埼玉医科大学雑誌
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Print ISSN : 0385-5074
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原著
  • 和田 友則, 堀 裕太朗, 山口 菜緒美, 細見 英里子, 勝田 奈穂子, 魯 昭輝, 前沢 皓亮, 高山 清茂, 名越 澄子, 屋嘉比 康 ...
    2024 年 50 巻 2 号 p. 45-55
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/03
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】グレリンは食欲増加作用のある唯一の消化管ホルモンである. グレリンは生理的な役割として食行動開始を誘導することが推定されているが,摂食量を増加させることも明らかにされており,食欲不振への応用が検討されている. 今回, グ レリン刺激による脳内食欲調節ネットワークの解明とその作用への栄養摂取状態からの影響を明らかにするために,脳神経活性化の指標である c-Fos 発現を指標として 24 時間絶食と非絶食ラットにおいて検討した.
    【方法】これらの 2 群のラットに対してグレリン腹腔内投与を行い摂餌量に対する用量依存性作用の違いについて検討した. さらに,脳内食欲調節ネットワークを構成する視床下部および報酬獲得系の神経核への影響について,神経細胞活性化の指標となる c-Fos 蛋白の発現を抗 c-Fos 抗体による免疫化学染色法にて同定し検討した. また両群に対して 24 時間絶食直後に 採血してグルコース,インスリンおよびレプチンの血中濃度についても検討した.
    【結果】グレリンをラット体重当たり 10,30,50,100 μg/kg 腹腔内投与して摂餌量の用量依存性効果を検討したが,両群において 50 μg/kg にて最大効果を認めた. 両群間においてグレリン投与の食欲増加作用を比較すると,絶食ラットにおいてより大きい摂餌量増加を認めた. また脳においては, グレリン 50 μg/kg 投与は視床下部脳弓核 (arcuate nucleus: ARC) と側坐核 (Nucleus accumbens: NAc) においては両群で c-Fos 発現の増加を認めたが,視床下部外側野 (lateral hypothalamus: LH) と腹側被蓋野 (ventral tegmental area: VTA) に対しては 24 時間絶食群においてのみ有意な c-Fos 発現の有意な増加を認めた. さらに両群においてグルコース,インスリン,レプチンの血中濃度を測定したが,3 者とも非絶食群において有意な高値を認めた.
    【結論】末梢投与によるグレリンの食欲増加作用は,非絶食群に比較して絶食群において増大している. その機序については,グレリン末梢投与に対する脳内食欲調節ネットワーク中の視床下部外側野 LH と報酬獲得系の腹側被蓋野 VTA の反応性の相違が関与していることが示唆された.
症例報告
  • 阿南 朋恵, 髙橋 康之, 久保田 寧, 松永 洸昂, 平田 公美, 川田 泰輔, 坂田 憲幸, 永沼 謙, 木崎 昌弘, 多林 孝之
    2024 年 50 巻 2 号 p. 57-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/03
    ジャーナル オープンアクセス
    造血幹細胞移植前処置に伴い移植後早期に出現する粘膜障害は高頻度に認める有害事象である. しかし,粘膜障害から高度の喉頭浮腫をきたし,気道が狭窄し呼吸困難に至る症例は少ない. 症例は 61 歳男性で,下咽頭癌に対して化学療法と70 Gy の放射線治療を受けた既往があった. 治療から 2 年 6ヶ月後に治療関連白血病を発症した. 寛解導入療法など各種化学療法に抵抗性を示し,治療中にたびたび感染症を合併したが,軽度の喉頭浮腫は持続していたものの気道狭窄をきたすほどではなかった. 原病は非寛解であり,移植前の全身状態は HCT-CI スコア 3,胃瘻が造設されている状態であったが,患者の強い希望もあり,骨髄非破壊的前処置を用いて臍帯血移植を行った. 移植後早期に粘膜障害からの高度の喉頭浮腫をきたし, ヒドロコルチゾンを投与したが改善せず,気道が狭窄し呼吸困難となったため気管挿管を必要とした. 本症例は,移植前処置による粘膜障害をきたしたことを契機に,過去の放射線照射部位が高度の喉頭浮腫をきたし遅発性気道狭窄と呼吸困難に至ったと考えられた. 咽頭への放射線治療後に造血幹細胞移植を行う際は,粘膜障害・喉頭浮腫による重篤な気道狭窄が生じる可能性を念頭に置くべきである.
  • 泉 亮良, 中村 謙介, 伊澤 直広, 門野 夕峰
    2024 年 50 巻 2 号 p. 61-66
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/03
    ジャーナル オープンアクセス
    【症例】63 歳男性,主訴は左膝から下腿の疼痛による歩行困難.
    【現病歴】15 歳時に交通事故により重度の左膝開放脱臼骨折を受傷した. 当時の医療レベルでは再建困難な脛骨巨大欠損があったが,大腿切断ではなく,当時は信頼性の乏しかった人工関節による患肢温存が選択された. 術後経過は良好で,成人後は,身体障害者ゴルフの選手となるほど活動性は高かった. 62 歳時より膝の不安定感が生じ,その後疼痛で歩行困難となり当科受診. 単純 X 線にて大腿骨,脛骨両方のコンポーネントの弛みと菲薄化による脛骨骨折が見られ,2ヶ月間の外固定による保存治療後,TKA 再置換術を行った.
    【手術方法】使用されていた機種は Shiers (1953 年) というヒンジ型人工関節であった.ヒンジの結合部の支柱を叩き出して分離した後,大腿骨・脛骨コンポーネントとも容易に抜去可能であった. 脛骨の母床への接触面積が全周の 3 分の 2 以上 となるように骨切り部を決め,脛骨外側部の欠損に対しては,同種骨移植を用いた Impaction bone graft 法で,メッシュは用いず外側の瘢痕膜を cement block による induced membrane と考え欠損再建を行った. MCL 付着部以遠の骨切りとなるため, 腫瘍用インプラントを選択した.膝蓋骨は存在せず伸展機構は瘢痕組織のみであった為,ファイバーワイヤーで脛骨インプラントと締結後,4 週間のギプス固定とした.
    【結果】術後 1ヶ月で独歩獲得,6ヶ月でゴルフを再開した. 現在術後 3 年で移植骨は生着しており,インプラントの弛みはない. KSS2011 は術前 24 点から術後 85 点まで改善した.
    【結語】約 50 年前に行われたヒンジ型人工膝関節で,脛骨巨大骨欠損を伴う弛みに対する再置換を行う極めて稀な症例を経験したので詳細を報告する.
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