2003 年 31 巻 1 号 p. 46-61
現存生物の遺伝情報のほとんどはゲノムDNAに記録されており,これはDNAポリメラーゼにより半保存的に複製されている.その長さは,最小ゲノムDNAを有するマイコプラズマ・ゲニタリウムでさえ,58万塩基対と非常に長い.このような長鎖DNAは,現在のDNAの化学合成技術をもってしても合成できないが,ましてや生命誕生以前の環境を模倣した化学進化モデル反応では実現されていない.唯一,55塩基長のオリゴリボヌクレオチドが粘土鉱物存在下で無生物的に生成することが見いだされたのみである.はたして,ゲノムDNAはどのようにして無生物的に非常に長いDNAとなったのであろうか?大野は,現存生物の遺伝子は短鎖反復核酸が伸長した反復RNAから誕生したモデルを提唱した.DNAポリメラーゼは,短鎖反復DNAを,たとえば(TA)n,(TG)n,(CAG)n,(TAGG)n,(TTAGGG)n,(TACATGTA)n,(AGATATCT)nなどの長鎖反復DNAへ伸長することが知られている.また,テロメラーゼは鋳型RNAに相補的な反復DNA(TTAGGG)nを逆転写的に合成することが報告されている.そして,細菌や真核生物を含む現存生物のゲノムDNA中には,たとえば(GT)n,(CAG)n,(GGAAT)n,(TTAGGC)nなどの反復DNAが多数存在している.これらの知見から筆者は,まず,オリゴリボヌクレオチドとオリゴペプチドが無生物的に合成され,それらの分子の中で逆転写活性を持つオリゴペプチドかまたはオリゴヌクレオチド (リボザイム) が反復オリゴリボヌクレオチドを鋳型として反復オリゴデオキシリボヌクレオチドを逆転写し,反復DNAを合成したのではないかと仮説をたてた.そして,この反復DNAが,DNAポリメラーゼ活性を持つ短鎖ペプチドまたはリボザイムにより,長鎖反復DNAに仲長し,ゲノムDNAの起源になったのではないかと考えた.筆者は,これらの考えを検証した上で,反復核酸の逆転写と伸長を元にしかゲノムDNAの起源のモデルを提唱する.