1957 年 15 巻 3 号 p. 140-143
アニリンとホスゲンとは低温 (-15℃ 以下) でもすみやかに反応してフェニルカルバミルクロリドと塩酸アニリンを生ずるが, 前者と遊離アニリンとの反応速度が温度とともに急に増大するため0℃ 以上の反応温度では反応生成物は全くジフェニル尿素と塩酸アニリンのみとなる。塩酸アニリンとホスゲンとの反応においては100℃ 以下ではイソシアナートの生成速度に比してジフェニル尿素の生成速度はおそいが140℃ 以上では両者ともにすみやかとなりホスゲンを過剰に用いないかぎりジフェニル尿素のみがえられる。ジフェニル尿素は110℃ 以下ではホスゲンとほとんど反応しないが120℃ 以上で容易に反応しイソシアナートと塩化水素を生ずる。以上の結果より, イソシアナート合成法としては, 140℃ 以上の反応温度を用いる場合遊離あるいは塩酸アニリンのいずれを用いてもジフェニル尿素を中間体として反応が進行することになるから, むしろ遊離アミンを原料としてなるべく高温 (270℃ 以下) においてホスゲンの濃度または分圧を大とすることが有利であつてこれによりほとんど定量的の収率を得ることが結論される。
アミン塩酸塩とホスゲンの反応経過に関して, これが塩酸塩の熱解離による遊離アミンとホスゲンとの反応として進行するものであることをとくにp-ニトロアニリン塩酸塩の反応性を研究することによつて明らかにした。