2025 年 3 巻 p. 10-16
治療法がなく遷延化・難治化している慢性疲労症候群 / 筋痛性脳脊髄炎と慢性疼痛の症例に対して、和温療法を実施したところ良好な治療成績が得られている。そこで、これまで20年余りの当院での治療成績について紹介したい。今後も心療内科領域では、種々の身体症状を抱えたうつ病や不登校の子どもなど応用領域は広がると思われる。さらに現在問題となっている COVID-19ウイルス感染症の後遺症の治療にも応用できる可能性が高い。
We achieved favorable treatment results by applying Waon therapy to chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis and chronic pain that had become protracted and in-tractable due to the lack of treatment methods. We would like to introduce the treatment results achieved at our hospital over the past 20 years.
In the future, I believe that the application of warm therapy will expand to the depression with various physical symptoms and children who refuse to go to school in the field of psy-chosomatic medicine. Furthermore, it is highly likely that it can be applied to the treatment of sequelae of COVID-19 virus infection.
患者の主訴で頻度が多いのは痛みと疲労である。心療内科の外来には、器質的所見以上の痛みや疲労を訴え、他科で治療受けるも改善が見られず紹介されてくるケースが多い。罹病期間が長く難治化しており、さらにこれ以上の治療法がないと言われて精神的にも不安定になっている例がほとんどである。
その中で原因不明の持続する強い疲労によって社会生活や家庭・学校生活が障害される慢性疲労症候群 / 筋痛性脳脊髄炎(Chronic Fatigue Syn-drome/Myalgic Encephalomyelitis: CFS/ME)と強い痛みを訴え日常生活に支障が出ている慢性疼痛(Chronic Pain)は、心療内科の分野でも治療が難しい疾患である。
そこで、我々は20年前からこの2つの疾患に鄭によって開発された遠赤外線乾式サウナを用いた和温療法を実施し1)、効果があることを報告してきた2),3),4)。ここでは、具体的な実施方法とその効果について詳述した。
和温療法は、室内が60℃に設定された遠赤外線乾式サウナ室(大型和温療法室では仰臥位、小型和温療法室では坐位)で15分間入浴し、出浴後にリクライニングベッドで30分間全身を毛布で包み安静保温を行う。設定温度や入浴時間は症例に応じて変更・短縮することも可能である。
和温療法の基本は気持ちよく入浴し、心地よい発汗をもたらすことである。
安全に実施するため初回の実施前には必ず理学的所見、心電図検査を実施し循環器系の評価をし、さらに感染症や炎症の有無を確認する。また、実施前後に毎回、問診、体重測定、血圧、脈拍をチェックする。実施後には脱水予防のため発汗に伴う体重減少分の水分補給を行う。
1984年アメリカのネバダ州で激しい倦怠感と全身の痛み、思考力低下、睡眠異常などを訴える集団発生が報告された。1988年アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Pre-vention;CDC)は病因ウイルスの調査を行ったが特定できなかった。そこで CDC は慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome; CFS)と名付けて診断基準を発表した。イギリスではそれ以前、ウイルス感染症を契機に全身の筋肉痛や倦怠感を主な徴候とする病態を筋痛性脳脊髄炎(Myalgic En-cephalomyelitis;ME)と命名した。ME とは、ウイルス感染に基づく脳神経系の炎症を想定し、全身の筋肉痛を主症状としていることより名づけられた診断名である。2011年には、国際的に ME 診断基準が発表され、最近では CFS / ME としてとり上げている報告が多い。
症状は、原因不明の激しい倦怠感に襲われ、微熱や頭痛、筋肉痛、関節痛や睡眠障害(不眠、過眠)、集中力や思考力の低下、抑うつ気分など多彩な症状が長期に続き、社会生活や家庭・学校生活が障害される。
原因としてウイルス感染説、内分泌異常説、免疫異常説、代謝異常説、ストレス・自律神経失調症説など言われているが、最近は脳内の神経炎症説が有力となっている。
確立された治療法はなく、効果があると報告されているのは段階的運動療法と認知行動療法がある。段階的運動療法は、軽症から中等症の自力で歩ける患者には適応できるが、重症の寝たきり患者には難しい。認知行動療法は、治療技法が専門的であり専門外の医師が行うには難易度が高い。また、心理的介入に拒否感のある患者も存在する。これらの治療法に比べ、和温療法は重症で運動が困難な患者でも安全に手軽に実施できる。また、体全身を包み込む温かくて優しい感覚を体験できるため多くの患者に適応できる利点がある。
2) 和温療法を初めて実施した症例5)26歳女性で受診3年前に扁桃腺炎に罹患してから全身倦怠感や微熱、リンパ節腫脹、筋肉痛、睡眠障害が続いた。近医で膠原病は否定されたが、症状が持続し日常生活にも支障が出てきたため確定診断がつかないままステロイド(PSL)が投与された。それで症状は軽減したが、PSL を減量すると再び症状が出現することを3年間繰り返していた。
受診時は PSL 5mg/ 日内服していたが入院後中止し、和温療法を1日1回、計30回実施した。PSLを中止後、下肢痛が増強して歩行も困難となったため鎮痛剤を使用したが、和温療法を20回実施後から痛みが軽減し、30回実施後には痛みは Visual Analog Scale(VAS; 0-10点)スケールで3/10まで改善し鎮痛剤を中止できた。また、体のだるさと微熱も20回実施後から改善した(図1)。そして退院半年後には仕事復帰を果たした。

和温療法実施後の CFS/ME 患者(26歳女性)の症状変化 和温療法10回実施後から徐々に疲労と痛みスコアが改善し、体温も下がった。
当クリニックで10年間に和温療法を20回以上実施した CFS/ME 患者78例(入院例 31例)についてその効果を調べた。効果判定は、疲労と痛みの主観的自覚症状は VAS により行い、客観的程度評価にはPerformance Status(PS; 0~9)を用いた(表1)。心身両面の客観的指標として Profile of Mood State(POMS)の質問紙を用いて、和温療法実施前後の疲労度、抑うつ、不安、活力、怒り、混乱を点数で評価した。
その結果、和温療法実施前後で PS が4.6±1.7から2.2±1.7と有意に改善した(表2)。そして、不安や疲労度、活力、精神的混乱の点数に改善が見られた。予後調査では学校や仕事、家庭に完全復帰できた例が43例(55%)、部分復帰できた例は16例(21%)、症状の改善がみられず日常生活に支障が出ている予後不良例が19例(24%)であった。予後不良例の中には、ほとんど寝たきり状態で障害年金をもらっている例が4例含まれている。和温療法で改善して社会復帰した24歳女性の治療終了後の感想を(表3)に示した。
和温療法実施後、PS と疲労度、不安・緊張、混乱のスコアが改善し、活力のスコアが向上した。
慢性疼痛(Chronic Pain)とは、a)痛みの程度が器質的所見を上回り、その痛みの発症や持続、悪化に心理・社会的要因が深く関与している。b)痛みは虚偽性障害や気分障害、不安障害、精神病性障害でうまく説明できない。このような痛みが6ヶ月以上続いている場合を言う。
慢性疼痛患者は、長期にわたる痛みで日常生活が制限または障害されている例が多く、二次的に不安やうつ状態が合併しているケースが多い。また、治療効果が得られず遷延化しているためイライラ感が強く怒りを抑圧し、精神的に混乱をきたしている例が多い。これらの症例の多くは仕事や職場でのストレス、家族や夫婦間の葛藤、小児期の心的外傷体験や家族からの愛情不足など自らの取り組みと努力で解決できない困難な問題を抱えている6)。そして、多施設を繰り返し受診するため治療期間が長引き、しかも痛みの改善が見られないため医療に対する不信感を持ち、医療従事者とトラブルを起こしやすい傾向がある。そのため治療は患者の身体的痛みだけでなく、患者の抱えている辛さ、苦しみから生じている心の痛みも受容したアプローチが求められる。
治療法として、体の痛みを軽減するため鎮痛剤の内服以外に神経ブロックや鍼、お灸など物理療法やマッサージ、リハビリテーションがある。心の痛みを軽減するための治療として、不安や不眠、うつ状態に対する薬物治療と受容的な心理カウンセリングも重要である。さらに環境調整や家族療法が必要なケースもある。痛みに対する受け止め方と対処法を変えることで痛み行動を減らしていく認知行動療法も効果が確認されている。
2. 和温療法が効果的であった難治性慢性疼痛症例症例は59歳の女性である。発狂しそうになる全身の痛みと希死念慮を訴えて受診。現病歴は X 年5月、花壇作業中にブロックが右手指に落下。8月右手指が発赤・腫脹して痛みが出て、9月になると指の動きが悪く包丁が使えなくなる。整形外科、脳外科受診するも問題は指摘されず、10月になり痛みが右肩~背中まで広がる。12月になり不安、不眠、気分の浮き沈みが出て精神科を受診し、薬を処方されたが改善みられず。その後も針で刺すような、焼けるような痛みが続き、ペインクリニックで神経ブロックを受けたが改善が見られないため、希望を失い希死念慮を訴えるようになり X+ 1年1月当院を紹介され受診。
鎮痛剤の内服は効果が見られず、入院して抗うつ剤と非定型向精神薬に和温療法を併用したところ痛みは徐々に改善し、VAS スコアで10点から2~3点に改善し退院した。POMS では、初診時にうつと疲労の点数が高く、活力が低かったが、治療3ヶ月後は活力の点数が上がり、うつと疲労の点数は低下した(図2)。約2年に及ぶ治療で痛みと精神症状は改善し、社会復帰を果たした。

和温療法実施後の慢性疼痛患者(59歳女性)の症状変化 抗うつ剤、非定型向精神薬の薬物療法に和温療法を併用したところ痛みが改善した。経過中に乳がんの手術を受け、一時治療を中断したところ再び痛みが増強した。そのため薬物治療と和温療法を開始し、痛みは改善した。15年経過した現在、痛みは改善して普通の日常生活を送っている。
慢性疼痛に和温療法の効果があることを確認できたので、症例数を増やして検討した。認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)とリハビリテーション、運動療法を実施した24例と、その3つにさらに和温療法を併用した22例(和温療法を週5回、計20回実施)の2群で治療経過と予後を検討した。
その結果、痛みの VAS スコアは両群とも有意に改善し、その改善幅については両群間に差はなかった(図3)。両群間に違いがみられたのは、怒りスコアであった。非和温療法群では怒りスコアに改善がみられなかったが、和温療法群では有意に改善した(図4)。慢性疼痛患者では怒りの抑圧が体の痛みに転換して出ているケースが多く、和温療法群ではリラクゼーション効果が加わり、怒りの感情がやわらぐことが明らかにされた。そして、治療に対する満足度では、非和温療法群の55% が満足で24% が不満と答えたが、和温療法群は82%が満足と答え、不満と答えた患者はいなかった(図5)。

和温療法実施前後の痛みスコア(VAS)の変化 和温療法併用群、非併用群とも痛みスコアは改善し、治療前後の改善度に有意差はなかった。

和温療法実施前後の怒りスコア(VAS)の変化 和温療法併用群、非併用群とも怒りスコアは改善し、治療前後の改善度では和温療法併用群が有意に改善した。

治療に対する満足度の比較 和温療法併用群は、治療に対する満足度が高く、不満を持つケースはいなかった。
CFS/ME と慢性疼痛に対する和温療法の効果発言機序について以下のことが推察される。
1.和温療法で用いている遠赤外線は、皮膚から効率よく吸収され体全体を暖める。和温療法では室温が一様に60℃になるように設定されており、 80℃以上のヨーロッパ式サウナと比べ熱刺激が少ない。このため温かく包み込まれるような快適さを体験でき、その結果として心身両面に対するリラックス効果がある。その結果、CFS/ME や慢性疼痛患者に合併する不安や緊張、うつ気分を和らげて不眠症の改善と自律神経機能の乱れを調整する7)。
2.和温療法を1回実施することで深部体温は約 1.0~1.2℃上昇し、これに伴い全身の動脈・静脈の拡張と心臓に対する前・後負荷の軽減によって心不全患者の心拍出量は1.5倍増加することが判明している8)。心機能が正常であれば心拍出量の増加はさらに大きい。CFS/ME 患者では低心拍出量が疲労や記憶力、集中力の低下につながっているとの報告もあり、和温療法による心拍出量の増加が CFS/ME 患者の症状改善に寄与していることが示唆される。
3.遷延化する強い疲労の原因の1つとして脳機能の異常が考えられている。胸元らは、CFS/ ME 11例について和温療法前後の脳血流の変化を SPECT で調べたところ前頭前野、前頭眼窩域及び右側頭葉の脳血流量が有意に増加した(図6)9)。これらの部位の機能障害と強い疲労感との関連が示唆され、和温療法は脳血流量を増加させ、認知機能の改善と疲労軽減に寄与することが推測された。

和温療法実施前後の脳血流量の変化 和温療法実施前後で前頭前野、前頭眼窩化、右側頭葉(赤色部分)の脳血流が増加した。
4.和温療法は痛みの軽減や循環動態の改善に効果があり、代謝を活性化させることは古くから経験的に知られている。痛みの軽減理由として、第一に緊張性筋収縮により起こる筋肉の spasm が温熱により軽減し、痛みが緩和され、pain - spasm - pain cycle の悪循環が断ち切れる。第二に全身を包み込む穏やかな温かさは知覚神経終末に作用して鎮痛効果を発揮する。第三に和温療法にはリラクゼーション効果と気分や睡眠の改善効果、怒りの軽減効果があり、それによって治療への満足も得られることが痛みの軽減に大きく寄与すると考えられる。
5.酸化ストレスの程度が CFS/ME 患者の症状と関連しているという報告も多い10)。8-epi-pros-taglandin-F2α や hydroperoxide は酸化ストレスの指標とされているが、我々は、和温療法後に 8-epi-prostaglandin-F2αの尿中レベルが有意に減少することを報告し(図7)11)、藤田らは心不全患者では hydroperoxide の血中濃度が有意に減少することを報告した12)。酸化ストレス低減も CFS/ ME の疲労を軽減する機序の1つであることが示唆される。

治療前後の尿中 8-epi-PGF2α(酸化ストレス)の変化 和温療法実施群では、酸化ストレスの指標である尿中 8-epi-PGF2αが有意に低下した。
CFS/ME と慢性疼痛に対する和温療法は、罹病期間の短い症例から多施設受診を繰り返し遷延化した症例まで適応可能である。重症度については軽症から重症まで幅広く実施できる。特に重症度が高く、ほとんど自宅で寝たきり状態の患者にも応用できる利点がある。また、安全性も高く、これまで和温療法を実施した数多くの症例で有害な副作用がみられたことはない。
感染症の急性期や炎症反応が高い発熱例、温泉や入浴・サウナが苦手な例、閉所恐怖症やパニック発作、不潔恐怖症、悪化しているアトピー性皮膚炎の患者は禁忌である。片頭痛のある患者では、和温療法が片頭痛を悪化させる可能性もあり慎重な実施が望まれる。
2. 和温療法の実施回数について社会復帰可能な状態になるまで実施するのが理想であるが、症例毎の検討が必要である。大体20回の実施を目安にしているが、改善が不十分であった場合は回数を重ねることで十分な治療効果が期待できる。最終的には患者の希望と症状の改善具合をみて判断することになる。
和温療法は疲労と痛みの軽減効果以外に睡眠の改善と食欲の増進作用がある。また、脳血流量を増加させる作用もあり、高齢化社会の到来と共に増えている認知症、体重減少と易疲労感、身体活動量の低下などがみられるフレイルの治療にも応用できる可能性が大きい。さらに COVID-19後遺症は CFS/ME と病態が類似しており、適応できると思われる。