固体高分子形燃料電池(PEFC)の耐久性向上には,正極触媒として用いられる白金(Pt)およびPt合金の溶解劣化挙動の理解が不可欠である.本稿では,触媒の同一視野観察と溶解のリアルタイム検出で得られた知見に基づき,電位変動下で過渡的に進行するPtの溶解・再析出挙動と,Pt合金系における添加元素の選択溶解およびPt濃縮層形成が溶解挙動に及ぼす影響を概説する.これらの挙動を支配する要因を整理し,耐久性劣化の理解に向けた基盤を構築することが,高耐久性触媒の設計指針の提案に資するものと期待される.
水電解による水素製造技術の普及には金属部材の低コスト化と耐久性の両立が課題である.本稿では,プロトン交換膜(PEM)水電解用の金属部材(セパレータと多孔質輸送層(PTL))について模擬環境および単セルを用いた耐食性評価事例を紹介する.金めっきチタンセパレータの耐食性評価例として,模擬PEM水電解環境中での電気化学測定に加え,ICP-MSや画像解析を併用し,めっき欠陥と溶出量,接触抵抗の関係を定量的に評価した.また,SUS304製繊維焼結体をカソードPTLとして用いた単セル試験では,起動停止を模擬した加速劣化試験を実施し,膜中への金属溶出挙動を評価した.
水素エネルギー社会の実現に向けて,金属中における水素拡散挙動の理解は,構造材料の水素脆化抑制や水素透過膜等の水素関連材料の開発において重要である.そこで本稿では,導電性ポリマーを用いた新しい水素可視化技術と金属中の微視的な水素拡散の可視化への応用例について解説する.本手法では,金属中の水素と反応して色調が変化する導電性ポリマーと光学顕微鏡を組み合わせる.リアルタイムかつ高空間分解能で水素分布を可視化できるため,汎用的な水素検出技術として多分野への応用が期待される.
2011年の福島第一原子力発電所事故では,緊急的な海水注入により設備が過酷な腐食環境に曝された.事故直後は海水成分に起因する炭素鋼やステンレス鋼の腐食抑制が喫緊の課題となり,強い放射線下での異例の対策が講じられた.現在は廃炉完了に向け,燃料デブリの取り出しや汚染水処理,廃棄物保管といった数十年にわたる技術課題に付随する腐食管理と対策活動が求められている.本稿では,事故直後から現在,そして廃炉完了に至る腐食課題と対策活動を概説するとともに,電気化学測定技術の活用事例や今後の期待について述べた.
アンモニアはCO2フリーなクリーンエネルギー燃料として期待されており,その燃焼技術について盛んに研究が行われている.一方で,液体アンモニア中では炭素鋼が応力腐食割れ(SCC)を起こすことが知られており,その研究は1970年代に盛んに行われ,燃料利用の高まりから近年再注目されている.SCC機構の解明のためには液体アンモニア中での電気化学計測が有用であり,既往研究においても良く利用されてきた.本稿では液体アンモニア中のSCCならびに電気化学計測について解説する.
最近,より腐食性の高い地熱流体の利用が進められており,地熱発電所において腐食の問題が健在化しつつある.地熱環境の耐食材料の研究開発については2025年現在,我が国が最も進んでいると思われる.本稿では,最近の地熱発電について概説し,地熱井の腐食環境について整理するとともに,従来の評価手法について述べる.また,電気化学的な評価を加えた現地実証試験結果の対比を紹介する.
微生物が関与することで加速的な腐食が起こる現象は微生物腐食として古くから知られている.近年,微生物学的な視点での新しい代謝様式の理解と分子生物学的な遺伝子解析技術の発展により,微生物腐食の理解は大幅に進んでいる.本稿では,単一微生物種の代謝様式の理解から明らかになってきた腐食メカニズムと,エネルギー産業の現場で発生した腐食に基づく実環境試験から得られた複合微生物系での腐食反応メカニズムについて紹介し,最後に診断・防食技術への展望を示す.
種々の元素が高温エロージョン・コロージョン(以降 高温E-C)に及ぼす影響を検討した結果に基づき,高Fe含有Ni-Fe基自溶合金を開発した.開発合金は,母相の耐高温E-C性の向上および表面凹凸形状により従来のNi基合金よりも優れた耐高温E-C性を示した.Ni-Fe合金を用いた検討により,Feによる耐高温E-C性向上は,硬く耐エロージョン性に優れるFe主体の酸化スケール形成によるものであった.高温E-Cによる材料の損耗を抑制するためには,高温酸化・高温腐食により形成する酸化スケールが優れた耐エロージョン性を有することが重要であると明らかにした.
電気化学測定は定性的に優れた電極反応評価法であるが,電極反応不活性な化学種や同電位で活性を示す複数の化学種が関係する複雑な反応系の定量的な解釈を行うには,非電気化学手法を組み合わせることが大いに有効となる.フロー式電気化学測定に誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)を直結したオンラインICP-OESでは,電極反応生成物元素のその場定量分析が可能である.本稿ではオンラインICP-OESを用いた金属腐食の定量解析における測定上の留意点と応用例について簡潔に解説する.
電解プロセスを利用した化成品製造技術に注目が集まっており,機構解析に基づく電極触媒開発が進められている.本稿では,電解反応により生成される揮発性化学種を高い時間分解能で検出するオンライン電気化学質量分析法(OLEMS)の原理と装置構成,測定上の留意点を概説する.さらに,Au単結晶電極および物質拡散制御下における二酸化炭素還元反応を応用例として示し,OLEMSが電位や時間に対して高い分解能で生成物を追跡できる有用な手法であることを示す.
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