2020 年 31 巻 p. 1-126
本報告書は,新型コロナウイルス感染症の流行に対して,組織や個人がどのような対応をしており,そしてそのことが個人の就労上の心理・行動にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目指す。4 月中旬に 4363 名を対象に行われた質問票調査から,以下に代表される多くの発見事実が見出された。 通勤を含めた就労時間が減少するなど,生活時間配分が大きく変更している。変更そのものに大きな不満はないものの,仕事中のストレスや感染リスク知覚が顕著に観察される。就労者による新型コロナ感染リスク知覚に大きく影響するリモートワークの導入度合いも,彼らが所属する組織の業種・規模やその立地によって大きな違いがある。職務環境の変化に伴い,少ない就労者が孤立感の強まりを申告している。生活や仕事の形式が大きく変化しているにもかかわらず,旧来の価値観や物事の進め方を保持する人が多い。 様々な要因が就労者の心理・行動に影響しているが,その多くが,新型コロナ流行に伴う変化というよりは,元来から存在し,安定的な生活状況や職務環境に関するものである。心理的にネガティブな状況にある就労者ほど,創造的な職務行動を引き起こすという逆説も部分的に観察された。