地震 第2輯
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1989年12月東京湾サイレント・アースクェイクの可能性
広瀬 一聖川崎 一朗岡田 義光鷺谷 威田村 良明
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2000 年 53 巻 1 号 p. 11-23

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抄録

科学技術庁防災科学技術研究所の関東・東海地域の地殻変動連続観測記録を, BAYTAP-G [ISHIGURO and TAMURA (1985)] を用いて解析し, 1989年12月9日, 南関東一帯で, 時定数約1日の傾斜ステップが生じたことを見いだした.
データの観測数が少ないので, インバージョンにおける自由度を減らすため, 傾斜ステップの震源はフィリピン海プレートの上面の非地震性スベリと仮定し, ISHIDA (1992)によるフィリピン海プレートの上面にそって0.1度ごとに, 断層の走向, 断層の傾斜, スリップの方向, 食い違いの大きさの4つのパラメーターをフリーに, 断層面モデルを求あるインバージョンを行った.
その結果, 次のことがわかった. 断層面の主要部分がFig. 7のように東京湾に分布し, ほぼ北に向かって約13度で低角に傾く, 下盤のスリップ・ベクトルの方向北60度西の, フィリピン海プレートの沈み込みと大局的に調和的な断層面モデルが得られた. 解放されたモーメントは約0.7×1018Nm (Mw5.9相当) であった. ただし, 統計的検定からは, 東京湾中央部ではなく東京湾周辺である可能性も存在する.
震源核 (サイレント・アースクェイク) の発生予測を行うには, その発生法則が重要である. しかし, 日本列島周辺のスロー・アースクェイクやサイレント・アースクェイクの発見事例は数個しかないので, 発生法則などを議論するには時期尚早である. スロー・アースクェイクやサイレント・アースクェイクなど間欠的非地震性すべりの経験を蓄積することが, 地震短期予知研究の戦略として重要であろう.
1989年12月の事例ではS/Nの良い記録が少なく, フィリピン海プレート上端という条件を付けざるをえなかったとか, インバージョンによって得られた断層の位置の分解能など, 残された問題もあるが, 本研究で得られた知見は, 発展し始めたばかりの「非地震性すべりを組み込んだプレート境界ダイナミクス研究」や, 地震予知研究などの関連諸分野の研究にとって, 意義ある一ステップとなるであろう.

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© 社団法人日本地震学会
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