Tropics
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原書論文
照葉樹林のアジア地域及び地球上での分布- Lucidophyll oak-laurel forest fonnation の提唱
田川 日出夫
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1995 年 5 巻 1+2 号 p. 1-40

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抄録
日本の照葉樹林はGriesebach (1872), Schimper (1898), Brockmann-Jerosch (1912) などにより, Lorbeerform, Lorbeerwald, temperierte Regenwald, Laurisilvae として西欧に紹介された。その後日本ではこれらをEvergreen broad-leaved forest, Evergreen laurel-leavedforest と表現して西南日本の代表的な極相森林を世界に紹介してきた。最近Kira (1977) は照葉樹林をLucidophyll forest と表現することを提唱している。日本の照葉樹林の優占種はブナ科,クスノキ科,マンサク科の植物からなるが,このような森林は日本だけではなく,いわゆる照葉樹林帯を作る東アジアからヒマラヤ山脈の南斜面にかけて更には東南アジアの半島部及び島嶼部の山岳地帯,マカロネシア,北米東南部,にも分布しており,各々の地域について森林の組成と分布する高度を多くの文献を引用して紹介した。これらの森林は大部分ブナ科のCastanopsis, Lithocarpus (Pasania), Quercus (Quercus 亜属とCyclobalanus 亜属)属,或いはクスノキ科のActinodaphne, Alseodaphne, Beilschmiedia, Cinnamomum, Cryptocarya, Endlicheria, Listea, Machilus (Persea) 属,もしくはその両方が優占する森林である。その分布は熱帯多雨林の分布上限から熱帯域では3側メートルに達し,分布の北限域では低地にのみ存在している。分布の北限は,太平洋域では青森県岩崎村の北緯40度34分,大西洋域ではアゾーレス諸島の北緯39度付近にあり,南限は南緯9度のジャワ島にある。アジアにおける照葉樹林の水平分布と垂直分布について文献を元に図示した。
対象とする照葉樹林には多くの名称、があり,これらを整理するために垂直分布帯を意味する名称(Lower montana forest など),気候帯と葉の特徴を表わす名称(Temperate broad-leaved evergreen forest など),葉の特徴を表わす名称(Evergreen laurel-leaved forest, Lucidohyll forest など) ,種組成を表わす名称(Oak-laurel forest など) ,植物社会学上の命名(Camellietea japonicae など)の5 区分にまとめ,検討を行った。照葉樹林は分布的には暖温帯から熱帯まで,低地から3000メートルまでの範囲で見られ,場所によって高山であったり低地であったりするので,構成樹種とその葉の特徴とで表現することによって,共通の表現が可能ではないかと考え,Lucidophyll oak-laurel forest formation として一つの群系を提唱した。
上記の地域の他に,アフリカ山地林,アンデス山脈の森林,オーストラリア,ニュージーランドの植生を文献上で検索した。アジア型の照葉樹林とミナミブナ林が唯一同所的に分布しているニューギニアでは,ミナミブナ林はミナミブナ林のないキナバル山に比べてアジア型の照葉樹林の上部と,イヌマキ科からなる森林の下部との間に入り込んでいる。両者の間には共通種も見られるので,両者は優占種を異にした同じ群系に属するのではないかと考える。南半球で進化し分化したミナミブナ林を構成するNothofagus の葉も革質で太陽光を反射することから,照葉樹林をLucidohyll oak-laurel forestとすると,ミナミブナ林も含めざるを得ないと考える。そうなれば照葉樹林の主な分布域はアジアだけでなく,オーストラリア,ニュージーランド,アンデスまでの広い面積を占めることになる。中米,南米にもブナ科(Quercus) , クスノキ科(Beilschmiedia (Huflandia), Cryptocarya, Endllicheria, Nectandra, Ocotea), を優占種に持つ森林がアンデス山中にもあり,照葉樹林がかなり広く分布していることが分かつた。
アンデスではこれらの上にPodocarpus を優占種または卓越木として持つ森林があり,ニューギニアやボルネオ島の高所ではイヌマキ科の樹木(Dacrydium, Dacrycarpus, Phyllocladus) が植生帯を作っており,ニュージーランドでも,アフリカ山地林でも同様である。これらの森林は亜寒帯や亜高山帯の針葉樹林とは異なり,優占種はイヌマキ科に限られる。この型の森林をPodocarp forest又はSouthern conifer forest としてまとめることを考えているが,結論を出すにはもう少し検証が必要である。
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© 1995 日本熱帯生態学会
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