抄録
インドネシアは日本の5倍の面積をもち、東南アジアの赤道部を広く占める国である。原生時代には国土のほとんどを森林が被っていただろうが、2000年の森林面積は国土面積の58%に過ぎず、さらに年に1.2%の割合で減少を続けている。その中で国立公園など保護区に指定されている地域は国土面積の7%を占めるに過ぎない。その保護区も、最近の政治的混乱の影響もあって荒廃が著しい。
熱帯林はインドネシアに限らず急速に減少し続け、ほとんど残らないのではないかと危惧されている。メソポタミア以来、文明の発達につれて森林が減少してきたことを考えれば、これはある意味では当然の帰結ともいえる。国土に占める森林の比率は、日本では64%と例外的に高いが、イギリス12%、フランス28%など先進国の多くが30%以下であり、開発途上国が先進国になりたいと考え、森林を農地などに変換することを止めることは難しいだろう。しかし、多くの地域が開発されるとしても、開発地域と保全地域を区別する必要があるだろう。開発地域に関しては、経済的な論理を原則に、農地、生産林、環境保安林、地球全体の炭素循環対策のためにバイオマスの確保が必要ならば先進国の援助による造林地などに、利用されることになるだろう。保全地域の森林は、単にバイオマスの確保にとどまらず遺伝子資源、多様性の保全が重要な課題になる。裸地化しても百年単位の時間で見れば森林の回復は可能だが、そのためには遺伝子資源が残っている必要があり、狭い面積でも天然林を残しておく意義は大きい。先進国の森林率も以前はもっと低かったのが最近増加しつつあり、熱帯地域でも22世紀まで考えれば森林面積が増加過程に転じることも夢とは言えないだろう。だが、現状のインドネシアでは保護区の管理が崩壊状態に近い場所もある。このような状況を改善することが、百年、二百年後の熱帯林を考えるとき、非常に重要であろう。