本稿では,論文執筆の経験がない,あるいは少ない若い先生方を主な対象として,論文執筆の意義と楽しみ方,症例報告や原著論文の題材の見つけ方,学術誌の査読者の心理などについて,以下のように筆者の個人的な見解を述べた。
1.論文執筆の意義:①「新知見・新技術・希少例などに関する情報提供を行うことで,現在から未来に亘る医療に貢献すること」である。②論文業績は,所属学会の専門医取得の要件になるなど,キャリア形成に必須の業績となる。③口腔外科診療に求められる論理的な思考力が鍛えられる。
2.症例報告の題材の見付け方:①論文を書き,仕上げるまで頑張り続ける覚悟を決める。②多くの論文を精読し,症例報告に求められる要件や論文構成を理解する。③論文執筆の意義を念頭に日々の診療に真摯に取り組む。①~③を実践すれば,症例報告の題材となる症例が身近なところに存在することに気付き,見逃さなくなる。
3.原著論文の題材の見付け方:①日常の診療に真摯に向き合っていると様々な疑問が生じる。②成書,論文等を検索し,これらの疑問に対する解答を追求する。しかし,明確な解答が得られないことがある。そのような疑問こそ,原著論文の題材となる。
4.考察の書き方と楽しみ方:①必要十分な参考文献を精読する。②論文執筆の基盤となる症例や研究データに対する考察の段落構成を考える。③各段落で考察する事項について,文献を適切に引用しながら,査読者を論理的に納得させる文章を書く。④各段落の記載内容を集約するような形で結論を記載し,最終段落を締める。①~④には,相応の苦労を伴うが,覚悟を決めて,毎日休まず本気で取り組むことで,新たな知識が得られたり,想定外のことに気付くことが少なからずあり,結果的に知的好奇心が満たされ楽しい時間となる。
5.学術誌の査読者や論文執筆の指導者の心理:①良く書けた症例報告や新知見を見出した原著論文の査読は楽しい。②すらすら読めない論文の査読は苦痛である。③再投稿された論文において,指摘事項に対する回答が不適切だと心証を害する。学術誌の編集・査読者は基本的にボランティアで,貴重な時間を割いて査読業務に尽力している,ということを忘れてはならない。
抄録全体を表示