山口医学
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原著
頭部外傷例におけるParoxysmal sympathetic hyperactivityの実態-山口大学脳神経外科の経験-
藤山 雄一
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2021 年 70 巻 1 号 p. 37-43

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抄録

【目的】Paroxysmal sympathetic hyperactivity

(以下PSH)は,重症脳損傷後に発作性に生じる頻脈・高血圧・過呼吸・高体温・発汗などの交感神経亢進症状と,過度の筋緊張亢進を特徴とする症候群である.しかし,頭部外傷に続発するPSHの本邦での報告は少ないので,当科におけるPSH症例の実態を検討した.

【対象・方法】2013年1月から2018年5月までに,当科へ入院した頭部外傷例を対象とした.PSHはBaguley IJらの基準に準じて診断し,十分な鎮痛・鎮静と全身管理,及びbromocriptineあるいはbaclofenの投与が行われた.PSH発症に関わる因子及び受傷3ヵ月後の予後に関連する因子については,疫学,生理・生化学,画像のパラメーターに基づき検討した.

【結果】対象患者97名中,PSH群は11人で,発症率は11.3%であった.受傷後5.6±4.0日目で診断されていた.Traumatic Coma Data Bank(TCDB)分類では,focal injury 7名,diffuse injury 4例で,MRで診断された間脳/脳幹病変は2例だった.手術は8例に施行された.PSH未発症群に比べ,PSH発症群の年齢,来院時のGlasgow coma scale(GCS)は有意に低く,頭蓋内圧は高値であり,またD-dimer高値,fibrinogen低値を認めた.PSH発症群ではfocal injuryが有意に多く,間脳/脳幹病変はPSH発症群と未発症群では差がなかった.受傷3ヵ月後の予後に関連した因子の検討では,GCS低値,PSH発症群,diffuse injuryが独立した予後因子であった.

【結語】当科におけるPSH発症例は,これまでの報告と異なり間脳/脳幹病変が少なく,focal injuryに多く発症していた.頭部外傷の予後に関しては,PSHの発症が来院時GCS低値と独立して予後不良に関連していた.すなわち,来院時GCSが低い重症例であっても,PSHを早期に発見して治療することにより,予後改善を図れる可能性がある.

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