山口医学
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症例報告
受傷後短時間で著明な血小板減少を来したマムシ咬傷の1例
上田 晃志郎瀬山 厚司尼崎 陽太郎平田 健井口 智浩守田 知明
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2013 年 62 巻 2 号 p. 105-109

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抄録
今回我々は,典型的な症状を伴わず,受傷後短時間で著明な血小板減少を来したマムシ咬傷の1例を経験したので報告する.症例は50歳女性.夜間市街地を歩行中に右足関節部に違和感を覚え,直後から気分不良・呼吸困難が出現したため救急搬送された.受診時より吐血,血尿がみられた.右足関節内側に牙痕様の創を認めたが,腫脹は軽度であった.受傷1時間後の血液検査で血小板数が3000/mm3と著明な減少を認めた.受傷8時間後の血液検査では血小板数は20000/mm3と低値であり,クレアチンキナーゼ(CK)は9792IU/Lと上昇を認めた.マムシ咬傷に特徴的な牙痕や局所の腫脹は認められなかったが,マムシ咬傷の可能性が高いと考え,マムシ抗毒素を投与することとした.しかし,投与開始直後より喘鳴・呼吸困難のアナフィラキシー反応が出現し投与を中止,呼吸状態の悪化のため気管挿管を行った.その後急性腎不全を併発し,持続的血液濾過透析(CHDF)を要した.長期人工呼吸器管理, CHDFを要したが,どちらからも離脱でき,受傷80日後に軽快退院となった.マムシ咬傷の典型的な症状は局所の腫脹・疼痛・壊死であり大部分は軽症例であるが,急性腎不全や播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)を合併し重篤化する症例も見られ,死亡することがある.本症例のように局所の症状が顕著でなく,受傷直後から著明な血小板減少を呈する症例は「血小板減少型」と定義され非常に稀である.このような「血小板減少型」のマムシ咬傷は,マムシ毒素が血管内に注入された結果生じると考えられる.過去の報告例6例は全てマムシ抗毒素血清投与が著効し,重症化した例はない.本症例は血清投与ができず重症化に至ったマムシ咬傷で,「血小板減少型」において早期のマムシ抗毒素投与の重要性が示唆された.
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© 2013 山口大学医学会
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