Tropics
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タイ乾燥常緑林における樹木の光合成産物動態 I.
Hydnocarpus ilicifolius の樹体内における糖·殿粉濃度の日変化
米田 令仁二宮 生夫Pipat PATANAPONPAIBOON荻野 和彦
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2002 年 11 巻 3 号 p. 125-134

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抄録
タイ乾燥常緑林において,林冠構成種の一つであるHydnocarpus ilicifolills の光合成産物動態の日変化について調べた。測定は1997 年,乾季のはじめに行なった。試料は葉·枝·幹·根について, 3 時間毎に24 時間採集し,採集した全てのサンプルについてスクロース,ヘキソース,澱粉の濃度変化を調べた。その結果,非構造炭水化物(TNC) の濃度変化は,どの器官も最低濃度か乾重1g中100 mg 前後を示し,これは日変動の“ベースライン”であると見なした。そうした場合,このベースラインは各器官におけるTNC の季節レベルの貯蔵量を示し,ピークは一時的なTNC の増加であると考えられた。TNC 濃度のピークは器官の地上高が低くなるに従い低下した。各器官でのTNC 濃度のピークは上方の器官のピークから3~9 時間遅れて現れた。ピークが上方からの炭水化物の移動によって現れるとした時,炭水化物の移動速度の推定値はこれまで発表された転流速度に近かった。したがってTNC のピークのずれは光合成産物のマスフローを意味していると考えられた。樹体内の炭水化物の日変化はこれまで発表されている季節変化の範囲とほぼ同程度であった。植物体における炭水化物の動態に関する研究を行なうとき,この大きな変動を考慮に入れるべきであることが示唆された。
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© 2002 日本熱帯生態学会
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