有機合成化学協会誌
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新しいラジカル発生法と新しいラジカル反応
山子 茂
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2001 年 59 巻 5 号 p. 516-517

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抄録

有機合成の力量はまだまだ不十分である。さほど複雑でない化合物の合成でさえ, 合成ステップの多さや反応効率の悪さに頭を抱えることは多い。このような問題の解決には, ひとつひとつの反応を磨き上げる技術の改革も重要であるが, 新しい反応を見つけだす科学の革新がより本質的である。現在では単に新しいというだけではなく, 環境問題や資源問題をもクリアする実質的な有効性を持つ力強い反応の開発が必要である。一方, 新しい反応の発見は必ずしも合理的に行われるとは限らず, むしろ偶然見つかることが多い。これは我々の自然に対する理解の不十分さに由来する。しかし, 一度反応を見いだしたならば, それを深く理解することは可能であり, それにより真に有効な反応を生み出すことができる。
筆者はラジカル活性種に着目し, その新しい反応性を探ることを通して有用な有機分子構築法の開発を検討している。ラジカルの大きな利点は反応性が極めて高い点と, 中性であることから極性官能基と共存できる点である。しかし, ラジカルはブチルリチウムなどのイオン性の活性種と異なり, 拡散律速で白己縮合を起こし活性をなくしてしまう。従って反応に用いるためには, 適切な前駆体より反応系中で発生させる必要がある。逆にいうと, ラジカル発生法と生成したラジカル活性種の寿命をうまく制御できれば, 行える反応が格段と増えてくると期待している。ラジカルを用いた炭素一炭素結合生成反応は, これまでほとんどが炭素ラジカルの炭素一炭素多重結合への付加反応である (式1) 。本稿では, ラジカルの新しい発生法と新しい反応形式の開発を模索してきた過程で見つかった, ラジカルのイミドイル化反応と新しい多成分カップリング反応について紹介する。

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