【背景】グレリンは食欲増加作用のある唯一の消化管ホルモンである. グレリンは生理的な役割として食行動開始を誘導することが推定されているが,摂食量を増加させることも明らかにされており,食欲不振への応用が検討されている. 今回, グ レリン刺激による脳内食欲調節ネットワークの解明とその作用への栄養摂取状態からの影響を明らかにするために,脳神経活性化の指標である c-Fos 発現を指標として 24 時間絶食と非絶食ラットにおいて検討した.
【方法】これらの 2 群のラットに対してグレリン腹腔内投与を行い摂餌量に対する用量依存性作用の違いについて検討した. さらに,脳内食欲調節ネットワークを構成する視床下部および報酬獲得系の神経核への影響について,神経細胞活性化の指標となる c-Fos 蛋白の発現を抗 c-Fos 抗体による免疫化学染色法にて同定し検討した. また両群に対して 24 時間絶食直後に 採血してグルコース,インスリンおよびレプチンの血中濃度についても検討した.
【結果】グレリンをラット体重当たり 10,30,50,100 μg/kg 腹腔内投与して摂餌量の用量依存性効果を検討したが,両群において 50 μg/kg にて最大効果を認めた. 両群間においてグレリン投与の食欲増加作用を比較すると,絶食ラットにおいてより大きい摂餌量増加を認めた. また脳においては, グレリン 50 μg/kg 投与は視床下部脳弓核
(arcuate nucleus: ARC) と側坐核 (Nucleus accumbens: NAc) においては両群で c-Fos 発現の増加を認めたが,視床下部外側野 (lateral hypothalamus: LH) と腹側被蓋野 (ventral tegmental area: VTA) に対しては 24 時間絶食群においてのみ有意な c-Fos 発現の有意な増加を認めた. さらに両群においてグルコース,インスリン,レプチンの血中濃度を測定したが,3 者とも非絶食群において有意な高値を認めた.
【結論】末梢投与によるグレリンの食欲増加作用は,非絶食群に比較して絶食群において増大している. その機序については,グレリン末梢投与に対する脳内食欲調節ネットワーク中の視床下部外側野 LH と報酬獲得系の腹側被蓋野 VTA の反応性の相違が関与していることが示唆された.
抄録全体を表示