の文脈から,それぞれの専門研究者が執筆した.岡田,斎藤,石田による3論考は,当該シンポジウムを構成した河﨑,一色,高橋,横山による4つの研究発表に加え,内容的な連関と必要性を考慮して,今回新たに書き下ろし,編入したものである.

訳語に関しては,これらの論考をふまえ,あらためての議論と調整が求められるところであるが,今回は関連情報と資料の提示を主眼とし,今後の議論に向けた重要なたたき台を提供できたとするなら,本特集号の目的はすでに果たされている.

Acknowledgments

(本特集号は,科学研究費補助金・基盤研究(A)「バウッダコーシャの新展開―仏教用語の日英基準訳語集の構築―」(課題番号16H01901・平成28-30年度・研究代表者 斎藤明)による研究成果の一部である.)

 
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