はじめに 新庄—山形活断層帯の中に位置する尾花沢盆地は,新庄から尾花沢に至る,主として東傾斜の断層帯(東側から,経壇原断層・舟形断層・沖の原断層・長者原断層)が,山形盆地西縁に続く西傾斜の断層帯に入れ替わる位置にあたる(池田ほか,2002).その地質構造は,波長の短い褶曲構造が繰り返すなど,変化に富んだ大変複雑な場所である(佐藤,1986).くわえて,盆地内には低位段丘(扇状地面)が広く発達しており,地質構造を調べるには必ずしも露頭条件はよくない.
最近,空中写真の詳細な判読によって,断片的ではあるがこれらの低位扇状地面上に,南北方向や北北東−南南西方向に延びる高まり,逆向き低断層崖などの変位地形があることが指摘されていた(澤ほか,2001,中田・今泉,2002).本露頭は,これらの高まりの一つを横切る壁面の隅に,この高まり(東翼)が断層変位によるものであることを示す構造を見いだしたので報告する.
断層露頭 露頭の位置は,国道13号線(バイパス),萩袋交差点から300m程西の工場裏地である.ここでは,低位面から比高5m程度高い面の端を,この高まりの延びる方向と斜交する,東西(N60°E)・南北(N30°W)方向に,それぞれ長さ200m程鍵型に削り取って壁面がつくられている.
断層と考えられる構造は,東西方向の壁面の東端(低い崖)に見られる.高まりを構成する礫層とフラッドローム(シルト・粘土層)およびそれらを被覆する火山灰層と黒土が,いずれも東側に撓み下がる様子が明瞭である. 一方,礫層の上面は,西に向かって緩く下がり,礫層を覆おうシルト・粘土層は厚さを増す.この厚いフラッドローム層中から,この付近の中位面の指標火山灰(鳴子—柳沢火山灰など,早田,1989,Soda,1996)を探したが,検出できなかった.しかし,堆積物の風化程度や礫径などから判断して,また,低位面との比高から判断しても,この礫層から構成されるこの高まりは,低位面よりはやや古い地形面と考えられる.
礫層の礫種は,主に凝灰岩,泥岩,安山岩である.礫は,数cm_-_10cm程度大きさの亜円礫(マトリックスは粗砂)で,やや風化に富む.東端ではこの礫層が撓み下がるのに伴って(礫層上部に砂層が挟まれるので,その砂層とその上の礫層の境界からもわかる),個々の礫が再配列して直立する.これを覆うフラッドローム層も礫層の変形にあわせるように撓み,斜面途中から下方に厚さを増す.そして,この部分のシルト・粘土層にはクラックが目立つ.また,このシルト・粘土層の上部には,腐植が混在する.このシルト・粘土層を覆って(境界は明瞭で,一部ではシルト・粘土層を削り込む)堆積する火山灰層は,下部に岩片を伴う軽石層で,この地域に広く分布する肘折尾花沢テフラ(Hj-Ob)である(八木・早田,2000).肘折尾花沢テフラも,斜面に沿って曲がり,下方に厚さを増すが,シルト・粘土層との境界は足元で見えなくなる.
断層の活動時期などについては特定できないが,もしこの地形面を中位面相当とするならば,第四紀後期に,このような高まり(しかも非対称)を作る逆断層性の運動が継続していることは確かである.肘折尾花沢テフラ(Hj-Ob)層の変形については不確か(撓曲崖を被覆すると見ることもできる)なので,完新世に活動したかどうかはわからない.しかし,この断層の南西延長上の丹生川沿いのL3面(低位面の扇状地を下刻した面)にも下流側がわずかに高まる崖が続くので,今後検討を要する.
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