1989年1月、霧島リハビリテーションセンターに移籍してまもなく、重症心不全末期の高齢患者に遭遇した。当時、入浴は重症心不全患者にとって禁忌であったが、その患者は「死ぬ前に一度温泉に入りたい」という強い願望を持っていた。この願望を実現させたいと考え、まず健常者を対象に入浴中の心エコー図を記録し、入浴による心拍出量の増加を確認した。次に、入浴が心臓に与える負荷を検討するため、自動昇降式浴槽を用いて呼気ガスを測定し、入浴に伴う労作が軽微(0.3~ 0.4メッツ)であることを見出した。
これらの事実を確認した後、自動昇降式浴槽に霧島温泉の湯を入れて、患者の夢を実現することができた。患者の満足度は極めて大きく、涙を流して感激されたため、翌日から毎日自動昇降式浴槽を用いて温泉入浴を施行した。すると、心不全症状は1週間ごとに改善し、2ヶ月後には退院が可能となった。この予期せぬ臨床経過に驚き、重症心不全に対する入浴の治療効果について研究を開始した。
その結果、温水浴中は静水圧により静脈還流が増加し、心内圧が有意に上昇することが判明した。心不全治療としては問題があると確認し、静水圧の無い遠赤外線乾式サウナ室を設置して検討した。最終的に60℃・15分の遠赤外線乾式サウナ浴(肺動脈内の深部体温は1℃上昇)後に、30分間の安静保温を行い、最後に発汗量に見合う水分を補給する治療マニュアルを作成した。この治療マニュアルは後に「和温療法」と命名された1)。
和温療法施行のため、遠赤外線乾式サウナ室内の温度を均等に60℃に設定する小型和温療法器と大型和温療法室を開発した。治療器(室)のドアには点滴用のラインを通す小孔を作成し、持続点滴中の重症心不全患者も和温療法を施行できるようにした。
臨床研究および基礎研究を重ねた結果、和温療法は全身の血管内皮から NO(一酸化窒素)を著明に発現し、血管内皮機能を改善し、心臓の前負荷・後負荷を軽減し、心拍出量を増加させ、全身の血流を促進することを明らかにした2), 3)。和温療法は自律神経機能の改善、神経体液性因子の是正、抗酸化作用、血管新生作用、心身のリラクゼーション、免疫能の賦活作用など多彩な効果を発揮することが証明された。重症心不全が著明に改善した症例も多く、その中には心臓移植の適応例や点滴の離脱ができず退院できない重症心不全例も含まれていた。これらの症例に和温療法を継続すると臨床症状は著明に改善し、自宅へ退院できた。
心不全に対する和温療法の有効性を明らかにするために2回の多施設前向き比較臨床試験を施行した4), 5)。また海外からはシステミックレビュー・メタ解析も二つ報告された6), 7)。
開発から30年の歳月を経て、2020年4月に心不全に対する和温療法は新規保険収載され、心不全の標準治療として承認された。和温療法は日本で開発され、新規保険収載された数少ない治療法の一つであり、その意義は大きい。年々増加する高齢者心不全や高齢者下肢虚血の福音となる治療法である。心不全や下肢虚血だけでなく様々な難治性疾患に対しても和温療法は効果を発揮することが確認されている。和温療法の特徴は、薬を用いず、痛みを伴わず、気持ち良い発汗をもたらす、安全で副作用の無い治療であり、医療効率が良いことである。
今後の普及を願い2022年5月に和温療法学会を設立し、同年11月に第1回学術集会を開催した。和温療法の発展に本学会が貢献することを願って止まない。この学会を通じて和温療法の知見が共有され、普及と発展が促進されることを期待したい。
心不全患者の同意を得た上で、右頸静脈から Swan-Ganz カテーテルを挿入し、自動昇降式浴槽を用いて入浴前、入浴中、入浴後の心エコー図、心内圧曲線および呼気ガスの同時記録を行った(図1A)。温水浴中の深部体温は Swan-Ganz カテーテルを肺動脈内に挿入して測定した。入浴温度および入浴時間のプロトコールは、深部体温、自覚症状、血行動態の様々な組み合わせで検討した結果、最終的に41℃で10分間の温水浴と浴後30分の安静保温と定めた。41℃で10分間の入浴により、深部体温は平均1.0℃上昇し、1℃の体温上昇は患者に負担を与えずに心地良い発汗をもたらすことを確認した8)。

A.自動昇降式浴槽を用いて慢性心不全の入浴中の心エコー図・心内圧・呼気ガスの同時記録 B.温水浴 前・中・後の心内圧の変化
しかし、温水浴中は静水圧によって心臓への静脈還流が増加し、平均右房圧、平均肺動脈楔入圧、平均肺動脈圧は有意に上昇するため、心不全患者には注意が必要である。しかし、浴槽を下降させて出浴させた後、背臥位にて30分間毛布で体を覆って安静保温すると、心内圧は入浴前に比べて有意に低下した(図1B)。これは深部体温の上昇により全身の動脈・静脈が拡張することを示唆している。ただし、温水浴中は心臓への負荷が増加するため、重症心不全患者への温水浴は禁忌とする従来の考え方には一定の根拠があることが理解される。
静水圧の影響を避けるため、遠赤外線乾式サウナ室を設計し、その側面と頭側には心内圧(Swan-Ganz カテーテルによる)、心エコー図、呼気ガスの測定を可能にする窓を取り付けた。サウナ室内の壁側に設置された移動可能なベッドにて、遠赤外線乾式サウナ浴中の心エコー図、呼気ガス、心内圧(平均右房圧・平均肺動脈楔入圧・平均肺動脈圧)の同時記録を行った(図2A)。サウナ室内のベッド上での温度とサウナ浴時間は、深部体温の1.0℃上昇を基準に、様々な組み合わせを検討した結果、60℃で15分間の乾式サウナ浴と浴後30分の安静保温を治療マニュアル(後に和温療法と命名)として採用した1)。乾式サウナ浴中(60℃・15分)の心内圧はサウナ入浴前に比べて有意に低下し、出浴後30分の安静保温ではさらに低下した。すなわち心臓への負荷が乾式サウナ浴中から有意に低下することを証明した(図2B)。

A.慢性心不全の乾式遠赤外線サウナ浴中の心エコー図・心内圧・呼気ガスの同時記録 B.乾式サウナ浴 前・中・後の心内圧の変化
乾式サウナ浴中(60℃・15分)の酸素消費量の増加は軽微(0.3~0.4メッツ)であり、慢性心不全患者の肺動脈楔入圧および全身の血管抵抗は著明に低下し、心臓への前負荷・後負荷は減少し、心拍出量は有意に増加した(図3)8)。

慢性心不全に対する和温療法の急性効果 (N=32)
心臓に及ぼす乾式サウナ浴の影響をさらに詳細に検討するために、拡張型心筋症の9例に Swan-Ganz カテーテルと Webstar カテーテルを挿入し、乾式サウナ浴(60℃・15分)が心拍出量、冠静脈血流、冠血管抵抗、心筋酸素消費量に及ぼす急性変化を検討した。その結果、心拍出量、冠静脈血流、心筋酸素消費量の有意な増加、および冠血管抵抗の有意な低下を示した(図4)9)。

心拍出量、冠静脈血流、冠血管抵抗、心筋酸素消費量に及ぼす和温療法の急性効果(DCM 9例)
図5は53歳の女性で拡張型心筋症の例を示しており、図8A は17年後の同一例である。この患者は難治性心不全(Stage D)のため2年間入院していた。乾式サウナ浴前とサウナ浴中(60℃・15分~20分)の心エコー図とパルスドプラーエコー図を示している。

53歳/ 女性、拡張型心筋症、重症心不全 和温療法前および和温療法直後の僧帽弁逆流、大動脈駆出血流波形、僧帽弁流入血流波形の変化
サウナ浴前に見られた高度の僧帽弁逆流(MR)は、拡張型心筋症に伴う機能性 MR である。驚くべきことに、乾式サウナ浴中(60℃・15分~20分)に MR は消失し、劇的な変化が観察された。これは血管拡張による心臓への後負荷減少に基づくものである。サウナ浴後、MR は時間の経過とともに再び出現した。
サウナ浴前の駆出血流速度波形は、駆出時間および血流速度が有意に小さく、一回拍出量の低下および左室収縮能の低下(左室収縮不全)を示した。しかし、乾式サウナ浴中(60℃・15分~20分)では、サウナ浴前に比べて駆出時間および血流速度がともに有意に増加し、一回拍出量の増加および左室収縮不全の改善を示した。
一方、サウナ浴前の僧帽弁流入血流速度波形は、拡張早期の R 波が増高し、僧帽弁流入血流の後退速度が急峻で、拘束型波型(Restriction Pattern)を示していた。これは左室流入障害(左室拡張不全)の状態を反映している。しかし、乾式サウナ浴中(60℃・15分~20分)には、僧帽弁流入血流の R 波は減少し、拡張期後退速度が緩やかになり、拘束型波型(Restriction Pattern)は消失した。すなわち60℃・15分~20分の乾式サウナ浴によって左室収縮能および左室拡張能が有意に改善した。
2. 心機能(収縮能・拡張能)の慢性効果図6は57歳の男性で拡張型心筋症の例を示しており、和温療法20回施行前後の心エコー図である。図6A は和温療法前の心エコー図を示している。この患者は薬物治療のみでは心不全症状をコントロールできず、高度の僧帽弁逆流(MR)があり、血漿 BNP は2060pg/ml と高値を示していた。僧帽弁流入血流速度波形は典型的な拘束型(Restriction Pattern)を示していた。図6B は和温療法を20回施行後の心エコー図を示しており、高度 MR は著明に減少している。自覚症状は著明に軽減し、血漿 BNP は424pg/ml に低下した。僧帽弁流入血流速度波形の Restriction Pattern も消失していた。すなわち、和温療法の20回施行後に左室収縮能および拡張能は著明に改善した。
図7は77歳の女性で拡張型心筋症の例を示しており、薬物治療抵抗性の難治性重症心不全(NYHA IV 度)であった。高度の僧帽弁逆流(MR)および高度の三尖弁逆流(TR)があり、血漿 BNP は 1,800pg/ml であった。和温療法を30回施行後には、高度 MR および高度 TR はいずれも著明に減少し、血漿 BNP は520pg/ml に低下し、軽症心不全(NYHA II 度)に改善した。左室駆出率および僧帽弁流入血流速度波形も明瞭に改善した。

57歳/ 男性、拡張型心筋症 和温療法後の心エコー・ドプラー図の変化 20回の和温療法後に、高度僧帽弁逆流は著明に減少し僧帽弁流入血流の拘束パターンは消失している

77歳 / 女性、拡張型心筋症、治療抵抗性の高度僧帽弁逆流(MR)と高度三尖弁逆流 (TR) の変化。和温療法の30回施行後に高度 MR および高度 TR いずれも著明に減少し、血漿 BNPも著明に低下している
和温療法の継続により重症心不全が著明に回復 した症例を多数経験しているが、その中でも和温療法の長期継続で予後が著明に改善した難治性心不全(Stage D)の2例の経過をここで呈示する。いずれも現在であれば心臓移植の適応基準を満たす症例だったが、和温療法を開始したのは1990~ 1991年であり、当時は心臓移植がまだ再開されていない時期だった。
図8A は70歳の女性、拡張型心筋症の患者で、図5の症例と同一人物である。和温療法を開始して17年後の外来時の写真で、元気で笑顔が見られる(NYHA I 度)。和温療法を開始する前の2年間は入院しており、一度退院したが1ヶ月以内に心不全が再燃し再入院した。53歳の時に霧島リハビリセンターに転院し和温療法を開始すると、心不全症状は驚くほど軽減し、60回の施行後に自宅へ退院できた。退院後も週1~2回の外来を受診しながら17年間自宅で生活された。その後も6年間和温療法を継続しながら自宅で過ごされた。Stage D 心不全だった53歳の時から76歳まで23年間自宅で日常生活を送られた。

A.拡張型心筋症 女性70歳、重症心不全 図5の症例と同一で17年後の写真。NYHA I 度、笑顔が見られる B.虚血性心筋症 男性76歳、重症心不全 60℃・15分のサウナ浴を週4~5回17年間継続。元気溌剌な笑顔が見られる
図8B の症例は76歳の男性、虚血性心筋症。59歳の時に心筋梗塞を2回発症し(前壁および下壁)、 2回目の梗塞後に重症心不全となり薬物治療でコントロール不能となった。左室駆出率は10%未満で、余命1ヶ月以内と診断されたが、霧島リハビリセンターに転院し和温療法を開始した。和温療法の継続で心不全症状は驚くほど改善し、50回施行後に自宅へ退院できた。退院後は自宅に設置した遠赤外線サウナ室で週4~5回、60℃・15分の乾式サウナ浴を継続し、その後17年間再入院することなく自宅で日常生活を送られた(NYHA I 度)。外来受診時に定期的に心エコー図を記録し心機能を評価したが、左室駆出率は常に10%未満で特に変化は見られなかった。しかし、顔色や表情は年々若返り、外見からは左室駆出率が10% 未満の心不全とはとても思えなかった。笑顔がこぼれている様子が図8B に示されている。
残念ながら、最後の外来受診から1ヶ月後に脳卒中を発症し、患者は亡くなられた。図9は、最後の外来受診時の心長軸断層心エコー図(図9A)と、1cm 幅の心長軸断面の剖検心(図9B)を対比している。断層心エコー図では、左室心筋が心室中隔基部と左室後壁基部に限局しており、左室の大半は巨大心室瘤で、左室駆出率は10% 未満であった。1cm 幅の心長軸断面の剖検心では、心筋が心室中隔基部と左室後壁基部に限局し、心筋の4/ 5は1~2mm の厚さで石灰化し、収縮や拡張ができない状態を示していた。剖検所見は、断層心エコー図で測定された左室駆出率10% 未満と一致している。患者がこのような心臓状態で17年間も通常の生活を自宅で送っていたことを説明することは困難であるが事実である。

A.図8B の写真を撮影した外来時の断層心エコー図 心筋は心室中隔の基部と左室後壁の基部にみられるのみ B.剖検心:1cm 幅の心長軸割面 心筋は心室中隔基部と左室後壁基部にみられるのみ。残りの壁厚は1~2㎜で石灰しており収縮も拡張もできない状態。断層心エコー図の所見に一致する
現代の医療において、難治性心不全(Stage D)に対する薬物療法は限界に直面している。若年層で合併症がなければ、心臓移植や左室補助装置(LVAD)が適応されるが、65歳以上の高齢者には適応はない。高齢者 Stage D 心不全患者に残された選択肢は、緩和ケアによる待機的治療のみである。超高齢社会を迎えている日本では、高齢者心不全患者の数は今後ますます増加すると予測され、それに伴い Stage D 心不全患者も増えることが見込まれる。
和温療法は薬を使用せず、非侵襲的で副作用がなく、安全な治療法である。さらに、心地よい発汗とリラクゼーション効果をもたらすため、高齢者心不全患者にとっての SDGs(持続可能な開発目標)に相応しいと考えられる。和温療法は高齢者 Stage D 心不全患者の治療戦略としての可能性を秘めている。
4. 高齢者 Stage D 心不全者に和温療法で退院できた血漿 BNP の変化(図10)
Stage D 心不全患者に和温療法を施行して自宅へ退院できた症例の血漿 BNP の変化
重症心不全のためカテコールアミン点滴治療を開始したが、中止できずに和温療法を追加することで自宅退院が可能となった11例である。治療開始前の血漿 BNP 値は全例で1,500pg/ml を超え、平均は2,103±413pg/ml だった。和温療法を平均46回(範囲:20回~90回)施行後に全員の退院が実現し、退院時の血漿 BNP の平均値は536±227pg/ml に低下していた。和温療法の効果を最大限に引き出すためにはある程度の治療回数が必要であり、効果を維持するためには退院後も週に1~2回の治療の継続が望まれる。
5. 心不全に対する長期予後の改善(図11) A. 小動物を用いた前向き検討(図11A)
A.心不全モデルハムスターの生命予後に対する和温療法の効果(前向き比較研究) B.心不全患者の生命予後に対する和温療法の効果(後ろ向き究)
心不全モデルのハムスターを用いた研究で、和温療法を1日1回施行した群(n=30)と非施行群(n=30)の生存率を比較した。和温療法を受けた群では、非施行群に比べて生存期間が平均35% 延長した10)。
B. 臨床的検討(図11B)心不全患者を対象に、薬物療法に和温療法を週 2回追加施行した群(64例)と薬物療法のみを行ったコントロール群(65例)について、年齢、性別、病因、重症度をマッチさせ、5年間にわたる臨床経過を後ろ向きに比較した11)。1年後から和温療法群の死亡または再入院率はコントロール群に比べて有意に低く、その有意差は継続した。5年後の死亡または再入院率は、コントロール群(68.7%)に比べて和温療法群(31.3%)で半分以下に低下した。
V. 和温療法の効果発現の機序 1. 臨床的検討超音波検査法を使用し、血流依存性血管拡張反応(% FMD)によって血管内皮機能を測定した。初めに、生活習慣病群(冠危険因子群)に属する患者の血管内皮機能が低下していることを確認し、2週間(合計10回)の和温療法によって血管内皮機能が有意に改善することを明らかにした12)(図12A)。その後、血管内皮機能が低下している慢性心不全患者に対して、1日1回、2週間(合計10回)の和温療法を施行し、治療前と比べて治療後の血管内皮機能が有意に改善することを示した13)(図12B)。

A.生活習慣病の血管内皮機能の改善 B.慢性心不全の血管内皮機能の改善
a)心不全モデルハムスターを用いた検討(図13) RT-PCR 法により心不全モデルハムスターの eNOS mRNA の発現を検討した14)。このハムスターは生後30週で心不全を発症し、48週以内に死亡する運命のハムスターである。30週から34週にかけて心不全が進行し、eNOS mRNA の発現は30週時に比べて有意に低下する。しかし、30週から4週間毎日和温療法を施行すると、34週時の eNOS mRNA の発現は30週時に比べて有意に増加することが示された(図13A)。これは和温療法が血管内皮機能の改善に寄与することを示唆する結果である。さらに、ウェスタンブロッティング法によって eNOS 蛋白の発現を測定した結果、和温療法を施行しない群に比べて施行群で eNOS 蛋白が有意に増加することを明らかにした(図13B)。

A.心不全モデルハムスターにおける eNOS-mRNA の発現(RT-PCR) 和温療法非施行群のeNOS-mRNA の発現は生後30週に比べて34週後に低下している。一方、和温療法施行群のeNOS-mRNA の発現は著明に増加して、生後30週よりも増加している B.心不全モデルハムスターにおける eNOS 蛋白の発現 4週間の和温療法施行後に eNOS 蛋白は非施行群よりも有意に増加している
b)ApoE ノックアウトマウスを用いた検討(図14)

動脈硬化モデルマウスの虚血下肢におけるeNOS蛋白の発現 和温療法5週後(1日1回)に虚血下肢に eNOS蛋白の著明な発現がみられる。
ApoE ノックアウトマウスの大腿動脈の片側を結紮し(虚血肢)、反対側を非虚血肢として、1日1回、5週間の和温療法を施行し、eNOS 蛋白の発現をウェスタンブロッティング法で測定した15)。eNOS 蛋白の発現は、コントロール群(非和温療法群)に比べて和温療法群で非虚血肢および虚血肢の両方で有意に亢進した。特に虚血肢での eNOS 蛋白の発現は顕著であり、和温療法が下肢虚血の血流改善に有効であることを示唆している。さらに、和温療法が HSP90の発現を増強し、Akt/ eNOS/NO 経路を活性化させ、血管新生を誘導して虚血を改善することも明らかにされている16)。
前述したように和温療法は血管内皮から NO を著明に発現し血管内皮機能(%FMD)を改善する。 20回の和温療法で心不全の自覚症状は著明に改善、左室駆出率は有意に増加,心拡大は有意に減少することを確認した。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)および脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は有意に低下し、血管内皮機能(%FMD)は有意に改善し血管拡張作用は亢進した13)。
2. 自律神経活性の是正心不全症状の安定した慢性心不全例において、薬物療法のみを継続した群では2週間後および4週間後に自律神経活性に有意な変化は認めなかった。しかし、薬物療法に和温療法を1日1回、週 5回、2週間追加した群では、副交感神経活性は有意に亢進し交感神経活性は有意に低下した。和温療法4週間の20回施行後に副交感神経活性はさらに亢進し交感神経活性はさらに低下した17)。
3. 不整脈に対する効果薬物療法で症状の安定した慢性心不全の心室性期外収縮に対する和温療法の効果をホルター心電図で前向きに比較検討した結果、コントロール群(薬物治療のみ)では期外収縮の回数は有意に変化しなかったが、薬物療法に和温療法を10回追加した群で期外収縮の著明な減少を認めた18)。
4. 酸化ストレスに対する効果酸化ストレスマーカーは健常者に比べて心不全患者で有意に増加した。薬物療法群と、和温療法群(薬物療法+和温療法)で酸化ストレスを比較すると、薬物療法のみの群では4週間後も有意な低下を認めなかった。一方、和温療法群では週5回、4週間20回施行後に酸化ストレスマーカーは有意に低下した。この時、血漿 BNP は薬物療法のみの群で有意な低下を認めなかったが、和温療法群では有意に低下した19)。
5. 神経体液性因子の改善(表2)表2はこれまで報告した和温療法の臨床研究の 6論文から血漿 BNP の変化をまとめものである。薬物療法に和温療法を追加した和温療法群の血漿 BNP は、薬物療法のみのコントロール群に比べて、 10回の和温療法および20回の和温療法後にいずれも有意に低下した。15回の和温療法前後はコントロール群がないので比較できないが、15回の和温療法後には有意に低下した。
6. 血管新生作用マウスを用いた実験で1日1 回、5週間( 計 35回)の和温療法を施行した群の毛細血管数はコントロール群に比べて有意に増加し、血管密度は有意に上昇した。eNOS の合成阻害剤である L-NAME を事前に投与しておくと毛細血管数の増加は見られなかった。和温療法は Hsp90の発現を増強して eNOS を活性化し血管新生に関与することも前述した通りである16)。
7. 心身のリラクゼーション効果心地よい発汗をもたらす和温療法は心身をリラックスさせ、顔色・気分・食欲・睡眠を改善する。和温療法群(1日1回、2週間、10回施行)はコントロール群に比べて、リラックススコア、空腹スコア、食欲を亢進させる血漿グレリン濃度はいずれも有意に増加し、1日の摂取カロリーは有意に増加した20)。

慢性心不全に対する前向き多施設比較試験(全国 10施設)
全国10施設が参加して実施した4)。和温療法を10回(1日1回、2週間)施行すると,コントロール群(薬物療法のみ)に比べて和温療法群(薬物療法+和温療法)で臨床症状は有意に改善し、血漿 BNP は有意に低下した。また心胸郭比、左室拡張末期径、左房径は有意に縮小し、左室駆出率は有意に増加した。この多施設比較試験で和温療法の安全性と有効性を確認した。
2. 多施設前向き無作為比較臨床試験(図16)
慢性心不全に対する和温療法(10回)の多施設前向き無作為比較臨床試験(全国19施設)
日本心臓財団と東大TRセンターの支援を受けて全国19施設が参加して、重症心不全に対する安全性と有効性を検討した5)。薬物療法単独群に比べて薬物療法に和温療法を10回上乗せした和温療法群で、自覚症状、6分間歩行、心胸郭比はコントロール群に比べて有意に改善した。安全性も再確認された。
3. 多施設前向き無作為比較臨床試験のサブ解析Mayo Clinic でサブ解析を施行した結果、和温療法群の血漿 BNP は ACE 阻害薬 or ARB の使用群において非和温療法群よりも有意に低下した。糖尿病や高血圧の合併例 or 強心薬を投与中の心不全では、和温療法群で血漿アルドステロンの値が有意に低下した。また腎機能低下のある心不全例では、和温療法群で血漿 CNP が有意に低下した。
以上の結果から血管内皮機能障害を有する心不全において、和温療法の効果はより大きいことが示された21)。
補足:Mayo Clinic におけるクロスオーバー試験
Mayo Clinic に大型遠赤外線サウナ治療室を設置し、NYHA III 度の慢性心不全患者に週3回、3週間(薬物療法+和温療法)の施行を行った後、次の3週間で和温療法群とコントロール群(薬物療法のみ)の治療をクロスオーバーさせて比較した。つまり、和温療法群はコントロール群へ、コントロール群は和温療法群へと変更した。このクロスオーバー試験の結果、和温療法の安全性と有効性が確認された22)。
二つの海外の研究グループがサウナに関するシステマティックレビューとメタ分析を報告している。一つは南米ブラジルの研究グループ6)で、もう一つは北欧スウェーデンの研究グループ7)である。これらのグループはそれぞれ、心不全に関連するサウナを用いた研究を調査し、適格な基準を満たす論文を抽出してシステマティックレビューとメタ分析を行った。その結果、和温療法は心不全における血漿 BNP、血漿 ANP、左室駆出率、心胸郭比(CTR)を有意に改善することが明らかにされた。
ASO は心不全と同様に高齢化社会で増加している疾患であり、運動可能な ASO 患者には運動療法によって耐用能(歩行距離)の増加が見られる。しかし、Fontain 分類 III ~ IV 度の ASO 患者には運動療法の実施は困難である。和温療法はこれらの患者にも容易に施行でき、有効性を示す。図17は ASO の連続20例(Fountain 分類 II 度10例、III度4例、IV 度6例)に対して和温療法を1日1回、週5回、10週間、合計50回施行した結果を示しており、疼痛、足関節 / 上腕血圧比(ABI)、6分間歩行距離、下肢血流量はいづれも有意に改善したことを示している(図17)23)。

閉塞性動脈硬化症に対する和温療法10週後(50回施行)の効果
また、コントロール群(薬物療法のみ10例)と、薬物療法に和温療法を追加した和温療法群(11例)との比較では、和温療法施行6週間後(和温療法 30回後)において、下肢疼痛、ABI、6分間歩行距離、血管内皮前駆細胞のマーカーである CD34の mRNA 発現量がコントロール群に比べて有意に増加した(図18)24)。

閉塞性動脈硬化症前向き無作為比較試験(和温療法6週間 :30回)
これら2つの臨床研究において、和温療法による有害事象は1例も観察されず、和温療法が重症下肢虚血の患者にも安全に施行できることが確認された。和温療法により長期予後の著明な改善を示した重症下肢虚血の1例(図19)

閉塞性動脈硬化症の重症例に対する和温療法の効果
本症例は64歳の男性で、糖尿病を有する既往歴がある。間欠性跛行の症状が1年間続いた後、安静時の疼痛が現れ、さらに足指に潰瘍が生じたため入院した。左右の大腿動脈および膝下動脈にバイパス手術を施行したが、足指の潰瘍は進行し、右第1, 2, 3, 4足指および左第3, 4足指の切断を余儀なくされた。切断後も疼痛は継続し、右第1足指の切断部位に生じた潰瘍が次第に悪化し、右下肢の切断を勧められたが、患者はこれを拒否し、和温療法を受けるため関東から転院した。
転院時には安静時疼痛があり、右第1足指の切断部位の潰瘍(図19A)は深刻で、右下肢の足関節 / 上腕血圧比(ABI)は測定不能、左下肢の ABIは0.81だった。和温療法の開始とともに疼痛は徐々に軽減し、3週間後(和温療法15回施行後)には安静時疼痛は消失し、5週間後に潰瘍は明らかに縮小した(図19B)。10週間後には潰瘍がほぼ消失(図19C)し、15週間後には完全に治癒(図19D)して退院した。退院後も鹿児島に滞在し、週2回の和温療法を外来で継続した結果、潰瘍の再発は全く見られず、8年経過後も症状の悪化は全く見られなかった。
和温療法は血管機能を改善し、血管新生を促進することで、難治性 ASO に対する革新的な治療法であることを示唆する。
和温療法は、治療法に求められる安全性、有効性、費用対効果、非侵襲性という4つの重要な要件を全て満たす革新的な治療法である。これまでにも様々な難治性疾患に対してその効果が確認されており、多岐にわたる臨床応用の可能性が示唆されている(表1)。しかし、現在和温療法が保険適用されているのは重症心不全のみであり、さらに低い保険点数が和温療法の導入・普及を妨げている実情がある。
このような状況で和温療法を普及するために、包括的リハビリテーションの枠組みの中で和温療法を適切に導入することが求められる。運動療法はリハビリテーションの基本的なアプローチであるが、特に Stage D の重症心不全患者には適用が困難である。心不全治療では「生存期間の延長」と「生活の質(QOL)の改善」が主要な目標であるが、包括的リハビリテーションはこれらの目標達成に不可欠である。運動療法が可能な心不全患者には運動療法を、運動療法の実施が困難またはリスクを伴う重症患者には和温療法から開始し、運動可能な状況に応じて運動療法へ移行、あるいは両方を組み合わせることが望ましいと考えられる。また、カテコールアミン点滴静注を依存する重症心不全患者(Stage D)に運動療法の適応はないが、前述したように和温療法を導入することで、カテコールアミン点滴を離脱して自宅への退院を促進できた症例も多数報告されている。
リハビリ認定施設や回復期リハビリ病棟に和温療法器を設置することで、運動が困難な心不全患者、下肢虚血患者、術後回復期の患者などの治療に有効活用できて、自宅への早期退院を促進する可能性がある。和温療法は1回の施行に60分~70分を要するので、3単位のリハビリ点数を得ることができる。
2. 高齢者医療への応用「人は血管とともに老いる」と言われるように、加齢とともに動脈硬化は進行する。これが老衰、虚弱、脆弱(フレイル)の増加につながり、これらは超高齢社会では避けられない問題である。フレイルが進行すると歩行が困難となり、日常生活動作の低下につながる。これにより食欲は減少し、栄養状態が悪化し、体重の減少が見られる。これらの結果、筋肉量の低下(サルコペニア)が発生し、基礎代謝が低下する。消費カロリーはさらに低下し、食欲の低下は進行し、フレイルの悪循環が止まらない。
和温療法はこのフレイルの悪循環を断ち切る上で極めて有用と思われる。和温療法により全身の 血管から血管拡張物質の NO が産生され、抗動脈硬化作用を発揮し、全身の循環血流を促進する。そして、心地よい発汗をもたらし、顔色を良くして気分を爽快にする。さらに胃から食欲亢進物質のグレリンを分泌し、食欲を改善し睡眠も改善する。高齢者が元気で長生きするためには血管の若返りが重要である。血管の若返りは、人生の若返りである。病気の回復には血流を促進し、全身の組織に酸素と栄養を供給し、代謝を亢進することが重要である。全身の血管内皮機能を改善し、毛細血管の新生を増強する和温療法の意義は大きい。特に運動困難な高齢者の血管内皮機能の改善に有用である。和温療法の活用は急性期病院から回復期病院への転院を促進し、さらに自宅への退院を促進する。
脳動脈硬化は脳機能の低下をもたらし、認知機能低下を進行させる。認知症の予防や進行の抑制には脳血流の促進が重要である。和温療法は高齢者の心拍出量を増加させて脳血流を促進する安全な方法であり、脳機能の改善や認知症の進行抑制に有用と考えられる。特に軽度認知機能低下(MCI)の治療や進行抑制に和温療法の活用が期待される。
緩和ケアを必要とする症例は年々増加しているが、治療方法は限られている。安全で心地よい発汗をもたらし、気分を爽快にする和温療法は、緩和ケアの患者に福音をもたらす可能性がある。医療効率にも優れているため、和温療法の活用は大いに期待される。
3. 在宅加療 / 遠隔指導への活用超高齢社会を迎える中、高齢者心不全や下肢虚血の症例は急速に増加している。多くの高齢者は、可能な限り自宅で過ごすことを望んでいる。患者宅に和温療法器を設置し、遠隔指導により和温療法を実施することで、QOL の向上と予後の改善に貢献することができる。その結果、再入院数の減少、医療費の削減が見込まれる。
4. 新規保険収載の適応拡大和温療法は多彩な臨床応用を持つ(図20)。これらの疾患の多くは標準治療に治療抵抗性を示しており、和温療法はこれらの疾患に顕著な効果を示すことがこれまで確認されている。RCT を実施し、エビデンスを得て保険適応の拡大が望まれる。CFS/ME(慢性疲労症候群 / 筋痛性脳脊髄炎)25), 26), 27)、線維筋痛症・慢性疼痛28), 29)、シェーグレン症候群30)、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症、パーキンソン病、微小血管狭心症、術後イレウス、更年期障害や冷え性などの難治性疾患に対しても、和温療法が顕著な効果を発揮することが確認されている。これらの疾患を保険収載するためには RCT が必要であり、各分野の専門家と協力して積極的に取り組む必要がある。

和温療法の多彩な臨床応用
非薬物的かつ非侵襲的でありながら、安全かつ医療効率に優れた和温療法は、幅広い疾患に対して、人種を超えて効果を発揮する可能性を秘めている。難治性疾患の増加は、先進国だけでなく発展途上国においても年々顕著であり、これらの国々も高齢社会へと移行するのは避けられない。患者に福音をもたらす可能性のある、簡便な和温療法を世界中に普及させることの意義は非常に大きい。
これまでの研究にあたり、恩師である田中信行先生をはじめ、多くの施設の先生方及び医療スタッフの皆様から多大なご支援とご協力を賜りました。特に、霧島リハビリテーションセンター、南風病院、鹿児島大学第一内科、メーヨクリニック心臓部門およびリハビリテーションセンター、獨協医科大学心臓血管内科の先生方及び医療スタッフの皆様には、深甚なる感謝の意を表します。