抄録
研究の対象としたのは,南スマトラ州の38,480 km2の地域における1969年から1988年の土地利用変化である。すなわちインドネシア政府が作成した両時点での土地利用図の情報をデジタイザーとARC/INFO をもちいてGIS のデータベースにインプットして土地利用の変化を定量的に明らかにするとともに,そうした変化をもたらした要因,とりわけ伐採コンセッション,人口増加,土地保有制度などの影響を考察した。
従来この地域では1968 年以降に始まる木材伐採で森林がなくなったと考えられてきたが,1969年の時点で森林になっていたのは陸地面積の35% しかなく,薮や草原などの自然植生の再生地が37% ,耕作地が26% に達していた。早くから森林が失われた一因は, 19 世紀末からコーヒーやゴムなどの商品作物が導入されたことと, 20 世紀前半の石油開発で森林地帯に道路が入ったことである。
南スマトラ州での伐採コンセッションの設定は1968年から開始されるが,これによって森林の消失が速まったという確かな証拠は見あたらない。コンセッション地域では1969年の森林面積の74% が1988年にも森林として残っているのに対して,非コンセッション地域では42% にとどまっている。さらに前者では一時的に耕作された無立木地になったとしても,草原から薮を経て森林に再生していく割合が高い。
1969年から1988年にかけての全体としての森林面積の減少は約10% である。減少率が比較的小さいのは,草原や薮から森林への移行がかなりあったこと,伝統的な土地保有制度(マルガ)が崩れ,森林へのアクセスが困難になったことと関係が深い。人口増加で移動耕作が増え,森林が減少するという伝統的なパターンから,常畑の拡大と小作の集約化の方向に進んでいると見ることが出来よう。