抄録
増殖性硝子体網膜症,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの難治性網膜硝子体疾患では,網膜出血や網膜剥離が治療によって治癒したとしても,これに続き二次的に形成された網脈絡膜での線維性増殖組織にて視力不良となることがある.それ故,網脈絡膜での増殖性線維組織の形成,収縮を如何に制御できるかが重要である.この線維性増殖組織形成に網膜色素上皮細胞が中心的な役割を果たしており,この細胞の上皮-間葉系移行及びこれを取り巻くコラーゲンを含む細胞外基質の組織リモデリングが線維性増殖組織形成に重要な働きをすると考えられている.それ故,これらの制御を行うことで,網脈絡膜での線維性増殖組織による網膜障害が抑制できる可能性がある.網膜硝子体疾患において,その発症に関して性差の影響が報告されているものもある.実際,難治性網膜硝子体疾患の加齢黄斑変性は閉経後の女性に多いことが報告されている.また,Sex hormoneは網脈絡膜組織でのホメオスターシス維持に関与していると考えられている.我々は,そこで網膜色素上皮細胞を起点として細胞収縮,上皮-間葉系移行並びに細胞外基質リモデリングへのSex hormoneの作用を検討した.結果,女性ホルモンが網膜色素上皮細胞の細胞収縮,上皮-間葉系移行並びに細胞外基質リモデリング抑制に作用することが明らかになった.女性ホルモンは難治性網膜硝子体疾患の線維性増殖組織形成および収縮に抑制作用がある可能性が示唆された.このことは核内受容体を介した難治性網膜硝子体疾患への新規治療薬の開発へ繋がると確信している.